【産業医監修】サンクスカード導入ガイド|効果と失敗しない運用方法

- サンクスカードとは、従業員同士が感謝を伝え合うことで、組織のエンゲージメントや心理的安全性を高める社内制度です。
- この記事では、医師・労働衛生コンサルタントが、サンクスカードがもたらす科学的根拠のある効果から、多くの企業が陥る「形骸化」を防ぐ具体的な導入・運用ステップ、さらには相手に響くメッセージの例文まで、網羅的に解説します。
「最近、職場のコミュニケーションが少なく、活気がない…」
「従業員のモチベーションを高めたいが、有効な施策が見つからない」
「サンクスカード制度を導入したが、いつの間にか形骸化している」
人事担当者や管理職として、このような課題に頭を悩ませてはいないでしょうか。
従業員同士が感謝を伝え合う「サンクスカード」は、組織風土を改善する施策として注目されています。しかし、「やらされ感」「気持ち悪い」といった声が聞かれ、運用に失敗するケースが多いのも事実です。
この記事では、医師・中小企業診断士・臨床心理士がサンクスカードの基本知識から医学的根拠にもとづく効果、導入で失敗しないための運用方法まで、網羅的に解説します。
最後まで読むことで、サンクスカードをコミュニケーション活性化ツールとして組織に円滑に導入する方法がわかるでしょう。
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目次
- 1 サンクスカードとは?経営戦略として注目される理由を1分で解説
- 2 【医学的根拠あり】サンクスカードが組織にもたらす7つの効果・メリット
- 3 【例文9選】相手に響くサンクスカードの書き方|基本のフレームワークとNG例
- 4 サンクスカード導入・運用の教科書|失敗しないための4ステップと継続の仕組み
- 5 なぜサンクスカードは形骸化するのか?「気持ち悪い」「やらされ感」への対策方法
- 6 【ケース別】サンクスカード活用の応用術|リモートワーク・中小/大企業・業種別
- 7 サンクスカードのおすすめアプリ・ツール比較|紙とデジタルの選び方
- 8 サンクスカードに関するよくある質問(FAQ)
- 9 まとめ:感謝が組織を強くする。科学的アプローチで称賛文化を根付かせよう
サンクスカードとは?経営戦略として注目される理由を1分で解説

サンクスカードとは、従業員同士が日々の業務における感謝の気持ちをカード(紙やデジタル)で伝え合う社内制度です。
組織が抱えるコミュニケーション不足や人材定着などの課題を解決する、戦略的ツールとして改めて注目されています。
サンクスカードの3つの目的
サンクスカード制度には、主に3つの重要な目的が存在します。
目的①感謝の可視化と「見えない貢献」の承認
資料作成のサポートや後輩へのアドバイスなど、数値化されにくい「見えない貢献」に光を当て、承認します。
特にバックオフィス部門などで働く従業員のモチベーション向上につながります。
目的②ポジティブな関係性の構築
感謝というポジティブなフィードバックを交換する機会を設け、従業員間の信頼関係を育みます。
結果として、チームの心理的安全性を高める土壌が形成されるでしょう。
目的③経営理念や行動指針(MVV)の浸透
企業の理念に沿った行動がサンクスカードを通じて称賛される文化は、理念を形骸化させません。
日々の業務における具体的な行動基準として、 MVV(Mission、Vision、Valueの頭文字をとった略語)を組織全体に浸透させる効果が期待できます。
なぜ今、多くの企業が導入するのか?働き方の変化とメンタルヘルス対策
サンクスカードが注目される背景には、現代のビジネス環境が抱える2つの大きな課題があります。
一つは、リモートワークの普及によるコミュニケーションの希薄化です。
物理的な距離は、雑談や声かけといった偶発的なコミュニケーションの機会を減少させます。サンクスカードは、リモートワーク下でもポジティブな接点を創出し、組織のつながりを維持・強化する役割を担います。
もう一つは、経営課題としてのメンタルヘルス対策の重要性が高まっている点です。
厚生労働省の調査においても、職場の人間関係がストレスの大きな原因であることが示されています。サンクスカードは良好な人間関係を構築し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ予防的アプローチとして効果的といえます。
参考:厚生労働省「令和6年労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要」
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【医学的根拠あり】サンクスカードが組織にもたらす7つの効果・メリット

サンクスカードの導入は、感覚的な「よいこと」ではなく、組織に測定可能で多岐にわたるメリットをもたらします。
公的な調査データや医学的な知見にもとづき、以下のサンクスカードがもたらす7つの具体的な効果を解説します。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 人材定着率の向上(離職率の低下)
- 心理的安全性の醸成とコミュニケーションの活性化
- 生産性の向上
- 経営理念・行動指針(MVV)の浸透
- メンタルヘルスの改善
- 健康経営の推進
効果①従業員エンゲージメントの向上
自分の仕事や貢献が他者から認められているという実感は、従業員の仕事への熱意や組織への愛着である「従業員エンゲージメント」を高めます。
マズローの欲求仮説における承認欲求が満たされることで、従業員は外発的にも内発的にも動機づけられ、より主体的に業務へ取り組むようになると考えられています。
効果②人材定着率の向上(離職率の低下)
従業員が「この組織は自分を大切にしてくれている」と感じられる職場は、定着率が高まる傾向にあります。
ギャラップ社とワークヒューマン社 の調査によると、質の高い称賛(表彰など)を受けた従業員は2年後に離職する可能性が45%低いとされています。
承認や称賛を大切にする文化を醸成することで、人材定着につながるでしょう。
参考:Employee Retention Depends on Getting Recognition Right│GALLUP
効果③心理的安全性の醸成とコミュニケーションの活性化
感謝や称賛が日常的に交わされる文化は、「安心して自分の意見を言える」という感覚、すなわち「心理的安全性」を育みます。
心理的安全性の高いチームは、メンバー間の情報共有が活発化し、建設的な意見交換が生まれるため、イノベーションが促進されることが知られています。
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効果④:生産性の向上
サンクスカードは、部署や役職を超えたコミュニケーションの潤滑油として機能します。
接点のなかった従業員同士が、サンクスカードをきっかけに互いの仕事を理解し合うことで、部門間の連携がスムーズになります。
従業員の連携強化は、業務の効率化をもたらし、組織全体の生産性向上に直結するでしょう。
効果⑤経営理念・行動指針(MVV)の浸透
多くの企業が掲げる経営理念やミッション・ビジョン・バリュー(MVV)は、ときに抽象的で日々の行動に結びつきにくい側面があります。
サンクスカードは、経営理念を具体的な行動レベルで浸透させるために役立つツールです。
例えば、「挑戦を称える」というバリューがある企業で、新しい試みへの行動が称賛されれば、「挑戦」が企業が求める行動だと組織全体に伝わります。
効果⑥メンタルヘルスの改善【医師が解説】
感謝の経験や表現が、心身へ良い影響を与えることは科学的にも広く知られています。
心理学の研究では、感謝が幸福感を高めるだけでなく、ストレス軽減にもつながることが報告されています。
さらに脳科学の観点では、感謝により「幸福ホルモン」と呼ばれるセロトニンや、信頼関係を深めるオキシトシンといった脳内物質の分泌が促される可能性も示唆されています。
セロトニンやオキシトシンは精神的な安定に必要なため、感謝を伝え合う文化は、職場のメンタルヘルスを良好に保つ上でも効果的です。
効果⑦健康経営の推進
経済産業省が推進する「健康経営」とは、従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することを指します。
経済産業省が推進する「健康経営優良法人認定制度」では、とくに優良な健康経営の取り組みを行う企業を認定しており、国レベルでも重要視される取り組みです。
健康経営優良法人の認定要件には、従業員のエンゲージメントやコミュニケーション活性化に関する項目が含まれています。
サンクスカードは、健康経営優良法人の認定要件を満たす具体的かつ効果的な施策であり、認定取得を目指す企業にとって有効な選択肢となります。
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【例文9選】相手に響くサンクスカードの書き方|基本のフレームワークとNG例

サンクスカードの効果を最大化するには、「どのように書くか」が非常に重要です。誰でも実践できる基本的なフレームワークと具体的な例文集、そして避けるべきNG例を紹介します。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 基本のフレームワーク | 「行動」「影響」「感謝」の3ステップで構成する |
| 相手別・状況別 例文集 | 上司、部下、同僚など、コピーして使えるテンプレートを紹介 |
| NG例 | 気持ちが伝わらない残念な書き方とその改善ポイントを解説 |
基本のフレームワーク:「行動」「影響」「感謝」の3ステップ
相手の心に響くメッセージは、以下の3つの要素で構成されています。
- 具体的な行動(Action): 相手が「何をしてくれたか」を具体的に記述します。
- ポジティブな影響(Impact): その行動が、自分やチームに「どのような良い影響を与えたか」を伝えます。
- 感謝の気持ち(Appreciation): 結果として、自分が「どのように感じたか」を素直な言葉で表現します。
(例)
「先日のA社への提案資料、急な追加データのお願いに夜遅くまで付き合ってくれてありがとう。おかげで説得力が増し、無事コンペに勝つことができました。〇〇さんのサポートがなければ成し遂げられませんでした。本当に心強かったです!」
3つの要素を意識するだけで、感謝の気持ちはより深く、具体的に伝わるでしょう。
相手別・状況別 例文集(コピーして使えるテンプレート)
様々なシチュエーションで活用できる例文をまとめました。ぜひ、このテンプレートを参考に、ご自身の言葉でアレンジしてみてください。
| シチュエーション | 宛先 | 例文 |
|---|---|---|
| 日常業務のフォロー | 同僚へ | 「○○さん、急なデータ抽出依頼に迅速に対応してくれてありがとうございました!おかげで会議資料に間に合いました。本当に助かりました。」 |
| 日常業務のフォロー | 部下へ | 「○○さん、いつも会議の議事録を丁寧にまとめてくれてありがとう。要点が分かりやすく、後から見返すときに非常に役立っています。」 |
| 日常業務のフォロー | 上司へ | 「○○課長、先日のクライアントとの打ち合わせでの的確なフォロー、ありがとうございました。私が言葉に詰まった際に助け舟を出していただき、心強かったです。」 |
| 失敗のカバー・サポート | 同僚へ | 「私が入力ミスをしてしまった件、一緒に確認して修正を手伝ってくれて本当にありがとう。○○さんの冷静な対応のおかげで、大事にならずに済みました。」 |
| 失敗のカバー・サポート | 上司へ | 「先日のトラブル発生時、冷静にご指示いただきありがとうございました。『責任は私が取るから大丈夫』という言葉に励まされ、落ち着いて対応できました。」 |
| 新しいアイデアへの称賛 | 部下へ | 「○○さんのミーティングでの『△△という新しいツールを使ってみては』という提案、素晴らしかったです。早速試したところ、業務効率が大幅に上がりました。素晴らしい視点に感謝します。」 |
| 知識・スキルの共有 | 同僚へ | 「○○さん、先日教えてもらったExcelの関数、早速使ってみました!今まで30分かかっていた作業が5分で終わり、感動しています。貴重な知識をシェアしてくれてありがとう。」 |
| 新人・後輩へのサポート | 先輩社員へ | 「○○さん、新人の△△さんにいつも丁寧に業務を教えてくださり、ありがとうございます。△△さんが安心して働けているのは、○○さんのサポートのおかげです。」 |
| 他部署との連携 | 他部署の担当者へ | 「○○部の△△様、今回のプロジェクトにおけるデータ連携の件では、大変お世話になりました。迅速かつ丁寧にご対応いただいたおかげで、プロジェクトを計画通りに進めることができました。心より感謝申し上げます。」 |
これはNG!気持ちが伝わらない残念な書き方と改善ポイント
せっかくのサンクスカードも、書き方一つで効果が半減してしまいます。
以下のような書き方は避け、より心のこもったメッセージを心がけてみてください。
NG例①定型文のコピー&ペースト
「いつもお世話になっております。」といった誰にでも送れる文章は、感謝の気持ちが伝わりにくくなります。
必ず具体的なエピソードを一つ盛り込むことを意識しましょう。
NG例②抽象的すぎる表現
「頑張っていますね」という言葉は、具体的にどの行動を指しているのかが分からず、相手の心に響きません。
「何が」助かったのか、「どのように」頑張っていると感じたのかを具体的に伝えましょう。
NG例③上から目線の評価
部下から上司へ送る際に「〇〇課長の判断、良かったと思います」のような評価する表現は、相手を不快にさせる可能性があります。
「〇〇とご判断いただき、大変勉強になりました」のように、敬意を払った表現を使いましょう。
【応用編】感謝の連鎖を生む「受け取り方」とリアクション
サンクスカードは「送ること」に焦点が当たりがちですが、「受け取った後の反応」も重要です。
ポジティブな反応は、感謝を送った相手に「伝えてよかった」という満足感を与え、さらなる称賛文化の活性化につながります。
感謝の連鎖を生むためのリアクションのポイントは次の3つです。
ポイント①小さな反応でも必ず返す
デジタルツールなら「👍(いいね)」スタンプや「こちらこそ、ありがとうございます!」といった短いコメントでも構いません。
直接会った際に「カードありがとう、嬉しかったです」と一言伝えるだけでも効果は絶大です。
ポイント②「ポジティブな影響」を伝える
「〇〇さんからのカードのおかげで、今日の午後も頑張れました!」のように、よい影響をもたらしたことを具体的に伝えましょう。
受け取った感謝がどのように役立ったかがわかり、相手の承認欲求をさらに満たせます。
ポイント③次の感謝で応える
受け取った感謝をきっかけに、相手の素晴らしい点を見つけ、サンクスカードを送り返すことで、組織内にポジティブなコミュニケーションの好循環が生まれます。
サンクスカード導入・運用の教科書|失敗しないための4ステップと継続の仕組み

サンクスカード制度を成功させるには、計画的な導入と継続のための仕組みづくりが不可欠です。
導入から定着までを4つのステップに分け、それぞれの段階で押さえるべきポイントを具体的に解説します。
| ステップ①:設計 |
| 目的設定とルールを策定し、制度の土台を築く |
| ステップ②:巻き込み |
| 経営層のコミットメントを得て、推進体制を構築する |
| ステップ③:周知 |
| 全社説明会や研修を通じて、従業員の理解と納得を得る |
| ステップ④:浸透と改善 |
| 効果測定のKPIを設定し、PDCAサイクルで改善を続ける |
Step1:設計(目的設定とルール策定)
目的設定
まず最も重要なのが、「なぜ自社はサンクスカードを導入するのか」という目的を明確にすることです。
「コミュニケーション活性化」といった漠然とした目標ではなく、「部署間の連携不足による手戻りを10%削減する」など、自社の経営課題に紐づいた具体的で測定可能な目的を設定しましょう。
ルール策定
定めた目的に基づき、基本的な運用ルールを設計します。
- 媒体: 紙で始めるのか、最初からアプリを導入するのか
- 対象者: 正社員のみか、アルバイトや業務委託者も含むのか
- 称賛の対象: どのような行動を称賛の対象とするのか(理念に沿った行動など)
Step2:巻き込み(経営層のコミットメントと推進体制)
経営層のコミットメント
サンクスカードは、経営層がその重要性を理解し、自ら積極的に活用する姿勢を示すことが大切です。
トップからのメッセージは、サンクスカードが全社的な重要施策であるという正当性を与えます。
推進チームの発足
人事部だけでなく、各部署から有志のメンバーを集めた「推進チーム」を設置しましょう。
推進チームが各現場での旗振り役となり、制度の浸透をサポートすることで、よりスムーズな導入が可能になります。
Step3:周知(全社説明会と研修)
全社説明会
導入目的、使い方、期待される効果などを全従業員へ丁寧に説明する場を設けます。
「義務になるのでは?」といった従業員が抱きがちな懸念にも率直に答え、不安を払拭することが重要です。
研修・ワークショップ
特に管理職向けに、サンクスカードを1on1や部下育成にどう活かすかといった研修を行うと効果的です。
また、全従業員向けに効果的な書き方のワークショップを実施し、実践への心理的なハードルを下げることも有効でしょう。
Step4:浸透と改善(効果測定KPIとPDCA)
効果測定
制度の成果を客観的に評価するため、事前にKPI(重要業績評価指標)を設定します。
設定したKPIを定期的に測定し、経営層や従業員にフィードバックすることで、施策の価値を可視化します。
| 測定領域 | KPI例 |
|---|---|
| 浸透度 |
|
| コミュニケーション |
|
| エンゲージメント |
|
| 組織成果 |
|
PDCAサイクル
アンケートやヒアリングを通じて現場の声を集め、運用ルールを柔軟に見直していくPDCAサイクルを回し続けましょう。
形骸化を防ぎ、制度を自社の文化として根付かせる鍵となります。
なぜサンクスカードは形骸化するのか?「気持ち悪い」「やらされ感」への対策方法

サンクスカードは、多くの企業で導入されながらも形骸化してしまうケースも少なくありません。形骸化の背景には、感謝がいつの間にか「義務」や「タスク」に変わってしまうことが原因の一つです。
失敗の根本原因を分析し、科学的アプローチに基づいた本質的な解決策を提示します。
失敗の根本原因:2つの側面からの分析
サンクスカードが失敗する背景には、制度そのものの問題と、それを受け取る組織の文化・心理的な問題が複雑に絡み合っています。
【制度設計上の問題】戦略なき導入が招く失敗
- 義務化による「やらされ感」: 「月に5枚書く」といったノルマは、感謝という自発的な行動が「こなすべきタスク」に変わってしまいます。
- 目的の不共有による「意味不明感」: 導入の目的が自分ごととして理解できていない従業員には、サンクスカードは意味のない業務にしか映りません。
- 称賛格差と人間関係の悪化: 称賛されやすい目立つ部署や職種と、バックオフィスなど貢献が見えにくい部署との間で「称賛格差」が生まれるリスクがあります。サンクスカードが「人気投票」のようになると、もらえない従業員の不公平感や嫉妬を煽り、かえって部門間の対立や人間関係の悪化を招くことさえあります。
【組織文化・心理的な問題】ポジティブな行為が負担に変わる罠
- 同調圧力による「気持ち悪さ」: 称賛に慣れていない組織文化では、「本心なのか」という不信感が生まれ、心理的な抵抗につながります。とくに、言葉以外で意図を汲み取る「察する文化」が根付いている組織では、称賛が本心から出ていないように感じられ、かえって不信感を生むことがあります。
- 感情労働による「感謝疲れ」: 感謝の表明が推奨されるあまり、本来ポジティブなはずの行為が「常に感謝しなければならない」という精神的な負担につながるケースです。
行動科学で解決する「やらされ感」:ナッジ理論の応用
サンクスカードを導入する課題を解決するには、強制ではなく「送りたくなる」状況をデザインする、行動科学の「ナッジ(nudge:そっと後押しする)」理論が非常に有効です。
ナッジ理論を活用したサンクスカードの運用方法は以下のとおりです。
- タイミング・ナッジ:
プロジェクト完了直後など、感謝が生まれやすいタイミングで「〇〇さんに感謝を伝えませんか?」とツールがリマインドする。 - 社会規範ナッジ:
社内報などで「私たちの部署では、85%が毎月サンクスカードで感謝を伝え合っています」と共有し、それが当たり前の行動であると示す。
従業員がサンクスカードを使いやすいタイミング見計らってアプローチする仕組みをつくりましょう。
高度なゲーミフィケーション設計:競争より「協力」と「成長」を促す
安易なランキング制度は、一部の勝者と多くの敗者を生み、かえってモチベーションを削ぐ可能性があります。
他者との比較ではなく、個人の成長やチームの協力に焦点を当てた運用を目指しましょう。
- プログレス(進捗)重視:
「今月は初めて他部署の人にカードを送りましたね!」のように、個人の行動範囲の拡大を称賛する。 - 協力クエスト:
「部署全体で、他部署から50枚のサンクスカードをもらおう!」といった共通の目標を設定し、チームで達成を目指す。
ゲーム感覚で従業員が一丸となって楽しめるよう、サンクスカードの設計を工夫しましょう。
倫理的課題:監視ツール化を防ぎ、プライバシーを守るための注意点
デジタルツールを導入する際は、利便性の裏にある倫理的課題にも目を向けなければなりません。分析機能が「誰が送っていないか」を探す監視ツールになることを防ぐため、明確なポリシーの策定と公開が絶対条件です。
さらに重要なのは、サンクスカードの送受信数や内容を、人事評価の直接的な判断材料としないことです。
評価と結びつけると、感謝は「評価ポイント稼ぎ」の手段となり、従業員の内発的動機づけを著しく損ないます。外部からの報酬(評価)が、かえって自発的な意欲を削いでしまう「アンダーマイニング効果」につながりかねません。
あくまで自発的な感謝を育むツールであり、評価とは明確に切り離して運用することを従業員に約束する必要があります。
感謝は内発的な感情であり、制度はあくまで「感謝を可能にする(enable)ツール」であって、「感謝を強制する(mandate)ルール」ではないという姿勢を徹底することが、従業員の信頼を得る上で不可欠です。
【ケース別】サンクスカード活用の応用術|リモートワーク・中小/大企業・業種別

サンクスカードは、組織の規模や働き方、業種に合わせて運用を最適化することで、効果を最大限に発揮できます。
さまざまなケースにおける具体的な活用法と注意点を解説します。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| リモートワーク環境 | コミュニケーションの生命線として活用するコツ |
| 中小企業・大企業 | それぞれの組織規模に合わせた最適なアプローチ |
| 業種特有の課題と解決策 | IT・医療/介護・製造・営業の各業界での活用法 |
リモートワーク環境での活用法とコミュニケーションのコツ
リモートワーク下では、サンクスカードは偶発的なコミュニケーション機会を創出し、組織のつながりを維持するための「生命線」となりえます。
Google chatなどのチャットツールと連携できるアプリを活用し、会議後の感謝やチャットでのやり取りに対する「いいね!」の延長として、気軽に送れる文化を醸成することが重要です。
中小企業・大企業それぞれの最適アプローチ
中小企業
経営層と従業員の距離が近い強みを活かし、まずはコストをかけずに紙のカードで試験的に導入することが効果的です。
社長自らが積極的に活用する姿を見せることで、制度は組織に浸透しやすくなるでしょう。
現場のフィードバックを迅速に反映させる、アジャイルなアプローチが適しています。
大企業
最大の課題である「サイロ化(部署間の壁)」を解消するため、部署を超えた感謝のやり取りをデータで可視化する仕掛けが有効です。
組織横断的なコラボレーションを促進した個人やチームを表彰するなど、全社的なエンゲージメント向上施策の一環として位置づけ、専任チームで推進することが成功の鍵となります。
業種特有の課題と解決策(IT・医療/介護・製造・営業)
IT業界
個々の貢献が見えにくい課題に対し、「難解なバグを解決してくれた」など、技術面での具体的な貢献を称賛し合いましょう。
エンジニアのモチベーションを高め、知識共有の文化を促進します。
医療・介護業界
感情労働による精神的負担が大きい課題に対し、困難なケースへの対応をねぎらうピアサポートのツールとして活用します。
職種を超えた感謝のやり取りが、チーム医療・チームケアの一体感を醸成します。
製造業
本社と工場の物理的・心理的な距離がある課題に対し、現場からの改善提案や安全活動への貢献をオフィス側から積極的に称賛しましょう。
部門間の壁を越えたコミュニケーションの架け橋として機能させます。
営業職
個人の成果に意識が向きがちな課題に対し、契約獲得だけでなく、「新人の商談に同行した」といったチーム全体の成果に繋がる行動を称賛の対象とすることで、チームワークの文化を根付かせます。
サンクスカードのおすすめアプリ・ツール比較|紙とデジタルの選び方

サンクスカードを始めるにあたり、「紙とデジタル(アプリ)のどちらが良いか」は多くの企業が悩むポイントです。
それぞれのメリット・デメリットを整理し、自社に合ったツールの選び方を解説します。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 無料で試せるテンプレート | Canvaなどを活用し、低コストで始める方法を紹介 |
| おすすめアプリ5選 | 主要な専用ツールの特徴と料金を比較表で整理 |
| 目的別ツールの選び方 | 自社の状況に合わせて最適なツールを選ぶための指針 |
まずは無料で試せるテンプレート(Canva等)
低コストでスモールスタートしたい企業には、無料のデザインテンプレートを活用する方法がおすすめです。
物理的なカードは、手書きならではの温かみが伝わるというメリットがあります。
- Canva:
おしゃれで豊富なデザインテンプレートが揃っており、誰でも簡単にオリジナルのカードを作成できます。 - Adobe Express:
Canva同様、直感的な操作でプロ品質のデザインが可能です。 - イラストAC:
感謝の気持ちを表現する様々なイラスト素材を無料でダウンロードできます。
おすすめアプリ5選の機能・料金比較表
近年、サンクスカード専用のアプリやツールが数多く登場しています。アプリの最大のメリットは、送付の手軽さに加え、データの蓄積・分析が可能な点です。
誰がどのような貢献をしているのかを可視化し、組織改善や人材育成に活用できます。
| ツール名 | 特徴 | 料金(目安) |
|---|---|---|
| THANKS GIFT | ゲーミフィケーション要素が豊富。企業の理念浸透を促進する機能も充実。 | 要問い合わせ |
| Unipos | ピアボーナス®(従業員同士が少額のインセンティブを送り合う)の仕組みが特徴。 | 要問い合わせ |
| GRATICA | シンプルで直感的な操作性。手書き風のメッセージが送れる機能も。 | 月額100円/人~ |
| TUNAG | サンクスカードだけでなく、社内報やワークフローなど組織課題を解決する機能が一つになったプラットフォーム。 | 要問い合わせ |
| RECOG | AIが称賛コメントを分析し、個人の隠れた強みや才能を可視化。 | 要問い合わせ |
あなたの会社に合うのは?目的別ツールの選び方
ツールの選定に迷った際は、以下の目的別の指針を参考にしてみてください。
- コミュニケーションの活性化が最優先の場合:
操作がシンプルで、既存のチャットツールと連携できるアプリが適しています。 - 理念浸透や人材データ活用を目指す場合:
企業のバリューと紐づけられ、詳細な分析機能を持つツールが有効です。 - まずはサンクスカードを試したい場合:
無料テンプレートの紙カードから始め、定着後にアプリへ移行するのが着実なステップでしょう。
サンクスカードに関するよくある質問(FAQ)

サンクスカードの導入を検討する際によく寄せられる質問と回答をまとめました。
Q. サンクスカードの導入に費用はかかりますか?
A. 紙のカードと無料テンプレートを活用すれば、印刷費のみで始めることも可能です。
データの集計・分析など、より高度な機能を求める場合は月額制のアプリ導入を検討します。費用はサービスや従業員数によってさまざまですので、複数のサービスを比較検討することをおすすめします。
Q. どのような内容を書けば良いですか?
A. 「助かりました」といった抽象的な言葉だけでなく、「〇〇の資料作成を手伝ってくれたおかげで、プレゼンが成功しました」のように、①具体的な行動、②それによるポジティブな影響、③感謝の気持ち、の3点を盛り込むと相手に気持ちが伝わりやすくなります。
Q. 形骸化を防ぐ一番のポイントは何ですか?
A. 導入目的を全社で明確に共有し、決してノルマ化しないことです。
経営層が率先して楽しんで活用する姿勢を見せ、義務ではなくポジティブなコミュニケーション文化なのだと示すことが重要です。
また、アプリなどを活用して送るハードルを下げることも効果的でしょう。
Q. ネガティブな意見を持つ従業員にはどう対応すればよいですか?
A. 「気持ち悪い」といった感情は、変化に対する自然な反応です。まずはその気持ちを否定せず、背景にある懸念をヒアリングしましょう。
その上で、制度の目的を丁寧に説明し、強制ではないことを伝えます。時間をかけて文化を醸成していく姿勢が求められるでしょう。
Q. ピアボーナス(ポイント付与など)を導入する場合、法的な注意点はありますか?
A. はい、注意が必要です。従業員に付与するポイントやボーナスが、現金や商品券など金銭的価値のあるものと交換できる場合、労働基準法上の「賃金」と見なされる可能性があります。
賃金と判断されると、割増賃金の計算基礎に含める必要が生じるなど、労務管理が複雑になります。導入前には、社会保険労務士などの専門家に相談しましょう。
まとめ:感謝が組織を強くする。科学的アプローチで称賛文化を根付かせよう
サンクスカードは、従業員のエンゲージメントを高め、メンタルヘルスを守るために効果的な手法です。科学的根拠にもとづき、組織の生産性を向上させる効果が期待できます。
形骸化しないよう、自社に合った形で導入・運用することで、感謝と称賛が飛び交う組織文化を育てられるでしょう。
しかし、感謝の文化づくりは一朝一夕にはいきません。従業員の「やらされ感」を出さずに浸透させるには、専門的な視点も必要です。
とくに、産業医によるアドバイスや管理職向けの研修は、称賛しやすい風土の浸透に役立つでしょう。
合同会社SUGARでは、産業医・臨床心理士の資格をもつ代表医師が、管理職向けの研修をご提供しています。サンクスカードをはじめ、組織の活性化につながる知識の浸透に役立てていただけます。ぜひお気軽にご相談ください。
サンクスカードとは何ですか?
サンクスカードとは、従業員同士が日々の業務における感謝の気持ちをカードに書いて伝え合う社内制度です。組織内のコミュニケーションを活性化させ、互いを認め、称賛し合うポジティブな文化を醸成することを主な目的としています。
サンクスカードを導入するメリットは何ですか?
主なメリットとして、従業員のモチベーション向上、チームワークの強化、エンゲージメント向上による離職率の低下が挙げられます。また、普段は見えにくい個人の貢献が可視化され、経営理念が浸透しやすくなる効果も期待できます。
サンクスカードが「形骸化」するのを防ぐにはどうすればよいですか?
形骸化を防ぐには、導入目的を明確に共有し、経営層が率先して活用することが重要です。また、送付をノルマ化せず、表彰制度と連携させたり、アプリを活用して手軽に送れるようにしたりするなどの「続けられる仕組み」を作ることが効果的です。
サンクスカードにはどのようなことを書けば良いですか?
「助かりました」といった抽象的な言葉だけでなく、「〇〇の資料作成を手伝ってくれたおかげで、プレゼンが成功しました」のように、①具体的な行動、②それによるポジティブな影響、③感謝の気持ち、の3点を盛り込むと、相手に気持ちが伝わりやすくなります。
サンクスカードの導入に費用はかかりますか?
紙のカードと無料テンプレートを使えば、印刷費のみで始めることも可能です。より高度な機能(集計・分析、他ツール連携など)を求める場合は、月額制のアプリやツールを導入する方法があり、費用はサービスや従業員数によって異なります。
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