仕事のやる気が出ないのは病気?疑われる9つの病気
「やる気が出ず、出勤するのがおっくうだ」と、やる気が出ず困った経験を一度はしたことがあるのではないでしょうか。しかし、「休日は外出する気力がまったくわかない」「眠りが浅い」といった状態が続く場合、病気が影響しているかもしれません。
本記事では、仕事のやる気が出ない場合に考えられる9つの病気を紹介します。やる気が出ないことの背景に病気がないかどうかを確認できる内容となっていますので、ぜひ参考にしてください。
やる気が出ないときに疑われる9つの病気
やる気が出ない状態が続くときには、どのような病気が疑われるのでしょうか。身体的および精神的な疾患を伴うものや、無気力症候群など9つの状態が考えられます。
1.うつ病
うつ病は、気分の落ち込みを特徴とする精神疾患です。症状として、「何をするにもおっくうで楽しくない」「以前よりも興味がわかなくなった」という意欲の低下がみられます。
また、意欲の減退に加えて、悲観的な考え方も特徴的な症状の1つです。動こうとしても、「どうせしんどくなるだけだ」「自分だけが楽しんではいけない」などと考えることで行動しにくくなります。
ほか他にも、以下のような症状が2週間以上持続する場合、うつ病が疑われます。
- 食欲や体重が減った、もしくは増えた
- 眠れなかったり、眠りが浅く夜中に目が覚めたりする
- 死にたい気持ちがある
やる気が出ない状態に加えて、悲観的な考えや食欲や体重・睡眠の異常などがみられる場合、うつ病が疑われます。意欲の低下のほかにどのような症状があるのかチェックすることが大切です。
2.適応障害
適応障害とは、ストレスにうまく対応できずに心身の不調をきたしている状態です。一時的に強いストレスを受けた場合や、ストレスを感じている状態が長引き心身が疲弊したときに生じます。
憂うつ感や意欲の低下、不安などうつ病に似た症状がみられますが、発症の原因がはっきりしていることがうつ病とは異なります。ストレスを感じている出来事から離れると解消するケースが多いでしょう。
3.睡眠障害
「しっかり眠れない」という睡眠の問題も、やる気が出ない状態を引き起こすことがあります。睡眠不足から日中の思考力や集中力が低下し、必要以上にエネルギーを使わないと十分にパフォーマンスを発揮できなくなります。そして、意欲がわきにくいということが起きるのです。
また、「今日も眠れないかもしれないから外出しないでおこう」と不眠をカバーする行動が活動性を下げてしまう場合もあります。
さらに、睡眠障害の中でも、睡眠時無呼吸症候群は自覚しにくいため注意が必要です。睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に呼吸が止まったり、浅くなったりすることで睡眠の質を妨げます。
「眠れているのに頭がさえない」といった場合には、睡眠中のいびきや呼吸はどうか、確認するとよいでしょう。
4.認知症
認知症とは、外傷や脳内の何らかの変化により認知機能が低下する病気です。認知症というと、もの忘れが目立つというイメージが一般的ですが、初期症状として意欲が低下する場合があります。
初期段階では、普段よりも集中しないといけなくなったり、判断に時間がかかったりするといったような支障が生じます。生活を送る上で大きな支障とはならないのですが、できていた処理ができなくなり、さまざまなことをおっくうに感じやすいでしょう。
具体的には、身だしなみにあまり気をつかわなくなったり、外出を避けて引きこもりがちになったりすることがあります。本人や周囲からすると、「うつ病かな?」と疑いやすいのですが、認知症が原因となっているケースもあるため、注意が必要です。
5.更年期障害
更年期障害とは、主に加齢に伴いホルモンバランスが崩れ、心身に不調をきたすものです。更年期障害においても、疲れやすくなりやる気が出ないといった症状がみられます。
また、更年期障害の症状によって二次的にやる気が出ないということも起こりえるでしょう。
例たとえば、更年期障害の代表的な症状としてホットフラッシュがあります。ホットフラッシュとは、上半身がほてったり、のぼせたりする症状です。症状を不快に感じて、夜に眠れずに不眠症気味となり、日中の活動性が低下することがあります。
6.甲状腺機能低下症
甲状腺機能低下症とは、甲状腺ホルモンの働きが低下する疾患です。甲状腺ホルモンは、体の臓器を含む全身に影響しており、代謝や臓器の働きを活性化させる役割があります。この働きが低下すると「無気力」「動作が遅い」「疲れやすい」といった症状を引き起こします。
ほかにも多彩な症状が表れるため、以下の甲状腺機能低下症の症状に該当しないか注意するとよいでしょう。
- 体重が増える、減らなくなった
- 手足の冷感がある
- 便秘がちである
- 皮膚の乾燥、むくみがある
- 頻尿になった
7.慢性疲労症候群
慢性疲労症候群とは、日常生活を送れないほどの強い疲労感が生じる病気です。風邪をひ引いたような発熱やのどの痛み、だるさなどの症状が特徴で、医学的な検査をしても異常が見つからないことが多いでしょう。十分に休息しても回復せず、症状が6カ月以上と長期にわたります。
8.自律神経失調症
自律神経である、交感神経と副交感神経のバランスが乱れることでさまざまな心身の不調が生じる病気です。交感神経は、ストレス状況で戦ったり、逃れたりするために身体を奮い立たせる機能があります。一方で、副交感神経は休息や食べ物の消化を助ける働きをします。
ストレス状況が続くと交感神経が優位になることが多いでしょう。緊張状態が過度になると対抗するエネルギーがなくなり、疲労感や不安、集中力の低下を引き起こすのです。これが意欲の低下につながると考えられます。
9.無気力症候群(バーンアウト)
無気力症候群(バーンアウト)は病気ではありませんが目標を失ったときに意欲が低下し、消極的になる状態をいいます。受験勉強に熱中して入学した大学生など、特定の目標に熱中し達成したあとに生じます。
エネルギーが低下している状態なので、生活リズムを整えながら新しい目標をゆっくりと模索していく姿勢が大切です。
やる気が出ない従業員に求められる企業の対策
ストレスを抱え込むとうつ病や適応障害などのメンタルヘルス不調に陥り、企業の生産性低下につながります。従業員が無気力症候群(バーンアウト)に陥らないような職場環境づくりが求められます。
従業員のやる気を高めるための概念として大切なのがワークエンゲージメントです。ワークエンゲージメントとは、仕事に熱意を持って没頭し、生き生きと働けている状態を指します。バーンアウトと対になる概念であり、うつ病の発症を抑制する効果も示されています。
具体的には、どのようにすればワークエンゲージメントを向上させられるのでしょうか。仕事の進め方に注目した2つの方法について説明します。
※中程度のワークエンゲージメントの高さが、うつ病発症リスクを0.21倍に抑制することが示されている。
対策①:仕事の裁量を増やす
管理職の対応として、「部下の裁量範囲を広げる」ということが大切です。裁量権がないまま業務量が多く、心理的負担が大きい場合にストレスが過度になります。従業員には、ある程度裁量を持たせて、意思決定にも参加できるようにすると主体的な姿勢が育まれます。
とくに、仕事を任せるときは、「本人の現状+α」で達成できるような業務範囲にとするとよいでしょう。小さな成功体験を積むことで、自信につながり、より生き生きと働ける状態をつく作ります。
また、挑戦を良しとする職場風土も重要です。失敗を過度にとがめる環境だと、失敗しないための仕事をこなすことが続き、やりがいを持って働けなくなりやすいでしょう。
可能な限り仕事の裁量を増やしつつ、フォローをしながら成長を見守る姿勢が、ワークエンゲージメントを高めるために必要です。
対策②:仕事への認識を変える
ワークエンゲージメントを高める取り組みとして、ジョブクラフティングという方法が注目されています。ジョブクラフティングとは、仕事に対する認識を変えることで、やりがいを見出すための方法です。
たと例えば、普段の業務を洗い出し、「自分の強みを生かすにはどうすればいいか」「誰の役に立っているのか」などを見つめなおします。やりがいを感じていなかった仕事にも、意味を見出せるようになり、生き生きと働ける状態につながるのです。
ジョブクラフティングは、業務上の負担から生じる疲れた状態を改善し、ワークエンゲージメントを高める効果があるとされています。日々業務をこなすことで精一杯になりやすいですが、振り返る時間を設けて仕事への認識を変えることが大切です。
参考:向江亮(2018)「ワーク・エンゲイジメント向上の実践的取組に向けた知見の整理と今後の展望」産業・組織心理学研究第32巻第1号pp55-78(PDF)
まとめ:身体とメンタルの両面からやる気が出ない原因を探りましょう
「やる気が出ない」という状態は誰にでも生じうるものです。しかし、周りから見るとどうしてやる気がわかないのか、理解することが難しい場合もあるでしょう。
以前の状態と比べて意欲が低下していることがうかがえる場合には、「病気が隠れているのでは?」という視点を持つことが重要です。そのためには、「やる気=心の問題」と位置づけず、身体的な問題を含めて考えていくことが求められます。