【産業医監修】NLPコーチングとは?主な5技法をもとに詳しく解説
企業に貢献できる人材を育成するプロセスにおいては、社員の行動や意識の変革が必要な場合があります。自主性を引き出し、納得感を持って成長できる育成方法として、昨今ではコーチングが注目されています。
しかし、行動や意識が変化する過程では、無意識的な抵抗が生じるケースも少なくありません。これまで取ってきた行動や思考パターンを変えることに抵抗してしまうのです。成長を促すためには、無意識的な領域に気づいていくことが必要でしょう。
意識的な側面だけでなく、無意識の領域にもアプローチする手法として注目されているのが、NLPコーチングです。本記事では、主な5つの技法に沿って、NLPコーチングについて解説します。日常のコミュニケーションにも生かせる内容ですので、ぜひ参考にしてみてください。
NLPコーチングとは?
NLPコーチングは、一般的なコーチングにNLP(神経言語プログラミング)の技法や考え方を取り入れたものです。
一般的なコーチングは、意識的な側面にアプローチすることで、言葉や思考を介して内省し気づきを得ます。そこにNLPの技法を取り入れることで、無意識的な領域にもアプローチしていくのがNLPコーチングです。
具体的には、コーチとの対話を通して、過去の出来事や経験によって形成された思考や行動のパターンへの気づきを促します。それまで無意識であった領域を意識化し、新しい視点や行動パターンを学習していくことが大きな狙いです。
NLPコーチングは、無意識の領域にもアプローチすることで、より深い変化と成長を促すコーチング手法といえるでしょう。
なお、一般的なコーチングについては、GROWモデルが提唱されています。
関連記事:GROWモデルとは?面談で簡単に使えるコーチングの質問例を紹介
NLPの特徴
無意識の領域への気づきを促すNLPとはどのような理論なのでしょうか。
NLPは、1970年代にリチャード・バンドラーとジョン・グリンダーによって創始された心理学的なアプローチ技法です。視覚や聴覚などの五感や言語を通して経験を取り込み、脳がプログラミングのように学習しているという考え方にもとづきます。
五感を通じた情報の受け取り方や言語的な意味づけなどから、思考や行動パターンを理解し、コミュニケーションに生かすものです。
NLPは、以下の3つの要素の頭文字を取った名称です。3つの要素が相互に作用しながら、思考や行動パターンを形成しているものと考えます。3つの要素について解説します。
- N:Neuro(神経)
- L:Linguistic(言語)
- P:Programming(プログラミング)
1.N:Neuro(神経)
Neuro(神経)とは、視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚の五感を指します。人間が経験している出来事は、五感を通して得られた情報を処理することで形成されていると考えます。
NLPでは、五感に焦点を当ててアプローチすることが特徴です。代表的な手法として、VAKモデルがあります。VAKとは、視覚(Visual)、聴覚(Auditory)、身体感覚(Kinesthetic)の頭文字を取った言葉です。人間には3つの感覚のうち、受け取りやすい感覚があると考えられています。
そして、相手が受け取りやすい感覚に合わせて情報を伝えるなど、円滑なコミュニケーションのために活用されます。
2.L:Linguistic(言語)
NLPでは、Linguistic(言語)を脳が情報を処理する際の記号だと考えます。五感を通して得た情報をコード化し、言葉として意味づけをします。ただ、言葉による意味づけは、主観的で個人差があります。
たとえば、同じ風景を見ても、「きれいだ」と感じる人もいれば、「物寂しい」と感じる人もいるでしょう。意味づけを行う過程には、無意識的な思い込みが影響していることがあります。NLPでは無意識的な思い込みに気づけるよう、さまざまな技法を用いて取り組みます。
3.P:Programming(プログラミング)
NLPにおいて、人間の思考や行動パターンは、プログラミング(Programming)のように自動化されていると考えます。五感を通して得られた情報を言語として意味づけすることで学習され、プログラムにもとづいて行動するものとされます。
たとえば、「〇〇のときは〜〜する」といったようなパターンです。こういったパターンは、自動化されているためふだんは意識しにくいでしょう。テクニックを用いながら意識化し、新たな行動パターンを身につけていくことがNLPの特徴です。
NLPコーチングで用いられる主な5つの技法
NLPをコーチングに活用することで、無意識的な行動や思考を含めた自己変容を促しやすくなります。
では、NLPコーチングでは、どのような技法を用いるのでしょうか。主な5つの技法について解説します。
参考:Elaine Cox、Tatiana Bachkirova、David Ashley Clutterbuck「The Complete Handbook of Coaching」
1.ペーシング
コーチングにおける信頼関係を構築するのに欠かせない、関わり方の技法です。相手の仕草や言葉、声のトーンを合わせることで、警戒心を和らげ、安心して話せる関係を構築します。具体的には以下のような例が挙げられます。
- 口調がゆっくりな人にはテンポを遅くする
- 腕を組んだら自分も腕組みをする
- 相手の言葉を伝え返す
大げさに行うと不快感を与えてしまう可能性があるため、さりげなく行われるのが一般的です。ペーシングは新たな気づきを促進する技法ではありませんが、関わり方の参考になります。コーチの関わり方を参考にして、社内でのコミュニケーションに生かしましょう。
2.メタモデル
メタモデルは、思い込みに気づくための質問技法です。人間は、何かを伝えるときには体験した内容を全て伝えるのではなく、取捨選択することが多いでしょう。取捨選択の傾向に影響するのが無意識的な思い込みであり、それを具体化する質問がメタモデルです。
たとえば、部下が「Aさんに嫌われている。自分にだけ厳しい」と相談してきたとします。次にAさんに確認すると、「部下に期待しているから厳しく指導してしまう。でもフォローの言葉も伝えている」とわかりました。
Aさんはフォローの言葉を伝えているのにもかかわらず、「厳しい指導」という体験だけを選んで上司に伝達した結果、誤解が生じたのです。
NLPコーチングでは、選択されなかった情報を、質問によって明らかにすることを目指します。以下の3つのパターンのように、メタモデルで想定されている取捨選択の傾向に沿って明らかにしていきます。3つの取捨選択の傾向について解説します。
- 省略
- 一般化
- 歪曲(わいきょく)
省略:具体的な情報が省かれている
「だれが、いつ、どこで、何を、何と比較して」などの具体的な情報を省いてしまうことです。たとえば、「今年の新入社員の出来が悪い」という表現は、だれのことか、どういう能力が低いかが省略されています。
NLPコーチングでは、具体化する質問を繰り返すことで、省略された情報を明らかにしていきます。情報が具体化されることを通して、思い込みの癖に気づきやすくなるでしょう。
一般化:少ない経験を大きくしてしまう
数少ない体験を一般化してしまい、過大に捉えてしまうことです。たとえば、上司との関係がうまくいっていないときに、「職場の人間は私を嫌っている」と一般化してしまうような捉え方です。
「全員に嫌われている?」「だれに嫌われている?」などの質問から、表現を具体化して思い込みに気づくことをサポートします。
歪曲(わいきょく):検証せずに判断している
情報を検証せずに判断を下してしまう傾向です。たとえば、「○○さんからあいさつされないから嫌われている」というように、あいさつがないほかの理由を考慮せずに「嫌われた」と判断することです。
「あいさつがないことが嫌われることにつながるのか?」という質問をしながら、判断の傾向に気づけるよう、コーチがサポートします。
3.ミルトンモデル
催眠療法家であるミルトン・エリクソンが用いた方法をもとにした、相手の同意を得やすくするための技法です。以下のように、抵抗を和らげるための質問や関わり方を行うことで、行動の変化を起こしやすくします。
技法 | 応答例 | 説明 |
前提 | 「AとBのどちらがいいですか?」 | 選ぶことを前提とした質問であり、相手が選択する抵抗を少なくする。 |
読心術 | 「○○ということですよね」 | 共感を示しつつ、相手の気持ちを理解しているかのように表現することで、信頼感を高める。 |
メタファー | 努力の大切さを伝えるのに、「うさぎとかめ」の童話を用いる。 | さりげなく相手の行動を促す。 |
4.アンカリング
五感と心の状態をうまく結びつけることによって、理想的な状態を作り出す技法がアンカリングです。テンポの速い曲を聴くと明るい気持ちになったり、胸をなでると気分が落ち着いたりするなど、感覚と心の状態は結びついています。
こういった結びつきを利用し、ワークを通して理想の状態を作り出すことに活用します。たとえば、「小指を触ると落ち着いた気分になる」と条件付けて、緊張が強い場面で不安を和らげる方法として活用する方法です。
5.アイアクセシングキュー
相手の視線の動きから、脳がどの情報へアクセスして処理しようとしているか、優位な感覚は何かを推測する技法です。以下のように、視線の向きによって優位な感覚が異なります。
- 右方向:過去、記憶、思考
- 左方向:未来、想像、体感
- 上:視覚優位
- 中:聴覚優位
- 下:身体感覚優位
コーチは、相手がどの感覚情報にアクセスしているのかを意識しながら、質問を変えていくことがアプローチの特徴です。
たとえば、左上に視線を向けながら過去の出来事を語る場合、「身体感覚を伴いながら思い出している」と考えます。「そのとき、身体にはどのような感覚がありましたか」と質問されることで、体験をより深められます。
まとめ:NLPコーチングで無意識の自分に気づきましょう
NLPコーチングは、意識的な側面だけでなく、無意識的な自分への気づきを促すアプローチ方法です。人間の思考や行動パターンは、大半が無意識的な習慣として生じているとされています。無意識的な領域にこそ、新たな気づきが多くあり、成長の可能性が詰まっているといえます。
そして、NLPコーチングの技法は、日頃のコミュニケーション手法としても有効です。コーチの関係の築き方をモデルにすることで、周囲との関わりが変化する可能性もあります。NLPコーチングを通して社員の成長を促し、お互いが気持ちよくやりとりできる組織を目指しましょう。