メンタルヘルスとは?企業の対策からセルフケアまでを徹底解説

多様な従業員の協力で成り立つ企業のメンタルヘルス対策のイメージ

近年、「メンタルヘルス」という言葉を耳にする機会が急激に増えました。しかし、その正確な意味や、なぜこれほどまでに重要視されているのか、そして個人や企業として具体的に何をすれば良いのか、全体像をつかみきれていない方は少なくないのではないでしょうか。

メンタルヘルスの不調は、誰にでも起こりうる身近な課題であり、個人の幸福はもちろん、企業全体の生産性や成長をも左右する重要な経営課題です。

この記事では、「メンタルヘルスとは何か?」という基本的な定義から、企業に求められる具体的な対策、そして私たち一人ひとりが実践できるセルフケアの方法まで、信頼できる情報に基づいて網羅的に解説します。この記事を読めば、メンタルヘルスに関する疑問を解消しつつ、自分自身と組織の「心の健康」を守り育てるための確かな一歩を踏み出すことができるでしょう。

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メンタルヘルスとは?その定義と「心の健康」の重要性

WHOが定義するメンタルヘルスの重要性

メンタルヘルス対策の第一歩は、その言葉の意味を正しく理解することから始まります。

メンタルヘルスは単に「精神的な病気でない状態」を指すのではありません。よりポジティブで充実した人生を送るための基盤となる広範な概念です。

WHOと厚生労働省による定義

メンタルヘルスは日本語で「心の健康」と訳されます。

メンタルヘルスの定義について、世界保健機関(WHO)は「個人が自身の可能性を認識し、日常のストレスに適切に対処し、生産的かつ有益な仕事を行い、さらには自身が属するコミュニティに積極的に貢献できる健康な状態」としています。

日本の厚生労働省も、メンタルヘルスを精神疾患や自殺の問題だけでなく、ストレスや強い悩み、不安など、私たちの心身の健康や生活の質に影響を与える可能性のある問題を幅広く含むものとしています。

つまり、メンタルヘルスが良好であるとは、落ち込んだり悩んだりすることがない状態ではなく、ストレスや課題にうまく対処し、自分らしく前向きに生きていける状態を指します。

参考:World Health Organization「Mental health」

参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

なぜ「心の健康」が身体の健康と同じくらい大切なのか

結論から言えば、心と体は切り離せない一体のものだからです。この密接な関係は「心身相関」と呼ばれています。

例えば、過度なストレスが続くと、自律神経やホルモンバランスが乱れ、頭痛や腹痛、不眠といった身体的な症状として現れることがあります。

逆に、体の不調が長引くことで、気分が落ち込んだり、不安になったりすることもあります。

WHOの定義では、「健康」とは身体的な側面だけでなく、精神的、社会的な側面も含めて、すべてが満たされた状態を指します。心の健康を大切にすることは、身体的な健康を維持し、ひいては人生全体の質を高めるために不可欠です。

参考:World Health Organization「Constitution of the World Health Organization」

メンタル不調がもたらすサインとは?

心の健康が損なわれ始めると、心、体、行動にさまざまなサインが現れます。

心身や行動のさまざまなサインに早期に気付き、適切に対処することがきわめて重要です。

  • 心のサイン
    • 気分の落ち込み、理由のない不安感
    • イライラしやすくなる
    • 集中力や判断力の低下
    • 何事にも興味が持てない
  • 体のサイン
    • 不眠、または寝すぎてしまう
    • 食欲不振、または過食
    • 原因不明の頭痛、肩こり、動悸、めまい
    • 常にだるい、疲労感が抜けない
  • 行動のサイン
    • 仕事でのケアレスミスが増加する
    • 遅刻や欠勤が増える
    • 飲酒や喫煙量の増加
    • 人との交流を避けるようになる

これらのサインは、心と体が発するSOSです。SOSのサインを見過ごさずに休息をとったり、誰かに相談したりすることが大切です。

なぜ今、メンタルヘルス対策が企業に求められるのか?

メンタルヘルス対策による企業価値向上のイメージ

かつて個人の問題とされがちだったメンタルヘルスは、今や企業が積極的に取り組むべき重要な経営課題として認識されています。

メンタルヘルス対策の実施は、企業にとって多くのメリットをもたらすだけでなく、法的な義務も存在するからです。

企業の5つのメリット:生産性向上からCSR達成まで

企業が従業員のメンタルヘルス対策に取り組むことには、次に挙げるような明確なメリット、つまり価値が生まれます。

  1. 生産性の向上: 従業員が心身ともに健康であれば、集中力や創造性が高まり、組織全体の生産性が向上します。特に、出勤していても不調でパフォーマンスが上がらない状態(プレゼンティーズム)の改善は欠勤よりも経済的損失が大きいともいわれ、大きな経営インパクトをもたらします。
  2. 人材の定着・離職率の低下: 働きやすい職場環境は、従業員のエンゲージメントを高め、優秀な人材の流出を防ぎます。採用や教育にかかるコストの削減にもつながる、重要な投資です。
  3. リスクマネジメント強化: 労災請求や訴訟などのトラブルを未然に防ぎ、企業のブランドイメージを守ります。これは、事業継続における重要なリスク管理の一環です。
  4. 職場環境の改善: コミュニケーションが活性化し、ハラスメントが減少するなど、風通しの良い職場風土が育まれます。
  5. 企業価値の向上: 「健康経営」に取り組む企業として社会的に評価され、投資家や顧客からの信頼獲得につながります。

参考:武藤 孝司, プレゼンティーイズム ―これまでの研究と今後の課題―, 産業医学レビュー, 2020-2021, 33 巻, 1 号, p. 25-, 公開日 2020/05/08

参考:鈴木 はる江, 感覚と情動から心身相関を考える, 心身健康科学, 2009, 5 巻, 1 号, p. 8-14, 公開日 2010/11/10

法的義務としての側面:安全配慮義務とストレスチェック

企業には、法律によって従業員のと体の安全を守る義務が課せられています。

関連法令の概要

関連法令の概要

法律名 概要
労働契約法
第5条
安全配慮義務:企業は、従業員の生命、身体などの安全を確保しつつ労働できるよう、必要な配慮をする義務があります。これには精神的な健康への配慮も明確に含まれます。
労働安全衛生法
第66条の10
ストレスチェック制度:常時50人以上の労働者を使用する事業場では、年に1回のストレスチェックの実施が義務付けられています。

これらの法律は、メンタルヘルス対策が単なる努力目標ではなく、企業が果たすべき責任であることを示しています。

参考:労働契約法 (e-Gov法令検索)「労働契約法第5条」

参考:東京都労働相談情報センター「ラインケア 使用者の安全配慮義務」

参考:労働安全衛生法 (e-Gov法令検索)「労働安全衛生法第66条の10」

経営戦略としての「健康経営」の考え方

「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的な視点で捉えて戦略的に実践することを指します。

健康経営の考え方の根幹にあるのは、従業員の健康は企業の収益性を高める「資本」と捉える考え方です。メンタルヘルス対策は、この健康経営の中核をなす重要な要素と言えます。

従業員一人ひとりが心身ともに健康でいきいきと働ける環境を整えることは、企業の持続的な成長を実現するための、未来への投資です。

参考:厚生労働省「健康経営の推進について」

企業が取り組むべきメンタルヘルス対策の全体像【4つのケア】

連携して機能するメンタルヘルス対策の4つのケア

厚生労働省は、効果的なメンタルヘルス対策を進めるための枠組みとして「4つのケア」を提唱しています。

4つのケアはどれか一つではなく、4つのケアが歯車のように連携して機能することで企業全体のメンタルヘルスが向上していきます。

メンタルヘルス対策における4つのケア

メンタルヘルス対策における4つのケア

ケアの種類 主な担い手 概要
セルフケア 従業員本人 自身のストレスや心の健康状態に気付き、対処する。
ラインによるケア 管理職 部下の異変に気付き、相談対応や職場環境の改善をおこなう。
事業場内産業保健スタッフ等によるケア 産業医・保健師・人事 専門的な立場から対策の企画・実行を支援する。
事業場外資源によるケア EAP機関・医療機関 社外の専門機関や専門家を活用し、支援を受ける。

参考:厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」

①セルフケア:従業員一人ひとりができること

セルフケアとは、従業員自身がストレスやメンタルヘルスについて正しく理解し、自らのストレスに気付き対処することです。

企業は、研修などを通じて従業員がセルフケアを適切におこなえるよう支援する役割を担います。ストレスチェックも、従業員が自身の状態に気付くための重要な機会です。

私たち一人ひとりが今日から始められる具体的なセルフケアの方法については、以下の記事で5つの簡単なテクニックを紹介しています。

▼合わせて読みたい(2025年7月12日公開予定)

「【実践】明日からできるメンタルヘルス改善!セルフケア5選」

②ラインケア:管理職の役割と部下への支援

ラインケアとは、部長や課長といった管理監督者が部下の異変にいち早く気付き、相談対応や職場環境の改善をおこなうことです。

日頃から部下とのコミュニケーションを密にし、相談しやすい雰囲気を作ることが求められます。

▼合わせて読みたい(2025年7月19日更新予定)

③事業場内産業保健スタッフ等によるケア

産業医や保健師、人事労務担当者など、事業場内の専門スタッフが中心となっておこなうケアです。

具体的なメンタルヘルス対策の企画・立案、従業員や管理職への支援、そして職場復帰のサポートなど、専門的な立場から対策全体のコーディネートをおこないます。

④事業場外資源によるケア(EAPなど)

社内だけでは対応が困難な場合に、外部の専門機関や専門家の支援を活用するケアです。

代表的なものにEAP(従業員支援プログラム)があり、カウンセリングやコンサルティングなどのサービスを提供します。地域の保健機関や医療機関との連携も含まれます。

企業がどのようなステップで対策を導入し、健康経営を実現していくか。その具体的なロードマップはこちらの記事で詳しく解説しています。

▼合わせて読みたい(2025年7月26日公開予定)

「健康経営を加速するメンタルヘルス対策!企業のための導入ガイド」

メンタル不調を未然に防ぐ3段階の予防アプローチ

メンタルヘルス不調の発生段階に応じた3段階の予防

メンタルヘルス対策は、問題が発生するタイミングに応じて3つのステージで考えることが効果的です。

メンタルヘルス不調の予防段階

メンタルヘルス不調の予防段階

予防の段階 目的 具体的な取り組み例
一次予防 不調の発生を未然に防ぐ 職場環境の改善、ストレス研修
二次予防 不調の早期発見・早期対応 管理職による気付き、相談窓口の設置
三次予防 職場復帰支援・再発防止 復帰プログラムの策定、業務調整

参考:厚生労働省「職場におけるメンタルヘルス対策について」

一次予防:ストレス要因そのものを減らす取り組み

一次予防は、メンタルヘルス不調の発生そのものを未然に防ぐ最も理想的な対策です。

長時間労働の是正、業務量の適正化、風通しの良いコミュニケーションの促進といった職場環境の改善が中心です。

ストレスに関する知識を学ぶ研修なども一次予防に含まれます。

二次予防:不調の早期発見と迅速な対応

二次予防は、万が一不調者が出た場合にも早期に発見し、悪化させないための迅速な対応をおこなうことです。

管理職が部下の不調に気付くこと(ラインケア)や、従業員が気軽に相談できる窓口を設置することが重要です。早期に対応することで、早期の回復につながります。

三次予防:職場復帰支援と再発防止

三次予防は、メンタル不調により休職した従業員が、スムーズに職場へ復帰できるよう支援し再発を防ぐための取り組みです。

職場復帰支援プランの作成、主治医との連携、復帰後の業務内容の調整などが含まれます。

安心して戻れる環境を整えることが、再発防止の鍵です。

個人でできるメンタルヘルスのためのセルフケア入門

日常生活で実践できるセルフケアの様々な方法

企業の取り組みと合わせて、私たち一人ひとりが日頃から自分の心をケアすることも非常に重要です。

セルフケアのポイント

セルフケアのポイント

セルフケアのポイント 概要
ストレスとの付き合い方 ストレスを無くすのではなく、気付いて対処する方法を身につける。
良質な睡眠と食事 心の健康の土台となる基本的な生活習慣を見直す。
専門家への相談 悩みを一人で抱え込まず、他者や専門家の力を借りる。

ストレスを完全になくすことはできません。

大切なのは、ストレスに気付きストレスが溜まりすぎる前に対処する方法を身につけることです。

自分が何にストレスを感じやすいのかを把握し、気分転換になる趣味やリラックスできる時間を持つなど、自分なりのストレス解消法を見つけてみましょう。

良質な睡眠と食事の基本

心の健康は体の健康と密接に関係しています。

特に「睡眠」と「食事」は、メンタルヘルスを支える両輪と言えるでしょう。

毎日決まった時間に寝起きする、栄養バランスの取れた食事を3食きちんと摂るといった、基本的な生活習慣を見直すことが、心の安定につながります。

専門家への相談も選択肢の一つ

「悩みを誰かに話すのは弱いことだ」と考える必要は全くありません。

辛い時には、家族や友人に話を聞いてもらうだけでも心は軽くなります。

また、カウンセリングをおこなう専門家や医師は、客観的な視点から問題解決の手助けをしてくれます。相談することは、問題を解決するための積極的な行動です。

メンタルヘルスの課題と今後の展望【健康経営の実現へ】

テクノロジーを活用した未来のメンタルヘルスケアと健康経営

メンタルヘルスを取り巻く環境は時代と共に変化し新たな課題と可能性が生まれています。

展望のテーマ

展望のテーマ

展望のテーマ 概要
歴史と社会的課題 偏見の克服とオープンに語れる文化の醸成。
DX化とテクノロジー テクノロジー活用によるケアへのアクセス向上。
人的資本経営 従業員の健康を「資本」と捉える経営の主流化。

日本における歴史と社会的な課題

日本では歴史的に、精神疾患に対する偏見(スティグマ)が根強く、メンタルヘルスの問題がオープンに語られにくい土壌がありました。

しかし、近年では過労死や自殺の問題が社会的に注目され、従業員の心の健康を守ることの重要性が広く認識されるようになってきています。

参考:櫻井 友実, 橋本 健志, 四本 かやの, 日本における精神障害者に対する偏見の文献検討, 作業療法, 2020, 39 巻, 3 号, p. 273-281, 公開日 2020/06/15

DX化の進展とメンタルヘルステックの可能性

近年、AIやデジタル技術を活用してメンタルヘルスを支援する「メンタルヘルステック」が急速に発展しています。

オンラインカウンセリングやストレスチェックアプリなど、時間や場所を選ばずに気軽に専門的なサポートを受けられるようになりました。

これらの技術は、ケアへのアクセスを容易にし、今後のメンタルヘルス対策を大きく変えていく可能性を秘めています。

企業の持続的成長に不可欠な人的資本経営

現代の企業経営において、従業員は単なる「資源」ではなく、価値創造の源泉である「資本」と捉える「人的資本経営」の考え方が主流になっています。

従業員のメンタルヘルスに投資し、誰もが健康で生き生きと働ける環境を整えることは、企業の持続的な成長と競争力強化のために不可欠な戦略です。

参考:経済産業省「人的資本経営」

まとめ:メンタルヘルスは、あなたと組織の未来を創る大切な土台です

この記事では、メンタルヘルスの基本的な概念から、企業と個人に求められる対策までを網羅的に解説しました。心の健康は、個人の豊かな人生と、企業の持続的な成長の両方にとって不可欠な基盤です。

まずは、本記事で紹介した「4つのケア」や「3段階の予防」の考え方を参考に、ご自身の立場からできることを発見してみてください。そして、もし具体的な対策の進め方でお困りの際は、専門家への相談もご検討ください。

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  1. メンタルヘルスとは、簡単に言うと何ですか?

    メンタルヘルスとは、単に精神的な病気がない状態ではなく、「いきいきと自分らしく機能している心の健康状態」を指します。日々のストレスにうまく対処し、仕事や社会に貢献できる、ポジティブで良好な状態のことです。

  2. 企業がメンタルヘルス対策に取り組む最大のメリットは何ですか?

    最大のメリットは、従業員の健康が「生産性の向上」「人材の定着」「企業リスクの低減」に直結し、最終的に企業の持続的な成長と企業価値の向上に繋がることです。これは福利厚生というコストではなく、未来への「経営投資」と位置づけられています。

  3. 個人ができる最も基本的なメンタルケアは何ですか?

    まずは自身の心と身体の変化(ストレスサイン)に気づくことが第一歩です。その上で、十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動といった生活習慣の基本を整えることが最も重要です。一人で抱え込まず、不調を感じたら早めに誰かに相談することも大切なケアの一つです。

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