管理職が行うメンタルヘルス対策「ラインケア」とは?実践方法を紹介

部下を適切に導く管理職のラインケアのイメージ

「最近、〇〇さんの様子がおかしい気がする…」
「部下のパフォーマンスが明らかに落ちているが、どう声をかければいいのだろう?」
「相談に乗ってあげたいけれど、どこまで踏み込んでいいのか、ハラスメントと言われないか不安だ…」

チームを率いる管理職として、このような悩みを一人で抱えていませんか。部下のメンタルヘルスの問題は、今やどの職場でも起こりうるデリケートな課題です。

部下の不調に気づき、適切に対応する「ラインケア」は、管理職に求められるマネジメントスキルの一つです。しかし、良かれと思ってかけた言葉が逆効果になったり、対応を誤って事態を悪化させてしまったりするケースもあります。

この記事では、管理職の皆様が自信を持ってラインケアを実践できるよう、部下の不調サインの見抜き方から、具体的な声かけの方法、相談を受けた後の対応フローまで、網羅的に解説します。

この記事を読めば、部下との信頼関係を損なうことなく、個人とチーム双方を守るための適切な行動が取れるようになります。部下との信頼関係を構築しながら職場のメンタル不調を予防するためのヒントとして、ぜひ参考にしてみてください。

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目次

ラインケアとは?管理職に求められる役割と心構え

チームの安全な航行を担う管理職の役割

ラインケアとは、管理職が職場のライン(指揮命令系統)を通じて、部下の心の健康をケアし、働きやすい職場環境を整える取り組みのことです。管理職は、チームという船の安全な航行を担う船長のような存在といえるでしょう。

心構えのポイント

心構えのポイント

心構えのポイント 概要
重要性の理解 ラインケアはメンタルヘルス対策の最前線であり、管理職の重要な責務である。
役割の認識 4つのケアにおける「橋渡し役」としての役割を理解する。
境界線の理解 「専門家」になろうとせず、一人で抱え込まないことが重要。

なぜ今、管理職にラインケアが重要なのか

部下の様子を日常的によく観察できる立場にいるのは、直属の上司である管理職です。そのため、部下の「いつもと違う」というささいな変化に早く気づきやすい存在といえます。

メンタル不調は、対応が早ければ早いほど、深刻化を防ぎ、早期回復につながります。管理職によるラインケアは、不調の発生を未然に防ぐとともに、万が一発生した場合でも被害を最小限に食い止めるための「要」となるのです。

4つのケアにおけるラインケアの位置づけ

厚生労働省が示す「4つのケア」において、ラインケアは、従業員自身の「セルフケア」と、産業医など専門家による「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」とをつなぐ、非常に重要な役割を担っています。

管理職は、部下のセルフケアを促し、必要であれば専門家へと適切につなぐ「橋渡し役」でもあるのです。

参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(PDF)

管理職がすべきこと、すべきでないことの境界線

ラインケアで最も重要なのは、管理職が「専門家」になろうとしないことです。メンタルヘルス不調かどうかを判断したり治そうとしたりするのではなく、適切な支援への橋渡しが主な役割です。

  • すべきこと
    • 部下の変化に気づく
    • プライバシーに配慮して話を聴く
    • 安全や健康に配慮する(業務調整など)
    • 専門家への相談を促す
    • 職場環境の改善に努める
  • すべきでないこと
    • 不調の原因を詮索・憶測する
    • 安易に励ます(例:「頑張れ」)
    • 専門家のように診断や判断を下す
    • 本人の同意なく秘密を漏らす

ラインケアにおける管理職としての役割を理解し、関係各所と連携することが大切です。

部下のメンタル不調を示す5つのサイン【早期発見のコツ】

部下の変化というサインを注意深く観察する管理職

部下のメンタル不調は、具体的な「変化」として現れます。普段の部下の様子を基準に、「いつもと違う」という点に注意を払うことが、早期発見の最大のコツです。

以下の具体的な5つのサインについて解説します。

不調のサインの具体例

不調のサインの具体例

サインの分類 具体的な変化の例
勤怠の変化 遅刻、早退、欠勤の増加。特に休日明けの不調。
業務上の変化 ケアレスミス、残業の急増、報告・連絡・相談の減少。
態度の変化 無口になる、または逆にイライラする。孤立。
身体的な変化 表情が暗い、顔色が悪い、急な体重の増減、身だしなみの乱れ。
普段との比較 「あの人らしくない」という直感が重要なサイン。

参考:厚生労働省こころの耳「15分でわかるラインによるケア e-ラーニング」(PDF)

①勤怠の変化:遅刻・早退・欠勤の増加

理由の曖昧な遅刻や早退、突然の欠勤が増えるのは、心身のエネルギーが低下しているサインかもしれません。

以前は休まなかった人が頻繁に休むようになったり、特に休日明けの月曜日に休むことが多くなったりした場合は注意が必要です。

②業務上の変化:ミス・残業・集中力の低下

集中力や判断力の低下から、単純なミスや普段ならしないようなミスを繰り返すことがあります。

また、仕事のペースが落ちて残業が急に増えたり、会議中に上の空であったりすることも、注意すべきポイントです。

③態度の変化:無口になる・イライラ・孤立

以前より口数が減って周囲とのコミュニケーションが少なくなったり、些細なことでイライラして同僚に攻撃的になったりすることがあります。

一人でいることが増え、職場で孤立しているように見える場合も、重要なサインです。

④身体的な変化:表情が暗い・体重の増減

心の不調は、身体にも現れます。

表情が硬く笑顔がなくなる、目の下にクマがある、顔色が悪いなどの外見の変化は、客観的に気づきやすいサインです。急な体重の増減や、身だしなみの乱れも注意点です。

⑤普段との「違い」に気づくことが第一歩

部下の変化に気づくためには、日頃から関心を持ち、普段の状態を把握しておくことが大切です。

「いつもよりも元気がないな」「挨拶が減ったな」などのサインは、元気な状態を理解してこそ把握できます。

日頃から部下とコミュニケーションをとり、人となりや性格を把握しておくとよいでしょう。

リモートワーク環境下で特に注意したいサイン

パソコン越しに疲弊してる社員のイラスト

リモートワークが中心の職場では、部下の表情や身だしなみといった物理的な変化に気づく機会が減少します。

そのため、オンライン上での行動やコミュニケーションの変化をより注意深く観察することが重要です。

  • コミュニケーションの変化
    • チャットツールでの返信が極端に遅くなる
    • 文章が以前より短く素っ気なくなる
    • これまで参加していた雑談チャンネルなどでの発言がなくなる
    • オンライン会議で理由なくカメラをオフにすることが増えたり、発言が減る
  • 勤怠・業務の変化
    • 始業・終業の連絡や勤怠打刻の時間が不規則になる
    • チャットツールのステータスが、業務時間中に頻繁に「退席中」になる
    • 共有されているタスクの進捗がわかりにくくなる
    • 成果物の提出が遅れがちになる

在宅勤務などでのオンライン上で「いつもと違う」サインは、対面時と同様に重要な不調の兆候です。

日頃からテキストやオンライン会議でのコミュニケーションを丁寧に行い、普段の様子を把握しておくことが早期発見につながります。

参考:厚生労働省「テレワークにおけるメンタルヘルス対策のための手引き」(PDF)

【実践】部下への声かけと傾聴の技術【NG言動も解説】

傾聴を通じて部下との信頼関係を築く管理職

部下の変化に気づいたら、次は適切な声かけと傾聴が重要になります。信頼関係を損なわず、ハラスメントを避けるためのポイントを学びましょう。

実践のポイント

実践のポイント

実践のポイント 概要
タイミングと場所 プライバシーが守られ、相手が落ち着いて話せる環境を選ぶ。
声かけフレーズ 「I(アイ)メッセージ」で、客観的な事実と心配する気持ちを伝える。
傾聴の技術 アドバイスより共感。相手の話を遮らず、気持ちを受け止める。
NG言動とリスク 安易な励ましや原因の詮索は避ける。パワハラのリスクを理解する。

声をかけるタイミングと場所の選び方

声かけは、他の従業員の目がないプライバシーが保たれる場所で行うのが鉄則です。会議室や面談室など、落ち着いて話せる環境を選びましょう。

タイミングとしては、1on1ミーティングの場や、業務が一段落した時間などが適しています。相手の都合を尊重し、「少し時間いいかな?」と許可を得てから話しかけることが大切です。

具体的な声かけフレーズ例

ポイントは、主語を「You(あなた)」ではなく「I(私)」にし、客観的な事実と心配しているという気持ちをセットで伝えることです。

声かけのOK例とNG例

声かけのOK例とNG例

OK例 (Iメッセージ+事実+気遣い) NG例 (決めつけ・叱責)
「(私は) 最近、残業が続いているようだけど、体の調子はどう?」 「最近ミスが多いけど、たるんでるんじゃないか?」
「(私は) ○○さんが少し元気がないように見えて、少し心配なんだ。」 「なんでそんなに暗い顔をしてるんだ?」
「(私は) 何か手伝えることがあったら言ってほしいんだけど、どうかな?」 「もっと頑張らないとダメだぞ。」

「聴く」に徹する傾聴の3つのポイント

部下が話し始めたら、「話す」ことから「傾聴」を重視して関わることが大切です。

  1. 共感的な態度で聴く:相手の話を否定せず、「そうなんだね」「大変だったんだね」と相槌を打ちながら受け止める姿勢を示します。
  2. 安易に遮らない:相手が話している途中で、自分の意見を言ったり、話を遮ったりしないようにします。沈黙も相手が考えを整理している大切な時間です。
  3. 具体的なアドバイスより気持ちを受け止める:まずは、部下が話してくれた気持ちそのものを受け止めることが最優先です。「解決してあげよう」と焦る必要はありません。

絶対に避けるべきNG言動とハラスメントのリスク

良かれと思った言動でも、部下からはハラスメントと受け取られるケースがあります。

  • 根拠のない励まし:「頑張れ」「気の持ちようだ」
  • 原因の詮索:「何があったんだ?」としつこく聞く
  • 他の人と比較する:「〇〇さんはもっと大変でも頑張っている」
  • 安易な特別扱い:周囲に不公平感を与え、本人を孤立させる

以上のような言動は、パワーハラスメントと認定される可能性があります。

参考:あかるい職場応援団(厚生労働省)「パワーハラスメントの定義」

参考:あかるい職場応援団(厚生労働省)「2020年(令和2年)6月1日より、職場における ハラスメント防止対策が強化されます!」(PDF)

相談を受けた後の具体的な対応フローと連携体制

【alt】多職種連携によるメンタルヘルス支援体制

部下から相談を受けたら、管理職一人で抱え込まず、会社として組織的に対応することが重要です。

相談を受けた後に気をつけたい連携のためのポイントは以下のとおりです。

対応フロー

対応フロー

対応フロー ポイント
プライバシー保護 守秘義務の徹底が信頼の基盤。
情報共有 本人の同意を得て、人事や産業医と連携する。
専門家へつなぐ 適切な相談窓口へ橋渡しをすることが管理職の重要な役割。
復帰支援 休職から復帰まで、関係者と連携してサポートする。

プライバシー保護と守秘義務の徹底

相談内容は非常にデリケートな個人情報です。本人の同意なく、他の従業員に内容を漏らすことは絶対に避けなければなりません。

守秘義務を厳守することが部下との信頼関係の基本です。

人事労務部門や産業医への適切な情報共有

対応に困った場合や、専門的な判断が必要な場合は、人事労務部門や産業医に相談しましょう。

情報を共有する際は、必ず事前に部下本人から同意を得ることが必要です。

「専門家にも相談して、一緒に解決策を考えたいんだけど、人事(または産業医)に今の状況を伝えてもいいかな?」といった形で確認します。

専門家へ「つなぐ」ことの重要性

ラインケアにおける管理職の役割の一つが、不調を抱える部下を産業医やEAP、医療機関といった専門家へつなぐことです。

相談窓口の情報を提供し、本人がアクセスしやすいように支援しましょう。

休職から職場復帰までの支援プロセス

もし部下が休職することになった場合、休職中の定期的な連絡や復帰に向けたプラン作成(職場復帰支援プラン)など、管理職も重要な役割を担います。

人事や産業医と連携し、部下が安心して治療に専念し、スムーズに復帰できる環境を整えましょう。

参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

部下が相談しやすい風土と働きやすい職場環境づくり

心理的安全性が高く、風通しの良い職場環境

ラインケアは、不調者が発生してから対応するだけでなく「予防」も重要です。

日頃から風通しの良い職場環境を作ることが、最大のリスクマネジメントとなります。メンタル不調を予防する働きやすい職場づくりのポイントは以下のとおりです。

環境づくりのポイント

環境づくりのポイント

環境づくりのポイント 概要
心理的安全性 誰もが安心して意見を言える雰囲気づくり。
業務負荷の適正化 特定の個人への負荷の偏りをなくし、公平な評価をおこなう。
管理職自身のケア 部下を支えるために、まず管理職自身が健康であること。

心理的安全性を高めるコミュニケーション

「こんなことを言ったら評価が下がるかも」という不安がなく、安心して自分の意見を表明できる心理的安全性の高い職場を目指しましょう。

日頃からの雑談や、1on1ミーティングでの対話を大切にすることが第一歩です。

参考:医療の質・安全学会誌「組織の「心理的安全性」構築への道筋」

業務負荷の偏りをなくし、公平な評価をおこなう

特定の従業員に業務が偏っていないか、常に気を配りましょう。

業務の進捗状況をチーム全体で見える化し、必要に応じてサポートし合える体制を整えることが有効です。

定期的なミーティング(朝会や夕会)で業務の進捗を全員で共有しあう、上位者と定期的に相談の時間をつくっておくと自然と業務状況を共有できます。この定期打合せはオンラインとすることで、各自が無理なく参加することができます。

管理職自身のセルフケアも忘れずに

部下のケアに尽力するあまり、管理職自身の心が疲弊してしまうケースも少なくありません。

管理職も一人の従業員です。自分自身のストレスサインにも気を配り、適度に休息を取り、必要であれば上司や人事、産業医に相談することを忘れないでください。

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まとめ:適切なラインケアが部下とあなたのチーム、そして会社を守ります

ラインケアは、決して特別なスキルではありません。日頃から部下に関心を持って変化に気づき話を聴くなど、リーダーとしての真摯な姿勢が大切です。

また、メンタル不調に対する具体的な対応や判断は一人で抱え込まずに専門家につなぎましょう。

当社では、従業員向けのセルフケア研修や、管理職向けのラインケア研修、相談しやすい職場環境の構築支援など、企業のメンタルヘルス対策をトータルでサポートしています。課題に感じていることがございましたら、お気軽にお問い合わせください。

▼合わせて読みたい

  1. 部下に面談を拒否された場合、どうすればよいですか?

    無理強いは禁物です。まずは本人の意思を尊重し、「話したくなったら、いつでも声をかけてほしい」と伝え、扉を開いておく姿勢が重要です。その上で、心配な状況が続くようであれば、管理職一人で抱え込まず、人事労務部門や産業医に「部下の様子が心配だが、本人は対話を望んでいない」という客観的な事実を相談し、組織としてどう対応すべきか指示を仰ぎましょう。

  2. ラインケアは、自分の人事評価に影響しますか?

    適切なラインケアの実践は、現代の管理職に求められる重要なマネジメントスキルの一つです。部下の健康と安全に配慮し、チームの生産性を維持・向上させることは、多くの場合、ポジティブな評価につながります。逆に、部下の不調のサインを見て見ぬふりをしたり、不適切な対応で問題を悪化させたりすることは、リスク管理能力を問われる可能性があります。

  3. ラインケアは、自分の人事評価に影響しますか?

    適切なラインケアの実践は、現代の管理職に求められる重要なマネジメントスキルの一つです。部下の健康と安全に配慮し、チームの生産性を維持・向上させることは、多くの場合、ポジティブな評価につながります。逆に、部下の不調のサインを見て見ぬふりをしたり、不適切な対応で問題を悪化させたりすることは、リスク管理能力を問われる可能性があります。

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