この記事では、結果を受け取った本人が「何を確認し、いつ受診するか」を先に解説します。会社・人事が行う受診支援と就業上の対応は、後半の独立した章で扱います。

この記事のポイント
- 本人は検査項目・採血条件・症状を確認し、結果票に従って受診します。会社は数値だけで就業可否を決めず、医師などの意見を踏まえて必要な配慮を行います。
- 空腹時・随時血糖126 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上は受診勧奨判定値ですが、1回の結果による確定診断ではありません[2]。
- 症状のない健診異常は通常の外来で確認します。嘔吐・腹痛、深く速い呼吸、意識障害、けいれんなどがある場合は、後半の「急な体調不良があるときの受診目安」を確認してください[3]。
- 生活習慣だけが原因とは限らず、健診値だけで原因や糖尿病の種類を決めません[4]。
- 会社は医師等の意見を踏まえ、通院時間、食事、必要時にとる間食(補食)、血糖測定、危険作業などを必要な範囲と期間に限って調整します[5][6]。
ここからは、受診の目安、検査値の違い、原因、再検査、セルフケア、仕事との関係、会社の対応の順に解説します。
受診の目安|無症状なら結果票に従って外来へ
Q. 健診で血糖値が高いと言われました。すぐ病院へ行くべきですか?
A. 症状がなければ、健診結果票の指示に従って通常の外来で確認します。受診勧奨判定値以上で未治療の場合は、生活改善だけで様子を見るのではなく、早めに予約してください[2]。
結果票に「至急受診」と書かれている場合は、その指示を優先します。急な体調不良がある場合は、血糖値だけで緊急性を判断せず、後半の「急な体調不良があるときの受診目安」を確認してください[3]。
結果票の期限に従って受診する
受診先は、内科・糖尿病内科またはかかりつけ医で構いません。健診結果の全ページ、過去の結果、お薬手帳を持参すると、診察時の確認に役立ちます。
空腹時血糖・随時血糖・HbA1c・尿糖の違い
Q. 結果票に数字が複数あります。どれを見ればよいですか?
A. 空腹時血糖・随時血糖は採血した時点、HbA1cは直近1〜2か月ほどの平均的な高血糖を反映します。尿糖は補助所見であり、単独で糖尿病の有無や重症度を決める検査ではありません。

4つの検査は反映する期間と用途が異なる
空腹時血糖は、食事の影響が少ない条件で測った採血時点の血糖値です。採血前の絶食時間が基準を満たしていたか、結果票や健診機関の説明を確認します。
随時血糖は、空腹時以外に測った採血時点の血糖値です。最後の食事時刻で解釈が変わるため、受診時にはいつ食べたかを伝えます。
HbA1cは、採血直前の一食では大きく変わりにくく、最近の平均的な高血糖をみる指標です。ただし、鉄欠乏や赤血球が壊れる状態(溶血)、出血・輸血、透析、肝硬変、ヘモグロビンの性質が生まれつき異なる病気などでは実際の血糖値とずれることがあります[4]。
尿糖は、血液中の糖が尿へ出ているかをみる補助検査です。血糖値が高くても陰性のことがあります。また、SGLT2阻害薬を使用していると、血糖コントロールとは別に尿糖が陽性になります。SGLT2阻害薬とは、腎臓での糖の再吸収を抑制して尿と同時に排出して血糖値を下げる薬です。心不全や慢性腎臓病に使われるケースもあるため、血糖値に異常がなくても尿糖が陽性となる場合があります。そのため、尿糖だけで診断せず、血糖値・HbA1c・服薬状況を合わせて確認することが大切です[7]。
健診後の保健指導・受診勧奨の判定値
厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)」の別紙5では、次の判定値が示されています[2]。
| 検査項目 | 保健指導判定値 | 受診勧奨判定値 |
|---|---|---|
| 空腹時血糖 | 100 mg/dL以上 | 126 mg/dL以上 |
| 随時血糖 | 100 mg/dL以上 | 126 mg/dL以上 |
| HbA1c(NGSP値※) | 5.6%以上 | 6.5%以上 |
※NGSP値:過去1~2か月の平均血糖値を示す国際標準値で、日本の健診票で一般的に使われるもの。
これらは健診後の対応を考えるための目安であり、1回の結果だけで糖尿病は確定しません。
空腹時血糖110〜125 mg/dLまたはHbA1c 6.0〜6.4%では、治療中でない場合、精密検査が強く勧められます。空腹時血糖100〜109 mg/dLまたはHbA1c 5.6〜5.9%では、肥満、脂質異常症、家族歴などのリスクが重なる場合に精密検査が勧められます[2][4]。
法定健診で、HbA1cを測らず随時血糖だけを使う場合は、食事開始から3.5時間未満(食直後)を除くとされています[8]。
人間ドックなどでは判定体系が異なることがあるため、自分の結果票に書かれた説明も確認してください。
健診後の判定値と糖尿病型の基準は異なる
結果票の血糖値・HbA1cは、1つの項目・1回の結果だけで「糖尿病かどうか」を決められる数値ではありません。まず押さえたいのは、健診の判定値は「受診の目安」であり、診断に使う基準とは目的が違うという点です。
健診の受診勧奨判定値(随時血糖なら126 mg/dL以上)は、医療機関の受診を促すための目安です。一方、日本糖尿病学会が診断に用いる「糖尿病型」の値は次のとおりで、目的が異なります[4]。
- 空腹時血糖126 mg/dL以上
- ブドウ糖液を飲み2時間後に測る検査(75g経口ブドウ糖負荷試験)200 mg/dL以上
- 随時血糖200 mg/dL以上
- HbA1c 6.5%以上
たとえば随時血糖は、健診の受診勧奨が126 mg/dL以上なのに対し、糖尿病型は200 mg/dL以上と、基準そのものが違います。
糖尿病の診断では、通常は日を改めて再確認します。ただし、同じ採血で血糖値とHbA1cがともに糖尿病型の場合、または血糖値が糖尿病型で、口渇・多飲・多尿・体重減少などの典型的な症状か、確実な糖尿病網膜症がある場合は、初回検査で診断できます[4]。
逆に、HbA1cだけが初回に糖尿病型であっても、それだけでは糖尿病と確定診断できません。再検査では、血糖値による判定を含める必要があります[4]。
いずれにしても、結果票の一項目だけで「糖尿病だ」「糖尿病ではない」と自己診断せず、医療機関で確認してください。
血糖値とHbA1cが一致しないこともある
空腹時血糖が正常でも、食後高血糖などがHbA1cへ反映されることがあります。反対に、急速に高血糖が進んだ場合は、血糖値に比べてHbA1cがまだ低いことがあります[4]。
血糖値とHbA1cが合わない場合は、採血条件や貧血・出血・輸血、透析などを含めて医師が評価します。
血糖値・HbA1cが高くなる主な原因
Q. 血糖値が高いのは、食べ過ぎや運動不足のせいですか?
A. 2型糖尿病では体重、食事、身体活動などが関わることがありますが、生活習慣だけが原因ではありません。健診値だけで原因や糖尿病の種類を決めず、採血条件、薬剤、ほかの病気、妊娠なども医療機関で確認します[4]。
採血条件や一時的な変化を確認する
食事から採血までの時間、感染症などの体調不良、強い身体的ストレス、服用している薬によって血糖値が変わることがあります。
1回の健診値だけで原因を決めず、過去の推移とHbA1cも合わせて確認します。
主な原因と、早めの評価が必要な原因
血糖値やHbA1cが高くなる主な背景は、次のように整理できます[4]。
- よくある背景:2型糖尿病、糖尿病型ではないものの血糖が正常域より高い状態(境界型)、体重増加、身体活動の低下、加齢、家族歴など
- 見逃したくない背景:急速に進む1型糖尿病、すい臓の病気、ホルモンの病気、遺伝に関係する病気など
- 薬剤に伴うもの:副腎皮質ステロイドなど
- 妊娠に関連するもの:妊娠中は別の基準と診療経路で評価する
血糖値が高い要因は、生活習慣だけではありません。自分だけの責任と抱え込む必要はなく、自責感から受診・治療や会社への相談が遅れてしまうこともあります。
再検査・受診で確認すること
Q. 病院では、もう一度採血するだけですか?
A. 病院では、もう一度採血するだけではありません。採血条件、症状、過去の推移、服薬、家族歴、体重変化などを確認し、必要な検査を医療者が選びます。
受診前に準備・整理しておくこと
- 健診結果の全ページと過去の健診結果
- 最後に食事をした時刻と、最近の体重変化
- お薬手帳、注射薬、サプリメントの情報
- 口渇、多尿、体重減少、倦怠感、動悸、発汗などの症状の有無
- 妊娠中または妊娠の可能性
- 治療中なら、自己測定や、腕などのセンサーで血糖変化を記録する持続血糖測定の記録、低血糖歴
- 夜勤、運転、高所、単独作業など、治療や安全に関係する仕事内容
医療機関で確認すること
必要に応じて空腹時血糖やHbA1c、ブドウ糖液を飲んで血糖の変化をみる検査(75g経口ブドウ糖負荷試験)、尿検査、腎機能などを確認します。糖尿病と診断された場合は、眼や腎臓、神経、心筋梗塞・脳卒中などのリスクも病状に応じて評価します[4]。
受診先は、まず内科・糖尿病内科またはかかりつけ医で構いません。妊娠中・妊娠の可能性がある場合や、急速な体調変化がある場合は、予約時にその旨を伝えてください。
再検査が正常だった場合の対応
再検査が正常でも、健診時の採血条件や過去の推移、HbA1c、服薬、症状によって判断は変わります。
受診先から追加確認は不要と説明されるまでは、自己判断で通院を中断しないでください。
受診までにできること・避けること
Q. 食事と運動を変えれば、受診しなくてもよいですか?
A. 生活改善を始めても、健診結果票で受診勧奨(要受診)とされていれば受診が必要です。普段の状態を記録し、極端な食事制限、無理な運動、薬の中止・増減は自己判断で行わないでください。
受診前に記録すること
受診前は、食事や運動、服薬、症状など普段の状態を記録してください。具体的には、以下のとおりです。
- 甘い飲料、間食、食事時刻、飲酒の頻度を記録する
- 歩行や日常の身体活動、睡眠、体重の変化を記録する
- 服薬・注射の時刻と、低血糖らしい症状の有無を記録する
- 健診前だけ食事を抜くなど、普段と違う調整をしない
とくに、急激な食事制限や運動量の変更は避けます。受診前に急に食べる量を減らしたり、運動量を増やしたりすると、本来の血糖値やHbA1cの高さが隠れてしまうためです。正しい検査や診断を受けるためにも、普段のありのままの状態を記録しましょう。
自己判断で避けること
処方薬や注射薬は、自己判断で中止・増減しないでください。体調不良で食事や水分が取れないときは、あらかじめ医療者から受けた「体調不良時の服薬・注射の指示(シックデイ対応)」に従うか、医療機関へ相談します[3]。
全員に同じ減量目標や運動量を当てはめることも避けます。過体重・肥満、低血糖リスク、合併症、体調、治療内容に応じて、医療者と相談してください。
働き方と血糖管理・作業安全
Q. 夜勤や不規則な働き方は、血糖値に影響しますか?
A. ある観察研究では、交代勤務とHbA1cの上昇との関連が報告されていますが、仕事だけが原因とは断定できません[9]。夜勤、長時間労働、不規則な休憩、急なシフト変更により、食事、睡眠、再検査、通院を続けにくくなる場合があります[5]。

仕事が血糖管理を難しくする場合
夜勤や長時間労働、急なシフト変更、不規則な休憩があると、食事・睡眠・通院・血糖測定・注射のタイミングを一定に保ちにくくなります。これが、働き方で血糖管理が難しくなる主な理由です。
実際、日本の製造業1社で男性労働者7,104人を14年間追跡した観察研究では、交代勤務を続けた期間に、HbA1cが開始時より一定割合以上上がるという関連が報告されています[9]。この研究は糖尿病の発症そのものを調べたものでも、因果関係を証明したものでもなく、日本人女性やすべての業種にそのまま当てはめることはできません。
それでも実務では、働き方が血糖管理を難しくする場面がしばしばみられます。
- 夜勤で食事や就寝が深夜にずれ、食後の血糖が上がりやすい・睡眠不足になりやすい
- 急なシフト変更で受診の予約に行けず、再検査や通院が先延ばしになる
- 休憩が不規則で、決まった時間に血糖測定・注射・補食ができない
だからこそ、受診の際は仕事の情報もあわせて伝え、必要な配慮につなげることが大切です。
血糖値が高いとき・治療中に仕事で確認すること
Q. 血糖値が高い社員は、仕事で何に気をつけますか?
A. 高血糖による口渇・多尿・脱水、治療中の低血糖、合併症、作業内容を分けて確認します[3][5]。数値だけで一律に仕事を止めるのではなく、医師などの意見を踏まえて必要な範囲・期間を個別に調整します[5][6]。
高所、運転、危険機械など、体調変化が事故につながる業務では、検査値だけでなく症状・治療内容・合併症・仕事内容を確認します。
血糖値が高い、または糖尿病があることだけを理由に、一律に就業を制限する公的な数値基準はありません。高血糖による口渇・多尿・脱水、治療に伴う低血糖、低血糖を自覚しにくい状態、合併症、治療の開始・変更、作業中に本人が対処できるかを、主治医や産業医などが個別に確認します[3][5]。
高所・運転・危険機械作業では、低血糖や視覚・意識・判断力の変化が事故につながる可能性を踏まえ、必要に応じて作業条件の設定や一時的な変更を検討します[5]。
また、高血糖で口渇・多尿がある場合は、脱水に注意が必要ですが[3]、とくに暑い環境ではそのリスクがさらに高まります。
暑熱作業では、糖尿病の有無にかかわらず必要となる基本対策として、暑さ指数(WBGT)に応じて休憩・作業時間を調整し、水分摂取やトイレ利用、見守り・連絡体制を確保します。WBGT基準値を大幅に超える状況では原則として作業を行わず、やむを得ず作業する場合は単独作業を控えます。体調に異変があれば作業を離れ、職場で定めた手順に従います[10]。
職場の暑熱対策は、以下の関連記事で詳しく解説しています。
受診時には仕事の情報も伝える
医療者が勤務の実態を知らないと、実態に合った治療計画や就業配慮を検討しにくくなります。受診の際は、結果票に加えて、次のような「困っている勤務条件」もあわせて伝えてください。
- 勤務時間、夜勤・交代勤務、急なシフト変更
- 休憩、食事・補食、水分、トイレを利用できる時間
- 血糖測定・注射を行う場所と、薬剤を保管する環境
- 運転、高所、単独、暑熱、危険機械などの作業
- 通院を難しくする出張・転勤・勤務予定
会社・人事の対応|数値だけで就業制限を決めない
Q. 健診で高血糖なら、会社は残業禁止や運転禁止にすべきですか?
A. 一律の数値基準では決めません。症状、治療、低血糖歴、合併症、本人の対処能力、業務の危険性を組み合わせ、医師等の意見を踏まえて個別に判断します[5][6]。
たとえば「空腹時血糖180mg/dL、HbA1c 7.6%だから夜勤禁止」のように、数値だけで機械的に決めることはしません。労働安全衛生法では、労働者の就業に関わる措置に、大きく2つのルールがあります。
- 就業上の措置(第66条の4・第66条の5など):事業者が健診結果について医師などの意見を聴き、必要がある場合に就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮などを行う。数値で自動的に決めるのではなく、症状・治療・業務内容などを踏まえ、必要な範囲・期間で調整する段階的な措置です[6]。
- 就業禁止(第68条・労働安全衛生規則第61条):伝染性の疾病や、心臓・腎臓・肺などの疾病で労働により病勢が著しく悪化するおそれがあるものなど、対象が限定された疾病について、産業医その他専門の医師の意見を聴いたうえで事業者が就業を禁止する制度です[6]。
このうち就業禁止は、対象の疾病に該当すれば意見聴取のうえ就業を禁止しますが、糖尿病や高血糖そのものは、この対象疾病として定められていません。
したがって、高血糖という数値だけを理由に自動的に就業を禁止・制限されるものではなく、症状・治療状況・低血糖歴・合併症・本人の対処能力・業務の危険性を踏まえ、医師などの意見をもとに事業者が個別に判断します[5][6]。
実際に会社が行うべき対応や判断について、以下で詳しく説明します。
会社が行う対応
| 段階 | 会社が行うこと | 避けること |
|---|---|---|
| 受診支援 | 受診勧奨と通院時間の確保 | 担当者が糖尿病の種類や原因を診断する |
| 勤務情報 | 必要なら本人の同意を得て医療職へ伝える | 本人に無断で治療情報を集める |
| 意見聴取 | 医師等へ就業上の意見を求める | 健診値だけで一律に制限する |
| 配慮決定 | 本人と内容・期間・緊急時対応を確認する | 必要以上の病名・数値を管理職へ共有する |
| 再評価 | 病状の変化に加え、異動・シフト変更・転勤の前にも見直す | 配慮を期限なく固定する |
厚生労働省の糖尿病の両立支援事例でも、交代勤務やフォークリフト運転を一律に禁止するのではなく、本人の希望、主治医の意見、低血糖時の対応、血糖確認、補食、測定・注射の時間と場所などを組み合わせて就業継続を検討しています[5]。
就業上の配慮の例
- 通院時間を確保する
- 決まった時間に食事・補食、水分摂取、トイレ利用ができるようにする
- 血糖測定・注射の時間と、プライバシーを保てる場所を確保する
- 薬剤を安全に保管できる環境を整える
- 治療開始・変更直後の夜勤、残業、出張を一時的に調整する
- 異動、シフト変更、転勤などで勤務形態が変わる前に、産業医等へ相談する
- 運転や危険機械作業を続ける場合は、作業前の血糖確認、低値時の補食と再確認などの条件を主治医・産業医等と決める
- 高所、単独、暑熱などの作業での緊急時対応を決める
配慮の必要性と期間は人によって異なります。病状が安定したら解除・縮小することも含め、期限を決めて見直します[5]。
📌 産業保健の実務ポイント|就業上の措置を検討する参考値
就業判定に全国一律の法定数値基準はありません。2012年に産業医科大学医学部出身の産業医83人を対象に行われたDelphi調査(2016年公表)では、空腹時血糖200 mg/dL、食後血糖300 mg/dL、HbA1c(旧JDS値)10%が、就業上の措置を検討する参考値として合意されました[11]。
ただし、これらは、治療がうまく進まず、仕事上の理由で管理が難しい状況を想定した参考値です。事故防止のための安全性判断へ直接あてはめる値でも、診断基準や自動的な就業制限値でもありません。症状、治療状況、低血糖リスク、合併症、運転・高所・単独作業などの仕事内容を踏まえ、医師などが個別に判断します。
HbA1cは旧尺度であり、現行のNGSP値へ機械的に読み替えられる基準ではありません[11]。
就業制限を検討する場面
- 高血糖または低血糖の症状が業務中に起きている
- 他者の援助を要する重症低血糖や、低血糖を自覚しにくい状態の既往がある
- 治療開始・変更直後で、安全な自己対処がまだ確立していない
- 目・神経・腎臓の合併症や、心筋梗塞・脳卒中が業務へ影響する
- 体調変化が重大事故につながり得る業務である(運転、危険物取扱いなど)
この場合も、病名や健診値だけで決めず、主治医・産業医等の意見を踏まえます[5]。
なお、会社が検討する就業上の配慮と運転免許上の運転適性は、同じ判断ではありません。低血糖を自覚しにくいなど安全運転に不安がある場合は、主治医へ相談し、必要に応じて警察の安全運転相談窓口へ確認してください[13][14]。
健康情報は必要最小限に扱う
法定健診の結果は事業者が事後措置に使います。一方、精密検査の結果、治療内容、通院情報、主治医意見書などの法定外情報は、原則として本人の同意なく取得してはならないとされています。取得目的を明確にし、必要最小限の範囲で取り扱います[12]。
管理職へ共有する情報は、病名や検査結果の全情報ではなく「定時の休憩が必要」「運転前の確認が必要」「配慮期間は1か月」など、業務上必要な内容へ修正します。
治療と就業の両立支援
2026年4月1日施行の改正労働施策総合推進法第27条の3により、治療を受ける労働者から相談があった場合に適切に対応するための体制整備その他の措置は、事業主の努力義務となりました。健診の有所見だけで自動的に両立支援の対象となるわけではありません。具体的な対応は「治療と就業の両立支援指針」を踏まえ、本人からの相談・申出と主治医・産業医等の意見に基づいて個別に検討します[15][16]。
産業医の選任義務がない50人未満の事業場では、地域産業保健センターや都道府県産業保健総合支援センターも相談先になります[17]。
就業判定の具体的な進め方(通常勤務・就業制限・要休業の3区分と、産業医の意見聴取の要点)は、「健康診断後の就業判定|産業医が見る3区分と意見聴取の要点」で詳しく解説しています。あわせてご確認ください。
急な体調不良があるときの受診目安
健診結果では血糖値やHbA1cが高くても、症状がないケースも少なくありません。その場合は、結果票に従って通常の外来で確認します。ただし、急な症状がある場合はこの限りではありません。検査値がそれほど高くなくても、症状がある場合は数値だけで様子を見ないでください[3]。
以下では、急な体調不良があるときの受診目安を解説します。
高血糖に関連する急な体調不良
⚠️次の場合は、当日中に医療機関へ連絡・受診してください。
- 嘔吐、腹痛、強い口渇や多尿、急速な体重減少がある
- 食事や水分が取りにくい
- 糖尿病治療中で自己測定をしており、血糖値350 mg/dL以上が続く、血中ケトン体が高い、または尿中ケトン体が強く陽性である[3]
- 結果票に「至急受診」と書かれている、または医療機関から早急な受診を指示された
深く速い呼吸、呼吸困難、著しい脱水やぐったりした状態がある場合は、直ちに救急受診を相談してください。
糖尿病に関連する緊急状態には、体内に酸性物質がたまり、脱水や意識障害を起こす糖尿病性ケトアシドーシスがあります。また、著しい脱水から意識障害を起こす別の高血糖の緊急状態もあります。いずれも自己判断で待たず、緊急の評価が必要です。
尿へ糖を出す働きのある薬を使っている人や妊娠中の人では、血糖値が極端に高くない場合もあります。たとえば、尿内に糖を排出させるSGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンスなど)は腎臓の病気でも処方される場合があります。「数値がそれほど高くないから大丈夫」と自己判断しないでください[3]。
意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い、けいれんがある、安全に移動できない場合は、119番で救急要請してください。
低血糖が疑われるとき
意識があり、安全に飲み込める場合は、ブドウ糖5〜10gを速やかにとります。ブドウ糖以外の糖類では効果が遅れる場合があります。とくに、糖の吸収を遅らせる薬(α-グルコシダーゼ阻害薬)を使っている人は、必ずブドウ糖で対応します[3]。
糖尿病治療中で低血糖を繰り返す、食事や水分が取れない、薬の扱いを判断できない場合は、当日中に医療機関へ連絡してください。
他者の援助が必要な状態は重症低血糖です。意識障害、けいれん、安全に飲み込めない場合は119番で救急要請してください。
意識が低下している人には、食べ物や飲み物を口から与えてはいけません。低血糖時の救急薬(グルカゴン)など、本人に個別の緊急時指示がある場合は、その指示に従ってください[3]。
まとめ
健診値だけで糖尿病の有無を判断せず、結果票に従って必要な受診・再検査を行います。
本人は、検査項目と採血条件を確認し、症状で受診の緊急性を判断して、結果票を持って受診・再評価を続けます。会社は、原因を追及したり数値だけで仕事を止めたりせず、受診しやすい環境を整え、必要な就業上の配慮を行います。
健診後の受診勧奨や就業判定に迷う場合は、産業医、保健師・看護師、地域産業保健センターなどへ相談してください。
よくある質問
Q. 血糖値が高いと言われたら何科を受診しますか?
A. まずは内科・糖尿病内科またはかかりつけ医で相談できます。嘔吐・腹痛、強い口渇や多尿、食事や水分が取りにくい場合は、当日中に医療機関へ連絡してください。深く速い呼吸、呼吸困難、著しい脱水やぐったりした状態は、直ちに救急受診を相談してください。意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が悪い、けいれんがある、安全に移動できない場合は、119番で救急要請してください。詳しいわけ方は、本記事の「急な体調不良があるときの受診目安」にまとめています。
Q. 空腹時血糖126 mg/dL以上なら糖尿病ですか?
A. 空腹時血糖126 mg/dL以上は「糖尿病型」であり、厚生労働省の受診勧奨判定値でもあります。ただし、健診の一項目だけで自己診断せず、再検査やHbA1c、症状などを医療機関で確認します。
Q. HbA1cが高いのに空腹時血糖が正常なのはなぜですか?
A. 反映する期間が異なるため、食後高血糖などがHbA1cに反映される一方、採血時の血糖値が正常なことがあります。鉄欠乏、赤血球が壊れる状態(溶血)、出血・輸血、透析などで数値がずれる場合もあるため、両方の結果を医師に見せてください。
Q. 尿糖だけ陽性でも糖尿病ですか?
A. 尿糖だけでは糖尿病と診断できません。血糖値が高くても尿糖が陰性になることがあり、SGLT2阻害薬の使用中は血糖コントロールとは別に尿糖が陽性になります。血糖値・HbA1cや服薬状況と合わせて確認します。
Q. 再検査で正常なら、もう受診しなくてよいですか?
A. 再検査が正常でも、健診時の採血条件、過去の推移、HbA1c、服薬、症状によって判断は変わります。受診先から「追加確認は不要」と説明されるまでは、自己判断で通院を中断しないでください。
Q. 健康診断の前は何時間、食事を控えればよいですか?
A. 健診機関から指定された時間と注意事項に従ってください。空腹時血糖と随時血糖では採血条件が異なるため、最後に食べた時刻を健診機関や受診先へ伝えます。健診前だけ食事を抜くなど、普段と違う調整で数値をよく見せようとしないでください。
Q. 低い血糖値を指摘された場合はどうしますか?
A. 糖尿病治療中で血糖70 mg/dL未満または低血糖症状があり、意識があって安全に飲み込める場合は、医療者から受けた指示に従い、ブドウ糖5〜10gを速やかにとります。他者の援助が必要な状態は重症低血糖です。意識障害、けいれん、安全に飲み込めない場合は、口から与えず119番で救急要請してください。未治療で低値を指摘された場合も、結果票に従って原因を確認してください。
Q. 糖尿病や高血糖を会社へどこまで伝える必要がありますか?
A. 会社は法定健診結果を事後措置に使いますが、精密検査結果や治療内容などの法定外情報を無制限に集めてよいわけではありません。本人は、通院時間、低血糖時の対応、運転・高所作業など、安全な就労に必要な情報を産業医などと相談して伝えます。
Q. 治療中でも運転、夜勤、高所作業を続けられますか?
A. 糖尿病という病名だけで一律に禁止するものではありません。他者の援助を要する低血糖や、低血糖を自覚しにくい状態、合併症、治療変更、本人の対処能力、業務の危険性を主治医・産業医等が個別に評価し、必要な条件や期間を決めます。これは会社の就業上の判断です。運転免許上の運転適性は別に確認し、低血糖を自覚しにくいなど安全運転に不安がある場合は、主治医へ相談し、必要に応じて警察の安全運転相談窓口へ確認してください。
参考文献
- 厚生労働省・茨城労働局「一般定期健康診断の検査項目別有所見率(令和7年)」(PDF)
- 厚生労働省「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度版)別紙5」(PDF)
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024 第20章 糖尿病における急性代謝失調・シックデイ(感染症を含む)」(PDF)
- 日本糖尿病学会「糖尿病診療ガイドライン2024 第1章 糖尿病診断の指針」(PDF)
- 厚生労働省「企業・医療機関連携マニュアル 事例編:糖尿病」(PDF)
- e-Gov法令検索「労働安全衛生法」第66条の4、第66条の5、第66条の7、第68条
- PMDA「フォシーガ錠5mg/フォシーガ錠10mg 添付文書」(2025年4月改訂、第7版)
- 厚生労働省「定期健康診断等における血糖検査の取扱いについて」(令和2年12月23日基発1223第7号)
- Suwazono Y, et al. Shiftwork and impaired glucose metabolism: a 14-year cohort study on 7104 male workers. Chronobiol Int. 2009;26(5):926-941. PMID: 19637051.
- 厚生労働省「職場における熱中症防止対策のためのガイドライン」(令和8年3月18日基発0318第1号)
- Tateishi S, Watase M, Fujino Y, Mori K. The opinions of occupational physicians about maintaining healthy workers by means of medical examinations in Japan using the Delphi method. J Occup Health. 2016;58(1):72-80. PMID: 26549831.
- 厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(PDF)
- 警察庁「運転免許の拒否等を受けることとなる一定の病気等について」
- 警察庁「安全運転相談窓口について」
- 厚生労働省・福井労働局「事業場における治療と仕事の両立支援の努力義務化」(改正労働施策総合推進法第27条の3、令和8年4月1日施行)
- 厚生労働省「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)
- 労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」










