隠れ貧血とは?企業が社員にできることや貧血との違いを具体的に解説

企業における社員の健康管理は、生産性の向上と活力ある職場環境の実現に必要です。近年、注目されているのが自覚症状がわかりづらい「隠れ貧血」です。
一般的な健康診断では見過ごされやすいですが、社員の集中力低下や倦怠(けんたい)感を引き起こし、結果として企業の生産性にも影響を及ぼす可能性があります。
「隠れ貧血とはどのような状態なのか」
「通常の貧血とは何が違うのか」
「企業としてどのような対策ができるのか」
隠れ貧血の対策は社員の健康を守るだけでなく、企業の成長にもつながる取り組みです。
本記事では、隠れ貧血の定義や企業に与える影響、組織の対策までを具体的に解説します。
隠れ貧血とは

隠れ貧血とは血液中の鉄分が不足しているものの、健康診断の血液検査項目であるヘモグロビン濃度が正常範囲内にある状態を指します。
そのため、本人も周囲も貧血であると気づきにくいのが特徴です。
隠れ貧血の原因と引き起こす症状を詳しくみていきましょう。
参考:栄養学雑誌「女子大学生における鉄欠乏と赤血球関連検査値」(PDF)
原因
隠れ貧血の原因には、体内の鉄分不足が挙げられます。
鉄分は、酸素を全身に運ぶヘモグロビンの主成分です。鉄分が不足するとヘモグロビンが減少し、全身に十分な酸素を届けられなくなります。その結果、体内が慢性的な酸欠状態になり貧血につながります。
20~40代女性のうち約65%は貧血もしくは隠れ貧血です。日本の女性は鉄分摂取量が不足しており、必要な量の約60%しか摂取できていません。
鉄不足の原因は、食生活の偏りや健康志向のダイエットです。無理な食事制限は栄養不足を招くため、バランスのよい食事を意識することが大切です。
企業として隠れ貧血の原因を理解し、社員への啓発を推進しましょう。
引き起こす症状
隠れ貧血は、さまざまな不調を引き起こす可能性があります。具体的には、次のような症状です。
- めまい
- 立ちくらみ
- 倦怠感
- 頭痛
- 気力の低下
- 肌荒れ
- 爪の変形
- むくみ など
隠れ貧血の症状は、社員のパフォーマンス低下につながるだけでなく、日常生活の質を下げる可能性があります。
また、妊娠中の女性が貧血になると低体重児出産や死産のリスクが高くなると報告されています。もし、従業員が複数の症状にあてはまるときは、隠れ貧血の可能性を考慮しましょう。
隠れ貧血と貧血の医療上の違い

貧血はすでに血液中の酸素を運ぶヘモグロビンが不足している状態であるのに対し、隠れ貧血は貧血の前段階という違いがあります。
一般的な貧血は、血液検査でヘモグロビン濃度が基準値より低いときに診断されます。ヘモグロビン濃度の基準値は医療機関によって違いがありますが、おおよそ以下の範囲です。
- 男性:13.5~17.6g/dL
- 女性:11.3~15.2g/dL
ヘモグロビンには、酸素を全身に運ぶ役割があります。ヘモグロビン濃度が低いと、全身への酸素供給が不足し貧血の症状が表れます。
一方で、隠れ貧血はヘモグロビン濃度は正常範囲内であるものの、血液中のフェリチンというタンパク質の量が少ない状態です。
フェリチンとは、肝臓や脾臓(ひぞう)などに貯蔵されている鉄分の量を反映する指標であり「貯蔵鉄」とも呼ばれます。たとえヘモグロビン濃度が正常でもフェリチン値が低いと、体内の鉄分貯蔵量が不足し、いずれヘモグロビン濃度も低下するリスクが高いと考えられます。
血液検査の結果から判断できるため、従業員にはヘモグロビン濃度とフェリチン値のどちらも見てもらいましょう。
ただし、中にはフェリチン値は正常なのに隠れ貧血である女性もいるため、注意が必要です。1日の鉄の摂取量上限を超えない範囲でサプリメントから鉄を補えば、改善するケースもあるでしょう。
参考:働く女性の心とからだの応援サイト「女性の健康と栄養について 隠れ貧血の問題」
関連記事:貧血が理由で就業制限は必要?就業制限を行う2つの基準と流れを解説
隠れ貧血が企業に与える影響

隠れ貧血は個人の健康問題だけでなく、企業全体にもさまざまな影響を及ぼします。隠れ貧血が与える影響を詳しくみていきましょう。
集中力が下がる
隠れ貧血になると、集中力が低下します。
鉄分は、脳に酸素を供給するために不可欠な要素です。しかし、酸素が不足すると脳がうまく働かなくなるため、集中力や記憶力が下がります。
たとえば、会議中に発言内容が頭に入りにくくなったり、書類の作成中に何度も同じ箇所を読み返したりするなどの支障が出ます。また、些細なミスが増えたり判断力が鈍ったりすることも考えられるでしょう。
集中力の維持は業務の遂行に必要なので、隠れ貧血の対策は重要な経営課題といえます。
倦怠感や意欲の減退が生じる
隠れ貧血は、倦怠感や意欲の減退を引き起こします。仕事へのモチベーションが低下し、業務に取り組むスピードも遅くなります。
通常1時間で終わるはずの作業に2時間以上かかったり、納期ギリギリで焦ってミスを連発したりするケースも考えられるでしょう。この状態を「プレゼンティーズム」と呼び、出社していても健康の問題により業務効率が下がってしまいます。
生産性の低下は企業の利益に影響するため、隠れ貧血の対策は必要です。
関連記事:プレゼンティーズムとは?健康経営に向けた企業の改善策を解説
社員が休んでしまう
隠れ貧血は、場合によって社員が休む原因となります。
隠れ貧血を放置すると体調不良を引き起こし、日常生活に支障をきたす可能性があるからです。疲労感や頭痛、めまいなどの症状は社員の意欲を低下させ、結果として欠勤や遅刻につながります。
たとえば、朝、布団から起き上がれず、やむを得ず欠勤する社員もいるでしょう。体調不良が続くと、数日間休まざるを得なくなるケースも考えられます。これは「アブセンティーズム」と呼ばれ、ほかの社員の負担が増えたり業務が止まったりする影響があります。
長期的な欠勤は業務を停滞させるため、組織全体で隠れ貧血の対策に取り組みましょう。
組織が隠れ貧血の従業員にできること

社員の隠れ貧血は、早期に発見し対策することで、企業への影響を抑えられます。組織として取り組むべき具体的な対策を詳しくみていきましょう。
食生活のセミナーを開く
食生活のセミナーを開くことは、隠れ貧血の対策として有効です。セミナーは、社員の食習慣を改善するきっかけとなるからです。とくに、外食が多い社員や偏食気味の社員に向けて、自身の食生活への気づきを促せるでしょう。
具体的には、次のような知識を専門家から学びます。
- 鉄分を多く含む食品
- 鉄分の吸収を助ける栄養素
- 鉄分の吸収率を高めるための食事の組み合わせや調理方法の工夫
- 手軽にできる鉄分の補給方法
- メニュー選びのポイント
セミナーは、管理栄養士や食育アドバイザーなどの専門家を招き、社員が抱える食生活の悩みに沿った内容を行いましょう。また、産業医に依頼し、社員向けに講話や研修を行うことも有効です。
積極的に改善に取り組めば、隠れ貧血の予防や改善につながります。
健康診断に血液検査を追加する
健康診断に血液検査を追加することは、隠れ貧血の早期発見につながる対策です。隠れ貧血は自覚症状が判断しづらいですが、血液検査の結果から把握できるからです。
具体的には、通常の健康診断の血液検査項目にフェリチン値を測定する項目を追加します。フェリチン値が低いと、ヘモグロビン濃度が正常範囲内であっても隠れ貧血の可能性が高いと判断できます。
早期に発見できれば、食事指導や生活習慣の改善指導など適切な対策で重症化を防ぐことが可能です。
健康診断にフェリチン検査を加えることは、社員の健康管理を強化し、企業の生産性向上にも貢献するでしょう。
関連記事:糖尿病に関する血液検査は?糖尿病リスクのある社員への対応を解説
社食に貧血対策メニューを取り入れる
社食に貧血対策メニューを取り入れることは、社員が鉄分を摂取できる施策です。
具体的には、大豆や小松菜、ほうれん草など、鉄分を豊富に含む食材を使用したメニューを提供しましょう。
また、鉄分の吸収を助けるビタミンCを多く含む野菜や果物を添えたり、組み合わせたりするなどの工夫も重要です。メニューには、鉄分含有量を表示したり、貧血予防に効果的な組み合わせを紹介したりするのもよいです。
社員が健康的な食生活を送れば、隠れ貧血の予防や改善につながります。その結果、社員の健康づくりと企業の生産性向上に貢献できるでしょう。
参考:働く女性の心とからだの応援サイト「企業取組事例 ロート製薬株式会社」
血液内科の受診を推奨する
重度の貧血である従業員には、血液内科の受診を促しましょう。
遺伝的に鉄代謝がうまくいかない人もいるため、食事やサプリメントでは改善が難しいケースがあります。そのような場合、鉄分の味覚に違和感があったり、サプリメントを飲むと気持ち悪くなるなど、不安を感じる人もいます。
さらに、食事やサプリメントによる鉄分の補充は緩やかです。体内にある鉄の量をより速く増やすためには、現在は点滴による鉄剤投与しか方法はありません。点滴は医師の観察が必要になるため、ひどい貧血症状に悩む従業員には、病院の受診をすすめましょう。
まとめ:隠れ貧血を発見して組織で対策しよう

隠れ貧血は社員の集中力や生産性を低下させ、企業に悪影響を及ぼす可能性があります。具体的には、集中力や生産性の低下、社員の欠勤などが挙げられます。
食生活セミナーや健康診断の充実、社食の改善などを組織的に行うことで、社員の健康を守れる環境を実現することが可能です。
社員一人ひとりの健康は、企業の成長の基盤です。隠れ貧血の対策に取り組んで、活力ある企業づくりを進めていきましょう。
メタディスクリプション
近年注目されている隠れ貧血について、定義や貧血との医療上の違いを具体的に解説した記事です。集中力低下や意欲の減退など、隠れ貧血が企業の生産性に与える影響や組織の対策についても具体的に紹介しています。
SUGARでは毎週水曜日に産業保健や健康的経営に関する記事を公開しております。
こちらのメルマガで記事等の公開情報をお送りしますので、是非ともご登録ください。