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継続雇用制度とは?企業の雇用義務と制度導入のポイントを解説!

総務省の労働者調査によると65歳から69歳までの人の就業率は20年連続で上昇し、2023年度には52.0%となりました。
企業にも高年齢者の雇用を守ることが求められており、継続雇用制度の見直しを検討している会社も多いでしょう。
本記事では、継続雇用制度の基本から、高年齢者雇用安定法が定める企業の義務、そして制度を導入・運用する上での具体的なポイントまでを網羅的に解説します。活用できる助成金や、従業員へ説明する際の注意点も紹介しますので、ぜひ貴社の制度検討時の参考にしてください。
継続雇用制度とは

継続雇用制度とは、定年以降も定年退職した従業員を雇用する仕組みのことです。
主な継続雇用制度である「再雇用制度」と「勤務延長制度」について解説します。
再雇用制度
再雇用制度とは、定年退職した従業員を再採用して雇用する仕組みのことです。
在職中のスキルや経験を生かして仕事をしてもらえるメリットがあり、高年齢者の雇用確保という社会的要請にも応えられます。
従業員にとっても慣れた職場環境の中でキャリアを生かせるため、転職するよりも安心して働けるでしょう。ただし、多くの場合、嘱託社員や契約社員として再契約するため、労働条件や待遇は定年前と異なることが一般的です。勤務日数が減ったり、給与が大幅にダウンしたりすることもあります。
勤務延長制度
勤務延長制度とは、定年時に定年年齢を延長して継続して働いてもらう勤務制度のことです。
再雇用制度と異なり、役職や仕事内容もそのまま引き継いで、これまでどおりの給与が支給されるのが特徴です。
定年後も従来どおり働きたいと考える会社員には勤務延長制度、定年後はペースを落としてゆっくりと仕事を続けたいと考える会社員には再雇用制度が向いているといえるでしょう。どちらか一方、または両方の制度を導入している企業もあります。
高年齢者雇用安定法が定める企業の義務

高年齢者が活躍できる環境を整備し雇用の安定を進めるために、国は「高年齢者雇用安定法」を定めて企業にさまざまな義務を課しています。
同法で定める高年齢者雇用に関する企業の主な義務は次の2つです。それぞれについて解説します。
- 65歳までの雇用機会の確保
- 70歳までの就業機会の確保
企業の義務①:65歳までの雇用機会の確保
2013年の法改正により、高年齢者雇用安定法では企業に「65歳までの雇用確保措置」が義務づけられました。対象は、「定年を65歳未満に定めている事業主」です。
具体的には、次の3つの措置のいずれかを企業は導入しなければなりません。
- 65歳までの定年引き上げ
- 定年制の廃止
- 65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(※)
※子会社や関連会社などの特殊関係事業主による継続雇用も含まれます。
定年の引き上げや廃止は企業の労務コスト負担が大きいことから、65歳までの継続雇用制度を導入する企業が全体の約3分の2を占めます。なお、継続雇用制度は「継続雇用を希望する従業員全員」を対象とすることが原則で、雇用するための条件などを設けることはできません。
2025年4月から完全義務化
65歳までの雇用確保措置は2013年より義務化されましたが、2025年3月までの移行措置が設けられました。2013年3月31日までに対象者を限定する基準を労使協定で設けている場合に限り、対象者を限定することを認めるというものです。
2025年4月以降は移行措置が認められないため、企業には高年齢者雇用確保措置の完全実施が求められます。
企業の義務②:70歳までの就業機会の確保
2021年の法改正により、企業に対する「70歳までの就業機会確保措置」が努力義務となりました。対象となるのは、「定年を65歳以上70歳未満に定めている事業主」と「継続雇用制度(70歳未満まで)を導入している事業主」です。義務の内容は、次のいずれかの措置を講じるように努めることです。
- 70歳までの定年の引き上げ
- 定年制の廃止
- 70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加え、他社での継続雇用も含む)
- 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入
- 70歳まで継続的に事業主が自ら実施・委託・出資する社会貢献事業に従事できる制度の導入
「65歳までの雇用機会確保」と異なり、他社での雇用や業務委託なども就業機会確保措置に含まれます。また、努力義務であるため、上記の措置を講じなくても法令違反とはなりません。
創業支援等措置
前述の就業機会確保措置のうち、業務委託契約を締結する制度や社会貢献事業に従事できる制度の導入については、創業支援等措置(雇用によらない措置)と呼びます。
創業支援等措置を講じる場合、所定の事項を記載した計画書を作成し過半数労働組合等(※)の同意が必要となるので注意しましょう。
創業支援等措置の計画書の主な記載事項は次のとおりです。
- 高年齢者就業確保措置のうち創業支援等措置を講じる理由
- 高年齢者が従事する業務の内容に関する事項
- 高年齢者に支払う金銭に関する事項
- 契約の終了に関する事項(契約の解除事由を含む)
- 社会貢献事業を実施する団体に関する事項 など
※労働者の過半数を代表する労働組合、ない場合は労働者の過半数を代表する者のことです。
継続雇用制度導入時のポイント

継続雇用制度を導入するときは、従業員のモチベーションを保ちその能力を十分に発揮できるように配慮が必要です。
制度導入時の主なポイントは次の4つです。それぞれについて解説します。
- 制度導入に向けた社内体制の整備
- 従業員への周知とリスキリング
- 高年齢者が働きやすい職場づくり
- 助成金の活用
ポイント①:制度導入に向けた社内体制の整備
継続雇用制度を導入するためには、社内の諸制度の整備が必要です。主な内容は次のとおりです。
- 就業規則の整備
- 賃金制度や労働条件の整備
- 管理体制や教育体制の整備
- 継続雇用時の諸手続きの整備
勤務延長制度を導入する場合、従来の就業規則や賃金制度を準用するという方法もありますが、再雇用制度の場合は新たな制度づくりが必要です。
再雇用者の能力を生かし、企業の戦力として活躍してもらえるように、次の点に考慮して制度づくりを図りましょう。
- 社内で培った経験やスキルを持つこと
- 高年齢者であること
- 定年後の仕事に対する多様なニーズ
- 現役従業員とのバランス など
ポイント②:従業員への周知とリスキリング
従業員に継続雇用制度について正しく理解してもらい、納得して制度利用してもらうことも重要です。年度内に定年を迎える従業員を対象に説明会を開くなど、制度の目的や労働条件、賃金などをきちんと説明するとともに、検討する時間を十分に取れるように配慮しましょう。
特に、継続雇用後の給与額によっては、年金の支給額が調整される「在職老齢年金」の仕組みや、社会保険の取り扱いが変わる場合があります。
金銭に直結する情報は従業員の関心が高いため、制度の概要を情報提供したり、必要に応じて専門家への相談を案内するなど、個々の従業員が自身のライフプランを具体的に考えられるようサポートすること求められます。
また、経済環境の変化やイノベーションの進化が急速に進む中、過去の経験やスキルだけでは業務に支障をきたしたり十分な成果が期待できないことも考えられます。高年齢者が能力を発揮するためのリスキリングも検討しましょう。
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ポイント③:高年齢者が働きやすい職場づくり
高年齢者が健康で安心して働ける職場を準備することもポイントです。主な対策は次のとおりです。高年齢者の希望に応じて勤務日数や勤務時間を短縮するなどのほか、次の対応を検討してみましょう。
- 作業環境を改善する(バリアフリー化、安全性の高い設備や機械の導入など)
- 業務内容や作業内容に配慮する
- 健康や安全、衛生に関する研修を実施する
- 職場内のフォロー体制をつくる など
ポイント④:助成金の活用
高年齢者の雇用を支援するために、国や地方自治体でさまざまな助成金を設けています。助成金を活用することで企業の経済的負担を軽減したり、継続雇用制度の充実にお金をかけたりできるでしょう。
厚生労働省の「65歳超雇用推進助成金」では、65歳以上への定年引上げや高年齢者の雇用管理制度の整備などの企業の対応に対して助成金が支給されます。また、雇用保険の「高年齢雇用継続給付」では、60歳到達時点から賃金が大幅に低下(75%未満)した労働者に直接給付金が支給されます。
ただし、高年齢雇用継続給付は、法改正により2025年4月1日から給付内容が変更される点に注意が必要です。
具体的には、2025年4月1日以降に60歳に到達する従業員から給付率が縮小され、将来的には制度自体が廃止される方向性が示されています。継続雇用制度における賃金設計や従業員への説明を行う際には、この制度変更の内容を十分に踏まえておくことが推奨されます。
公的な支援制度については厚生労働省のホームページなどで確認しましょう。
まとめ:高年齢者が働きやすい環境を整備し戦力として活用しよう!

継続雇用制度とは、定年以降も定年退職した従業員を雇用する仕組みのことです。
高年齢者が活躍できる場を設けるために、企業には「65歳までの雇用確保措置」の義務と「70歳までの就業機会確保措置」の努力義務が課せられました。
人手不足による企業活動の停滞リスクが高まる中、法律上の義務や社会的要請に応えるためだけでなく、高年齢者を企業の貴重な戦力として有効活用する人材戦略が求められています。高年齢者が働きやすい環境を整備し、継続雇用制度を企業の発展に生かしましょう。
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