医師が判断する、就業区分の3段階
健診結果をもとに医師が就業区分を判断し、事業者がその意見をふまえて措置を講じます。所見の重さと業務内容から、次のいずれかへ位置づけます。
通常の勤務でよいもの。
特段の就業制限を要しない状態。
経過観察や生活指導にとどめます。
勤務に制限を加える必要があるもの。
労働時間の短縮、作業転換、高所・運転業務の制限などを検討します。
勤務を休む必要があるもの。
療養に専念すべき状態。
休業と復職支援を計画的に進めます。
まず押さえる、2つの基本
就業判定の全体像と、従業員が受診・面談を断ったときの対応。実務の土台となる2点を先に整理します。
項目別の対応|5区分で考える
健診でよく見られる所見を5つに分けて、就業判定で押さえたい着眼点を整理します。検査値は目安であり、最終判断は業務内容をふまえ産業医が個別に行います。
脂質異常

多くは生活習慣が背景。単独で就業を制限することはまれで、他の心血管リスクと総合して評価します。
高血圧

運転・高所・重量物・交代勤務など、業務内容を踏まえて就業の可否や制限を判断します。
肝機能障害

飲酒・脂肪肝・薬剤性など、値の背景にある原因を確認したうえで対応を検討します。
血糖値

低血糖のリスクや合併症の有無をみながら、業務適性との兼ね合いで判断します。
貧血

めまい・集中力低下・息切れなどの程度と、鉄欠乏などの背景をふまえて、業務への影響を評価します。
その他の所見

胸部X線・心電図・尿検査・尿酸など。所見の内容は多岐にわたるため、項目ごとに個別に判断します。
受診と就業配慮の目安|全項目一覧
健診結果のうち主要な検査項目について、「① 受診を勧める目安」と「② 特に注意すべき値(就業配慮も検討)」を一覧にまとめました。
| 分類 | 検査項目 | ① 受診を勧める目安 | ② より早い受診が必要な目安※就業判定の基準ではありません |
|---|---|---|---|
| 値の大小にかかわらず、すぐに受診してください黄疸(皮膚や白目が黄色い)・褐色尿/黒い便・血便/強い口渇と多尿・急な体重減少/意識がもうろうとする/胸の痛み・強い息切れ・動悸/強い倦怠感や発熱をともなうとき | |||
| 法定項目(労働安全衛生法・特定健診)① は厚生労働省の受診勧奨判定値(標準的な健診・保健指導プログラム 令和6年度版 別紙5) | |||
| 血圧 | 収縮期 / 拡張期 (mmHg) | ≧140 / ≧90 | ≧160 / ≧100 で至急受診(厚労省 文例集) ≧180 / ≧110 はⅢ度高血圧 |
| 血糖※ | 空腹時血糖 (mg/dL) | ≧126 | 糖尿病型。未治療ならなるべく1か月以内に受診 |
| HbA1c (%) | ≧6.5 | 糖尿病型。未治療ならなるべく1か月以内に受診 | |
| 随時血糖 (mg/dL) | ≧126 | ≧200 は糖尿病型。口渇・多尿・急な体重減少をともなえば直ちに受診 | |
| 脂質 | 中性脂肪 (mg/dL) | ≧300 | ≧500 で早期に受診(急性膵炎リスク・厚労省 文例集) |
| LDL-C (mg/dL) | ≧140 | ≧180 で早期に受診(厚労省 文例集) | |
| HDL-C (mg/dL) | 設定なし(2024改定) | ≦30 は低値。ほかのリスクとあわせて評価します | |
| 肝機能 | AST・ALT (U/L) | ≧51 | ≧100 の高値。黄疸・褐色尿・強い倦怠感、薬やサプリ開始後の上昇は値によらず早めに受診 |
| γ-GT(γ-GTP)(U/L) | ≧101 | ≧300 の高値。飲酒量の見直しとあわせて受診を | |
| 腎機能 | eGFR (mL/分/1.73㎡) | < 45 | < 30 は高度低下(G4)。① の < 45 の時点で「すぐに受診」が推奨されています |
| 貧血 | ヘモグロビン (g/dL) | 男 < 12 / 女 < 11 | < 10(中等度以上)。前年から 2 g/dL 以上の低下、黒い便・血便は値によらず受診 |
| 法定外項目(任意・がん検診など)① は学会ガイドライン・がん検診指針の目安(厚労省の特定健診判定値ではありません) | |||
| 尿酸 | 血清尿酸 (mg/dL) | > 7.0(高尿酸血症) | 8.0〜9.0以上で受診・治療を検討。痛風発作があれば値によらず受診 |
| 大腸 | 便潜血(免疫法・2日法) | 1回でも陽性 → 大腸内視鏡などの精密検査 | 陽性なら必ず大腸内視鏡などの精密検査へ(再検査での陰性化を待たない) |
この表は受診の目安であり、就業上の措置(通常勤務/就業制限/要休業)を決める基準ではありません。就業区分は、労働安全衛生法 第66条の4・第66条の5 と「健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針」にもとづき、職場と本人の状況を知る産業医が個別に判断します。
この表の値に達していなくても、就業上の配慮が必要なことは多くあります。運転業務・高所作業・重量物の取扱い・高温環境・深夜勤務や交代勤務・単独作業では、表より軽い値でも配慮を検討します。逆に、値を超えたことが自動的に就業制限を意味するものでもありません。
血糖は未治療の方が対象です(随時血糖は令和6年度版で受診勧奨判定値≧126が設けられ、≧200は糖尿病型の目安です)。
HDLコレステロールの受診勧奨判定値は、2024年度(第4期特定健診)から設定がありません。低HDLは、ほかのリスクとあわせて評価します。
eGFR・貧血(ヘモグロビン)の基準は、日本腎臓学会やWHO・人間ドック学会などの基準にもとづく目安です。
肝機能と貧血については、厚生労働省の文例集に「①より緊急」という公的な区分がありません。② の値は一般的な臨床上の目安であり、数値の高さよりも症状の有無・変化の速さ・原因のほうが重要です。
有機溶剤・特定化学物質などのばく露がある方は、特殊健康診断の枠組みで判断します。この表は用いないでください。妊娠中・妊娠を希望される方は、母性健康管理措置(男女雇用機会均等法 第13条)の枠組みで別途ご相談ください。
産業医が選任されていない事業場(労働者50人未満)は、お住まいの地域の地域産業保健センターに相談できます。
尿酸・便潜血などの法定外項目は、学会ガイドラインやがん検診指針にもとづく一般的な目安であり、厚生労働省の特定健診判定値ではありません。
数値の根拠・エビデンスの詳細は、各項目の解説記事をご覧ください(順次公開)。
本表は一般的な目安であり、個別の診断・就業判定に代わるものではありません。
気になる所見は、値の大小にかかわらず産業医・主治医にご相談ください。
実際の受診や就業上の措置は、主治医・産業医の判断が優先します。
産業医を対象に「その項目ひとつで就業制限を検討しうる水準」を調べた研究もあります(Tateishi S ほか. J Occup Health. 2016;58(1):72-80/PMID: 26549831)。ただし作業環境や作業内容を考慮していない専門家の合意であり、数値だけで就業の可否を決める性質のものではないため、本ページでは具体的な数値を掲載していません。ご相談いただければ、業務内容をふまえて産業医が個別に判断します。
よくある質問
Q. 就業判定は誰が行うのですか?
就業区分についての意見を述べるのは医師(産業医)で、その意見をふまえて実際に措置を講じるのは事業者です。
医師の意見と会社の措置は役割が分かれている、と整理すると分かりやすくなります。
Q. 有所見でも、本人が受診・面談を拒む場合は?
強制はできませんが、受診勧奨をていねいに重ね、その経過を記録しておくことが重要です。
必要に応じて産業医と連携し、本人が相談しやすい環境を整えながら対応します。
Q. 「就業制限」は数値がいくつからですか?
一律の基準はありません。同じ検査値でも、運転・高所作業・交代勤務など業務内容によって判断は変わります。
数値だけでなく、業務との組み合わせで産業医が個別に判断します。
「この所見、就業させて大丈夫?」
迷ったときは、産業医へ。
健診の事後措置・就業判定から、産業医面談・意見書の作成まで一気通貫でサポート。仙台を拠点に全国オンライン対応、初回相談は無料です。
- 就業区分の判定および事後措置は、労働安全衛生法 第66条の4(医師等からの意見聴取)および第66条の5(事後措置)に基づきます。
- 医師からの意見聴取は、健康診断が行われた日からおおむね3か月以内に行うことが原則とされています。
- 本ページの検査値・区分は一般的な目安であり、判定基準は業務内容により異なります。最終的な就業判定は産業医が個別に行います。
- 一覧表の出典:厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム」ほか。中性脂肪と急性膵炎の関連は Endotext(NCBI Bookshelf, NBK279082)。

