高血圧で就業制限?企業が知っておくべき対応や安全配慮義務を解説!

近年、高血圧の人が増えていますが、その中で血圧を適切にコントロールできている人はわずかです。労働者が健康診断で重度の高血圧と判定された場合、就業を制限されることがあります。
企業はそのような労働者に対して、医師の指導のもと適切な措置を取らなければいけません。さらには労働者の生命、身体などの安全を確保する名目で、高血圧の予防治療などの機会提供が義務付けられています。(労働契約法第5条)。
この記事では、高血圧の労働者に就業制限が出る理由や、企業にはどのような対応が求められるかについて解説していきます。
参考:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」(PDF)
参考:労働安全衛生法「(健康診断実施後の措置)第六十六条の五」
なぜ高血圧の労働者に就業制限の指示がでるの?
なぜ重度の高血圧があると仕事を制限する必要があるのでしょうか。仕事と血圧の関連について解説します。
仕事と血圧の関連
高血圧は脳卒中や心臓病の最大のリスク因子です。仕事中は疲労や身体的・精神的ストレスなどの影響で血圧は変動します。
そして、長時間労働などの負荷がかかり高血圧の状態が継続すると、脳・心臓疾患のリスクが増大します。そして最悪の場合、過労死に至ることが知られています。
また、高血圧によるふらつき、めまいなどの症状が高所作業や運転業務中に生じた際は、大事故につながりかねません。
そのため、重度の高血圧がある労働者には、業務の負担を軽減したり、特定の業務から一時的に離れてもらう必要があります。
参考:労働安全衛生総合研究所「長時間労働時の血圧反応について」
高血圧に関連する就業制限:企業の対応を4つのケースで解説
労働者の高血圧について、4つの就業制限のケースに沿って企業が対応すべきことを解説していきます。
ケース①仕事により高血圧が悪化するリスクがある場合の就業制限
長時間労働や深夜業務などの過剰なストレスは血圧に悪影響を及ぼします。
また、重量物を扱う仕事については、重いものを持つと血圧が急激に上昇するため、次のような就業制限を設定することがあります。
- ハイリスクの高血圧未治療の労働者:深夜業・長時間労働を制限
- 血圧コントロール不良の労働者:重量物の運搬を制限
ケース①における企業の対応
労働者本人の就業状況や業務内容と通院・治療状況を確認し、医師の指示のもと総合的に制限内容を判断する場合があります。
以下の表は、血圧に悪影響を及ぼす可能性のある要因と、代表的な就業措置の対応をまとめたものです。
高血圧を悪化させうる要因 | 安全配慮義務(就業措置) |
長時間労働 | 時間外労働の制限・禁止 |
交代勤務(特に深夜業務) | 日勤や昼間勤務のみへの変更休憩時間やタイミングへの配慮 |
重量物取扱い業務 | 重量物の取扱い制限・禁止 |
出張業務 | 出張制限・禁止 |
精神的緊張を伴う業務 | ノルマや納期期限のある業務の制限・禁止管理監督義務を要する業務の制限・禁止集中力を伴う業務の制限・禁止 |
なお、過重労働による脳・心臓疾患の発症は労災対象になる可能性があります。
厚生労働省では、発症前1〜6カ月にわたって、1カ月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が認められる場合、時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると公表しています。
そのため、企業は毎月、適切な勤務管理と業務調整を行うこと、衛生委員会などで随時報告しつつ、産業医などと時間外勤務削減に向けた課題解決を図ることが肝心です。
参考:厚生労働省「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(PDF)
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ケース②事故・災害リスクがある場合の就業制限
高血圧によるふらつき、めまいの症状、脳・心臓疾患の発症が運転中・高所作業中に生じた場合、交通事故や高所からの落下などの事故につながる恐れがあるため業務制限がかかることがあります。
具体例としては、未治療のハイリスク高血圧の労働者に対して、運転業務・高所作業を禁止するケースがあります。
ケース➁における企業の対応
労働者の高血圧のレベル、治療状況を確認しましょう。
症状、重大疾患の発症のリスクと運転業務や高所作業などの可否について産業医や主治医に確認し、具体的な指示の必要性についてもチェックしましょう。
事故を未然に防ぐため、体調不良になった場合は業務を中止するなど適切な判断ができるように労働者に周知することも大事です。また、体調不良をすぐに申告できるような職場づくりに努めましょう。
ケース③受診勧奨・保健指導のための配慮
交代勤務や残業などにより、受診ができず高血圧を放置する労働者もいます。
しかし、高血圧を長期に放置すると、動脈硬化が起こり、やがて脳・心臓疾患を引き起こします。よって、適切な時期に受診や治療が開始できるよう促すために就業を制限する場合があります。
たとえば、SUGARでは、重度の高血圧を放置している労働者に対して、次のような就業措置を講じています。
- 精査加療するまで時間外勤務20時間/未満
- 即行動するまで交代勤務(夜勤)禁止
ケース③における企業の対応
早期に受診ができるよう職場に協力を得る必要があります。本人の意思を確認のうえ、管理監督者へ受診の必要性を説明して調整を図りましょう。
もし、受診に応じない労働者がいた場合、法律的に明文化されていませんが、労働者には企業に対して業務を遂行するにあたって自己の心身の健康を管理する自己保健義務があります。したがって、受診勧奨などに対応する必要があることを説明しましょう。
また、高血圧の治療には食生活や運動習慣などの生活習慣の改善が重要です。社内外の医療スタッフと連携して保健指導の機会を提供することで、ハイリスク者の改善が期待できます。
ケース④企業・職場への注意喚起としての就業制限
非常に稀ですが、職場全体で高血圧悪化のリスクが高まっている際に職場単位で就業制限を指示することがあります。
たとえば、長時間残業が頻発している職場で、ハイリスクの高血圧がある労働者に一律長時間残業を禁止します。
ケース③における企業の対応
このケースは企業や職場への注意喚起を意味するため、速やかに職場全体で労働環境の改善に取り組む必要があります。
職場全体が対象であるため、業務への影響を考慮しつつ、産業医と労働環境による血圧への影響、また措置内容について十分に話し合いましょう。
参考:産業医科大学「事業者が労働者の健康状態に基づく就業措置を適正に行うための手引き」(PDF)
就業制限が必要な血圧の基準は?
血圧の数値において、就業制限の基準となるガイドラインはありません。
企業が産業医に意見を聴き、労働者の体調や通院状況、業務内容を踏まえて判断を行うことが望ましいです。
健診医学判定例
SUGARでは、高血圧治療ガイドラインを参考に、以下のように健診判定を実施しています。
血圧分類 | 収縮期血圧 (mmHg) | 拡張期血圧 (mmHg) | 検診判定 | 就業措置 |
I度 | 140〜159 | 90〜99 | 要指導 | なし |
II度 | 160〜179 | 100〜109 | 要受診 | 原則なし(※) |
III度 | ≧180 | ≧110 | 要治療 | 精査加療するまで時間外勤務20時間/月以内 |
(※)II度高血圧では、次回の検診でも改善されていない際、就業措置を交付する場合があります。
実際には、高血圧以外の生活習慣病などのリスク因子と複合的に判断する必要があります。
しかし、少なくとも未受診のⅢ度高血圧は症状や就業状況を確認して産業医の指示のもと受診を促進しましょう。
Ⅰ、Ⅱ度高血圧であっても、糖尿病などの合併症がある場合や業務負荷が高い場合は就業制限を考慮する必要があります。
まとめ:高血圧で就業制限を受けたら、速やかに医師へ相談しましょう
高血圧の労働者が就業制限を受けたら、通院・治療状況や業務内容を確認の上、医師に具体的な指示をもらいましょう。
過度な制限対応は労働者の不利益となることもあるため、本人と十分に話し合うことも重要です。また、措置後は一定期間ごとに再評価を行ってください。
長時間労働は高血圧や脳・心臓疾患の大きなリスク要因です。企業は日ごろから残業が習慣化している職場がないかチェックすることが重要です。
長時間労働の是正は労働者の健康を守るだけでなく、生産性向上・企業の業績アップにもつながります。健康でいきいきした職場づくりを目指しましょう。
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