心理的安全性の取り組み事例9選!ぬるま湯にしない風土と制度づくり

目次
この記事のポイント
- 他社の成功事例:メルカリやGoogleなど、先進企業9社の具体的な施策を「制度」「現場」のレベル別に解説。
- すぐに使えるゲーム:会議のアイスブレイクに最適な「Good & New」や「取説」など、明日から実践できる小さな取り組みを紹介。
- 失敗しないための注意点:「ぬるま湯」化や「強要」など、よかれと思ってやってしまう3つのNGパターンを回避。
「心理的安全性(Psychological Safety)が組織に重要なのは理解したものの、具体的に何をすればいいのかわからない」
「人事制度を変えるのは難しいが、現場のチームだけですぐできることはないか?」
組織改革やチームビルディングを進める中で、このように「具体的なアクション」が見つからず、足踏みをしてしまうリーダーは少なくありません。
この記事では、メルカリやGoogleなどの先進企業が実践する具体的な取り組み事例を、組織の「課題別」に9選紹介します。さらに、「会社全体の制度(人事決裁が必要)」なのか、「現場の工夫(明日からリーダーができる)」なのかを区別しました。
お読みいただければ、チームの権限と課題に合った「最初の一手」を見つけられることでしょう。しかし、単に事例を真似るだけでは、現場の反発を招く恐れがあります。その理由も含めて解説します。
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心理的安全性とは?

心理的安全性とは、チームメンバーが対人関係のリスク(無知、無能、ネガティブ、邪魔だと思われる不安)を恐れることなく、安心して発言・行動できる組織の状態を指します。
しかし、「仲が良い」「居心地がよい」だけの「ぬるま湯組織」とは異なります。
目指すべきゴールは、高い基準の仕事に取り組みながら、健全な意見の衝突(ヘルシー・コンフリクト)が許容される「学習する組織」です。心理的安全性はあくまで成果を出すための「土台」であり、それ自体が目的ではありません。
心理的安全性の詳しい定義や「ぬるま湯組織」との決定的な違い、高めるための基本手順については、以下の記事で解説しています。まずは概念を正しく理解したい方は、こちらをあわせてご覧ください。
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【課題別】心理的安全性を高める企業の実践事例9選

企業が実践する心理的安全性向上の取り組みは、主に「感謝・称賛」「主体性」「対話」「学習」「多様性」の5つの課題領域に分類されます。
自社の課題に近く、かつ導入可能なレベル(制度or現場)の施策を参考にしてみてください。
ただし、制度の名称だけを導入しても、組織の「土壌」が整っていなければ機能しないことに注意が必要です。
【課題別】取り組み事例一覧
【課題別】取り組み事例一覧
| カテゴリ | 解決したい課題 | 企業名:施策名 | 導入レベル |
|---|---|---|---|
| ① 感謝・称賛 | 貢献が見えにくく孤立感がある | メルカリ:メルチップ | 【制度】 |
| Phone Appli:サンクスカード | 【制度/現場】 | ||
| ② 主体性 | 評価への不満・やらされ感 | カヤック:ぜんいん人事部 | 【制度】 |
| ③ 対話 | 信頼関係不足・対話不足 | LINEヤフー:1on1ミーティング | 【現場】 |
| 味の素AGF:ふるまいcheck | 【制度/現場】 | ||
| 静岡鉄道:「心理的安全性の向上プロジェクト」「しずてつ仲間図鑑」 | 【現場】 | ||
| ④ 学習 | 失敗の隠蔽(いんぺい)・責任追及 | Google:ポストモーテム | 【現場】 |
| ⑤ 多様性 | 世代間ギャップ・発言の偏り | 資生堂:リバースメンタリング | 【制度/現場】 |
| 三井金属:働きがい改革 | 【制度/現場】 |
①【感謝・称賛】承認を可視化する仕組み
リモートワークや分業化が進む中で、「だれが何をしているかわからない」状況は心理的安全性を低下させます。
株式会社メルカリ「メルチップ(Mercari Chip)」 【制度】
チャットツール上で、従業員同士が感謝の言葉とともに一定額のインセンティブ(成果給のようなポイント)をリアルタイムで送り合う「ピアボーナス」制度です。
- 結果:成果が見えにくいバックオフィスの業務も、仲間からの感謝によって可視化・評価される文化が醸成され、従業員エンゲージメントが高まりました[1]。
Phone Appli「サンクスカード」 【制度/現場】
デジタルツールを用いて、「ありがとう」のメッセージカードを送り合う仕組みです[2]。
- 結果:組織内の「感謝の総量」を増やして認め合う組織風土を育み、社員どうしの心理的安全性や働くことへの幸福度を高めます。
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②【主体性】評価と役割への納得感を高める
「上司に評価されるだけ」という受動的な意識を脱却する施策です。
面白法人カヤック「ぜんいん人事部」 【制度】
全社員の名刺に「人事部」の肩書きを入れ、採用活動に主体的に関わり全社員がアドバイスを相互に行い合う制度です。
- 結果:「会社が採用した人」ではなく「自分たちが選んだ仲間」という意識が芽生え、新人のサポートやチームづくりに対する主体的な関与が生まれ、「自分たちが会社をつくっている」という意識を持って動けるようになりました[3]。
③【対話】相互理解を深めるコミュニケーション
業務連絡だけの関係では、いざというときに本音を話せません。日常的にコミュニケーションしやすい環境づくりをすることが大切です。
LINEヤフー「1on1ミーティング」 【現場】
週1回30分など、高頻度で実施する上司と部下の対話です。業務進捗管理ではなく、部下の「経験学習」と「内省」を支援する時間として定義されています。
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味の素AGF「ふぅるまいcheck」 【制度/現場】
上司としての「ふるまい」を「明るく風通しの良い・議論し合える・チャレンジし続ける組織づくり」の観点からメンバーがフィードバックし、よりよいマネジメントスタイルを探求しています。
- 結果: 同社の組織風土改革の取り組みの一つ。メンバーが上司にフィードバックできるため、風通しの良い環境につながります[6]。
静岡鉄道「心理的安全性の向上プロジェクト」「しずてつ仲間図鑑」【現場】
社員の社歴や担当業務、趣味、夢などを社内イントラで公開し、趣味や出身校などでつながれるような仕組みをつくりました。
- 結果:別の部署メンバーとも話題のきっかけが生まれやすいため、各社員が相互理解を深めお互いに助け合う風土が生まれ、離職率が劇的に改善されました。さらに「心理的安全性」という言葉が社内で広く認知されるようにもなりました[7]。
④【学習】失敗を資産に変えるプロセス
失敗を「処罰の対象」から「学習の機会」へ変える仕組みです。
Google「ポストモーテム(事後検証)」 【現場】
システム障害などのトラブル発生時に、「だれがやったか(Who)」を一切追及せず、「なぜ起こったか(Why)」「どう仕組みで防ぐか(How)」のみを議論する振り返り会議です。
⑤【多様性】世代・文化の壁を越える
特定の属性だけが発言権を持つ状態を解消します。
資生堂「リバースメンタリング」 【制度/現場】
若手社員が「メンター」となり、役員やベテラン社員にITトレンドやZ世代の価値観を教えたり意見交換したりする制度です。
- 結果:ベテラン側が「教わる姿勢(「無知の知」を認める謙虚さ)」を見せることで、若手が意見を言いやすいフラットな関係性が構築されます[10]。
三井金属「働きがい改革」【制度/現場】
「共に働く相手を尊重し、安心して働ける環境をつくること」を目指し、組織の状態を見える化。その上でダイバーシティマネジメント研修やアンコンシャス・バイアス研修、LGBTQ+講習会などを開催してマネジメントスキルを高めています。
明日からチームですぐ使える!小さな取り組み

大掛かりな人事制度の導入が難しくても、チーム単位で明日から実践できる施策は数多く存在します。会議のアイスブレイクや日常の習慣に取り入れやすいものを厳選しました。
【即実践】小さな取り組み・ゲーム一覧
【即実践】小さな取り組み・ゲーム一覧
| 取り組み名 | 所要時間 | 期待できる効果 |
|---|---|---|
| Good & New | 1人1分 | 会議の空気をポジティブにする・発言ハードル低下 |
| 私の取扱説明書 | 30分〜 | 業務上のコミュニケーション特性を共有し、摩擦を減らす |
| 実は私… | 1人2分 | 自己開示を促進し、相互理解を深める |
| あいさつと傾聴 | 毎日数秒 | 「承認」と「安心感」を醸成する基礎づくり |
会議のアイスブレイクに最適「Good & New」
24時間以内にあった「良かったこと(Good)」や「新しい発見(New)」を、会議の冒頭に1人1分程度で発表し、周りは拍手で受け入れるというシンプルなワークです。
会議のアイスブレイクに「Good & New」が最適な理由
人間にはネガティブな情報に反応しやすい「ネガティビティ・バイアス」があります。
Good & Newを実践することで良い出来事を探す習慣が身に付き、ネガティビティ・バイアスを意識的にポジティブな方向へ向けることが可能です。
また、会議冒頭で「全員が一度声を発する」ことで、その後の議論への参加ハードルを物理的に下げる効果があります。
相互理解を深める「私の取扱説明書」と「実は私…」
メンバーの意外な一面や特性を知ることで、心理的な距離を縮めるゲームです。
私の取扱説明書(ユーザーマニュアル)
「得意なこと」「苦手なこと」「してほしいコミュニケーション」「地雷(触れてほしくないこと)」などを書き出し、チームで共有します。
効果としては、「なぜあの人はあんな言い方をするのか?」という不信感が「そういう特性だからだ」という客観的な理解に変わり、対人関係の摩擦が激減します。
実は私…
「実は私、〇〇なんです」という意外な一面(例:「実は昔、バンドでドラムをやっていました」など)をカミングアウトし合うゲームです。
効果としては、業務以外の共通点や意外性(人間味)を知ることで親近感がわき、仕事上の相談もしやすくなります(ザイオンス効果※の応用)。
※ザイオンス効果:米国の心理学者ロバート・ザイオンスがまとめた理論(何度も見たり聞いたりするうち、次第に良い感情が芽生えてくるという心理効果。単純接触効果とも呼ばれる。)
マネージャーができる毎日の「あいさつ」と「傾聴」
制度やゲーム以前に、リーダーの日常的な行動こそが心理的安全性をつくる最大の施策です。
- 自分からあいさつ:相手の反応や視線を待たず、自分から目を見て名前を呼んで「〇〇さん、おはよう」とあいさつします。
- 傾聴(アクティブ・リスニング): 部下が相談に来たら、PCから手を離して体を相手に向け、話をさえぎらずに最後まで聴きます。
- 環境づくり: 物理的に「話しかけやすい席配置」にする、オンラインなら「雑談用の常時接続ルーム」を用意するなど、対話が発生しやすい環境(場)を整えることも重要です。
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失敗事例に学ぶ!取り組みが「逆効果」になるNGパターン

心理的安全性への取り組みで最も多い失敗は、目的を履き違えて組織を弱体化させてしまうことです。
特に以下の3つの「NGパターン」は、よかれと思って陥りやすいため注意が必要です。
取り組みのNGパターンと対策
取り組みのNGパターンと対策
| NGパターン | 陥りやすい状態 | 正しい対策の方向性 |
|---|---|---|
| ① ぬるま湯化 | 嫌われたくなくて厳しいことを言わない | 成果への基準(Performance)は高く保つ |
| ② 強要 | 上司が「何でも言え」と迫る | まず上司が弱みを見せる(自己開示) |
| ③ 異論排除 | ポジティブな意見しか許されない | 率直な批判や反対意見こそ歓迎する |
NG1:「ぬるま湯(Comfort Zone)」化してしまう
「メンバーに嫌われたくない」という思いから、厳しいフィードバックや高い目標設定を避けてしまうと、組織は単なる「ぬるま湯」になります。
- 対策:心理的安全性は「対人関係のリスク」を下げることであり、「仕事の基準」を下げることではありません。目標へのコミットメントは維持し、成果に対する厳しさは手放さないようにしてください。
NG2:上司が「心理的安全性」を強要してしまう
「心理的安全性が大事だから、何でも言っていいぞ(ただし俺が許す範囲で)」という態度は、かえって部下を萎縮させます。
- 対策:リーダーが「言わせる」のではなく、まずリーダー自身が「自分は完璧ではない(無知の知)」を認め、失敗談や弱みを開示することから始めましょう。「上司も失敗する」という事実が、部下の発言へのハードルを下げます。
NG3:批判やネガティブな意見を排除してしまう
「心理的安全性=誰も傷つかないこと」と誤解し、「ポジティブな発言しかしてはいけない」という空気をつくってしまうと、問題解決が遅れます。
- 対策:「ラディカル・キャンダー(徹底的な率直さ)」を目指しましょう。相手を人間として深く気遣いながらも、業務上の課題については「反対意見」や「批判」をはっきりと言う文化が重要です。
心理的安全性を測る方法とKPI設定

施策は「やりっぱなし」にせず、定期的に測定して改善サイクルを回すことが重要です。
エドモンドソン教授の「7つの質問」で診断
ハーバード・ビジネス・スクールのエドモンドソン教授が提唱した、チームの状態を数値化する世界標準の指標です。「チーム内でミスをすると非難されることが多い」「チームの他のメンバーに課題を指摘し合える」などの7項目で測定します。
※具体的な7つの質問項目や、それを用いたチェックリストの使い方については、以下の記事で詳しく紹介しています。
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施策の効果を測る指標(KPI)
アンケート診断以外にも、以下のような客観的指標の変化をモニタリングすることで、心理的安全性の高まりを推測できます。
- 離職率(特に新人・若手): 定着率は心理的安全性のもっとも顕著なバロメーターです。
- バッドニュースの報告速度:トラブルやミスの報告が以前より早くなっていれば、心理的安全性は向上しています(処罰への恐怖による隠蔽が減った証拠です)。
- 発言の分散度:会議で特定の人(上司など)だけが話していないかを確認します。全員の発言量が均等に近づくほど健全な状態といえます。
まとめ:小さな「遊び心」と「仕組み」から始めよう
心理的安全性は、高尚な理念を掲げるだけでは醸成されません。少しの遊び心やコミュニケーションせざるを得ない「仕組み」を取り入れることで、メンバーの行動は自然と変わっていきます。
重要なのは、一度にすべてを変えようとしないことです。
まずは自社の課題に合わせ、ご紹介した事例の中から「これなら明日できそう」と思うものを一つ選んで試してみてください。
その小さな変化の積み重ねが、やがて「安心して意見を述べ合える」強固な組織文化へと成長していくはずです。
組織の心理的安全性向上や、より専門的な研修・施策の導入にお悩みの際は、ぜひ合同会社SUGARにご相談ください。医学的・経営的視点の両面から、御社の課題に合わせたサポートをいたします。
会議ですぐにできる心理的安全性の取り組みは?
会議の冒頭で24時間以内の良かったことを共有する「Good & New」や、互いのコミュニケーション特性を共有する「私の取扱説明書」などのアイスブレイクが有効です。発言のハードルを下げ、場の空気をポジティブにする効果があります。
心理的安全性を高める取り組みが「ぬるま湯」にならないためには?
心理的安全性とは「対人関係のリスク」を下げることであり、「仕事の基準」を下げることではありません。高い目標や規律を維持し、健全な衝突(率直な意見交換)を歓迎する文化を作ることが重要です。
心理的安全性の取り組みにおける失敗例は?
よくある失敗として、「批判やネガティブな意見を排除して表面的な仲良しクラブになってしまう」「上司が『何でも言え』と強要して部下が萎縮してしまう」といったケースがあります。
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参考文献
[1] mercan: メルカリのピアボーナス制度「メルチップ」、メッセージ累計数が100万を突破しました〜!
[2] Wantedly: 感謝を”おくりあう”文化がPHONE APPLIをより良くしている話
[3] 面白法人カヤック: 制度・行事
[5] 本間 浩輔: ヤフーの1on1 部下を成長させるコミュニケーションの技法
[7] 静岡鉄道株式会社 新卒採用サイト: 心理的安全性の向上プロジェクト – プロジェクト紹介
[8] Google: re:Work:イノベーションが生まれる職場環境をつくる
[9] Google SRE Book: Postmortem Culture
[10] 資生堂: 多様なプロフェッショナル人財
[11] 三井金属: ダイバーシティ&インクルージョン[12]DE&IIと働きがい改革の推進









