安全衛生活動の具体的な取り組みは?主な方法と成功事例を紹介!

労働安全衛生法では、従業員の安全と衛生を守るために安全衛生管理体制の構築や安全衛生活動の実施など、企業にさまざまな義務を課しています。
しかし、安全衛生活動の内容については法律で定められていないため、具体的にどんな取り組みをすればいいのかわからないこともあるでしょう。
この記事では、安全衛生活動の具体的な取り組みについて解説します。実際に成果を上げている企業の取り組みを紹介しますので、自社の安全衛生活動に取り入れられないかを検討してみましょう。
安全衛生活動とは
まず最初に、安全衛生活動の意味と主な方法について解説します。
安全衛生活動は労災防止と従業員の健康を守るための活動
安全衛生活動とは、職場での労災事故の防止や従業員の健康被害防止を目的とした取り組みのことです。
主な取り組み内容は、労災事故につながる危険を事前に把握して防止対策を取ったり、従業員の健康を悪化させる要因を排除したりすることです。
また、安全な設備を導入するなど企業が主体となって行う活動と、従業員に安全な作業工程を浸透させるなど従業員とともに取り組む活動などがあります。
安全衛生活動の主な方法
安全衛生活動の主な方法は次の通りです。
- 安全衛生教育を実施し従業員の知識や意識を高める
- 危険の見える化で事故を抑制する
- 5S活動で事故を防止する
- 職場を巡視してリスクを発見する
- ヒヤリハット報告を徹底し事故防止に活用する
- KYT(危険予知訓練)を行いリスクを早期発見する
- リスクアセスメントによりリスクを正しく把握し対策する
さまざまな方法がありますが、従業員の安全と健康を守るために、職場の実態に合った効果的な活動を選択しましょう。
関連記事:安全衛生活動とは?代表的取り組み7選と取り組みポイントを紹介
安全衛生活動の成功事例
安全衛生活動の主な方法を紹介しましたが、それぞれの活動方法で成果を上げている企業の取り組みを紹介します。
成功事例①:安全衛生教育
厚生労働省が定めた「安全衛生教育等推進要綱」では、安全衛生教育とは「労働者の就業に当たって必要な安全衛生に関する知識等を付与するために実施されるもの」と定めていますが、対象者や教育内容は多種多様です。
長野県労働局のホームページに掲載されている安全衛生教育の好事例を紹介します。
(安全衛生教育の好事例)
業種 | 対象者 | 教育内容など |
製造業 | 従業員全般 | ・教育・研修計画を労働者や部署ごとに定め、作業工程におけるスキルマップを作成して個々の技能・知識を把握・一定のレベルに達した者をマスタークラスと位置づけ、当該作業の講師などとして人材活用を図る |
建設業 | 自社や協力業者の従業員 | ・毎年、全国安全週間の準備期間中に安全大会を開催し、自社・協力業者の労働者などに教育を実施・建設現場で発生した死亡事故の多い状況を再現した10の状況を体験できる映像教育「VR事故体験安全教育」を使用して教育 |
製造業 | 業務に関係する従業員 | ・事業場構内の掲示板に、必要な知識や点検基準などをわかりやすくイラストなどにより掲示し教育周知を図る |
製造業 | 従業員 | ・危険性の「見える化」の観点から、「巻き込まれ体験装置」を活用して受講者に巻き込まれの体験をさせる |
建設業 | 工事の請負人 | ・新規入場者教育にて視聴覚教材により現場の安全衛生に係る事項を写真、絵図を用いて「見える化」を図り理解度向上を図る・現場の安全衛生重点事項を「アクションプラン」として明確に示し、プラン実行のための20項目のルールを設定して教育する |
成功事例②:危険の見える化
「危険の見える化」とは、危険な機械を取り扱うところや事故が起こりやすい場所に注意喚起の掲示物を貼ることなどです。視覚に訴えることで従業員に危険を認識させて、事故を防止します。危険の見える化を目的とした具体的な掲示物を紹介します。
(安全衛生活動の指針や目標、年間計画の見える化)
(具体的な災害リスクや安全対策を見える化)
(避難経路や避難場所の見える化)
(危険物の使用禁止基準を見える化)
成功事例③:5S活動(プラスチック製品製造業)
5S活動とは、「整理・整頓・清掃・清潔・しつけ」を徹底して、職場や作業場を安全で衛生的に保つ活動のことです。従業員数約80名のプラスチック製品製造会社の事例を紹介します。
同社では、安全衛生の基本は5S活動の徹底にあると考え、社長と工場長のトップ2人が一緒に各職場を周り安全巡回を実施しています。安全巡回のとき、作業者に安全衛生に関する質問を行うなどして徹底し、会社の方針について全員が答えられるまでになりました。
また、従業員が守れるルールを作るために従業員にルール作りを任せたり、従業員が自主的に「今週の悪いところボード」を作成したりして5S活動の浸透を図っています。
成功事例④:職場の巡視(紙・パルプ・紙加工製品製造業)
職場の巡視とは、労災や健康被害につながる危険がないかをチェックするために定期的に職場内を見回ることです。従業員数約300名の紙・パルプ・紙加工製品製造会社の事例を紹介します。
同社では、毎日朝と昼の休憩時間前(10時と14時)に、職場ごとに持ち回りの安全当番が安全パトロールをしています。安全衛生に対する意識があまり高くないパートタイマーにも安全当番をしてもらうことがポイントの1つです。当事者意識を高め、災害防止にも効果が期待できます。
パトロールで気付いた点はその場で指摘して改善を求めパトロールチェック表に記録し保存するとともに、月1回安全会議を開催し全員に一言発言してもらうことで、安全衛生に対する従業員全員の意識を高めています。
成功事例⑤:ヒヤリハット報告(輸送用機械器具製造業)
ヒヤリハット報告とは、業務中に「ヒヤリとした」「ハッとした」事例を収集・分析して予見される事故を未然に防止することです。従業員数約6,200名の輸送用機械器具製造会社の事例を紹介します。
同社では、「思いやり・ヒヤリハット」という名称で、自分だけでなく周囲の人を見て危ないと思った行動も含めて報告・改善提案するという運営を行っています。自分ではわからないことや他人から見たら危ない行動が少なくないとの考えからです。
改善提案は非正規労働者も提出でき、提案者には工場内の売店・食堂で使える喫茶券を配布するなどして、従業員の多くが参加できるように工夫しています。また、改善案はリーダーが評価し提案者にフィードバックすることにより、制度の浸透と定着につなげています。
成功事例⑥:危険予知訓練・KYT(関西ペイント株式会社)
危険予知訓練(KYT)とは、作業や職場に潜む危険性や有害性などの危険要因を発見し解決する能力を高める手法(訓練)です。関西ペイント株式会社では、「実践事例KYT」という取り組みを行っています。
実践事例KYTとは、過去の災害事例を活用した危険予知訓練です。朝礼後に、過去の災害事例や再発防止内容を記載したイラストシートを読み上げたうえ、事故の現場へ行って「危険のポイント」や「チーム行動目標」、「指差し呼称項目」を確認し、現場で設備点検と観察を行います。
実践事例KYTによって新鮮な気分で訓練を受講できるため、訓練のマンネリ化を防ぎ実践力もアップしています。
成功事例⑦:リスクアセスメント(食料品製造業)
リスクアセスメントとは、職場内のリスクを洗い出し、リスクの大きさ(危険の度合い)を見積もって優先度を設定することです。従業員数約430名の食料品製造会社の取り組み事例は次の通りです。
同社では、「RAB(Risk Assessment Basic)」という名称の全従業員を対象としたアンケートを基に、リスクを把握し対策しています。アンケートは回答者が危ないと感じた内容を記入するものですが、わかりやすく具体的な質問を設定し問題点の洗い出しを行っています。
アンケート内容は安全衛生委員会で評価・レベル分けし、具体的な改善対策を検討します。RABでは問題点が明確にならないこともあるため、作業者の危険を察知する目を養うことにより質問内容をレベルアップする取り組みを行っています。
まとめ:活動のポイントは全従業員の理解とPDCAの繰り返し

従業員の安全と衛生を守るためには、安全衛生管理体制を構築するとともに効果的な安全衛生活動を実施しなければなりません。そのためには、従業員全員の理解と協力を得ることとPDCAを繰り返し行うことが重要です。
安全衛生活動の内容は多種多様ですが、本記事の事例を参考に職場の現状に適した活動を選択しましょう。