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傾聴とは?職場に取り入れるメリットやトレーニング方法を解説

傾聴は、カウンセリングやコーチングなどで用いられるコミュニケーション技法ですが、ビジネスシーンでも役立つスキルとして注目されています。

傾聴の基本は、「聞く」ではなく「聴く」姿勢です。「聞く」は特別意識をせず話が耳に入ってくる状態で、場合によっては聞き流すこともできます。一方、「聴く」は人の話に耳を傾け、話し手の意図や感情を注意深く理解し、共感的に「聴く」ことです。
本記事では、傾聴の基本的な概念から職場での活用方法、職場にもたらすメリット、傾聴力を高めるためのトレーニング方法について具体的に解説します。職場に取り入れる具体的な方法も紹介していますので、ぜひ最後までお読みください。

傾聴とは?

傾聴とは?

傾聴について、定義と目的、経済産業省が定義づけた「社会人基礎力としての傾聴」についてみていきましょう。

定義と目的

「傾聴」は、米国の心理学者でカウンセリングの父と呼ばれるカール・ロジャーズ(Carl Rogers)が1957年に提唱した「アクティブ・リスニング」に基づくコミュニケーションの姿勢です。

傾聴とは、相手の話をただ聞くだけではなく、相手の話すことを否定せず、耳も心も傾けて話を「聴く」ことです。相手に関心を持って、感情や意図を理解しようとする姿勢を示すことが求められます。

傾聴することで、聞き手側は相手の内に込められた思いをくみ取り、相手を深く理解することができるようになります。

一方、話し手側も共感的に話を聴いてもらうことで、自分を受容されたと感じ、自己肯定感を高めたり、自ら気付きを得たりすることができます。

傾聴の目的は、カウンセリングやコーチングはもちろん、日常やビジネスの場に取り入れ、より良い人間関係や信頼関係の構築につなげることです。

社会人基礎力としての傾聴

2006年、経済産業省が「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」を「社会人基礎力」として提唱しました。

社会人基礎力とは、「前に踏み出す力(アクション)」「考え抜く力(シンキング)」「チームで働く力(チームワーク)」の3つの力(12の能力要素)からなります。

傾聴は「相手の意見を丁寧に聴く力」と定義され、「チームで働く力」に位置付けられています。つまり、多様な人々と一緒に働く上で重要な力とされています。

参照:経済産業省「人生100年時代の社会人基礎力」

傾聴の三原則

傾聴の三原則

ロジャーズは、自らがカウンセリングを行った多くの事例を分析し、カウンセリングがうまくいった事例に共通していた、聴く側に必要な3つの要素をまとめました。これを、ロジャーズの三原則といいます。

原則➀共感的理解

原則の1つ目は「話し手の立場に立って、話し手の気持ちに共感しながら理解しようとすること」です。

自分の考えを押し付けたり、「ふつうは……ですよね」のような表現はNGです。また、共感は同情することではなく、相手の気持ちに寄り添うことです。

原則②受容(無条件の肯定的関心)

原則の2つ目は「話し手の話を善悪や好き嫌いで評価せず、なぜそのように考えるのか、肯定的な関心を示して聴くこと」です。

たとえば、自分の価値観で「良い」と感じるから相手を認めるのではなく、無条件にありのまま相手の存在を尊重することです。

原則③自己一致

原則の3つ目は「話し手の話す内容を正しく理解することが大事。話し手の言葉の奥にある意味を把握しようとする姿勢で聴くこと」です。

自分の感じていることと相手に対して表現していることが矛盾なく一致していることが大切です。わかったふりや共感しているふりをする、相手に良い人と思われようとして肯定しているふりをするなどの行為は、傾聴の姿勢とはいえません。

誠実、素直、正直ということが傾聴の基本的な姿勢です。

参照:厚生労働省「傾聴とは こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」 

職場での傾聴の活用方法

職場での傾聴の活用方法

ビジネスの場面で傾聴を活用することは効果があるとされていますが、具体的にどのような場面で生かすことができるかをみていきます。

部下のマネジメントの改善

部下をもつ上司は、日々の業務指導など、部下とコミュニケーションを取る場面が多くあります。部下とのコミュニケーションが難しいと悩んでいるマネジメント層も多いのではないでしょうか。

マネジメントをするにあたって、部下との間に良い関係性を築くことが大切です。傾聴を取り入れることで信頼関係が構築でき、部下の本音を聴くことができるようになります。

これによって、部下は意見やアイデアを発信しやすくなり、業務や経営の改善、イノベーションにつながる可能性があります。

チームワークの強化

傾聴によって人間関係が良好になればチームワークの強化につながり、企業にとっても大きなメリットとなります。

傾聴によってお互いの話を尊重し合う雰囲気ができれば、安心感のある職場となり、チームでお互い報告・連絡・相談をするようになります。また、話しやすい人間関係のある職場では、連絡ミスが減り、チームのパフォーマンス向上にもつながるでしょう。

クライアントとの良好な関係の構築

傾聴は顧客との関係構築にも役立ちます。たとえば、クライアントとの商談で相手が何を求めているのかを傾聴によって把握し適切な提案をすることで、担当者ひいては自社への信頼が上がるでしょう。

また、消費者と直接やり取りする機会の中で、言葉の裏にあるニーズを聞き出すことで、新たなビジネスチャンスが見つかるかもしれません。

職場に傾聴を取り入れるメリット

職場で傾聴を行うことにはメリットがあります。傾聴を実践することで次のような効果を得ることができます。

  • 信頼関係を築きやすい
  • 業務が円滑に進む
  • 自己理解を深める手助けとなる
  • 相手の立場や気持ちを理解しやすくなる

メリット①信頼関係を築きやすい

人が自分の話を真剣に聴いて理解してくれることで、信頼関係が築かれます。信頼があると、コミュニケーションが円滑に進み人間関係にもゆとりと絆がつくられていきます。

また、信頼関係が築かれるとストレスの減少や健全な職場環境の構築につながります。信頼関係を基盤としたコミュニケーションが図れる職場では、プレゼンティーズムやアブセンティーズムの改善にもつながるでしょう。

関連記事:プレゼンティーズムとは?健康経営に向けた企業の改善策を解説

メリット②業務が円滑に進む

信頼関係が構築されると、自分の考えを肯定してくれるという安心感が生まれるため、仕事の報連相がスムーズになります。困難な課題や問題も遠慮なく共有できるようになるので、ミスやトラブルの予防にもつながります。

結果的に、業務が円滑に進むようになり、生産性向上にもつながります。さらに、社内のチーム連携が強まり、新しいアイデアも生まれ、新規プロジェクトの推進にもつながるでしょう。

メリット③自己理解を深める手助けとなる

信頼できる人に自分の考えや感情を語ることで、混乱していた考えや気持ちを整理しやすくなるでしょう。聴き手が肯定的に共感的に相手を受け入れることで、話し手の自己理解が深まります

このようなプロセスを通じて、新たな気付きを得て、問題解決や成長につながることが多々あります。さらに、自己肯定感も高まり、自信を持って前に進むことができるようになるでしょう。

メリット④相手の立場や気持ちを理解しやすくなる

話し手は、相手の立場に立って相手の視点で話を聴くことができるようになります。傾聴のプロセスを通して、人にはそれぞれの事情があるということを知り、相手の状況や気持ちを深く理解できるようになります。そして、他者理解力や共感力が高まるでしょう

お互いの状況や背景を理解したり価値観の違いを認め合って、助け合えるチーム環境が構築されるでしょう。

傾聴力を高めるためのトレーニング方法

傾聴力を高めるためのトレーニング方法

傾聴力を向上させるにはどうすればよいのでしょうか。以下のトレーニングを組み合わせて練習することで傾聴スキルを磨くことができます。職場でトレーニングをしたり、日常会話の中で練習してみましょう。

  • ロールプレイング
  • 表情と非言語コミュニケーション
  • 声のトーンとリズム
  • 傾聴技法の活用

①ロールプレイング

傾聴スキルを身に付けるには、人材育成研修やコミュニケーション研修の一環としてロールプレイングを行うことが有効です。本を読むだけでは実践につながりにくいので、実際に傾聴を体験することが大事です。

ロールプレイングは、たとえば、聴き手、話し手、オブザーバー(観察者)の三役を設定し、実際の会話をシミュレーションする方法があります。

ふだんの会話とは異なり、集中して人の話に耳を傾けることは最初は難しく感じることでしょう。しかし、練習を繰り返すことで、徐々に傾聴スキルが身に付いていきますので、あせらず取り組んでいきましょう。

➁表情と非言語コミュニケーション

自然な笑顔や穏やかな表情を保つことで、相手は安心感を感じます。話を真剣に聴いていても怖い顔をしていたり無表情のままなら、相手は委縮してしまいます。しかし、笑顔も急にできるものではありません。自然な笑顔を身に付けるには、ふだんから表情筋のトレーニングをするとよいでしょう。

表情だけでなく視線や姿勢など非言語のメッセージも大事です。相手に関心を持って話を聴いている態度を示すことも重要です。また、腕組みや足を組んで聴くと相手への拒絶を表してしまうので、気を付けてください。

③声のトーンとリズム

相手の話に合わせた声のトーンとリズムで話すことで、相手が話しやすくなります。基本的には、落ち着いた優しい声のトーンの人と話すと気持ちが落ち着きますが、相手のペースに合わせて声を調整して、話し手が自分のペースで話すことができるように工夫しましょう。

④傾聴技法の活用

傾聴には技法(テクニック)があります。傾聴技法を使うことで、相手の話により深く共感しながら聴くことができます。

技法➀受容(うなずき・あいづち)

「うん、うん」とうなずいたり、「そうなんですね」「なるほど」などとあいづちを入れたりしながら話を聴くと、話し手は自分の話を真剣に聴いてくれていることを感じることができ、安心して話せます。

しかし、うなずきやあいづちにもタイミングがあります。適切なタイミングで取り入れましょう。

技法②繰り返し

相手の言葉を繰り返すことで、相手の意図を確認し共感を示します。話し手が語る言葉の中で重要なキーワードを伝え返します。たとえば、「○○さんのことでもやもやするんです」と言えば、「そうなんですね。○○さんのことでもやもやするんですね」とそのまま繰り返すことが大事です。

オウム返しをしているだけのように見えますが、相手の話を集中して聴いていないとできない技法です。

技法③適切な質問

相手の話を聴いてわからないことがあるときには、そのまま話を聞き流さないで質問をしましょう。また、話し手の言いたいことを引き出すためにも、適切な質問をすることが大事です。

質問には、「はい」「いいえ」で答えられる閉じた質問と、5W1Hで質問する開かれた質問があります。相手が自由に話せるよう、開かれた質問を心がけることが有効ですが、両方の質問を織り交ぜながら使いましょう。

技法④話の要約

ある程度まとまった話が出たタイミングで、要点をまとめて伝え返すことです。

たとえば、次のように伝えます。「ここまでお話を聞かせていただいて、たいへんなのは一つは○○のこと。もう一つは△△のことだと理解しました。それで間違いないでしょうか」。

しかし、このとき話し手の世界観を崩さないように気を付けましょう。聴き手側の視点から見えるストーリーを話すのではなく、あくまで話し手に見えている世界をまとめるよう気を付けてください。

技法⑤感情の反映、感情の明確化

話し手の感情が込められた言葉に焦点を当てて、話の背景や状況を理解し、話し手が抱いた感情を受け止め、共感的に伝え返しましょう(感情の反映)。たとえば、「○○や△△に悩んでいて、先が見えないと言ったらいいのか……」と語った場合、「○○や△△に悩んでいるのですね。先が見えない感じで」のように問いかけてみるなどです。

また、話し手の明確な言葉にされていない感情や非言語的な態度に表れている意味を、できるだけ明確な言葉や表現にして相手に伝え返す「感情の明確化」という技法もあります。たとえば、下記のようなやりとりです。

話し手「今の状況を上司に理解してもらわなければならないのですが、まだ伝えていないのです」

聴き手「上司に伝えることをためらう気持ちがあるようですね」

話し手「そうなんです。実は、上司は理解してくれる人ではないと思っていて」

技法⑥沈黙

話しながらどう話したらいいか迷ったり、ふと悲しいことを思い出したりして、沈黙になることがあります。聴き手は、沈黙が続くと「何か話さなくては」とあせり、次々と質問をしたり、ときには無関係な話を持ち出してしまったりすることがあります。

話し手が沈黙になるときは、ただ黙って寄り添ってほしいと感じていることが少なくありません。話し手の沈黙が続いても、落ち着いて心に寄り添いましょう

⑤注意点

傾聴する際にやってはいけないこともみておきましょう。話し手の話を途中でさえぎらない、自分の意見と異なっていても批判しない話の腰を折らない、自分の価値観でアドバイスをしないなどに注意してください。あくまで、解決は話し手本人が導き出すものです。

また、相手が心を開いて話してくれたことは、個人情報として他言しないことが鉄則です。人に話が伝わってしまったことが知られると、せっかく築かれた信頼関係を失いかねません。ただ、心身の不調や自殺念慮を訴える人がいるようなときは、その人のサポートをするため、適切な人に報告する対応が必要になるケースもあります。自分の責任がどこまでかを見極めることが大事です。

傾聴するときだけでなく、ふだんから人に信頼される誠実な人であることが大切です。

まとめ:職場に傾聴を取り入れて、信頼関係を深め業務効率もアップ

まとめ:職場に傾聴を取り入れて、信頼関係を深め業務効率もアップ

傾聴は、ただ話を聞くだけではなく、相手の状況や気持ちを理解し、共感して寄り添うことです。傾聴を職場で活用することで、お互いの信頼関係が構築され、お互い理解し合い、助け合える職場になります。さらに、業務が円滑に進み、企業のパフォーマンス向上にもつながります。

傾聴は、練習やトレーニングにより身に付けることのできるスキルです。より良い職場にするために、傾聴を取り入れてみることをおすすめします。

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