交流分析とは?7つの理論と職場で活用するメリットやポイントを解説
企業の上司や管理職、人事のメンバーは、部下や新入社員を人材育成したりチームのメンバーをまとめたりする立場の人たちです。しかし、「思うように部下が育たない」「ついダメ出しばかりになってしまう」と思い悩む人は多いのではないでしょうか。
そんなときに役立つのが交流分析の知識です。交流分析の知識があることで部下や新入社員を上手にまとめ、創造的なチームビルディングが可能になります。
本記事では、交流分析の7つの理論と職場で活用するメリットやポイントを紹介しています。上司や管理職、人事へのメリットはもちろん、創造性の高い柔軟な組織になるためのポイントも説明していますので、ぜひ参考にしてみてください。
交流分析とは?
交流分析は、自分や他人の交流パターンに着目することで人間関係の改善を行う心理学的理論や治療方法の一種です。1950年代半ばに、アメリカの精神科医であるエリック・バーンにより開発されました。
「交流」とは、コミュニケーションの流れを指し、より親密で協力的な関係を築くため、対人関係上のやりとりに注目します。
交流分析の代表的な理論が「構造分析」です。構造分析は、人が交流するときの考えや思考の癖、感情を「自我状態」と名付け、これを3つに分類することで個人の性格傾向や相性を把握するものです。また、自分や他人の自我状態を知ることがコミュニケーション改善の近道であると考えます。
交流分析の理論は、精神保健の分野だけでなくビジネスの場にも活用されています。とくに職場のチームワークの改善や人材育成に役立つとして、昨今では社内研修にも多く取り入れられています。
交流分析の代表的な理論は7つ
交流分析は、以下の7つの代表的な理論から構成されています。それぞれエリック・バーンの理論を元に、その弟子たちが発展させたものです。
- 構造分析
- やり取り分析
- ゲーム分析
- 脚本分析
- ストロークの交換
- 人生態度
- 時間の構造化
構造分析
人が交流するときの思考の癖や感情を「自我状態」と呼び、親(Parent)、大人(Adult)、子ども(Child)の3つに分類する性格理論を構造分析といいます。
Pは親の影響を取り入れてつくられた部分です。Aは現実を客観視し合理的に思考するコンピュータのような部分であり、Cは子どものように自由に振る舞う部分です。
さらに、3つの自我状態のうちPにはCP(批判的な親)とNP(養育的な親)、CにはAC(従順なこども)とFC(自由な子ども)の下位分類が存在します。
参考:NPO法人 日本交流分析協会 交流分析士とは「自我状態 心のなりたち エゴグラム」
やり取り分析
やり取り分析とは、構造分析におけるP(Parent)、A(Adult)、C(Child)の自我状態モデルを用いて、人の会話のやり取りを分析する理論をいいます。
会話を発した人と、受け取った人がそれぞれPACのうちどの部分を用いたのかを分析するものです。
やり取りには主に「相補的」「交差的」「裏面的」の3つのパターンがあるといわれています。
やり取り | 説明 | 具体例 |
相補的交流 | 投げかけた言葉に対して、話し手側が想定した自我状態で相手が反応するやり取り。言葉のキャッチボールがスムーズに進むため、気持ちよく会話が弾む。 | 報告書はできましたか(P) はい、8割方は完成しています(A) |
交差的交流 | 投げかけた言葉に対して、話し手側が想定していない自我状態で相手が反応するやり取り。右の例のように、今は◯時ですよ(A)という反応を想定したが別の反応が返ってきたという場合。このようなやり取りになると不快になったり、感情のすれ違いが生じやすくなったりする。 | 今、何時ですか(A) そんなこと、時計を見ればわかるだろう(P) |
裏面的交流 | 言葉だけでなく、表情や声色などの非言語的なメッセージを含んだ暗黙のやり取りをすること。たとえば一見、C(Child)とA(Adult)同士でやり取りしているが、実質はC(Child)とP(Parent)でやり取りしている場合。会話には別のメッセージが隠されている場合があることに注意が必要。 | 今夜は友だちと遊ぶので夕食はいらないよ(C) 帰る時間は知らせてね(A)/ 表のメッセージ遅くなったら承知しないぞ(P)/ 裏のメッセージ |
ゲーム分析
何度も同じことを繰り返してはうんざりするようなパターン化されたやり取りを分析することを「ゲーム分析」理論といいます。
たとえば、相手に対し指示や助言を求めつつも、いざ助言が得られると「でも…」と反対意見や否定を述べるやり取りを、「はい、でも」ゲームといいます。これも、相手がうんざりして怒ったとしても、関わりを求めたい気持ちから生じるゲームです。
交流分析では、こうした現象が起こる背後に、幼少期の親子関係の影響があると考えます。「はい、でも」ゲームの場合、子どもの頃の親子関係で主張できなかったり、自分で決める機会が少なかったことが原因の一つとされます。
意図せず繰り返すコミュニケーションのパターンの原因を探り、自己や他者の理解に役立つ理論です。
脚本分析
脚本とは、人々がそれぞれあたかも脚本があるかのように人生を歩むことをいいます。
交流分析では、背後に幼少期の親子関係の影響があり、より良い交流を目指すものの、結果としてあだとなっている行動パターンを分析します。行動パターンを脚本として読み解き、良くないきゅうくつなパターンをより適応的な方向へ変えていくことを目指すのが脚本分析です。
脚本分析は「過去と他人は変えられないが、未来と自分は変えられる」という考え方を基本に行われます。
ストロークの交換
ストロークとは、あいさつや握手などの対人接触や関わりをいいます。交流分析では、人が交流するときには絶えずこのストロークが働いてると考えるのが特徴です。
ストロークの交換は、互いにストロークを用いてやり取りすることを意味します。たとえばあいさつを交わすこともプラスのストロークのやり取りといえます。
ストロークには相手を温かい気持ちにさせるプラスのストロークと、反対に不快な気持ちにさせるマイナスのストロークの2種類が存在するといわれています。
また、人はストロークが不足すると、無意識にマイナスなストロークでさえも求めるようになることが知られています。
- プラスのストロークの例
上司がほほ笑み、軽く部下の肩をたたきながら「君はうちのチームになくてはならない存在だ」と肯定的ストロークを発する。
- マイナスのストロークの例
上司が眉をしかめながら、部下に対して「君の代わりはいくらでもいる、ケアレスミスには気をつけたまえ」と否定的ストロークを発する。
- ストロークの不足の例
上司に助言を求めるものの「でも…」と否定ばかりで返しストロークを求める部下。
人生態度
人生態度は、自分や他人に対する基本的な姿勢を分類したものです。自分や相手、世間などの捉え方を指し、人生態度により各場面で生じる感情や言動が異なります。
人生態度は、以下の4つに分類されます。自分や相手の人生態度を理解すると、どのように接するべきかがわかりやすくなるでしょう。
- 私はOK、あなたもOK
自分も他人も受容する理想的な人生態度です。「話し合えばわかりあえる」という信頼感があり、相手と話すことで解決しようとします。
- 私はOKでない、あなたはOK
自信のない人が取りやすい人生態度です。「自分は他者よりも劣っている」と捉えやすく、周りと比べて落ち込みやすい傾向があります。
- 私はOK、あなたはOKでない
支配的な人が取りやすい人生態度です。他責思考が強く、自分に都合の悪いことは相手のせいにしがちです。また、自分に合わない考えの人を排除し、罰しようとする傾向も強いです。
- 私はOKでない、あなたもOKでない
自分の殻に引きこもりがちな人生態度です。人との関わりを無価値であると考えており、他者とのストロークのやり取りを嫌います。
時間の構造化
時間の構造化とは、1日24時間の中で対人関係にどのように時間を割いているかを可視化することをいいます。
たとえば、だれとも交流をせず引きこもっているのか、形式的なあいさつや交流のみしているのか、生産的ではないがリラックスして雑談をしているのか、創造的なやり取りを盛んにしているのかなどに注目します。
何にどれくらいの時間を割いているのかを把握し、親交や活動に時間を割くことが望ましいとされています。
職場で交流分析を活用するメリット
交流分析の考え方は、職場で自分自身の時間の構造を見直し心身の不調を改善したり、上司や管理職が新入社員や部下の育成を行うスキルを向上させたりすることに役立ちます。
時間の構造を知ることが人間関係改善に役立つ
「最近、元気がないな」と感じるとき、実は背後にプラスのストローク不足の問題が起こっている可能性があります。人はストロークが足りなくなると、心身に問題が生じやすくなるためです。そのため、時間の構造化は、ストロークの不足を客観視し、状況を改善するために役立ちます。
たとえば会社員で、仕事での形式的な関わり以外の人との活動が少なく、家ではテレビやゲームを中心に過ごしている場合を考えてみましょう。
このような生活で気分の落ち込みを感じるようであれば、友人との交流や雑談などの「親交」を増やすことが不調の改善に役立つ可能性が高いでしょう。
新人教育や部下の育成に生かされる
肯定的なストロークは、草花を育てる際の水や肥料によくたとえられます。植物の成長に栄養が欠かせないように、人間の成長にもプラスのストロークが必要なのです。この考え方は、企業の新人教育や部下の育成に生かすことができます。
とくに、上司や管理職といった人材を育てる立場にいる人たちがプラスのストロークの重要性を理解することは大切です。
新入社員や部下に温かい関心を寄せ、やる気を引き出すストロークを出す具体的なスキルを身につけてもらいましょう。こうした取り組みは早期離職やメンタルダウン予防につながります。
職場で交流分析を活用する際のポイント
職場で交流分析を活用する際には、チームを組むときにエゴグラムを参考にすることや、肯定的なストロークのバリエーションを知っておくことが役立ちます。
チームを組む際にエゴグラムを参考にする
エゴグラムとは、エリック・バーンの弟子であるジョン・M・デュセイが、交流分析や自我状態の考え方を活用して考案した心理テストです。デュセイは、バーンの3つの自我状態を細分化し5つの自我状態に分類しました。また、これらの自我状態のバランスをグラフ化し、視覚的に把握できるようにしました。
- 厳しい親 :CP(Critical Parent)
- 優しい親:NP(Nurturing Parent)
- 論理的な大人:A(Adult)
- 自由奔放な子ども:FC(Free Child)
- 従順な子ども:AC(Adapted Child)
CPはリーダーシップがある、NPは面倒見が良い、Aは論理的、FCは創造性が高い、ACは協調性があるといった長所があります。チームビルディングの際にエゴグラムを参考にすることで、摩擦の少ない創造的なチームビルディングが可能となるのです。
エゴグラムを活用した性格把握については、こちらの記事も参考にしてみてください。
関連記事:エゴグラムとは?5つの自我状態からわかる性格特徴について解説
肯定的なストロークを複数持っておく
プラスのストロークが職場の人間関係を円滑化することは理解できるものの、具体的にどのようなストロークが良いのかわからないと思う人は多いのではないでしょうか。
ストロークにはバーバル(言語)とノンバーバル(非言語)の2つがあります。前者は名前を呼んだり、あいさつする・ほめるなどの言動が、後者にはほほ笑んだり、うなずく・仕事を任せるなどの行動が含まれます。
こうしたプラスのストロークを知っておくことで、いざというときに使いやすくなります。
まとめ:職場で交流分析を効果的に活用しよう!
交流分析は、自分や他人の交流パターンに着目することで人間関係の改善を行い、自己実現を目指す心理学の一種です。
交流分析の中でも、とくに自我状態や時間の構造化、ストロークの知識を身につけておくことで、セルフケア能力や新人・部下の育成能力が格段に高まります。また、職場の人間関係が円滑化し、チーム全体の課題解決能力も高まるでしょう。
ぜひ、積極的に交流分析を企業に取り入れて、創造性の高い柔軟な組織をつくっていきましょう。