安全衛生委員会とは?設置基準と協議事項、運営上の注意点を解説!
労働安全衛生法では、所定の業種や一定規模以上の事業所に安全衛生委員会の設置を義務づけています。
人事や労務の担当者の中には、委員会での協議内容や運営方法に頭を悩ませる人もいるでしょう。
本記事では、安全衛生委員会の設置基準や協議事項、運営上の注意点を解説します。委員会の実効性アップやマンネリ化の防止を検討している人は参考にしてみてください。
安全衛生委員会とは?
最初に、安全衛生委員会の目的と法律上の位置づけを確認しておきましょう。また、労働安全衛生法に定める運営ルールも紹介します。
安全衛生委員会の目的
労働安全衛生法で、安全衛生委員会の設置を義務づける主な目的は、労働災害事故の防止と労働者の健康被害の防止です。
定期的に委員会を開催し、職場環境や労働者の健康状態をチェックして委員間で情報を共有し、労災防止対策など職場環境や労働環境の改善を図ります。
委員会での協議内容や決定事項は経営者や労働者と共有し、事業所が一体となって改善に取り組むことによって、労災事故や健康被害の発生を抑制します。
安全衛生委員会の法律上の位置づけ
労働安全衛生法の第17条と第18条では、所定の業種および規模の事業場ごとに「安全委員会」または「衛生委員会」の設置を義務づけています。
また、同法第19条では、両方の設置を義務づけられた場合、両委員会の代わりに「安全衛生委員会」を設置できるとされています。
つまり、安全衛生委員会は、両委員会の設置義務を課せられた事業場が任意で設置するものです。両委員会を別々に開催するより、職場の安全と従業員の健康に関する情報を共有し総合的に管理・改善できるメリットがあります。
安全衛生委員会の運営
安全衛生委員会の運営方法は企業によってさまざまですが、労働安全衛生規則第23条に定める共通ルールがあります。
主なルールは「委員会は毎月1回以上開催すること」と「議事の概要を従業員に周知すること」、「委員会の議事録は3年間保管すること」です。共通ルールを守ったうえで、事業場の事情に応じて実効性のある運営方法を検討してみましょう。
安全衛生委員会の設置
安全衛生委員会は、法令に従って設置しなければなりません。労働安全衛生法などで定める委員会の設置基準と構成員について解説します。
安全衛生委員会の設置基準
安全委員会と衛生委員会の設置基準は、安全衛生法施行令第8条、第9条で定められています。
安全委員会の設置は、業種と常時使用する労働者数によって次のとおり義務づけられています。
(安全委員会の設置基準)
業種 | 常時使用する労働者数 | |
1 | 林業、鉱業、建設業、製造業の一部(木材・木製品製造業、化学工業、鉄鋼業、金属製品製造業、輸送用機械器具製造業)、運送業の一部(道路貨物運送業、港湾運送業)、自動車整備業、機械修理業、清掃業 | 50人以上 |
2 | 製造業(1以外)、運送業(1以外)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業 | 100人以上 |
衛生委員会は、常時使用する労働者数が50人以上の事業所すべてです。
安全委員会や衛生委員会を設置しない場合、上記1,2の業種で常時使用する労働者数が50人以上の事業場は安全衛生委員会を設置することになります。
安全衛生委員会の構成員
安全衛生委員会の構成員は、労働安全衛生法第19条で定められています。次の人の中で事業者が指名した人です。
- 総括安全衛生管理者や総括安全衛生管理者以外で、事業の実施を統括管理する人(またはこれに準ずる人)
- 安全管理者や衛生管理者
- 産業医(※)
- 事業場の労働者で安全に関し経験のある人
- 事業場の労働者で衛生に関し経験のある人
上記の事業の実施を統括管理する人が、委員会の議長となります。事業の実施を統括管理する人を除き、委員の半数は「労働者の過半数で組織する労働組合(または労働者の過半数の代表者)」の推薦に基づき指名しなければなりません。
※産業医の安全委員会への選出や参加の義務はありません。しかし、安全衛生の観点で現状の確認や意見交換を行う上では、参加することが望ましいことが多いです。
委員会の協議事項
安全委員会と衛生委員会で協議が必要な事項は、労働安全衛生法第17条、第18条で定められています。
具体的には、次の最低限の項目を協議します。
- 長時間労働の状況
- 労災の発生状況
- 休業者の状況
- 健康診断の進捗管理
- ストレスチェックテストの進捗管理
- 職場巡視の課題や改善の状況 など
その他、事業所が所在する場所の条例(景観条例など)へのコンプライアンスの適合性、自家用車での通勤や運転業務がある場合には交通安全、有機溶剤などを使用している場合には作業環境の測定結果や改善活動の状況の確認などです。
安全衛生委員会では、両委員会に義務づけられた以上のような事項をすべて協議しなければなりません。協議事項について解説します。
協議事項①:労働者の危険・健康障害を防止するための対策
協議事項の1つ目は、労働者の危険・健康障害を防止するための対策です。
具体的には、労災リスクのある機械の取り扱いや危険の伴う作業を安全に行えるように作業環境や作業手順を整備したり、長時間労働や過重労働を是正して従業員の健康管理を徹底したりすることなどです。
また、企業が今後1年間に取り組む安全衛生活動の予定を取りまとめた「安全衛生管理計画書」の作成やフォローも含まれます。
関連記事:企業に求められる安全衛生管理計画書とは?作成方法や効果的な活用方法も解説!
協議事項②:労働者の健康の保持増進を図るための対策
2つ目は、労働者の健康の保持増進を図るための対策です。
たとえば、生活習慣病を予防するために、メタボリックシンドローム診断を行い個々の状況に応じて運動指導や食事指導を行うことなどです。
また、近年増加しているメンタルヘルス障害を防ぐために、ストレスチェックを実施してメンタルヘルスケアを行うことも必要でしょう。
協議事項③:労働災害の原因・再発防止対策
労働災害が発生した場合、その原因を究明して再発防止対策を行うことも、安全衛生委員会の役割です。労働災害の状況を委員会のメンバーが共有して、それぞれの専門的な立場から原因を分析し、問題解決策を検討します。
対策を決めるだけでなく、対策の効果を委員会で継続的に検証することが重要です。また、ヒヤリハット事故についても原因分析を行い対策することは、労災防止対策として効果的です。
協議事項④:そのほかの対策など
労働安全衛生規則第21条、第22条には、安全委員会や衛生委員会で協議すべき「労働者の危険の防止に関する重要事項」と「労働者の健康障害の防止および健康の保持増進に関する重要事項」に含まれる内容が記載されています。
具体的には、安全衛生に関する管理規定の策定や計画書の作成・実施・評価・改善、教育計画の策定などです。人事や労務の担当者は、詳細を確認してみましょう。
安全衛生委員会運営の注意点
安全衛生委員会を実効性のあるものにするには、運営上の注意点がいくつかあります。主な注意点について解説します。
注意点①:安全衛生管理計画書の振り返りと改善
安全衛生委員会では1年間の安全衛生管理計画書を作成しますが、計画が形骸化しないように委員会で継続的にフォローする必要があります。
委員会開催ごとに計画の進捗状況を確認し、計画内容の効果や問題点を検証します。進捗状況が思わしくない場合や問題点が発見されたら、計画の改善が必要です。改善策の実施状況もきちんとフォローしていきましょう。
注意点②:マンネリ化の防止
同じメンバーで定期的に会議を開催する場合、会議がマンネリ化して実効性が失われることがあります。安全衛生委員会も、マンネリ化しないように次のような工夫が必要です。
- 委員会のテーマを工夫する
- 現場の従業員で発信力のある人を委員会のメンバーにする
- 委員を定期的に変更する
- 委員会での活動を人事評価基準に盛り込む
季節に合わせて「熱中症対策」や「自然災害対策」、法改正時に「働き方改革による残業時間圧縮」や「男性の育児休暇推進」を協議するなど、関心の高いテーマを選ぶことがマンネリ化を防ぎます。
また、現場の意見は事務職の人にとって新鮮です。職場の実態をよく知る人がメンバーであることで、実態に即した対策を迅速に取れることも期待できるでしょう。
人事評価基準については、MBO(目標管理制度)で委員会活動をサブ的な評価項目にすることなどが考えられます。
注意点③:従業員への周知
安全衛生委員会での協議内容や決定事項は、従業員に周知しなければ効果を発揮しません。掲示板での連絡や議事録の回覧だけでは、従業員に見てもらえない可能性もあります。
委員会のメンバーや職場のマネジメント層が、朝礼や研修会で発信するなど、従業員に対する積極的な働きかけが必要です。従業員の安全と健康を守るという目的を明確に伝えることで、従業員への浸透が期待できます。
注意点④:法律違反の罰則
労働安全衛生法の第120条には、法律違反に対する罰則が設けられています。設置義務のある事業所が安全衛生委員会を設置しなかった場合、「50万円以下の罰金」が科されます。
従業員の安全と健康を守るために制定された労働安全衛生法に違反すると、社会的信用だけでなく従業員の会社への信頼を失うことにもなりかねません。
まとめ:実効性のある安全衛生委員会の運営を!
安全衛生委員会は、労働安全衛生法で設置が義務づけられている安全委員会と衛生委員会の代わりに設置するものです。
設置基準や構成員の任命、協議事項など法定事項を守るとともに、実効性ある委員会運営ができるように工夫が必要です。
マンネリ化を防止して内容ある協議を行うとともに、従業員と協力して安全衛生に取り組む体制をつくり上げましょう。