環境の変化によるストレス|新生活への適応を促す企業の取り組みとは

環境の変化によるストレス|新生活への適応を促す企業の取り組みとは

新しい環境への適応は、私たちの心身にさまざまな影響を与えます。環境の変化によって引き起こされるストレスは、新生活への適応を困難にする要因となりえます。

環境変化により社員が体調不良となった場合、企業が支援を行うことでどのようなメリットがあるのでしょうか。本記事では、新年度に起こりやすいライフイベントとストレスとの関係、環境変化によりリスクが高まる代表的な病気について解説します。また、企業ができる予防対策のポイントと会社のメリットについても紹介します。

環境の変化とストレス

人生において重要な出来事が起こると、個人や家族の生活環境に変化がもたらされ、ストレスが発生しやすくなります。

はじめに、人生において重要な出来事となりうるライフイベントについて説明します。

環境変化|ライフイベントとは

人生の中で経験する重要な出来事や変化のことを、ライフイベントと呼びます。ライフイベントは、職場だけでなくプライベートで起こる出来事も含まれます。どのようなライフイベントがあるのか、具体例を挙げます。

新年度に起こりやすいライフイベント

年度が変わるタイミングで異動や単身赴任、それにともなう引っ越しなどは、職場環境と生活環境が同時に変わる出来事です。

新入社員教育、新システム導入などの新年度に関連する業務により仕事量が増加すると、次第に疲労が蓄積していくでしょう。

新入社員でなくても、昇格や昇進など喜ばしい出来事によって、周囲からの期待や責任の重さを負担に感じる場合もあります。

関連記事:「 幸せなのにストレスを感じることってある?対処法も併せて解説 !

職場で起こりやすいライフイベント

職場で起こる出来事として、大規模なリストラや新しいプロジェクトの開始などがあります。

昨今では、技術革新職場のDX化についていけず、ストレスを感じる人もいるでしょう。その他にも、会社の吸収合併や倒産危機は、個人だけでなく組織全体にストレスをもたらす出来事です。

社会人として新生活が始まる場合や昇進などの大きなイベント以外に、社内での技術革新や会社の組織体制の変化もライフイベントとなりうることがよく見落とされるため注意が必要です。

その他のライフイベント

結婚や妊娠、家族が増えるなどは喜ばしい出来事である一方で、その後の生活環境は大きく変わります。離婚や別居、家族の病気や死は、ライフイベントの中でも特にストレス度が高い出来事です。

仕事に関わること以外に、プライベートのイベントも社員にとって大きなライフイベントとなり、就業とプライベートの両立の負担が生じる可能性があることについても配慮することが好ましいでしょう。

参考:NCNP病院 国立精神・神経医療研究センター「4月から環境が変わった方へ ~ライフイベントのストレスについて~(2022年4月)」

ストレスとは

次にストレスについて説明します。ストレスは現代社会で誰もが経験する身近な問題です。

私たちがストレスを感じるのは、主に仕事や人間関係などの問題であり、「心理・社会的ストレッサー」と呼ばれています。そして、「心理・社会的ストレッサー」は環境変化に大きく影響を受けます。

それでは、ストレスによりどのような反応が生じるのか解説します。

ストレスのによる反応

ストレスという言葉は、本来、物理学の分野で使われていたもので、外側から力が加わり、ボールが歪んでしまった状態を指します。

医学や心理学の分野では、心や体に影響を与える外部からの刺激をストレッサー、ストレッサーにより心身に生じた症状をストレス反応と呼びます。

ストレス反応の種類

ストレス反応は、心理面と身体面、行動面の3つに分類できます。

心理面の具体的な症状としては、不安やイライラ、気分の落ち込みなどがみられます。身体面の症状は、頭痛や不眠、食欲低下などです。行動面の症状では、仕事のミスや飲酒、喫煙量の増加などがみられます。

関連記事:「ストレスフルとは?症状や要因、対処法を解説

参考:文部科学省「在外教育施設安全対策資料【心のケア編】第2章 心のケア 各論」

「環境変化」と「ストレス」の関係

ライフイベントによって環境が変化した場合、新しい環境への適応が必要となりストレス反応が生じます。

たとえうれしい出来事だとしても、新たな環境に適応する過程で、不安や心配が生じる可能性があります慣れていない、または見通しが持てない状況は、多くの人にとって大きな負担です。

ライフイベントにより過剰なストレス反応が生じていないか、ぜひ確認してみてください。

環境変化によりリスクが高まる病気とは

環境が変化した際に過剰なストレスが生じたり持続するとき、そのストレス反応により心身の不調をきたして治療が必要な状態に陥る場合もあります。

特に注意が必要とされる3つの代表的な病気について以降で説明します。

自律神経失調症

体のだるさやめまい、頭痛などの症状があり、不定愁訴(ふていしゅうそ※)と呼ばれることもあります。交感神経と副交感神経のバランスが不安定になると現れる体調不良の総称です。

※なんとなく体調不良だが検査をしても病気が見つからない状態を指す。

関連記事:春のもやもや気分は季節や環境のせい?不調克服のための対処法を解説

心身症

ストレスが原因で発症する病気の総称です。胃・十二指腸潰瘍、過換気症候群、更年期障害などが含まれます。病気そのものに対する治療のほか、原因となるストレスのコントロールが必要です。

適応障害

新しい環境変化に適応しようとする過程で過剰なストレスが生じた結果、精神症状および行動面に変化が表れます。

不安や抑うつなどのメンタル不調、遅刻や無断欠勤などの問題行動を起こし、社会生活に支障をきたします。薬物治療も行われますが、原因であるストレスの軽減が優先されます。

自律神経失調症や心身症、適応障害が疑われる社員がいる場合には、速やかに治療を要する場合もあるため、産業医などの産業保健職に相談してください。

新生活への適応を支援する企業のメリットとは

環境変化によるストレスが予想される場合、企業には社員の適応を促進するための積極的な取り組みが求められます。

しかし、企業のサポートにより社員はもちろん、会社側にもさまざまなメリットがもたらされる可能性もあります。

企業が社員の環境変化に対して支援する場合に生じうる企業のメリットについて、以降で3つの例を紹介します。

生産性の向上

社員が新しい環境にスムーズに適応できるように会社がサポートすることで、職場でのストレスが減少し、集中力とモチベーションが高まります。

個人の生産性向上により、結果的に組織全体のパフォーマンス向上に寄与します。

労働災害件数の減少

環境の変化にともなうストレスは、職場での注意散漫やヒューマンエラー、事故などを招く可能性があります。

企業が社員の適応をサポートした場合、労働災害のリスクが低減する効果が期待でき、安全な職場環境の維持につなげられる場合があります。

長期的な雇用関係の安定

会社の配慮により社員が新しい環境へ適応する際のストレスが軽減されると、社員の休業やプレゼンティーイズムを予防できます。

企業が積極的にメンタルヘルス対策を講じることで、結果として長期的な雇用関係の安定につながります。

新生活への適応を支援する企業の対策と取り組み方

では、企業はどのように社員が新生活に適応しやすいように支援できるか、具体的な対策について説明します。

健康経営の推進

社員の健康保持増進のため、企業には健康経営の推進が一つの手段です。

健康経営の推進にあたり、まずは社内外に「積極的に社員の健康のための取り組みを行う」ことを表明し、具体的な健康投資施策を実施します。

健康投資施策の例としては、健康診断やスポーツジム利用に関わる費用の補助や、ウェアラブルデバイスの支給、健康づくりセミナーの開催などがあります。

職場の課題把握

職場環境のストレス要因を把握するために、社員へ定期的なアンケート調査やヒアリングを実施することも有効です。

調査の結果から企業独自の現在の問題点や改善点を明確にし、適切な対策を講じることができます。

具体的な調査項目としては、眼精疲労や受動喫煙率、業務特性(立ちっぱなし・座りっぱなし・騒音)などの問題点を把握すると対策を講じやすいです。

事業場内外の資源活用

社内だけで対策を行う以外に、企業外のリソースを活用して職場の課題解決や社員の適応を支援する方法も一つの手です。

たとえば、社内カウンセリングサービスや、EAP(※)の利用、外部研修プログラムの参加、地域の支援機関との連携などが挙げられます。

各都道府県には産業保健総合支援センターという機関が設置されており、無料で相談できる場合もあるので活用することを検討してみてはいかがでしょうか。

参考:独立行政法人労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」

※EAP(Employee Assistance Program):社員の心と体の健康を支援するためのプログラム

ワーク・ライフ・バランスの推進

仕事とプライベートの両方が充実するように、労働環境や制度の整備を行うことも企業が取り組みやすい施策です。

たとえば、時間や場所にとらわれない、フレックスタイム制度やリモートワークの導入、有給休暇取得促進、仕事の効率化などです。

メンタルヘルスケアの推進

社内のメンタルヘルスケアを推進することは環境変化への適応とともに適応できない場合のメンタル不調のセーフェティーネットにもなりえるため、特に重要です。

メンタル不調の予防には一次予防、二次予防、三次予防の3つの段階があります。その中でも「メンタル不調を未然に防ぐ」一次予防に重点が置かれます。

メンタルヘルスケアを社内で推進するにあたっては、以下の4つのケアを実施することが重要です。

  1. セルフケア
  2. ラインによるケア
  3. 事業場内産業保健スタッフ等によるケア
  4. 事業場外資源によるケア

4つのケアによる具体的な取り組みとしては、各職務に応じたメンタルヘルス研修や教育、情報提供、職場環境の把握と改善、メンタル不調者の早期発見と適切な対応などがあります。

関連記事:メンタルヘルスとは?企業の対策からセルフケアまでを徹底解説

ストレスチェックテストの導入

ストレスチェックテストはメンタル不調を未然に防ぐ一次予防に重点が置かれており、次の4つが主な目的です。

  1. ストレス状態の把握
  2. 高ストレス者の発見と対応
  3. 職場環境の改善
  4. 労働環境の改善が目的

体調不良者の早期発見や早期対応が可能となるため、50人未満の企業であっても、ストレスチェック制度の積極的な導入が求められます。

定期的なストレスチェックの実施により、社員のストレスレベルが把握できます。さらに、各職場ごとに集団分析を行えば、職場課題の把握や労働環境改善にも役立つでしょう。

関連記事:ストレスチェックはなぜ実施する?目的と効果について解説!

まとめ|「環境変化によるストレス」には企業の積極的な予防対策が有効

環境の変化によって生じるストレスは、社員の心身に大きな影響を与える可能性があります。

しかし、人生において環境の変化は避けられません。そのため、企業が環境変化への適応を支援することで、最終的には、社員の健康と生産性の向上、組織全体のパフォーマンスの向上につながるでしょう。

どの取り組みから始めてよいのか迷っている場合は、ストレスチェック制度の導入から検討されることをおすすめします。ぜひ本記事を参考に環境変化によるストレスに対応できるように社内で整備をご検討ください。

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