認知的不協和とは?ビジネス場面の具体例と考え方を変える方法を解説

認知的不協和とは?ビジネス場面の具体例と考え方を変える方法を解説

従業員が何か悩み事を抱えている場合、背景に認知的不協和が生じていることはよくあります。認知的不協和とは、矛盾する2つの考えが頭に思い浮かぶ状態です。

認知的不協和の状態では、自分の気持ちは楽になるが自己成長につながらない誤った方向へ考えを曲げてしまうことがあります。職場の上司や人事担当者が認知的不協和の状態にある従業員の悩み相談に乗る場合、どのようなアドバイスや対策ができればよいのでしょうか。

本記事では、認知的不協和とは何か、その具体例や対策について例を示しながらわかりやすく解説をしています。従業員の課題解決能力や自己成長力を上げるためにも役立ちますので、ぜひ参考にしてみてくださbい。

認知的不協和とは?

認知的不協和とは?

認知的不協和とは、あらゆる物事に対して人が持つ認知のうち、2つの矛盾した認知が存在する場合、その不協和を低減しようとする心理状態をいいます。

1950年代に、アメリカの心理学者であるレオン・フェスティンガーが提唱した社会心理学の用語です。

認知的不協和理論には専門用語が出てきますので、以下に簡単に解説します。

  • 認知

人が外界にある対象や出来事を知覚した上で、それを判断し解釈する過程。思考や感情、価値観など。

  • 不協和

相反する認知によって不快感が生じている状態のこと。

(例)甘口のカレーを食べようとしていたのに、辛口のカレーが出てきた。

  • 低減するための行動

不協和が生じた際、その矛盾を解消するための考え方や手段のこと。

(例)「せっかくだから辛口のカレーを楽しもう」と考える。甘口のカレーを買い直すなど。

参考:Festinger, L. (1957). A theory of cognitive dissonance. Stanford University Press.

すっぱい葡萄

イソップ物語の「キツネとすっぱい葡萄」は、認知的不協和理論の例として有名な話です。

キツネは木の高いところにある葡萄を食べたいと思いますが(認知①)、何度、飛び上がっても届く気配がありません(認知②)

キツネはやがて不機嫌になり(不協和)、「あの葡萄はきっと、すっぱくて食べられたものじゃないに違いない」と捨て台詞を残してその場を去ります(低減のための行動)。

喫煙

喫煙にまつわる認知的不協和も、私たちにとって身近な話題です。

喫煙者が「タバコを吸いたい」と思うとき(認知①)、喫煙は「身体に害を及ぼす」という情報をたまたま見かけたとします(認知②)

すると、大抵の人は以下のような不協和の低減のための行動を取るものです。不協和の低減のための行動は3種類あります。早速、詳しい解説をみていきましょう。

不協和の低減のために取りがちな3つの手段

不協和の低減のために取りがちな3つの手段

私たちは、不協和の状態を不快に感じやすいため、何とかしてその状態を脱しようと、あらゆる方法で考え方や行動の変更を行います。

以下は喫煙の例にまつわる代表的な不協和の低減方法です。私たちは普段、このように考え行動することで不協和を解消しています。

一方の認知を変更する

「タバコを吸いたい」と思っているが、同時に「喫煙は身体に害がある」ことも知っているときは、不協和な状態に陥ります。そのため、不協和な状態を解消するために、私たちはどちらか一方の認知に合わせるために認知を修正しようとします。

たとえば…

  • 認知①「タバコを吸いたい」に合わせる場合

「喫煙しても長生きする人もいるから、必ずしも身体に害とは限らない」と認知②を変更する。

  • 認知②「タバコは身体に害である」に合わせる場合

「禁煙する」ことで、認知②に矛盾しないような行動をとる。

既にある認知と矛盾しない認知を増やす

私たちは、不協和の状態を解消するために、既にある認知と矛盾しない認知を増やそうとすることもあります。

たとえば…

  • 認知①「タバコを吸いたい」に合わせる場合

「喫煙にはリラックス効果がある」と新たな認知を増やすことで、タバコを吸うことのメリットの方が高まるような考え方をする。

  • 認知②「タバコは身体に害である」に合わせる場合

「喫煙はがんや循環器、呼吸器疾患などさまざまな病気を誘発する可能性がある」と考え、タバコはやめた方がいいと考えられるようにする。

参考:eヘルスネット「喫煙者本人の健康影響」

ある認知の重要性を低める

ある認知の重要性を低く見積もることで、認知の不協和に対して対処しようとすることもあります。

たとえば、すっぱい葡萄のように「あの葡萄はすっぱくてとても食べられたものじゃなかったに違いない」と考える場合は、葡萄が食べたい(認知①)の重要性を低め、叶わなくてもよいという方向に修正する考え方です。

ビジネス場面に生じる3つの認知的不協和

ビジネス場面に生じる3つの認知的不協和

ビジネス場面においても、2つの認知が生じ、その間で不協和の状態に陥り、知らず知らずのうちに一方の認知に考え方を合わせようとすることはよく起こります。

前向きな低減のための考え方や行動が取れればよいのですが、自分の成長を妨げるような方向に考えを曲げてしまうことも多いため、注意が必要です。

自分の意見が言えない

会議のような自分の意見が求められる場面において、思うように意見が出せない場合は認知的不協和が生じている可能性があります。

たとえば、以下のように2つの認知の間で気持ちが揺れて発言しにくいようなことが起こりやすいでしょう。

  • 認知①:「より多く意見が出た方がよい、自分も意見を言うべきだ」
  • 認知②:「自分の意見に鋭いツッコミが来たらどうしよう」

そして、気持ちが揺れることによる不快感を軽減するべく、次のように認知①をなくし、認知②に合わせようとするかもしれません。

  • 「上司や先輩の意見の方が正しいだろう」
  • 「うまく受け答えできないなら黙っている方がよい」

出世した人を否定する

自分よりも先に同期が出世してしまったときは、以下のように認知的不協和が生じる場合があります。

  • 認知①:「これまでの仕事内容を評価されて出世したい」
  • 認知②:「自分よりも先に同期が出世した」

上記の場合、「同期が上司に気に入られているだけでは」「会社の評価体制が不十分なのでは」と認知②の重要性を低めようとすることがあるかもしれません。

会社を辞められない

やりがいはあるが、待遇面で不満のある仕事を辞められないようなケースでも、以下のような認知的不協和が生じます。

  • 認知①:「今の仕事にやりがいを感じている」
  • 認知②:「残業が多く待遇面で不満があるため仕事を辞めたい」

この場合は、「世の中にはやりたくない仕事を仕方なくする人もいる。自分は恵まれている方だ」「やりがいのある仕事だから待遇が低いことは我慢しよう」と考え、認知①と矛盾しない認知を増やそうとするかもしれません。

ビジネス場面に生じる3つの認知的不協和への対策

ビジネス場面に生じる3つの認知的不協和への対策

ビジネスの場面では、日々さまざまな認知的不協和が生じます。

このような認知的不協和をどのように捉え、より自己成長を促進する方向へ不協和を低減できるかはビジネスパーソンの重要な課題です。

以下に3つのビジネス場面に生じる認知的不協和への対策をまとめましたので、ぜひ参考にしてみてください。

支持したい認知の価値を高める

  • 「自分の意見が言えない」ケース

認知①:「より多く意見が出た方がよい、自分も意見を言うべきだ」

認知②:「自分の意見に鋭いツッコミが来たらどうしよう」

このような場合は、支持したい認知の価値を高める方法が有効です。

支持したい認知は(認知①)のため、この考えを支持するように「意見を言うことで経験値が上がるかもしれない」「心に余裕が生まれる」と考えると(認知①)を支持できます。

  • 「会社を辞められない」ケース

認知①:「今の仕事にやりがいを感じている」

認知②:「残業が多く待遇面で不満があるため仕事を辞めたい」

このような場合も、支持したい認知が(認知②)であるなら「自分にもっと合った仕事内容で待遇のよい仕事があるかもしれない、まずは求人検索からでも始めてみよう」と考えることで(認知②)を支持できます。

受け入れがたい認知を受け入れやすくする

  • 「出世した人を否定する」ケース

認知①:「これまでの仕事内容を評価されて出世したい」

認知②:「自分よりも先に同期が出世した」

このような場合は、受け入れがたい認知を受け入れやすくする方法が有効です。

「同期が出世したからといって、自分の価値が下がるわけではない。自分にできることを着実に積み重ねていこう」と考えることで(認知②)を受け入れ、前向きに仕事に取り組むことができるようになるでしょう。

まとめ:認知的不協和を解消しビジネス場面を円滑にしよう

まとめ:認知的不協和を解消しビジネス場面を円滑にしよう

認知的不協和とは、あらゆる物事に対して人が持つ認知のうち、2つの矛盾した認知が存在する場合に、その不協和を低減しようとする心理状態をいいます。

ビジネス場面に生じる認知的不協和への対策として、支持したい認知の価値を高めたり、受け入れがたい認知を受け入れやすくすることで、従業員の課題解決能力が高まり、自己成長につなげることができるでしょう。

ぜひ、認知的不協和理論とその対策を企業に取り入れて、考え方の柔軟な組織をつくっていきましょう。

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