燃え尽き症候群(バーンアウト)とは?管理職が注意すべき症状と対応

燃え尽き症候群は、仕事への強い熱意や責任感を持つ社員が陥りやすい心と体の疲れ切った状態を指します。
とくに真面目で誠実な社員ほど自分の限界を超えて働き続けてしまう傾向があり、気づいたときには休職が必要なほど症状が進行しているケースも少なくありません。管理職には、部下のささいな変化も見逃さず、適切なタイミングで対応することが求められます。
この記事では、管理職が押さえるべき社員の変化の兆候とその対応方法について解説します。組織全体で燃え尽き症候群の予防に取り組み、だれもが健康に働ける職場づくりを目指すためにぜひ本記事をお役立てください。
目次
「燃え尽き症候群」の概要

燃え尽き症候群(バーンアウト)は長期的な仕事のストレスによって心身が疲弊し、意欲や能力が著しく低下する状態です。
2022年にWHOが発行したICD-11(国際疾病分類)では、「バーンアウトとは職場での慢性的なストレスによって引き起こされる症候群」と定義されています。
一般的に、燃え尽き症候群は仕事の影響による状態であって、その他の私生活などの状況によって起因するものではありません。
参考:WHO「Burn-out an “occupational phenomenon”: International Classification of Diseases」
「燃え尽き症候群」のおもな3つの症状と特徴
燃え尽き症候群には、おもに3つの特徴的な症状が見られます。
症状①:情緒的消耗感
情緒的消耗感とは、「感情が疲れ果てた状態」です。
仕事への熱心な取り組みで、心のエネルギーが枯渇します。
情熱をもって取り組んでいた仕事に興味を失い心身ともに疲れ果ててしまった状態です。
症状②:脱人格化
脱人格化とは、「人との関わりを意識的に避けたくなる状態」です。
情緒的な疲れでエネルギーが枯渇し、さらなる消耗を防ぐ反応として表れます。
「同僚やお客様の顔を見たくない」「仕事で関わる全ての人と話すのが嫌になった」などと感じるような状況です。
症状③:個人的達成感の喪失
個人的達成感の喪失とは、「仕事におけるやりがいや自信を失った状態」です。
感情の疲れ果てや人との関わりを避けたくなる状態が長引くと、仕事の質の低下から望むべき成果や達成感が得られにくくなります。
「この仕事は自分には向いていない」「自分にはこの仕事を達成する能力がない」と否定的になりやすい状態で、最悪の場合には休職や離職につながるケースもあります。
うつ病と燃え尽き症候群の違い
燃え尽き症候群は、医療や介護、教育現場で働く人に多くみられます。
高い理想や使命感を持って職務に携わっていた人が、やる気や達成感を失い、無力感や疎外感に悩まされるのが特徴です。
燃え尽き症候群とうつ病は似ている部分もありますが、異なる点は明確です。
燃え尽き症候群は仕事に関連して症状が発症しており、休養や仕事の負担軽減で回復が見込めます。
一方、うつ病は仕事を休むだけでは回復せず、薬物療法や心理療法などの専門的な治療が必要な場合があります。
早期発見のためのチェックポイント
燃え尽き症候群は、仕事で蓄積された心身の疲労から引き起こされる状態です。
症状が悪化する前に、本人や周囲が気づくことが好ましいさまざまな変化があります。
以下のチェックポイントを参考に、燃え尽き症候群の可能性を確認してみてください。
【 日本版バーンアウト尺度】
バーンアウト(燃え尽き症候群)
簡易チェックツール
最近のあなたの状態について、最も当てはまるものを選んでください。
分類の説明
- E:情緒的消耗感
- D:脱人格化
- PA:個人的達成感
判定のポイント
当てはまった項目のうち、「情緒的消耗感」を示すEと「脱人格化」を示すDの項目が多いほどバーンアウトの可能性が高いです。
一方で、「個人的達成感」を示すPAの項目は当てはまる項目が少ないほどバーンアウトの可能性が高いとされています。
日本語版バーンアウト尺度を活用し、早期発見と対策に役立ててください。
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「燃え尽き症候群」の原因

燃え尽き症候群は、仕事でのストレスで起こるといわれます。
さらに、個人の性格や職場環境の違いでも生じやすい場合があります。
個人の性格・特性による9つの原因
燃え尽き症候群になりやすい人は、次のような性格や特性が大きく関わっているといわれています。
個人の性格・特性による9つの原因
| 性格・特性 | 燃え尽きやすさの理由・傾向 |
|---|---|
| まじめで正義感が強い人 | 理想が高く、周りの期待に応えようと無理を重ねがちです。 |
| 完璧主義で責任感が強い人 | 仕事の質にこだわりすぎて心身ともに疲れやすい傾向があります。 |
| 仕事熱心な人 | 一つのことに熱中しやすく、仕事に没頭するあまり休息を取るのを忘れがちな傾向が多いです。 |
| タイプA行動パターンの人 | 仕事熱心な特徴に加え、競争心が強く、野心的で、常に時間に追われるなど、自ら高いストレス状況を作り出しやすく、燃え尽きやすい傾向があります。 |
| 他者配慮性が高い人 | 人当たりが良く愛想の良い人は、周りからの依頼を断れずに仕事 を抱え込みやすい傾向があります。 |
| 外的統制感が強い人 | 自分の人生や出来事の結果が、自分自身の行動よりも運命や他者、外部環境といった自分ではコントロールできない力によって決まると信じる傾向があり、無力感を抱きやすいです。 |
| 自己肯定感が低い人 | 周りからの評価を気にしすぎて自分を追い込んでしまう場合が多いといえるでしょう。 |
| 神経症的傾向が高い人 | ストレスに対してより過敏で、同じ出来事でもより強くネガティブに受け止めがちであり、情緒的消耗につながりやすい傾向があります。 |
| 共感性が過度に高い人 | 他者の苦痛やネガティブな感情を自分自身のものとして過度に取り込んでしまい、共感疲労 (Compassion Fatigue) を起こしやすい傾向があります。 |
挙げた9つの性格や特性以外にも燃え尽き症候群になりやすい場合もあります。
これらの性格は仕事を進める上で長所ですが、自分の限界を知らずに頑張りすぎて心と体に負担がかかってしまうことがあるため要注意です。 客観的な性格テストを活用し、燃え尽き症候群のリスクがないか確認してみましょう。
原因の一つとして挙げられている神経症的傾向は、ビッグファイブ理論による性格診断で調べられます。詳しくは、以下の関連記事をご覧ください。
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仕事における11項目の燃え尽き症候群の原因
職場環境における燃え尽き症候群の11の原因は以下のとおりです。
職場環境や仕事内容による11の要因
| 要因 | 説明 |
|---|---|
| 人と関わる時間の多さ | 医療や接客などでは、常に相手に気を配る必要があり、精神的な負担が蓄積されやすい |
| 肉体労働が求められる職場 | 建設現場や工場などの力仕事では、体の疲れが心にも影響を及ぼしやすい |
| 長時間労働や休日出勤が日常的な職場 | 仕事と生活のバランスが崩れ、心身の回復が難しい |
| 仕事の過剰な負荷 | 長時間労働や休日出勤がなくとも、時間あたりに占める密度の高い仕事量は心身への負担が強い |
| 仕事のコントロールの欠如 | 仕事の進め方や意思決定への参加が少ないと、仕事に対する影響力や自律性の感覚が低いと感じ、高ストレスになりやすい |
| 頑張りが評価されにくい環境 | 自分で判断する機会が少なく単調な作業も高ストレスになりやすい |
| 報酬の不足 | 努力や成果に対する金銭的報酬や感謝や賞賛などの社会的承認、キャリアアップなどの機会が不十分だと心身が疲弊しやすい |
| コミュニティの崩壊 | 職場での孤立感、上司や同僚からのサポート不足、対人関係のかっとうやいじめ、ハラスメントなど、社会的支援の欠如は健康リスクを高めやすい |
| 公平性の欠如 | えこひいきなど、組織公平性が欠如している組織でも離職や燃え尽き症候群のリスクが高い |
| 価値観の不一致 | 社員と組織で価値観や倫理観の隔たりがあると、自己肯定感の低下やシニシズムにつながり、心身の不調をきたしやすい |
| 役割の葛藤・曖昧さ | 自分の役割や責任範囲が不明確、矛盾した指示や期待をされると、職場満足感の低下や緊張感の高まりと関連して燃え尽きやすい |
強いストレスを感じ、燃え尽きてしまう原因としては、上表の11項目が挙げられます。
やりがいを感じられない状態が続くと、徐々にモチベーションが低下し、燃え尽き症候群に陥るリスクが高まるのです。
「燃え尽き症候群」予防のための対処法

仕事が燃え尽き症候群の引き金になるといわれている中で、社員一人ひとりや企業全体に大きな影響を及ぼす前に、予防的な対策が必要不可欠です。
燃え尽き症候群をどのように予防や防止すればいいか、以降で具体的に説明します。
燃え尽き症候群の予防策:職場全体で取り組むべきこと
燃え尽き症候群を予防するためには、職場全体での包括的な取り組みが不可欠です。
主な予防策として以下の点が挙げられます。
予防策リスト
- 社員一人ひとりの意見に耳を傾ける
- 休憩時間を確実に取得させる
- 集中して仕事ができる環境を整備する
- 残業や休日出勤を制限する
- 個人の得意分野を生かした業務配分を行う
- 部下の気持ちに寄り添える上司を配置する
それぞれの予防策の詳細についてもう少し詳しく説明します。
社員一人ひとりの意見に耳を傾ける
社員が抱える困りごとや悩みを早期に発見し、対処することが重要です。
定期的な面談や相談しやすい窓口の設置などが有効です。
休憩時間を確実に取得させる
心身の回復を図るためには、定められた休憩時間を確実に取得させることが重要です。
休憩を取りやすい雰囲気づくりも求められます。
集中して仕事ができる環境を整備する
職場の温度、換気、照明といった物理的な環境は、社員のストレスに影響を与える可能性があります。
これらの環境を適切に管理し、集中して業務に取り組める環境づくりが効果的です。
残業や休日出勤を制限する
ワークライフバランスを保てる体制を整えることは、燃え尽き症候群の予防に不可欠です。
長時間労働を是正し、十分な休息時間を確保できるよう努めましょう。
個人の得意分野を生かした業務配分を行う
社員が自身の強みや得意なことを生かして働けるような業務配分は、仕事へのモチベーションを高め、過度なストレスを軽減する効果が期待できます。
部下の気持ちに寄り添える上司を配置する
特に、感情面での支援ができるリーダーの存在は重要です。
部下の気持ちを理解し、精神的なサポートを提供できる上司がいる職場では、燃え尽き症候群の発生リスクも下がると考えられます。
産業医との連携のタイミングと方法
社員の体調がすぐれない状態が1カ月以上続いているときは、産業医への相談を検討するべき段階です。たとえば、仕事中のめまいや頭痛を訴える回数が増えたり、朝起きられず遅刻する日が多くなったりする状況は要注意です。
産業医は社員の心身の健康管理を担い、就業継続の判断や、症状によっては医療機関の受診を勧めます。本人から「医師に相談したい」という希望があれば、上司や人事部門は、速やかに面談の機会を設ける必要があります。
早めの相談で重症化を防ぎ、働く人の健康を守ることができるのです。
管理職に求められる対応
チームの健康管理において、労働時間の適切な把握と管理は欠かせません。
厚生労働省の資料では、残業時間が以下の基準を超える場合、過労死のリスクが高まるとされています。
- 1カ月で100時間超
- 2〜6カ月の平均が80時間超
さらに、1ヶ月あたりの長時間労働が45時間を超過した状態が3ヶ月以上継続する場合も要注意です。
勤務時間や休憩時間をしっかりと記録し、部下一人ひとりの働き方に目を配ることが大切です。
日々のコミュニケーションを通じて部下の変化にいち早く気づけるように朝のあいさつや雑談を通じて表情や様子を確認したり、定期的な面談で悩みを聞いたりする機会を設けることをお勧めします。
管理職の方は自分自身のセルフケアもしつつ、無理のない範囲で率先的にラインケアに取り組んでみてください。
復職支援に関する実践的な対処法
バーンアウトにより休職した社員の復職支援は、再発予防のために重要です。バーンアウトしやすい真面目な人は、責任感が強く、復帰直後から無理に業務をこなしがちです。
職場復帰のプロセスは、初めは短時間勤務からスタートし、徐々に勤務時間を延ばしていく段階的なアプローチが効果的な場合があります。
仕事の内容も最初からすべての業務を任せるのではなく、優先度の低い作業から始めましょう。チーム内で仕事を分け合い、負担が特定の人に集中しない調整も重要な取り組みです。
先輩社員がメンターとして寄り添う制度の活用も、安心して職場に戻れる環境が整います。メンターは日々の困りごとを気軽に相談できる相手となり、復職者の心の支えとなるでしょう。小さな変化にも気づきやすい距離感で見守ることができます。
まとめ:燃え尽き症候群(バーンアウト)を早めに察知して社員を守りましょう!

燃え尽き症候群は、適切な予防と早期対応で防ぐことが可能です。そのためには、企業全体での意識改革と、管理職による日常的な声かけやケアが不可欠となります。
一人ひとりの社員は、組織にとってかけがえのない存在です。大切な人材を守り、生かしていくために、管理職は常に部下の心身の健康に目を配り、適切な支援をおこなう必要があります。
強じんでありながら柔軟性を備えた組織づくりは、現代の企業経営において最も重要な課題の一つといえるでしょう。
もし、自社の職場環境に課題を感じたり、専門家の視点を取り入れたいとお考えでしたら、お気軽にSUGARへお問い合わせください。社員が安心して力を発揮できる職場環境の整備に、共に取り組んでいきましょう。
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燃え尽き症候群(バーンアウト)とは何ですか?
燃え尽き症候群(バーンアウト)とは、長期にわたる仕事上のストレスによって心身が極度に疲弊し、仕事への意欲や関心を失ってしまう状態を指します。WHO(世界保健機関)は「職場での管理されなかった慢性的なストレスにより生じる症候群」と定義しており、主に仕事に関連する文脈で用いられる概念です。
燃え尽き症候群の主な症状を教えてください。
燃え尽き症候群の主な症状は、次の3つです。1. 情緒的消耗感: 仕事を通じて感情が出し尽くされ、心身ともに疲れ果てた状態。2. 脱人格化: クライアントや同僚に対して、思いやりのない非人間的な態度をとるようになる状態。3. 個人的達成感の喪失: 仕事に対するやりがいや達成感を失い、自身の能力に否定的な感情を抱く状態。
燃え尽き症候群とうつ病はどう違うのですか?
燃え尽き症候群は、原因が主に「仕事上のストレス」に限定されるのに対し、うつ病は仕事だけでなく私生活など様々な要因が複雑に絡み合って発症します。症状の現れ方も、燃え尽き症候群は仕事関連の事柄に強く出ますが、うつ病は生活全般にわたって気分の落ち込みや興味の喪失が見られます。ただし、両者は併発することもあり、正確な判断には専門家の診断が必要です。
部下の燃え尽き症候群を防ぐために、管理職は何をすべきですか?
管理職には、部下の変化を早期に察知し、適切に対応することが求められます。具体的には、・長時間労働を是正し、労働時間を適切に管理する。・定期的な1on1ミーティングなどを通じて、部下の悩みや意見に耳を傾ける。・部下の表情や言動など、日々のコミュニケーションから変化のサインを見逃さない。・必要に応じて産業医との面談を促すなど、専門家へつなぐ役割を担う。といった対応が重要です。
社員が休職から復帰する際の注意点はありますか?
復職支援では、再発を防ぐための段階的なアプローチが重要です。まずは短時間勤務から開始し、徐々に勤務時間を延ばしていく方法が効果的です。また、業務内容も本人の負担が少ないものから任せ、特定の社員に業務が偏らないようチーム全体でサポートする体制を整えましょう。メンター制度を導入し、気軽に相談できる相手がいる環境を作ることも、復職者の心理的な支えとなります
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