職場で腰痛が頻発するのはなぜ?ガイドラインの解説と対策事例を紹介

日本人の約83%が腰痛を経験すると言われています。
職場での腰痛は作業効率の低下や休職につながり、会社全体の業務に支障をきたす可能性があります。
本記事では、職場での腰痛の原因と効果的な対策、厚生労働省の腰痛予防対策指針の解説、さらに腰痛対策の成功事例を紹介します。
参考:独立行政法人労働者健康福祉機構「職場における腰痛の発症要因の解明に係る研究・開発、普及」研究報告書(PDF)
職場で起こる腰痛の原因
職場で起こる腰痛の原因は、重量物を持ち運ぶことや長時間のデスクワークを続けること、さらにはストレスなどがあります。
それぞれの原因がどのように腰痛と関わるのかを把握し、腰痛予防対策に役立てましょう。
重量物取り扱い
荷物を持つのは腕だとしても、荷物の重さを支えているのは背骨です。
長時間、繰り返し重い物を持つ作業は、背骨と周辺組織にダメージを与えて腰痛リスクが高まると考えられます。
荷物を持つと背骨周辺の筋が強く収縮し、椎間板の圧縮力を高めます。さらに、背骨と背骨が前後にズレさせるせん断力が発生し、ダメージが大きくなると考えられます。
参考:Sato Haru Labo「持ち上げ動作時の腰椎の負担を推定する」(関西医科大リハビリテーション学部)
長時間のデスクワーク
そもそも座り姿勢は腰にかかる負担が大きく、背骨とその周辺組織にダメージを与えやすいです。
背骨は短い円柱状の骨が椎間板というクッションを挟みながら多数積み重なり構成されています。
座り姿勢は背骨間を圧縮させる力が高まり、腰痛の原因となります。姿勢によって負担の大きさは若干変化しますが、長時間座りっぱなしはよくないと考えた方がよいでしょう。
ストレス
心因的なストレスにより交感神経が優位になり、緊張が強くなりすぎることがあります。過剰な緊張は筋肉の収縮を起こし、筋や関節への負担を増大させるため痛みにつながります。
強すぎる収縮により筋をゆるめることができなくなると血流が悪化し、痛みをさらに増幅させてしまいます。
参考:久光 正「痛みのメカニズムとそのケア」(PDF)
厚生労働省の「職場における腰痛予防対策指針」の解説
職場での腰痛予防対策をスムーズに進めるためには、厚生労働省のガイドラインである「腰痛予防対策指針」を参考に進めるとよいでしょう。
作業管理や環境、健康管理などを上手にコントロールするために詳細にチェックすることがおすすめです。
作業管理
作業管理とは業務の作業のやり方自体を改善して腰痛予防につなげる取り組みです。
たとえば、今まで人力で行っていた荷物の搬出を台車を使って行ったり、ベルトコンベアを導入したりすることです。
マニュアルで1人で作業できる重量物を20kg以下に策定したり、省人化や機械化を進めたりすることで、腰部にかかる負担を減らすといった内容です。
作業環境管理
腰痛は作業環境によっても起こりやすさが変わります。
たとえば、不安定な床の上で荷物を運ぶと余計な力が必要になり腰への負担が増大したり、転倒して腰を打ったりする可能性が高まります。
腰痛予防指針の中では、温度管理・照明・床面・作業空間・振動対策について配慮するように示されています。
参考:厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署「職場での腰痛を予防しましょう!」(PDF)
健康管理
長時間の仕事によって疲労がたまっていたり、定期的な運動習慣がなく筋力が低いといった体の状態であったりすると腰痛になりやすくなります。
そのため、職場では従業員が適切な健康状態を保てるように定期的な健康診断を行ったり、体操を奨励して体力の改善を促したりして、良い健康状態を保つと腰痛予防に効果的です。
また、重量物を取り扱う職場で急性腰痛症や慢性腰痛症が集団的に発生していないか確認するため、健診機関で腰痛検診を実施することも一つの手段です。
労働衛生教育
労働衛生教育とは職場での腰痛予防を目的として、従業員に対して行う教育です。
たとえば、腰痛が発生しやすい姿勢と良い姿勢を教育し腰への負担を減らすことや、日常生活での健康管理について教育して腰痛を発生しにくくするといった対策です。
リスクアセスメント・労働安全衛生マネジメントシステム
厚生労働省は腰痛が発生するリスクを評価し、PDCAサイクルにより腰痛予防マネジメントを行うことを推奨しています。
大きな投資をして作業を効率化し環境を整えたところで、実際に腰痛が減少するかはやってみなければわかりません。
そのため、自社にあった取り組みをするために、何の作業でどの程度の腰痛が発生し、どのような対策をしたのか、その結果はどうだったのかを評価し続け、改善し続けていくことで腰痛発生率を下げるといった取り組みです。
【事例あり】職場で取り入れられる腰痛対策
自分の職場にあった腰痛対策を考える上で役に立つのがほかの職場での事例です。
予算などが限られた中で効果的な手段を打つためには、具体的な事例を参考にすると自社で取り入れる場合のアイデアが浮かびやすくなります。また、実績もあるため承認と予算を得やすいでしょう。
ここでは厚生労働省の中央労働災害防止協会がまとめた「腰痛を防ぐ職場の事例集」も用いて、どの職場でも導入しやすい対策を紹介します。
重量物運搬時にツール使用で腰痛8割減
運送作業に台車を使用することで、慢性的に腰痛を訴える職員が8割も減少した例があります。社会福祉法人土佐香美福祉会の特別養護老人ホームウエルプラザやまだ荘では、多量の洗濯物などの荷物をカゴに入れて職員自身が運んでいました。
しかし、洗濯物などだけでなくノートパソコンやタブレットなど軽い物でも、手で持たずにカートや台車で運ぶようにしたところ腰痛を訴える職員が8割も減少しました。
機械に多額の投資をせずとも、手で荷物を持たずに腰に負担をかけないことで腰痛の大きな減少につなげられました。
参考:厚生労働省 中央労働災害防止協会「腰痛を防ぐ職場の事例集」(PDF)
腰痛予防体操を導入
食料品スーパーを展開する株式会社ベルクのベスタ狭山店では、毎朝8時の店内放送で立ったまま複数の種目を組み合わせて行う「ベルク腰痛予防ストレッチ」を実施しています。
立ったまま行える腰痛予防ストレッチは、立ち仕事が続く職場において筋肉をリラックスさせて、腰痛予防リスクの低減につながると考えられます。
参考:厚生労働省 中央労働災害防止協会「腰痛を防ぐ職場の事例集」(PDF)
定期的に姿勢を変える
座位(座った姿勢)は腰に負担がかかるため長時間続けると腰への負担が高まり、腰痛になりやすくなります。
そのため、30分〜1時間に1回立ち上がったりストレッチをしたりして腰への負担を和らげ、筋肉をほぐす方法が効果的です。
立ち上がったりストレッチを行うことで筋肉がほぐされて、腰痛が起こりにくくなります。
まとめ:ガイドラインと事例を参考に効果的な対策を
職場における腰痛はさまざまな原因から起こりますが、実施作業の効率化や環境管理などを行うと発生率を低下させることができます。
実際に実行する上では従業員の協力や教育もとても重要です。
腰痛予防対策指針などを参考に、現実的に実行可能な腰痛予防対策を実施しましょう。