メンター制度はいらない?導入の流れと成功のポイントを具体的に解説

人材育成の手法として注目を集めているのが、メンター制度です。経験豊富な先輩社員が後輩の成長をサポートする仕組みとして、多くの企業で導入されています。
しかし、メンター制度を効果的に運用するには次のような疑問に対処しつつ、適切な準備と運用ルールが必要です。
「そもそもメンター制度とは?」
「メンター制度の具体的な進め方は?」
「成功させるポイントは何があるのか」
メンター制度を取り入れれば、従業員のスキルアップにもつながり会社として成長できるきっかけとなるでしょう。
本記事では、メンター制度の定義やメリット・デメリット、導入ステップから成功させるポイントまで具体的に解説します。
メンター制度とは

企業における人材育成の方法として、メンター制度が注目されています。メンター制度について、定義やほかの教育制度との違いを詳しくみていきましょう。
メンター制度の定義
メンター制度とは、経験豊富な先輩社員が後輩社員の成長を支援する制度です。
たとえば、入社3年目の社員が抱える業務上の悩みやキャリアプランの相談に対して、10年以上の経験を持つ先輩社員が定期的な面談を通じてアドバイスを行います。
メンター制度の特徴は、直属の上司ではない先輩社員がメンターとなるため、より率直な会話ができる環境をつくり出せることです。
メンターとメンティの役割
メンター制度では、メンター(支援する側)とメンティ(支援される側)の2つの役割があります。
メンターは豊富な経験と知識を生かして後輩の成長をサポートする立場です。業務の指導だけでなく、精神的なサポートも行います。たとえば、仕事の進め方についてアドバイスをしたり、職場での人間関係の悩み相談を聞いたりします。
メンティはメンターからのサポートを受ける立場です。自身の目標や課題を明確にし、面談を通じて成長を目指します。
ほかの教育制度との違い
メンター制度は、メンターがメンティに対して組織への適応を高め、主体的に取り組むようにキャリア開発をサポートする目的があります。
一方で、ほかの教育制度は次の目的のもとで行われるのです。
- OJT制度:日常の業務を通じて社員のスキルや知識を向上させる
- エルダー制度:新入社員の業務習得や成長を促進し、早期の戦力化を図る
- コーチング:対話を通して気づきや行動するきっかけを与え、目標達成や問題解決をサポートする
OJT制度やエルダー制度は、実際の業務において業務習得や成長を支援する点がメンター制度との違いです。
コーチングは、対話を中心としてサポートを支援する点が、総合的な方法でコミュニケーションを行う仕組みであるメンター制度と異なる点です。
それぞれの目的に応じた教育制度を行えば、従業員の成長につながるでしょう。
メンター制度のメリット・デメリット

メンター制度を導入する前にメリット・デメリットを理解しておくと、より成功しやすくなります。
会社、メンター、メンティのそれぞれの立場からメリット・デメリットについて、詳しくみていきましょう。
会社のメリット・デメリット
メンター制度を導入すると、若手社員の定着率が向上します。
たとえば、メンターによる定期的な面談があると新入社員が職場の悩みを抱え込まずに、早期退職を防げます。社内のコミュニケーションも活発になり、部署を超えた情報共有も促進されます。
一方で、メンター制度の運営にはコストと時間が必要です。スケジュール調整や進捗状況の管理など、制度運営側にも多くの時間と労力がかかります。そのため、メンター制度では慎重な運用が求められるのです。
メンターのメリット・デメリット
メンターを務めれば、指導を通じて自身の知識やスキルへの理解が深まります。また、後輩との関わりを通じてコミュニケーション能力が向上します。
ただし、通常の業務だけでなくメンターとしての役割も加わるため、負担が増えることは避けられません。
人材育成の努力が評価されにくい職場では、モチベーションを維持することが難しくなるケースもあるでしょう。
メンティのメリット・デメリット
メンティにとって、メンター制度は成長を加速させる機会です。
業務の知識や会社の文化について、先輩社員から直接学べることは大きなメリットです。メンターが精神的な支えとなれば、職場での不安やストレスが和らぎ、前向きに仕事に取り組めるようになります。
ただし、メンターとの相性が合わないとストレスの原因となるケースもあるでしょう。メンターへの依存度が高くなりすぎると、自主性が育ちにくくなります。そのため、メンターとメンティは適度な距離感を保つことが大切です。
メンター制度の導入ステップ

メンター制度を導入するには、5つのステップを踏む必要があります。それぞれのステップについて、順番にみていきましょう。
STEP1:メンター制度の目的を決める
まず、メンター制度を通じて何を実現したいのかを明確にします。たとえば、次のような企業の課題に応じた目的を設定しましょう。
- 若手社員の早期戦力化を図りたい
- 部署を超えた交流を促進したい
- 管理職候補の育成を強化したい
- 新しい領域の仕事に女性社員を定着させたい
- ワーク・ライフ・バランスの実現に向けて継続的に働ける環境を整えたい
目的が明確になれば、その後の制度設計がスムーズに進みます。経営層や人事部門が中心となって、組織全体の目標と整合性のとれた目的を定めることが大切です。
STEP2:メンター制度のルールをつくる
次に、具体的な運用ルールを決めていきます。
メンターとメンティの面談頻度や期間、報告方法などを明確にします。たとえば「月2回の面談を半年間実施する」「面談後は所定のフォーマットで報告書を提出する」などの具体的なルールを定めましょう。
また、メンターへの手当支給や通常業務との兼ね合いについても、検討しておくと良いです。手当が支払われると、メンターは責任感を持ってメンティの育成に取り組むようになります。
STEP3:メンターとメンティを選ぶ
ルールが決まったら、メンターとメンティの選定を行いましょう。次の基準を参考にしてみてください。
メンター
- 仕事に必要な知識や技術が十分にあり、多くの経験を通じて実績を積み重ねてきた
- 人を育てる大切さを理解し、部下や後輩の成長を積極的にサポートできる
- 仕事の優先順位がつけられ、計画的に仕事を進められる
- 約束を守り、周りの人から信頼されている
メンティ
- 自分の成長のために、積極的に新しい知識やスキルを学ぼうとする意欲がある
- メンターと円滑なコミュニケーションを取り、良い関係を築ける
- メンターと相談して決めた目標や計画を実行できる
選定の際は両者の相性にも配慮が必要です。年齢や性別、価値観なども考慮に入れてみましょう。
参考:厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」(PDF)
STEP4:メンターに研修を実施する
選ばれたメンターには、必要な研修を実施します。
研修では、メンタリングの基本的な考え方やコミュニケーション技法、目標設定の方法などを学びます。さらに、メンターとメンティの上司も研修に参加することで組織全体でのサポートを強化でき、メンター制度の効果を最大限に引き出せます。
講師にはメンタリングの経験が豊富な社内外の専門家を招くと、より効果的な研修が実現できるでしょう。
STEP5:メンター制度を実施して振り返りをする
最後に、制度の実施と効果検証を行います。
定期的なアンケートや面談を通じて、メンターとメンティの双方から意見を集めます。たとえば「仕事への取り組み方に変化はあったか」「期待通りの成長が見られたか」などの観点で振り返りをしてみましょう。
振り返りの結果を次に生かせば、より効果的なメンター制度をつくり上げることができます。
メンター制度を成功させるポイント

メンター制度を導入してもうまくいかないケースもあります。効果的に運用するためには、3つの重要なポイントがあります。
それぞれのポイントについて、詳しくみていきましょう。
従業員に事前の説明をする
メンター制度を導入する際は、まず従業員に制度の目的や具体的な進め方、期待される効果などをわかりやすく説明しましょう。
たとえば「キャリア成長を支援する制度である」「定期的な面談を通じて成長をサポートする」などの基本的な内容や、具体的なスケジュールまでを共有します。
メンターやメンティの候補となる社員には制度への参加によって得られるメリットを具体的に伝え、積極的な参加を促しましょう。
上司からの理解を得る
メンター制度を円滑に運用するには、直属の上司の理解と協力が欠かせません。
メンタリングは就業時間内に行われるため、メンターとメンティは定期的に通常業務を離れます。そのため、面談時間や準備時間などを確保するには上司による業務配分が重要です。
上司に対してもメンター制度の意義や必要性を丁寧に説明し、部下の成長をサポートするために理解を得ることが大切です。
メンターとメンティの相性を見る
メンター制度の重要な要素が、メンターとメンティの相性です。
両者の性格や価値観、キャリア目標などを慎重に検討し、相性の良い組み合わせをつくることが大切です。また、次の要素を確認してみると良いでしょう。
- メンティのキャリア目標を達成するために、メンターが適切なアドバイスやサポートができる経験を持っている
- メンティが求めるサポートの仕方と、メンターの指導スタイルが合っている
- メンティとメンターが、普段仕事で直接の上司・部下の関係ではない
- メンティが克服したい課題に対して、メンターが的確なアドバイスやサポートができる
年齢や性別、部署の違いなども考慮に入れ、お互いに心地よく対話できる関係性を築けるよう配慮してみてください。
参考:厚生労働省「メンター制度導入・ロールモデル普及マニュアル」(PDF)
まとめ:メンター制度を導入して社員を育成しよう

メンター制度は、社員の成長をサポートする有効な仕組みです。
制度の導入に向けては、目的の明確化から具体的なルールづくり、適切な人材の選定まで段階的に準備を進めることが大切です。また、従業員への丁寧な説明や上司の理解、メンターとメンティの相性など運用面でも配慮をしてみてください。
メンター制度の導入・運用における課題を一つずつ解決し、組織の成長を加速させていきましょう。
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