就業制限の社員への対応は?健康診断後の措置や配慮のポイントを解説
従業員の健康診断は、従業員の健康管理をするために事業者にとっても重要な取り組みです。その結果によっては、従業員の健康を守るために「就業制限」が必要となるケースもあります。
就業制限とは安全配慮義務の観点で従業員の健康状態を考慮し、職場環境の調整や勤務時間に制限を設ける措置です。
就業制限は従業員の健康を守り、悪化を防ぐための重要な対策ですが、事業者にとっては業務への影響や、従業員への配慮など、対応に悩むことも多いのではないでしょうか。
この記事では、健康診断後に就業制限が必要となった従業員の対応の流れと、事業者が注意すべきポイントを解説します。就業判定の区分や具体的な対応の流れ、就業制限者への配慮のポイントを理解して、職場の適切な健康管理につなげましょう。
就業判定の3つの区分とは
事業者は、従業員が健康で働き続けるために、従業員の健康状態を把握し適切な健康管理をする必要があります。
また、事業者は健診結果で異常所見があると診断された従業員に対し、医師または歯科医師(医師等)の意見を踏まえて、就業上の措置を決定します。
医師等から就業上の意見を聞く際の重要事項が就業判定の3つの区分です。
就業判定の区分 | 就業上の措置の内容 | |
区分 | 内容 | |
通常勤務 | 通常の勤務でよいもの | |
就業制限 | 勤務に制限を加える必要のあるもの | 勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換等の措置を講じる。 |
要休業 | 勤務を休む必要のあるもの | 療養のため、休暇、休職等により一定期間勤務させない措置を講じる。 |
参考:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」(PDF)
事業者に義務づけられている健康診断受診後の5つの流れ
1.健康診断結果の労働者への通知
事業者は健康診断を受けた従業員に対して、異常所見の有無にかかわらず、遅滞なくその結果を通知しなければなりません。(労働安全衛生法第66条の6)
健康診断結果を通知することで、従業員自身が健康状態を把握し、自主的な健康管理を促すという重要な目的があります。
2.健康診断結果についての医師等からの意見聴取
事業者は、健康診断の異常所見があると診断された従業員について、3カ月以内に医師等から就業上の意見を聴かなければなりません。(労働安全衛生法第66条の4)
事業者は、医師等から従業員の働く環境を踏まえた意見を聴取するため、従業員に関する以下の情報提供をしましょう。
- 労働者に係る作業環境
- 労働時間
- 労働密度
- 深夜業の回数及び時間数
- 作業態様
- 作業負荷の状況
- 過去の健康診断の結果等に関する情報
参考:厚生労働省「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」
さらに、職場巡視や健康情報が十分でない場合は従業員との面接の機会を提供することが大切です。医師等から適切な就業上の意見を聴くため、事業所側も十分な情報提供をすることをおすすめします。
3.就業上の措置の決定
事業者は、医師等の意見を勘案し、必要がある場合は就業場所の変更・作業の転換・労働時間の短縮・深夜業の回数の減少等の措置を講じます。(労働安全衛生法第66条の5)
また就業上の措置を行う場合は、従業員本人や職場の管理者、主治医などから意見を聴き、十分な話し合いを通して従業員の了承が得られるよう努める必要があります。
就業上の措置が決定したら、従業員の管理監督者にも情報を共有し適切な対応につなげることができます。さらに、就業上の措置について、健康診断結果に基づく医師等の意見を衛生委員会に報告し審議することが望ましいです。
4.労働基準監督署に定期健康診断結果報告書を提出
常時50人以上の労働者を使用する事業者は、定期健康診断を行ったときは、定期健康診断結果報告書を所轄労働基準監督署長に提出しなければなりません。(労働安全衛生規則52条の21)
なお、厚生労働省の定期健康診断結果報告書様式の提出方法や様式のPDFの入手につきましては公式のホームページをご覧ください。
5.健康診断の結果に基づく受診勧奨と保健指導(努力義務)
受診勧奨
事業者は、健康診断の結果で「要再検査」や「要精密検査」の所見があった従業員に対し、二次健康診断の受診を勧奨することが肝心です。ただし、当該従業員に対する二次検査の受診勧奨は努力義務となります。
受診勧奨を行うと同時に、二次健康診断の当該検査の結果を提出するよう働きかけることにより、早期発見・早期治療につなげられます。
保健指導
事業者は、とくに健康の保持に努める必要がある従業員に対し、医師や保健師による保健指導を行うよう努めなければなりません。(労働安全衛生法第66条の7)
医師や保健師による保健指導を通し、当該従業員の生活習慣を改善し、健康的な生活を維持できるよう支援します。
また、40歳以上の人は無料で特定保健指導を受けられます。詳しくは加入している健康保険組合に問い合わせてみることをおすすめします。
※医療保険者には特定健康診査・特定保健指導の実施義務が課せられます。
就業制限者に配慮すべき3つのポイント
1.就業制限に関する健康情報の取り扱い
事業主は、就業制限の実施やその解除にあたり、必要に応じて従業員の健康情報を職場や管理監督者へ周知する場合があります。
健康情報は機微情報であるため、取り扱いに十分注意が必要です。健康情報を提供する場合は、プライバシーに配慮し、本人の同意を得た上で就業上の措置に必要な最小限の情報を提供することが適切です。
2.健康診断結果の記録の保存
事業主には、一般健康診断結果の5年間の保存が義務づけられています。(労働基準法第109条、労働安全衛生法第66条の3)
一方で、二次健康診断の結果については保存の義務はありません。しかし、健康管理を行う上で重要な情報であるため、二次健康診断の結果についても従業員に同意の上、保存することが望ましいです。
3.就業制限者の対応にむけたスタッフの連携
就業制限者の対応にあたり、産業保健スタッフ同士の連携は必要不可欠です。医学的な知見と労働環境を理解している産業医や産業保健スタッフが、面接指導や保健指導を実施することにより、健康状態の改善を目指した適切な対応ができます。
また、産業保健スタッフの連携はもとより、産業保健スタッフと人事労務管理スタッフとの連携も非常に重要です。円滑な情報共有と連携体制を構築することで、従業員の健康状態を把握し、適切な対応がしやすくなります。
まとめ|従業員の健康を守るため適切な就業制限を
健康診断をただ受けるだけでは、労働者の健康保持・増進のためになりません。労働者の健康保持・増進につなげるためには、医師等の意見を聞き、会社として望ましい就業上の措置について考えていきましょう。
従業員の健康診断結果で就業制限が必要と診断された場合、事業者は安全配慮義務にもとづき、職場環境の調整などの対応が求められます。
また、事業者は就業制限の実施やその解除にあたって、医師等の意見を踏まえ、従業員への通知や医師等への意見聴取、労働基準監督署への報告などの対応が必要です。
就業制限者への配慮としては、健康情報の取り扱いや記録の保存、産業保健スタッフとの連携などが重要です。従業員の健康状態を把握し、適切な健康管理を行うことで、従業員が健康で働き続けられる職場環境づくりに努めましょう。