心理的安全性とは?注目される背景や組織にもたらす効果を解説
「心理的安全性」という言葉を耳にしたことはありますか?「チームの中でメンバーが気兼ねなく自由に発言したり行動したりできる雰囲気」を指します。
健康経営につながりのある概念で、チームの生産性を高める重要な要素の一つです。2015年、米Google社が発表した言葉として、近年非常に注目されています。
心理的安全性について、もっと詳しく知りたいという方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、心理的安全性が注目されている背景や組織にもたらす効果、測定方法について解説します。
健康経営に関心のある企業の経営者や人事部の方は、ぜひ最後までお読みください。
心理的安全性とは?
「心理的安全性」は、英語では「サイコロジカルセーフティ(psychological safety)」と言い、ビジネスに関する心理学用語の一つです。
この言葉が生まれた経緯や定義についてみていきましょう。
エイミー・エドモンドソン氏が提唱
心理的安全性という概念は、ハーバード大学で組織行動を研究するエイミー・エドモンドソン教授が1999年に提唱したのが最初です。
エドモンドソン氏は心理的安全性の定義について、「このチーム内では、対人リスクを取っても安心できるという共通の思い」と説明しています。
すなわち、チームのメンバー同士ではどのような発言をしたとしても、メンバーに拒絶されたり自分が恥じたり、メンバー同士の関係性が壊れることがないと確信を持つことができ、安心して意見を述べることができる場所であるとメンバー間で共有された状態のことです。
エドモンドソン氏が心理的安全性の重要性に気付いたのは、病院で医療ミスの発生頻度について調査をした時です。心理的安全性が高いチームの方がミスの報告が多い結果となり、エドモンド氏はそれについてスピーチフォーラム「TED」で発表しています。
参照:Amy Edmondson「Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams」(1999)
ぬるま湯組織とは違う
心理的安全性が高い組織というと、いわゆる「ぬるま湯」の組織と同じではないかと勘違いする人も少なくありません。
たしかに、ぬるま湯組織は緊張感がなく居心地がいいかもしれません。しかし、心理的安全性の高い組織とは異なります。
心理的安全性の高い組織では、メンバーが自分の発言によって人間関係が悪くならないと確信しているので、自由に意見交換をすることができ、対立しても恐れを感じません。また、お互いに成長しようという意識が高く、イノベーションも生まれます。
一方、ぬるま湯組織は、対立することを恐れて意見交換をせず、空気を読みすぎて人と異なる意見を発言せず、成長意識が低いチームとなります。表面的には仲が良く穏やかな組織に見えますが、生産性の向上が見られない組織となるでしょう。
心理的安全性が注目されるようになった背景
次に、近年、心理的安全性が注目されている背景として、米Google社のプロジェクトを紹介します。
米Google社の「プロジェクト・アリストテレス」
2015年、米Google社が「心理的安全性は効果的なチームをつくる最も重要なもの」と発表し、心理的安全性という言葉が広く注目されるようになりました。
米Google社は2012年から約4年間、「プロジェクト・アリストテレス」という調査プロジェクトで、エンジニアや営業などの職種を含む180チームを対象に、生産性の高い効果的なチームの条件を調査しました。
調査の結果、チームの生産性の向上には「だれがメンバーであるかより、チームがどのように協力し合って仕事に取り組んでいるか」の方が重要ということが判明しました。
チームの効果性に影響する要素
プロジェクト・アリストテレスは、効果的なチームをつくる条件(因子)について、以下の5つの要素であると発表しました。その中でも、「心理的安全性」が最も重要だということがわかりました。
- 心理的安全性:「チームの中でミスをしても非難されることはない」と安全を感じられること
- 相互信頼:「チームメンバーは引き受けた仕事は最後までやってくれる」と信じられること
- 構造と明確さ:「チームには、有効な意思決定プロセスがある」と感じられること
- 仕事の意味:「チームのために行っている仕事は、自分にとっても意義がある」と感じられること
- インパクト:「チームの成果が、組織の目標達成にどう貢献するかを理解している」と感じられること
心理的安全性が低い組織での4つの不安
心理的安全性の低い組織に所属するメンバーにみられがちな4つの不安について、エドモンドソン氏がTEDで触れています。4つの不安とは何か、そして組織に与えるデメリットは何かを解説します。
- 無知と思われる不安
- 無能と思われる不安
- 邪魔をしていると思われる不安
- ネガティブと思われる不安
不安➀無知と思われる不安(Ignorant)
組織の人たちに「そんなことも知らないのか」と思われないか不安になることです。そのため、業務上のわからないことを質問したり相談したりすることができなくなってしまい、チームのメンバーとのコミュニケーションが希薄になってしまいます。
不安②無能と思われる不安(Incompetent)
業務上の失敗をしたとき、「そんなこともできないのか」と思われないか不安になることをいいます。そのような不安がある環境では、自分のミスや弱点を認めなくなったり、失敗を隠したりするようになり、結果的に組織として隠ぺいなど大きなトラブルにつながってしまうことがあります。
また、失敗を恐れるあまり新しいことへの挑戦がしにくい組織となるでしょう。今までのやり方を踏襲する風土が根付き、イノベーションが生まれにくい組織になりかねません。
不安③邪魔をしていると思われる不安(Intrusive)
ミーティングなどの場で自分が発言することによって、「この人は邪魔をしている」と思われてしまわないか不安になることです。そのため、発言や提案を控えるようになり、新しいアイデアを出す人も少なくなってしまいます。
また、組織で本音が言えなくなり、良いチームワークが形成されなくなってしまう恐れがあります。
不安④ネガティブと思われる不安(Negative)
改善のための意見を発言しようと思っても、「あの人はいつも反対ばかりする」と思われるのではないかと不安に感じることをいいます。そのような不安があるため、人の顔色をうかがい状況の空気を読みすぎて、建設的な意見を出すことができなくなります。
このような不安を抱えるメンバーが多い組織では、組織として成長しない可能性がおおいにあるでしょう。
心理的安全性が組織にもたらす5つの効果
心理的安全性が組織にもたらす効果は多々あります。主な効果5つをみていきましょう。
- メンタルヘルスの向上
- 人間関係が良くなり、ハラスメントが減少
- パフォーマンスが向上し、生産性も向上
- アイデアが生まれ、イノベーションが期待できる
- ワーク・エンゲージメントが高まる
効果①メンタルヘルスの向上
心理的安全性が高いと、メンバーが安心して仕事に集中できる状態が生まれます。何かに夢中になると脳内神経伝達物質であるドーパミンの分泌量が増え、仕事へのストレスが減ります。
ストレスが軽減すれば、笑いやユーモアが生まれ、一人ひとりが「ありのまま」で受け入れられるため、メンタルヘルスも向上することが期待できます。
メンバー同士のコミュニケーションも活発になるため、心身の不調を感じるメンバーがいる場合も、リーダーがメンバーの不調に早めに気付き速やかに対応することができるでしょう。
効果➁人間関係が良くなり、ハラスメントが減少
心理的安全性が高い組織では、リーダーに対して意見を率直に発言しても非難される恐れがないため、チーム内のコミュニケーションが増えます。お互い協力し合う雰囲気も生まれるため、人間関係がよくなり、ハラスメントも起こりにくくなるでしょう。
効果③パフォーマンスが上がり、生産性も向上
心理的安全性が高い組織では、風通しが良いため、個々の強みが発揮されやすいでしょう。一人ひとりのパフォーマンスが上がれば業務効率が上がり、組織全体の生産性向上も期待できます。
効果④アイデアが生まれ、イノベーションが期待できる
組織に心理的安全性があれば、発言を拒否される心配がないため、メンバー同士の対話が活性化します。そのため、情報も共有されやすくなります。
良好なチームワークが築かれると新しいことにも挑戦しやすい環境になるため、さまざまなアイデアが生まれ、イノベーションが期待できます。
効果⑤ワーク・エンゲージメントが高まる
心理的安全性の高い組織では、ワーク・エンゲージメントが高まります。
ワーク・エンゲージメントは、「仕事から活力を得て生き生きとしている」(活力)、「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)の3つがそろう状態として定義されています。
ワーク・エンゲージメントが高まれば、自ずと離職率が減少し定着率アップにもつながるでしょう。
参考:厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」
組織の心理的安全性を測定する方法
心理的安全性が高い組織では、さまざまな効果がもたらされることについて解説してきました。では、自身のチームの心理的安全性の高さがどのくらいなのかを知りたいと思う方も多いのではないでしょうか。
心理的安全性の提唱者であるエドモンドソン氏は、チームの心理的安全性がどの程度かを調べる2つの方法があるといいます。実際にチェックしてみましょう。
7つの質問
1つ目の測定方法は、下記の7つの質問に回答し度合いを見極める方法です。
- もしこのチームの中でミスをしたら、責められることが多い
- このチームのメンバーは、難しい課題を指摘し合える
- このチームの人たちは、自分と異なるということを理由に時には他者を拒絶するく
- このチームでは、リスクを取っても安全である
- このチームの他のメンバーには助けを求めることが困難である
- このチームのメンバーは誰も、私の努力を意図的に侵害するような行動をしない
- このチームのメンバーと仕事をするとき、私個人のスキルと才能が評価され、活用されている
7つの質問に対してポジティブな回答が多いほど、心理的安全性を感じている状態だといえます。チームのメンバー全員がポジティブな回答が多ければ、心理的安全性が高いチームといえるでしょう。
3つのサイン
2つ目の測定方法は「3つのサイン」です。心理的安全性が高いチームは、以下の3つのサインが見られます。
- ポジティブな発言が多い
- ミスや問題についても話す機会が多い
- 職場に笑いとユーモアがある
まとめ:心理的安全性の高い組織は、成長とイノベーションを生み出す
心理的安全性が高い組織を、ぬるま湯組織と間違わないようにしましょう。ぬるま湯組織は、表面的には仲が良く穏やかな組織に見えますが、空気を読みすぎて人と異なる意見を発言せず、成長意識が低いチームとなります。
一方、心理的安全性の高い組織は、メンタルヘルスが向上しハラスメントが減少します。また、安心して仕事に取り組むことができ個々のパフォーマンスが発揮され、さまざまなアイデアが生まれ、成長とイノベーションを生み出します。心理的安全性を高めるためには、リーダー自ら率先して取り組むことが大切です。
心理的安全性の高い組織をつくる具体的な方法、心理的安全性の高い組織づくりに取り組んでいる企業の事例については、こちらの記事をご覧ください。
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