糖尿病で就業制限を受けたら?企業側がサポートすべき5つのことを解説
糖尿病による就業制限は、企業の事業内容や従業員の健康状態により左右されるため、統一的な基準はありません。では、就業制限が必要となったら、企業側は従業員の勤務についてどのような制限やサポートを行えばよいのでしょう。
本記事では、企業の人事部門の方に向けて、従業員が就業制限を受けたときの対応方法と糖尿病の就業制限に対する疑問を解説します。
主治医や産業医に確認すべき内容と企業側がサポートすべきことが理解できるので、ぜひ参考にしてください。
糖尿病で就業制限を受けたら?
厚生労働省によると、糖尿病を持っていても適切な治療と定期通院がされていれば、就業制限の必要はないとしています。
しかし、就業制限が必要となった場合、企業側は従業員に対して、糖尿病の治療や通院と仕事を両立できるように支援を行う必要があります。そもそも、就業制限とは勤務に制限を加えることであり、労働時間の短縮や時間外労働の制限、就業場所の変更などをいいます。
つまり、就業制限が必要になった場合、血糖コントロール不良を予防するために適切な労働時間に調整したり、場合により就業場所なども変更しなければなりません。
次の章では、より具体的に企業側がサポートすべきことを解説します。
参考:厚生労働省「事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン(令和4年版)(PDF)」
企業側がサポートすべき5つのこと
糖尿病と診断された従業員に企業側がサポートすべきことは次の5つです。
- 低血糖・シックデイの対応
- 危険がともなう仕事の対応
- 労働環境への配慮
- 糖尿病の理解に対する配慮
- 付き合いや接待の配慮
対応方法の理解を深めて適切なサポートを行いましょう。
サポート①:低血糖・シックデイの対応
企業側は、低血糖・シックデイの対応方法を本人および主治医などに、あらかじめ確認しておくことが望ましいです。
低血糖時に適切な対応をしないとけいれんや意識の低下をまねき、救急受診が必要となる可能性があります。低血糖時の基本的な対応方法は、可能なら簡易血糖測定を行い必要に応じて糖分を摂取するなどです。
シックデイとは感染症などにより、嘔吐・下痢・食欲不振が生じて、血糖値が不安定になる状況です。シックデイのときは、安静と保温につとめて十分な水分と炭水化物などを摂る対応方法があります。
しかし、本来は低血糖やシックデイとなった場合は、主治医の指示に従い適切な対処をすることが重要です。企業側は、本人が主治医に対処方法の指示を受けているか確認するとともに、職場における対処方法を共有しましょう。
サポート②:危険がともなう仕事の対応
糖尿病の治療状況によっては、車の運転や高所作業など、危険がともなう業務は控える必要があります。低血糖や高血糖となった場合、集中力の低下やだるさなどが生じる恐れがあり、交通事故や高所からの落下リスクがあるためです。
また、単独での作業も控えることを推奨します。周囲にだれもいない状況で低血糖や高血糖の症状が生じると、いざというときに対応ができないためです。主治医や産業医の指示を受け、業務内容に制限が必要か検討してもらいましょう。
サポート③:労働環境への配慮
場所や時間などの労働環境も糖尿病に影響を及ぼします。糖尿病に影響をもたらす可能性がある労働環境の一例は次のとおりです。
- 長時間の作業:低血糖のリスクがあるため、業務時間が長い場合は間食を許可する
- 高温多湿での作業:脱水のリスクがあるため業務前の体調確認と適宜水分、塩分を摂取する
- 交代制勤務:食事が不規則になり低血糖のリスクがあるため、勤務間隔と休憩時間を確保する
以上はあくまでも一例です。主治医や産業医の意見を考慮して、本人の状況に適した対応を行いましょう。
サポート④:糖尿病の理解に対する配慮
周囲が糖尿病に対する誤った認識を持っていると、本人の就業継続を妨げます。糖尿病に対する理解がないと、自分からの支援の申し出がしにくく、必要な対応や配慮が行えないためです。
従業員に就業制限が必要になったら、まずは本人の意向を確認してください。そして、上司や同僚に対して、正しい糖尿病の知識とこれから行う対応などの共有を行います。また、顧客などの関係者も同様です。食事や間食、薬の重要性など、必要な情報を整理して伝えましょう。
糖尿病と仕事の両立支援には周囲の協力が不可欠です。本人の意向を確認したうえで、上司や同僚、顧客などに糖尿病の理解を深めてもらいましょう。
サポート⑤:付き合いや接待の配慮
糖尿病の人がアルコールを摂取しすぎると、血糖バランスを崩してしまうリスクがあります。そのため、糖尿病の人に付き合いや接待で無理にアルコールをすすめてはいけません。
糖尿病について周囲に理解を促すことも大切です。しかし、本人にも飲酒を断る姿勢を持ってもらうことも重要です。「主治医に止められている」「車で来ている」など断り方のポイントをおさえてもらいましょう。
糖尿病の人でも、1日に25g程度(日本酒1合・ビール中瓶500ml程度)のアルコール摂取は可能とされています。ただ、あくまでも一般的なアルコール量であるため、主治医や産業医に適正な量を相談するように伝えましょう。
糖尿病の就業制限に対するよくある質問
ここでは、次の糖尿病の就業制限に対するよくある質問について解説します。
- 就業制限が必要となる血糖値やHbA1cの基準値はある?
- 1型糖尿病と2型糖尿病では対応方法が変わる?
- 夜勤は禁止にしたほうがよい?
疑問を解決して、糖尿病の就業制限に対する正しい知識を身につけましょう。
就業制限が必要となる血糖値やHbA1cの基準値はある?
就業制限が必要となる血糖値(FBS)やHbA1cの数値に統一的な基準はありません。企業の事業内容や従業員の健康状態によっても左右されるためです。しかし、血糖値やHbA1cの数値を参考に就業制限を課す場合があります。
以下の数値はあくまで一つの目安です。実際に就業制限をつけるかどうかは、その人自身の年齢や体の特性、業務内容などを総合的に評価して、産業医により判断されます。
- FBS≧300mg/dLで時間外勤務禁止・夜勤禁止・高所作業禁止
- FBS>126mg/dL or/and HbA1c>6.5で受診勧奨し、受診するまで就業制限を交付
数値の基準を一律に決定して就業制限を課すと、個々の従業員の特性によらず、就業制限判断ができます。そのため、血糖値が高い状態による就業中の意識障害や心筋梗塞の発症などによる二次災害のリスクの軽減や、受診勧奨に効率的につなげることができるかもしれません。
以上のように血糖値とHbA1cの基準値を設定すれば、従業員の健康と企業のリスクヘッジの最大化が期待できる可能性があります。就業制限を受けて具体的にどのように就業内容を変更するのかは産業医や主治医に相談しましょう。
1型糖尿病と2型糖尿病では対応方法が変わる?
1型糖尿病はインスリンを作るβ細胞が破壊され、インスリン分泌が減少・消失したことによって発症します。一方、2型糖尿病は遺伝によりインスリンの分泌が不十分であるのに加えて、過食や運動不足などの影響で発症します。
1型糖尿病は薬物療法が必須となるため、血糖測定・自己注射を行う時間と衛生的かつプライバシーを確保できる環境に配慮する必要があります。また、食事とインスリン注射の時間を合わせることが大切であるため、食事時間の配慮も必要です。
2型糖尿病は、食事療法と運動療法で治療が不十分な場合に薬物療法を行います。そのため、職場では食事のタイミングと食事量の調整が重要です。1型糖尿病にもあてはまりますが、会食や接待などでの食事量の配慮が必要となるでしょう。薬物療法を行っていれば、薬のタイミングももちろん大切です。
夜勤は禁止にしたほうがよい?
夜勤を禁止にするかどうかは本人の治療状況により異なります。そのため、まずは主治医や産業医に相談する必要があります。
ただし、夜勤をする場合は長時間労働に加えて食事時間が不規則になるため、血糖バランスが崩れる恐れがあります。そのため、就業制限が必要な人が夜勤をする場合は、休憩時間や勤務間隔の確保が必要です。また、主治医や産業医から血糖不良時の対応方法や、内服・インスリン自己注射のタイミングなどの指示を受けてもらいましょう。
まとめ:糖尿病の就業制限に悩んだら産業医に相談しましょう
企業側は、糖尿病と診断された従業員が就業制限を受けた際は以下を確認しましょう。
- 適切な治療と定期通院をしているか
- 具体的な就業制限の指示を受けているか
- 就業制限を課すための血糖値やHbA1cの基準値の指示を受けているか
従業員の健康と企業のリスクヘッジの最大化を図るなら、具体的な就業制限の指示や措置意見書の交付をしてもらうことが望ましいです。糖尿病の就業制限においてその具体的な内容やサポートについて悩んだら、人事部のみや個人で判断せず産業医に相談することが大切です。