職場の心理的安全性を高めるには?具体的な方法と企業事例を紹介
米Google社が「効果的なチームづくりの条件で最も重要なのは心理的安全性」と発表してから約10年。日本国内でも「心理的安全性」という言葉が広がり、取り組む企業も増えてきました。
取り組みによって効果的なチームをつくることができ、生産性が上がった企業もあるでしょう。一方で、取り組んでみたもののうまくいかなかったという企業もあるのではないでしょうか。
本記事では、心理的安全性の高い組織をつくる具体的な方法、実際に取り組んでいる企業の事例を紹介します。また、心理的安全性の誤解を招きやすい側面についても触れております。
健康経営に関心のある企業の経営者や人事部の方は、ぜひ参考にしてみてください。
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心理的安全性の高い組織をつくる7つの方法
心理的安全性を高めるには、チームのリーダーの役割が重要であることが、2016年に発表されたエドモンドソン氏らの研究で明らかになりました。
ここからは、組織の心理的安全性を高めるためにリーダーが取り組める7つの方法を紹介します。
- 個々の価値観を認める
- 思考も言葉もポジティブにする
- 相談しやすい環境づくり
- 1on1ミーティング
- ピアボーナス
- 傾聴
- アサーティブ・コミュニケーション
方法①個々の価値観を認める
人が集まれば、一人ひとり個性も価値観も異なっています。年齢も性別も国籍も異なります。多様性を認め、お互いの個性や価値観を尊重する関係性をつくることは大事です。
すべてのメンバーが対等に意見やアイデアを出し合える組織は、コミュニケーションも活発になり、心理的安全性が高まるでしょう。
方法②思考も言葉もポジティブにする
愚痴や不平不満などのネガティブな言葉が多い組織は、心理的安全性が低いでしょう。考え方も言葉も建設的でポジティブになるような雰囲気づくりが大切です。
仕事のミスや問題が起きた場合も、ネガティブな言葉を発するのではなく、リーダー自ら前向きな意見を出し前向きに行動することで問題も解決しやすく、チームのメンバーがポジティブな思考と行動をすることができるようになります。
方法③相談しやすい環境づくり
話しやすく相談しやすい雰囲気をつくることで心理的安全性を高めることができます。
リーダーから声かけをしたり、相手を理解し受け入れる雰囲気ができれば、リーダーやメンバーが必要なときに助けてくれる存在となり、お互いに話しやすく相談しやすい環境ができるでしょう。
方法④1on1ミーティング
1on1ミーティングは、リーダーとメンバーが定期的に1対1でミーティングを行うことです。人事評価面談とは違って、業務の話だけでなく今後のキャリアや人間関係、プライベートなことなど、何をテーマにしてもかまいません。
メンバーの話を否定せずアドバイスもせず、メンバーの成長やモチベーションアップにつなげることが目的です。
メンバーとのコミュニケーションの機会を増やし、ふだんから率直な意見を言える関係性をつくるとチーム全体の心理的安全性につながります。
関連記事:1on1ミーティングでストレス軽減できる?対話の姿勢や質問を解説
方法⑤ピアボーナス
仲間を意味するピア(Peer)と特別手当を意味するボーナス(Bonus)を組み合わせた言葉で、メンバー同士が仕事の貢献や成果に対して感謝し合い、「称賛」や「承認」を社内で共有し、少額のボーナスを贈り合う仕組みです。
感謝を言葉にするのが苦手な人も、ピアボーナスを使うことで感謝を伝えることができ、組織内に「ありがとう」の連鎖が広まり、ポジティブな雰囲気になるメリットがあります。
リーダーからメンバーに感謝の気持ちを表現することも心がけてみてください。チームにポジティブな空気が広がっていくことでしょう。
方法⑥傾聴
リーダーは、メンバーに対して傾聴の姿勢で話を聴くことが大切です。リーダーが自分の話を真剣に聴いてくれることで、信頼関係が築かれます。自己を肯定されていることを感じ、相談しやすい雰囲気も出てくるでしょう。
1on1ミーティングやふだんのコミュニケーションも、受容・共感する傾聴の姿勢をベースにすることで、心理的安全性につながるきっかけになるでしょう。
関連記事:傾聴とは?職場に取り入れるメリットやトレーニング方法を解説
方法⑦アサーティブ・コミュニケーション
相手の気持ちを配慮しながら、自分の意見も伝えることができる自己表現「アサーティブ・コミュニケーション」を使うことで、建設的な意見が言えるようになり、自分の意見を率直に伝えられるようになります。
下記記事を参考にして、アサーションを組織に取り入れることをおすすめします。
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心理的安全性を高めている企業事例
次に、心理的安全性の高い組織づくりをしている企業の事例を紹介します。自社でも取り組めそうな事例があるかもしれません。ぜひ、参考にしてみてください。
事例➀BIPROGY株式会社(旧名・日本ユニシス株式会社)
IT企業・BIPROGY株式会社(旧名・日本ユニシス株式会社)は、多様性を受け入れる「ダイバーシティ経営」の推進をしており、経済産業省の「令和2年度 新ダイバーシティ経営企業100選プライム」に選定されています。
同社は「個」の多様性を生かして成果を上げる組織体制と、心理的安全性が保たれた組織風土づくりに取り組んできました。
また、社員に対して幅広いキャリア形成支援の仕組みを提供し、個人がさまざまなことにチャレンジできる環境を整備しています。
さらに、オンライン上でデジタル称賛カードを贈り合えるサービス「PRAISE CARD」を株式会社博報堂と共同開発しました。称賛や感謝を伝え合うことで信頼関係が深まるという声も聞かれています。
事例②楽天グループ株式会社
楽天グループ株式会社では、2017年より全社で1on1ミーティングをしています。ミーティングは週に1度各30分、話す内容やミーティングのスタイルは、メンバーが主体的に決めることができます。
また、リーダーを対象に「1on1研修プログラム」を実施。企業がサポートする形でチームリーダーが効果的にミーティングを行えるようにしています。研修を受けて自分の意見を先に話すクセに気づき、傾聴を意識するようにしているというリーダーもいます。
1on1ミーティングを実施しても、リーダーがメンバーの話を聞かないなど、やり方によってはかえって心理的安全性が低くなってしまう可能性もあります。そのため、リーダー向け研修の実施は効果的だといえます。
事例③株式会社メルカリ
株式会社メルカリにはもともと「サンクスカード」で感謝を伝え合う文化がありました。さらにリアルタイムに感謝し合える会社になろうという目的で、スタッフ同士が感謝し合いボーナスを贈り合うピアボーナス制度「mertip(メルチップ)」を導入しました。
「他部署や他拠点とコミュニケーションが取りやすくなった」という声もあがっているそうです。
事例④株式会社きらぼし銀行
きらぼし銀行は3つの銀行が合併して2018年に誕生しました。コミュニケーションを活性化しグループを強化するために取り入れたのが1on1ミーティングです。
2019年から1カ月に1回、日時は上司と部下で決め30分程度のミーティングを実施しています。「部下のための時間」で、テーマは部下が自由に決めることになっています。
アンケートでは、「心理的な安心感がある」「意思疎通が図れるようになった」などの声が寄せられています。
心理的安全性だけでは足りない?
心理的安全性は、チームの生産性を高めるため重要な要素の一つです。ただ、気をつけたいのは心理的安全性だけではメンバーが物足りなく感じるかもしれないということです。
職場で働く人はさまざまなストレスにさらされています。「職業性ストレス」といわれるストレスは生産性を低下させる原因にもなります。
心理的安全性を高めるためにも社員のストレスマネジメントは欠かせません。職場で生き生きと働ける条件は何かをモデル化した「職業性ストレスモデル」についてみていきましょう。
仕事の要求度-コントロール(JDC)モデル
JDC(Job Demands Control)モデルは、1980年代にスウェーデンで産業ストレスを研究するカラセック氏が提唱したモデルです。
「仕事の要求度(仕事の量的な負荷)」と「仕事のコントロール(仕事上の裁量権や自由度)」の組み合わせで、職業ストレスが構成されるという考察です。
仕事の要求度が高く仕事の裁量権や自由度が低い場合、心身のストレス反応が高いといわれています。仕事の負荷と裁量権や自由度のバランスをとることが大事です。
努力-報酬不均衡(ERI)モデル
1996年にドイツの社会学者が提唱したERI(Effort Reward Imbalance)モデルでは、「仕事のための努力」に対して「結果として得られる報酬」が少ないと感じる場合ストレスが発生するといわれています。
報酬には、経済的報酬だけでなく心理的報酬(尊重)やキャリア(仕事の安定性や昇進)も含まれます。心理的安全性も重要ですが、収入や達成感も伴うことがモチベーションやワーク・エンゲージメントの高さにつながります。
誤解しがちな心理的安全性
最後に、心理的安全性の誤解しがちな点について触れます。
そもそも心理的安全性の捉え方を誤っているケースと、目的と手段を誤っているケースがあります。
捉え方を誤っているケース
「心理的安全性の高いチームになった」と勘違いしがちなチームに、「なれ合いチーム」や「仲良しチーム」があります。
なれ合いチームや仲良しチームは、必要以上に親しく緊張感がないため、平気で遅刻をしても許されたり仕事中の私語が増えたりして、ミスが増えます。
仕事上のコミュニケーションがおろそかになり、「まあ、いいんじゃない」といったぬるま湯のような意思決定をしてしまうこともあります。
なれ合っているメンバーとそれ以外のメンバーの温度差ができたり、仲良しの関係性を壊したくない気持ちが先に立ったりして、職場の課題解決を先送りにする可能性も出てくるでしょう。
「自由に意見交換ができ、対立しても恐れを感じず、お互いに成長しようとする」のが心理的安全性です。捉え方を誤ると、メンバーの成長がストップしてしまうかもしれません。
目的と手段を誤っているケース
心理的安全性の高いチームをつくるためにさまざまな取り組みにチャレンジすることは大事ですが、心理的安全性を目的にしてしまうと失敗します。
あくまで、組織が成長し生産性を高めるための手段だということを忘れてはいけません。
たとえ心理的安全性の高いチームをつくることができたとしても、そこで満足して成果が出なくては本末転倒です。
まとめ:心理的安全性は、組織の生産性を高めるための一つの要素
心理的安全性の高い組織をつくる方法や実際に取り組んでいる企業の事例を紹介しました。
一方で、心理的安全性には誤解も多く、一見心理的安全性が高いチームに見えても実態は誤ったチームづくりになることがあります。また、心理的安全性だけでは組織の生産性を高めるには不足していることも理解いただけたことでしょう。
自社の課題を見つけ、課題解決のために何に取り組む必要があるかを検討し、その中の一つとして心理的安全性の取り組みも取り入れることをおすすめします。