子育てと仕事の両立支援のために知っておくべき制度と企業の実践策 

子育てと仕事の両立支援のために知っておくべき制度と企業の実践策

わが国では子どもの数が減り続け、働き手の確保が企業の大きな悩みのひとつです。

 とくに、結婚や出産を機に仕事を辞めてしまう優秀な社員の存在は深刻な問題です。戦力として成長した人材が、「子育てと仕事の両立は難しそう」と不安になって辞めてしまうことは、企業にとって大きな痛手となるでしょう。

また、最近では「仕事が忙しくて、結婚や子育ての時間が取れない」と考える若い世代も増えています。

この記事では、子育て中の社員が安心して働き続けられる制度や、企業が取り組むべき具体的なサポート策などを紹介します。

子育てと仕事の両立支援に関する3つの制度 

子育てと仕事の両立支援に関する3つの制度 

まずはじめに、労働者の働き方を改善し子育てと仕事を両立するための法律と、具体的にはどのように活用されているかを解説します。

育児・介護休業法とは

育児や介護をしながら働く人々を支援するため、「育児・介護休業法」という法律があります。この法律は、社員が仕事と家庭生活の両方を大切にしながら、安心して働き続けられる環境をつくることが目的です。

では、具体的にどのような支援が受けられるのでしょうか。

まず、子育てや家族の介護のために、一定期間仕事を休むことができる「休業制度」があります。 育児休業は子どもの成長に合わせて取得でき、介護休業は家族の介護が必要な期間に利用できます。

育児休業は、原則として子どもが1歳になるまで取得できます。例外的に保育所に入所できない場合に限り、1歳6カ月まで(再延長で2歳まで)延長可能です。

参考:厚生労働省「育児休業の取得は、子どもが1歳になるまでです。」

また、完全に仕事を休むだけでなく、働き方を調整する制度も用意されています。たとえば、1日の勤務時間を短くしたり、出勤や退勤時間を調整したりすることは企業の努力義務となっています。

社員が利用しやすい環境を整えるために、企業には以下のような取り組みが求められます。

  • 社員への制度の丁寧な説明
  • 制度を利用しやすい職場の雰囲気づくり
  • 管理職への理解促進と適切なサポート体制の構築
  • 利用者が職場に復帰しやすい環境の整備

育児・介護休業法は、社員一人ひとりの生活状況に配慮したきめ細やかなサポート体制を実現するための重要な法律です。

参考:厚生労働省「育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法の2024(令和6)年改正ポイント|育児休業特設サイト|

参考:e-Gov 法令検索「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」

次世代育成支援対策推進法(次世代法)とは

「次世代育成支援対策推進法」は少し難しい名前ですが、実は私たちの暮らしに深く関わる重要な法律です。

少子化が進む中で、誰もが安心して子育てできる社会をつくることを目指しています平成17年(2005年)に施行され、現在の有効期限は令和7年(2025年)3月31日です。

企業や自治体に対して、子育て支援の具体的な取り組みとして求めている主な内容は以下のとおりです。

  • 育児休暇を取得しやすい環境づくり
  • 子育て中の社員への働き方の配慮
  • 具体的な行動計画の作成と実行

まず、企業が取り組むべきことは、「一般事業主行動計画」の策定です。常時雇用する労働者が101人以上の企業は、この行動計画を策定し、都道府県労働局へ届け出ることが義務とされています。

「一般事業主行動計画」に基づいて目標を達成すると、厚生労働大臣から「くるみん認定」を受けられます。認定を受けた企業が、より高い水準の取り組みを行い一定の基準を満たすと、特例認定(プラチナくるみん認定)を受けることが可能です。

さらに、不妊治療と仕事の両立を支援する企業は「プラス認定」を申請できます。くるみん認定の詳しい内容は、以下の厚生労働省の資料(PDF)をご参照ください。

参考:厚生労働省「次世代育成支援対策推進法関係パンフレット(2~3ページ)」

子育てや女性活躍支援を活用した税控除の対象でもあり、「中小企業向けの子育てと仕事の両立支援・賃上げ促進税制について」で後述します。

くるみんやトライくるみんなどの認定を取得する流れは、以下のとおりです。

行動計画の策定・公表・周知

↓↓

行動計画の実施

計画終了後に認定を申請(くるみん、トライくるみん、プラチナくるみん)

認定を受けた後も、計画の見直しや次期計画の策定継続が必要です。

参考:厚生労働省「次世代育成支援対策推進法」

以上の取り組みに期待されている効果としては、次のような子育てサポート企業として認知されやすくなる点でしょう。

  • 働く親として仕事と育児の両立がしやすい
  • 企業は子育て支援に熱心な会社として評判が良くなる
  • 優秀な人材が集まりやすくなる
  • 地域全体の子育て環境も良くなる

働き方改革関連法とは

働き方改革関連法は、労働環境全体の改善を目指し、働き方改革推進の枠組みとなる法律です。

この法律の目的は、労働時間の短縮や多様な働き方の実現を通じて、労働者の健康と生活の質を向上させることです。時間外労働の上限規制や有給休暇の取得義務を定めたり、同一労働同一賃金の実施を推進したりする内容が含まれています。

職場に導入するには、 働き方改革に関連する法制度を理解して適切な実践が必要です。たとえば、フレックスタイム制度やテレワークの導入支援といった柔軟な働き方を促進する施策が考えられます。

参考:厚生労働省「働き方改革関連法に関するハンドブック」

参考:厚生労働省「働き方改革関連法のあらまし (改正労働基準法編)」

育児休業給付金とその申請方法

育児休業給付金とその申請方法

育児休業給付金は、育児休業中の社員を支援するために国から支給される給付金です。

支給対象者は、以下の条件を満たす社員です。

  • 雇用保険に加入しており、育児休業を取得
  • 育児休業中も働き続ける意思がある
  • 育児休業中の給料が通常の80%以下

支給額は

  • 休業開始から180日目までは、給与の67%
  • 181日目以降は、給与の50%

と定められています。(上限の規定あり)

給付金を受け取るためには、以下の手順に沿って申請を進めます。

【手順1】社員が育児休業を申請

申請時には、「雇用保険被保険者資格証」や給与明細などを準備します。

【手順2】会社が申請書を作成

雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」や「育児休業給付受給資格確認票」などが必要です。そのほかの必要書類をそろえて、提出準備を行います。詳しくは、以下の資料をご覧ください。

参考:厚生労働省「育児休業給付の内容と支給申請手続」

【手順3】ハローワークへの提出

管轄の公共職業安定所(ハローワーク)へ書類を提出し、申請手続きを進めます。書類が受理されれば、審査を経て給付金が支給されます。

育児休業給付金は、通常2カ月ごとに申請が必要です。また、特別な事情により育児休業を延長する場合は、育児休業給付金の受給期間を延長できるケースがあります。手続きには、適切なタイミングでの申請が必要となるため注意しましょう。

参考:厚生労働省「育児休業給付金の内容と支給申請手続き」

中小企業向けの子育てと仕事の両立支援・賃上げ促進税制について

中小企業向けの子育てと仕事の両立支援・賃上げ促進税制について

中小企業向けの子育てと仕事の両立支援として、賃上げ促進税制というものがあります。

企業が子育て支援や女性の活躍を促進する取り組みを行い特定の認定を取得すると、税金の控除率が上がる制度です。

子育てとの両立支援・女性活躍支援の上乗せ要件は、次世代法で策定が義務付けられている「一般事業主行動計画」の目標を達成した場合の「くるみん認定」や「プラチナくるみん認定」などが対象です。(前述の「次世代育成支援対策推進法」をご参照ください)

税控除率は基本控除率が20%から35%で、賃上げ要件と併用することで最大45%の控除率が適用可能です。税控除額は法人税または所得税額の20%が上限となります。

上乗せ条件の対象かどうかは、認定の種類や時期によって異なるため注意が必要です。

参考:経済産業省「中小企業向け賃上げ促進税制ご利用ガイドブック(1~2ページ・16ページ)

参考:中小企業庁「中小企業向け『賃上げ促進税制』」

子育てと仕事の両立を支援する具体策 

子育てと仕事の両立を支援する具体策 

ここからは、中小企業が独自に取り組める、育児と仕事の両立支援の具体例を解説します。

社員や管理職向けガイドとサポート体制の強化

企業は、育児をしながら働く社員を支えるために、具体的で実行可能な支援の提供が必要です。

具体例としては、次のような取り組みが挙げられます。

育児と仕事の両立支援ガイドラインの策定

育児中の社員が利用できる制度や支援内容を明確化し、社員向けに配布します。

管理職には、柔軟な勤務対応のポイントをまとめたハンドブックを提供する。

教育プログラムの実施

管理職向けには、育児中の社員への理解を深める研修を実施します。

全社員向けには、子育て支援制度を正しく活用する方法を学べるワークショップを開催する。

手厚いサポート体制の構築

専用の相談窓口を設け、専門スタッフが制度の利用方法や悩み相談に対応します。

さらに、柔軟な勤務制度(短時間勤務や在宅勤務の選択肢など)の導入で、社員の働きやすさ向上に貢献する。

育児中の健康管理支援

中小企業においては、育児中の社員の健康を守る取り組みが重要です。公的支援に加え、メンタルヘルスのケアを含めた総合的なサポートが効果を発揮します。

具体例としては、以下のような取り組みがあります。

定期的な健康チェックの実施

年1~2回、育児中の社員を対象にした健康診断を実施し、体調管理を支援する。

リフレッシュ休暇の提供

短期間の特別休暇を設け、育児と仕事の両立による疲労を軽減する。

メンタルヘルス支援の強化

ストレスチェックの導入に加え、社員が気軽に利用できる外部カウンセリングサービスを契約する。

これらの施策により、育児中の社員の心身の負担を軽減し、働き続けやすい職場環境をつくることが可能です。

中小企業がこうした支援策を実行することで、社員の健康を守るだけでなく、定着率の向上や企業の持続的な成長にもつながるでしょう。

子育てと仕事の両立に関する今後の展望 

子育てと仕事の両立に関する今後の展望

最後に、2025年2月時点での今後の両立支援制度の拡充に関する展望や最新ニュースをお伝えします。

政府の施策強化

仕事と育児・介護等が両立できる「職場環境づくり」を行う中小企業事業主を支援する両立支援等助成金において、育児を行う労働者が柔軟な働き方を選択できる制度の利用支援を行うコースが新設されるなど、政府の両立支援のための施策が強化されています。

企業の取り組み

多くの企業がフレックスタイム制度やリモートワークを導入し、従業員のライフスタイルに合わせた柔軟な働き方を推進しています。

とくに中小企業でも、こうした制度の導入によって、社員のワークライフバランスの向上につながるでしょう。

国際的な動向

OECD(経済協力開発機構)諸国では両立支援政策が進化しており、日本も国際基準に合わせた制度改革が求められます。

とくに、男女平等の観点からの支援が重要視されており、これにより多様な働き方の促進が望まれます。

地域社会との連携

 地域の子育て支援センターや介護サービスとの連携強化は、社員が安心して働ける環境のひとつです。

中小企業が地域資源を活用できれば、両立支援の幅を広げられるかもしれません。

情報提供の強化

中小企業向けに両立支援制度に関する情報提供が強化される見込みです。

セミナーやワークショップを通じて、最新の制度や成功事例を共有する機会が増えることで、企業の人事担当者がより効果的に制度を活用できるでしょう。

以上の取り組みは、社会全体での両立支援の進展となり、中小企業の人事担当者が注目すべき課題です。

参考:厚生労働省「令和6(2024)年度 両立支援等助成金の 制度変更内容等をお知らせします」

まとめ:子育てと仕事の両立支援で社員の成長と企業の発展につなげよう

まとめ:子育てと仕事の両立支援で社員の成長と企業の発展につなげよう

子育てをしながら働く社員の仕事の両立支援は、企業の未来への投資です。

仕事と家庭を両立できる環境が整えば子育て中の社員も安心して長期的に働き続けられるでしょう。これにより企業も貴重な人材を確保し、社員の成長と共に企業の発展にもつながります。

中小企業でも公的な支援制度を活用すれば、育児休業や時短勤務などの制度を整えられ、社員が家庭と仕事のバランスを取りやすくなります。

また、これらの制度は子育て世代にとって企業選択の重要なポイントです。

育児と仕事の両立支援に力を入れることは、企業の未来を支える重要な取り組みといえます。社員のキャリアアップと家族の幸せのためにぜひ実現してみてください。

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