産業医面談の守秘義務は絶対?会社への報告内容と例外、注意点を解説

この記事のポイント

  1. 産業医には刑法や労働安全衛生法で厳格な「守秘義務」が課せられており、違反すると罰則があります。
  2. 会社へは、従業員の健康を守るために必要な「就業上の措置」に関する意見のみが、本人の同意を得て報告されます。
  3. 診断名や相談の具体的な内容といった、プライバシー性の高い情報が同意なく共有されることは絶対にありません。

導入

「産業医面談で本音を話したいけれど、内容が会社に伝わらないか心配」

とくにメンタルヘルスの悩みなど、デリケートな問題であるほど、このような不安を感じるのは当然のことです。

結論として、産業医面談で話した内容が、本人の同意なく会社に伝わることは法律で固く禁じられています。

産業医は、従業員の皆さんが安心して相談できる場所を提供するため、非常に重い「守秘義務」を負っています。

この記事では、守秘義務の具体的な内容と法的根拠、そしてどのような情報が、どのような形で会社に共有されるのかを詳しく解説します。

▼ そもそも産業医面談の全体像を知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。

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産業医に課せられる二重の守秘義務

産業医の守秘義務を定める刑法と労働安全衛生法

「会社の人間なのに、本当に労働者の味方なの?」と疑問に思う人もいるかもしれません。

産業医は、事業者と労働者のどちらか一方の味方をするのではなく、基本的には「中立的な立場」で労働者の健康と安全を守る役割を担っています。産業医の独立性と中立性が、法律で定められた重い守秘義務を遵守する上での大前提です。

産業医には、刑法と労働安全衛生法の両方で、職務上知り得た秘密を守る「守秘義務」が厳格に定められています。

  • 刑法第134条(秘密漏示罪): 医師や弁護士などが、正当な理由なく職務上知り得た人の秘密を漏らした場合に処罰されることを定めています。
  • 労働安全衛生法第105条:産業医を含む健康診断等の担当者が、職務上知り得た労働者の秘密を漏らしてはならないと、特に定めています。

産業医に課せられた守秘義務は単なる倫理規定ではなく、違反した場合には法的な罰則を伴う重いものであり、安心して相談できる環境の根幹をなすものです。

参考:e-Gov法令検索「刑法」

参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」

参考:一般社団法人日本産業保健法学会「産業保健職の現場課題 Q4」

産業医の基本的な役割や仕事内容について詳しく知りたい場合は、次の記事も参考にしてみてください。

▼あわせて読みたい

会社には何が報告される?「意見書」の役割

産業医面談の情報がフィルタリングされ、必要な情報のみが会社に報告されるプロセス

産業医から会社へは、面談で話された詳細な内容ではなく、従業員の健康を守るために必要な「就業上の措置」に関する意見だけが報告されます。

情報共有は「意見書」という形式で行われ、不必要に診断名やプライベートな情報が本人の同意なく記載されることは決してありません。

参考:厚生労働省「事業場における労働者の健康情報等の取扱規程を策定するための手引き」

会社への報告内容
会社への報告 具体例
報告される内容
  • 通常勤務の可否
  • 時間外労働の制限の必要性
  • 業務内容の変更の要否
  • 休業の必要性 など
報告されない内容
  • 具体的な診断名
  • 相談の詳細な内容
  • プライベートな情報 など

※ただし、従業員の安全配慮に不可欠であると産業医が判断し、かつ情報共有の方法や範囲について本人の明確な同意が得られた場合に限り、例外的に診断名などを伝えるケースもあります。

報告される内容:就業上の措置に関する意見

意見書に書かれるのは、あくまで「従業員の健康を確保するための、就業上の配慮に関する医学的意見」です。

これにより、会社は従業員のプライバシーを守りながら、必要なサポートを行うことが可能となります。

報告される内容の例

  • 通常勤務可:通常通り勤務を継続して問題ありません
  • 就業制限:当面の間、月20時間を超える時間外労働は制限することが望ましいです
  • 作業転換:業務内容を一時的に軽微なものに変更することが望ましいです
  • 要休業:療養に専念するため、一定期間の休業が必要です

報告されない内容:プライバシーに関わる詳細情報

一方で、以下のようなプライバシー性の高い情報が本人の明確な同意なく、不必要に意見書に記載されることは絶対にありません。

報告されない内容の例

  • 診断名:うつ病、適応障害といった具体的な病名
  • 相談の具体的な内容:上司との人間関係の悩み など
  • プライベートな情報:家庭内の問題 など

そもそも産業医面談で何を話せばよいかわからない場合は、以下の記事も参考にしてみてください。

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情報共有の原則は「本人の同意」

最も重要なのは、いかなる情報共有も本人の同意に基づいて行われることです。

通常、産業医は意見書の内容を本人に説明し、「このような内容で会社に報告してもよろしいですか?」などと同意を確認します。意見書を提出する前に確認することで、従業員が知らないうちに情報が伝わることを防ぎます。

なお、後々のトラブルを防ぎ、本人の意思を明確にするため、厚生労働省の指針では同意を書面で取得することが望ましいとされています。

一度同意した場合でも、後からその同意を撤回することも可能です。意見書の内容を変更してほしい場合は、速やかに産業医に申し出てください。

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例外はある?守秘義務の限界

守秘義務の例外となる、生命に関わる緊急事態

守秘義務は極めて重要ですが、絶対的なものではありません。

具体的には、従業員本人や第三者の生命・身体に明白かつ差し迫った危険があると産業医が判断した場合、守秘義務が解除されることがあります。

たとえば、自傷・他害のおそれが非常に高い場合です。人命を優先するために守秘義務が解除され、必要最小限の情報が警察や医療機関などの関係者に共有されることがあります。

極めて例外的なケースですが、産業医は高度な倫理観に基づき慎重に判断します。

参考:日本医師会「医師の職業倫理指針第3版 」

参考:e-Gov法令検索「刑法」

会社(人事・上司)にも課せられる情報管理の義務

会社に課せられる情報管理の義務のイラスト

産業医の守秘義務は非常に厳格ですが、それだけでは十分ではありません。

産業医から「就業上の措置に関する意見」を受け取った会社側、つまり人事担当者や直属の上司にも、情報を適切に管理する義務があります。

従業員の健康情報は、個人情報保護法で特に配慮が必要な「要配慮個人情報」と定められています。

会社は労働契約法上の「安全配慮義務」に基づき、従業員の健康情報を必要最小限の範囲で共有し、漏洩を防ぎます。健康情報を理由とした不利益な取り扱い(ハラスメントや不当な評価など)が行われないよう管理する義務がありますので、扱いには注意しましょう。

万が一、会社が情報を不適切に扱った場合は、法的な問題に発展する可能性があります。

参考:e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」

参考:e-Gov法令検索「労働契約法」

まとめ:産業医は信頼できる健康パートナー

産業医面談は、厳格な守秘義務によってプライバシーが守られた「安全な場所」です。面談で話した内容が、同意なく上司や人事に伝わることはありません。

産業医は、従業員の健康を守ることを第一に考える、中立的で信頼できる専門家です。どうぞ安心して、ご自身の心身の悩みや不安を相談してみてください。

合同会社SUGARは、オンラインでの産業医面談など、従業員が安心して話せる環境を提供しています。私たちが大切にしているのは、従業員の皆様との信頼関係です。産業医面談に関するご不安や、企業の体制構築に関するご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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  1. 産業医は会社の人間なのに、本当に秘密を守ってくれるのですか?

    はい、必ず守ります。産業医は会社の従業員である場合もありますが、それ以前に医師であり、法律(刑法、労働安全衛生法)によって厳格な守秘義務が課せられています。この義務は、会社の指示よりも優先されます。もし秘密を漏らせば、産業医は法的に罰せられます。

  2. うつ病などの診断名を、会社に知られたくありません。

    ご安心ください。具体的な診断名のようなプライバシー性の高い医療情報が、ご本人の明確な同意なく産業医から会社に伝えられることは絶対にありません。会社には、診断名ではなく「療養のため休業が必要」といった、業務上の配慮に必要な情報だけが伝えられます。

  3. 会社に報告する内容について、事前に確認できますか?

    はい、できます。多くの誠実な産業医は、会社へ意見書を提出する前に、その内容をご本人に開示し「この内容で報告して良いか」という同意を得るプロセスを踏んでいます。もし産業医から説明がない場合は、ご自身から「会社にはどのように報告されますか?」と質問することをお勧めします。

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