過敏性腸症候群とセロトニンの関係は?原因や職場での関わり方を解説
試験や会議の前に緊張して突然お腹が痛くなる経験は、多くの人が持つものです。しかし、日常的に下痢や腹痛に悩まされている場合、過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome:IBS)の可能性があります。
IBSの原因には、ストレスによるセロトニンの過剰分泌が関わっているといわれています。本記事では、IBSの原因とその治療法、職場での対応方法について詳しく解説します。
過敏性腸症候群(IBS)とは
過敏性腸症候群(IBS)は、機能性消化管障害のひとつであり、腹痛や便通異常が慢性的に続く疾患です。
腸の機能に異常が生じることが特徴で、以下の4つのタイプがあります。
- 便秘型:コロコロとした硬い便が見られる
- 下痢型:突然の腹痛を伴い、水様便が続く
- 混合型:便秘と下痢が交互に現れる
- 分類不能型:明確なタイプに分類できない症状
これらのタイプは、腸の運動異常、内臓知覚過敏、そして脳機能の異常が複雑に絡み合って発症します。また、精神的な不安や緊張、抑うつといった精神症状が併発することも多いです。日本では約13%の人が患っており、決して珍しい病気ではありません。
- 3カ月以上、下痢や便秘が続いている
- 緊張すると、おならが出る
- 通勤通学でトイレに駆け込むことが多い
- お腹がゴロゴロ鳴る
上記に当てはまるものが多い場合は、過敏性腸症候群の可能性があります。大腸がんや潰瘍性大腸炎の症状とも似ているため、場合によっては大腸カメラで精密検査をする必要があります。
参考:厚生労働省「スイッチOTC医薬品の候補となる成分についての要望に対する見解」(PDF)
過敏性腸症候群の原因
過敏性腸症候群の原因は完全には解明されていませんが、セロトニンが関与しているといわれています。不安や恐怖などの制御に関連するセロトニンが不足すると、うつ病のリスクが高くなると知られていますが、実はセロトニンを産生する細胞の約9割は腸に存在しています。
ストレスや緊張が高まると、脳腸相関という体の関係により、脳が認識したストレスから腸内でセロトニンが過剰に分泌され、腸管の異常な蠕動(ぜんどう)運動を引き起こし、腹痛や下痢などの症状を誘発します。
過敏性腸症候群では、腸内のセロトニン受容体の異常やセロトニンに対する腸内細菌叢(そう)(腸内フローラ)の過敏反応から腹部症状が生じるため、セロトニンに関連する要素を整えることが不可欠です。
参考:心身健康科学「こころとからだの免疫学」(PDF)
過敏性腸症候群の治療
過敏性腸症候群(IBS)の治療は、主に以下の4つがあります。
- 食事療法
- 運動療法
- 薬物療法
- 心理療法
これらを組み合わせて生活習慣の改善やストレス管理を行うことで、症状を和らげます。
食事療法
過敏性腸症候群の症状を緩和させるためには、刺激の少ない食事を撮ることが一つ方法です。脂肪分の多い食品や辛い食べ物は腸を刺激して、症状を悪化させる場合があるからです。
そのため、できるだけ消化に良い食材を選び、夜間は腸を休ませるために暴飲暴食を控えましょう。
食物繊維を含む食品(カボチャや豆類、ごぼうなど)を積極的に取ることで腸内環境を整えるなども効果的です。また、乳糖不耐症(※)の場合には、牛乳や乳製品を摂取しないことも効果的です。
※先天的あるいは後天的に牛乳に含まれる乳糖の分解機能が弱く、下痢や腹痛などの症状が表れる体質のこと
運動療法
適度な運動は、腸の蠕動運動を促進し、便通を整えるだけでなく、ストレスの軽減にも良い効果があります。ウォーキングやヨガなどの軽い有酸素運動が有効です。
ただし、食後すぐの運動は避け、2~3時間後に行うことが望ましいです。運動を習慣にすることが、過敏性腸症候群の症状を緩和するために大切です。
薬物療法
過敏性腸症候群では、タイプに合わせて以下の治療薬が処方されます。
- セロトニン受容体拮抗薬:下痢や腹部不快感を解消
- 抗コリン薬:腸管の過剰な運動を抑制
- 便秘治療薬:便通を促進して腸の動きを正常化
- 高分子重合体:水溶性下痢や硬い便の性状を調整
- 乳酸菌:腸内環境の改善
症状やタイプに合わせて組み合わせて服用しますが、それぞれに副作用もあるので注意が必要です。わからないことがある場合には、医師や薬剤師に確認してみてください。
心理療法
パニック障害やうつ病を併発している場合や、日常生活に支障が出るほどの痛みがある場合、心理療法はとくに有効です。
認知行動療法(Cognitive Behavoral Therapy:CBT)は、ストレスや不安を軽減し、症状を和らげる効果が期待されます。また、催眠療法も過敏性腸症候群の治療に効果的な方法の一つです。
これらの心理療法を通じて、自分の症状と向き合い、適切な対処法を学ぶことが可能です。場合によっては、症状に応じて薬物療法の必要性などから精神科や心療内科への障害がある場合もあります。
会社が過敏性腸症候群の社員に対応するための4つのコツ
過敏性腸症候群(IBS)の社員がいる場合、企業は次のような適切な対応が求められます。
- 定期的にストレスチェックを実施する
- 業務量の見直しや環境整備を行う
- 部署異動・在宅勤務を検討する
- 産業医と連携して治療を促す
これら4つの対策について詳しく解説します。
定期的にストレスチェックを実施する
過敏性腸症候群の社員に対して、定期的なストレスチェックを実施することは非常に重要です。ストレスは症状を悪化させる大きな要因であり、早期に発見することで、適切な対策が可能です。
とくに、昇進や異動などのライフイベントに伴うストレスは、消化器症状を引き起こしやすいため、注意が必要です。
定期的なストレスチェックを実施することで、異常の早期発見と適切なサポートが可能になり、社員の健康維持と業務効率向上につながります。
また、ストレスチェックの結果、高ストレスと判断された場合、従業員に面接指導を受けてもらうことが可能です。
面接指導の結果、産業医から管理職へ適切な職場環境や労働条件の配慮についての意見が伝えられ、職場環境の見直しや部署異動などの具体策を検討してもらうきっかけになります。
関連記事:環境の変化によるストレス|新生活への適応を促す企業の取り組みとは
業務量の見直しや環境整備を行う
過敏性腸症候群の社員が健康的に働けるようにするためには、業務量の適切な調整と職場環境の整備が不可欠です。過度なタスクや長時間の残業は症状を悪化させる要因となるため、社員一人ひとりの業務負担を見直すことが重要です。
具体的には、トイレに行きやすいデスク配置や適切な休憩時間の確保などが挙げられます。勤務時間中のストレス対策を実施することで、結果的に業務効率が向上するといった効果も期待できます。
部署異動・在宅勤務を検討する
部署異動や在宅勤務の検討は、過敏性腸症候群を患う社員の健康管理に効果が期待できます。
現状の働き方では、十分な睡眠や規則正しい生活リズムを守ることが難しく、症状が改善しないケースが少なくありません。
とくに、通勤や職場でのストレスが症状を悪化させることがあるため、在宅勤務の導入は大きな助けとなります。また、仕事の内容や職場の人間関係がストレスの原因である場合、部署異動が有効な対策となります。
柔軟な働き方を提案することで、社員のストレスを軽減できます。
産業医と連携して治療を促す
産業医との連携は、過敏性腸症候群の社員が安心して働く上で重要です。
医療機関への受診を促すことで適切な薬物療法や心理療法といった治療につながり、その結果、セロトニンのバランスが整い、腹部の症状の緩和が可能です。
ただし、過敏性腸症候群の症状は大腸がんや潰瘍性大腸炎と似ていることがあるため、正確に診断しなければなりません。企業としては、管理職が直接社員に受診を促すのではなく、産業医や医療従事者と連携した方がトラブルを未然に防げるでしょう。
まとめ:過敏性腸症候群を理解し、ストレスを減らす環境づくりを
過敏性腸症候群は、機能性消化管障害のひとつであり、過剰に分泌されるセロトニンが原因で、下痢や腹痛が繰り返し起こる病気です。
治療には、薬物治療だけでなく、生活習慣の改善や心理面でのサポートも有効とされています。
過敏性腸症候群の社員が安心して働き続けるためには、ストレスチェックの実施や業務量の適正化、産業医との連携が必要です。症状の理解を深めて、働きやすい職場環境を整えましょう。
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