人工透析中の社員に対して必要な3つの合理的配慮とポイントを解説

人工透析中の社員に対して必要な3つの合理的配慮とポイントを解説

腎臓は食事や代謝などで生じた血液中の余分な水分・電解質・老廃物などをろ過して尿をつくり、体外に排出します。また、必要なものを再吸収することにより体内の恒常性を維持する重要な臓器です。

しかしながら、腎炎や糖尿病などが引き金となって腎臓の機能が著しく低下すると、生命を維持するために人工透析が必要です。

国内の透析患者数は年々増加しており、2021年末における透析患者数は国内で34万9,700人、人口千人あたりの患者数2.8人です。人工透析を受ける社員が在籍する可能性が高くなるとともに、雇用主にはこれらの社員に対する理解と合理的な配慮が求められるケースが増加しています。

本記事では、人工透析の基礎知識、人工透析を受けている方が抱える仕事上の制約および事業主としての適切な対応方法について解説します。

参考:日本透析医学会「2021年次調査」

人工透析とは

人工透析とは

人工透析は、腎臓に代わって人工的に血液を浄化する治療のことをいいます。

人工透析の意義

現代の医療では、著しく低下した腎臓の機能を回復させることはできず、透析や移植を受けることが必要です。腎臓移植はドナーの人数や移植適合性といった課題があり、多くの患者は人工透析を選択します。

人工透析を受けることで、末期腎不全の患者は生命を維持することができ、ある程度まで普通の生活が可能となります。

しかし、生涯継続する必要があり、長く続けていると合併症が生じる傾向があります。

人工透析が必要となる疾患

人工透析が必要となった原疾患は多い順に次のとおりです。

  • 糖尿病性腎症(39.6%)
  • 慢性糸球体腎炎(24.6%)
  • 腎硬化症(12.8%)
  • 原因不明(9.7%)
  • 多発性嚢(のう)胞腎(3.7%)

生活習慣病のひとつである糖尿病が約4割を占めており、その割合は年々増加しています。

参考:日本透析医学会「2021年次調査」

人工透析の種類

人工透析には、血液透析と腹膜透析の2つの方法があります。

血液透析

血液透析は、血管に刺した針からポンプを使って血液を体外に取り出し、透析器に循環させることで尿毒素を除去した後、体内に戻す治療法です。

透析器は、透析膜の小さな穴を通して、血液中の老廃物、水分、塩分などを透析液に移動させる機能を有しています。

血液透析を行うには、1分間に200mlもの血液を透析器に送り込む必要があるため、手首付近の動脈と静脈を手術でつなぎ合わせ、血管を太くしたシャントといわれるものを作る必要があります。

腹膜透析

腹膜透析は、腹腔内に直接透析液を注入し、一定時間貯めている間に腹膜を介して、血中の尿毒素、水分、塩分を透析液に移動させ、これを体外に廃液する治療法です。

腹膜透析は透析膜として自らの腹膜を使うことになりますが、本治療は継続して10年程度が限度とされています。

2021年末の透析患者総数34万9,700人のうち、腹膜透析を実施している患者は1万501人(約3.0%)であり、多くの透析患者は血液透析を選択しています。

参考:日本透析医学会「2021年次調査」

人工透析が必要となる判断基準

腎臓の機能が健常者のおおむね10%を下回ると、尿毒症や高カリウム血症などにより、不整脈、心不全といった重大な問題を起こすようになり、人工透析が必要とされます。

また、薬物療法でコントロールできない高度のむくみ、心不全、吐き気や栄養不良といった尿毒症の症状、高カリウム血症が認められたときも、人工透析を早期に実施する必要があります。

(参考文献)

日本腎臓学会ほか「腎不全 治療選択とその実際」

人工透析による仕事への制約

人工透析による仕事への制約

人工透析は腎臓に代わって、人工的に血液を浄化する治療法ですが、残念ながら現代の医学では腎臓の機能を完全に補うことはできず、生活面でさまざまな制約が求められます

ここでは、血液透析を例に、時間的制約および身体的制約を紹介します。

透析時間に係る制約

血液透析は週3回、1回4時間程度の通院治療が必要となります。月間約50時間、年間約600時間にも及ぶことから、残業の多い業務を遂行することは物理的に困難です。

また、専門の設備を備えた病院への通院時間を加味すると、拘束時間はより長いものとなる可能性があります。

どうしても日中の仕事に穴をあけることができない職場の場合は、夕方から夜間にかけて実施する夜間透析や、寝ている間に透析治療を行うオーバーナイト透析という選択肢もありますが、実施しているクリニックが少ないのが現状です。

身体的負担に係る制約

透析治療にあたっては、たんぱく質・水分・ナトリウム・カリウム・リンなどに対する食事制限が必要とされます。また、シャントを保護する観点から、重い物を持ったり、腕を圧迫したりする動作を避ける必要があるほか、感染症にも留意することが求められます。

そのため、透析治療を行っている患者は、デスクワークなどの身体的負荷の比較的低い仕事に就くことが好ましいとされています。

体調面に係る制約

透析治療中はさまざまな合併症が生じることがあります。

  • 貧血(動悸(どうき)、息切れ、めまい)
  • 腎性骨異栄養症(骨折、関節炎、結膜炎)
  • 透析アミロイド症(手のしびれ、バネ指、骨・関節症)
  • 高血圧
  • 感染症

これらの合併症により、体調面に不具合が出やすく、仕事中に体調不良となったときは休憩室などで休ませる必要があります。

人工透析を受けている社員に必要な合理的配慮

人工透析を受けている社員に必要な合理的配慮

人工透析を受けている患者は、さまざまな制約の中で生活することが求められています。このような環境に置かれている社員に対して、雇用主として求められている3つの合理的配慮について紹介します。

①透析に必要な時間の確保と合理的配慮

人工透析(血液透析)には週3回、各4時間の通院治療への配慮が必要です。

内閣府では、2010年に「障害者が必要とする労働・雇用における合理的配慮に関するガイドライン」で、「障害に基づき必要とする人工透析等については、勤務時間調整・変更等により配慮する」と公表しています。

参考:内閣府「障害者が必要とする労働・雇用における合理的配慮に関するガイドライン

②身体的負担を避けることができる業務への配置

厚生労働省による「障害別にみた特徴と雇用上の配慮」によると、透析患者を含めた腎機能障害者に対する雇用上の一般的注意事項として、次のような記述があります。

  • 全身的な体力の低下を伴っていることが多く肉体的重労働には適していない
  • 身体を寒冷にさらさないような温暖な勤務環境が望まれる

さらに、感染症にもかかりやすい特性を有することとなるため、本人が希望し、雇用主側の受け入れ態勢が整えられるときは、清潔な環境でデスクワーク勤務させるなどの配慮が望まれます。

③体調による業務量の調節など

同じく、厚生労働省によると、腎機能障害者は「体調の変動を伴うことが多いので、体調に応じた業務量の調節が必要」とされています。

また、長期間の療養の結果、精神的・心理的・経済的・社会的にハンディキャップを負っている場合は、温かい態度で接し、患者のもつ問題点を理解し、それぞれに応じた援助を行う必要があるとされています。

(参考)障害者雇用の検討

人工透析患者は腎臓機能障害として身体障害者福祉法に基づく身体障害者手帳の取得ができる可能性があります。

該当する社員は、医療費の助成、公共交通機関の運賃割引、所得税・住民税の減免、障害者医療費助成制度、特定疾病療養受領証が受けられます。

一方、雇用主は障害者雇用率への算入、施設などの整備や適切な雇用管理の措置を行った場合に受けられる助成金などが受けられる可能性があるため、該当する社員が在籍していることを把握したときは、顧問としている社会保険労務士などと協議することが必要です。

まとめ:大切な社員が一日でも長く活躍できるために

まとめ:大切な社員が一日でも長く活躍できるために

慢性腎不全による人工透析は、腎移植を受けない限り生涯続けなければならない治療であり、患者にとって経済的・身体的にも大きな負担がかかります。

会社にとって重要な役割を担っている社員が一日でも長く、平穏な生活を過ごすことができるよう、雇用主として適切な知識を持つことが求められています。

その上で、人工透析を必要とする社員が継続して業務に従事できるように合理的配慮を実施してください。

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