仕事中に動悸が止まらないときの対処法は?病気のリスクと休職手続き

この記事のポイント
- 動悸は「甘え」ではなく、心と体からの緊急停止サイン(SOS)です。
- 30分以上続く場合や痛みを伴う場合は、直ちに救急要請が必要です。
- 「傷病手当金」や「産業医面談」を活用すれば、経済的不安なく療養できます。
「仕事中に突然、心臓がバクバクし始め、冷や汗が止まらない…」
「このまま倒れてしまうのではないか」
「周りに迷惑をかけたらどうしよう」
そんな恐怖と戦いながら、必死にデスクにしがみついていませんか?
「仕事中の止まらない動悸」は、甘えや弱さではありません。それは、限界を超えたストレスに対する、心と体からの「緊急停止サイン(SOS)」です。
この記事では、今すぐできる応急処置から命に関わる危険なサインの判断基準、経済的な不安を解消するための補償制度までを、産業医の視点で包括的に解説します。
ご自身の命と生活を守るための「戦略的撤退」の方法を、一緒に確認していきましょう。
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目次
【緊急対応】今すぐ動悸を落ち着かせる2つの応急処置

仕事中に動悸が止まらなくなった場合、まずは「4-7-8呼吸法」などで過緊張を緩め、心身をリラックスモードへ導くことが最優先です。
また、医学的な頻脈発作の対処法として知られる「迷走神経刺激」も知識として持っておきましょう。
その場ですぐできる「4-7-8呼吸法」と迷走神経刺激
デスクやトイレの個室で、道具を使わずにできる方法は「呼吸による神経コントロール」です。
特に「息を吐く」動作は副交感神経を活性化させ、心拍数を下げる効果があります。
具体的には、以下の「4-7-8呼吸法」がおすすめです。
4-7-8呼吸法の手順
- 完全に息を口から吐き切ります。
- 鼻から静かに息を吸いながら 4秒数えます。
- 息を止めて 7秒数えます(肺でのガス交換を促します)。
- 口から「ふぅー」と音を立てるように、 8秒かけて細く長く息を吐き切ります。
1〜4の手順を4回セットで行ってみてください。
4-7-8呼吸法は、心拍変動(HRV:Heart Rate Variability)と血圧を改善する効果が示唆されています。心拍変動とは、心拍の間隔が一定ではなく、ミリ秒単位で変化する「ゆらぎ」を指し、自律神経のバランスを示す指標です。
そのため、4-7-8呼吸法により、自律神経のバランスを整える効果が期待できます。
また、「冷たい水で顔を洗う(潜水反射)」や「息をこらえる(バルサルバ法)」といった迷走神経刺激法も、頻脈を抑えるのに医学的に有効とされています。
※【重要:実施前の注意】バルサルバ法(息こらえ)を行う際のリスク:強く息をこらえる動作は、一時的に急激な血圧上昇を招きます。高血圧、緑内障、脳血管疾患の既往がある方、あるいは強いめまいを感じている方は、バルサルバ法を行わず、安静にして救急要請または医師の指示を仰いでください。
この症状なら迷わず119番!命に関わる「危険な動悸」チェックリスト
止まらない動悸は、心筋梗塞や狭心症などの一刻を争う心臓病が原因の可能性があります。
以下の兆候がある場合は、仕事や会議を中断してでも、直ちに救急車(119番)を呼んでください。
- 30分以上動悸や胸痛が続いている。
- 放散痛がある(胸だけでなく、左肩、首、顎、歯、背中へ痛みが広がっている)。
- 冷や汗が止まらない、強い吐き気がある、意識が遠のく。
- ゼーゼーする、息が吸えないなどの呼吸困難を伴う。
これらの症状は、心臓のポンプ機能が破綻しかけているサインの可能性があります。「迷惑をかけるかも」とためらわず、すぐに119番で救急要請をしましょう。
参考:日本循環器学会「急性冠症候群ガイドライン (2018年改訂版)」
なぜ仕事中に動悸が止まらないのか?メカニズムと原因疾患

仕事中の止まらない動悸の原因は、過度なストレスによる自律神経の乱れや精神・身体疾患にあると考えられます。
以降で詳しく説明します。
ストレスと自律神経の暴走(テクノストレスと過緊張)
現代のデスクワークでは、長時間ディスプレイを見続けることで脳が常に興奮状態になる「テクノストレス」が問題となっています。
本来、心臓の鼓動は自律神経(アクセル役の交感神経と、ブレーキ役の副交感神経)によって自動調整されています。
しかし、過度の業務負担や人間関係のストレス、IT機器の使用が続くと、安静時でも交感神経が優位になり続け、アドレナリンが過剰分泌されます。
その結果、仕事中に動悸がとまらなくなってしまうのです。
見逃してはいけない身体疾患(不整脈・甲状腺疾患・貧血)
すぐに「ストレスのせい」と決めつけるのは危険です。
動悸は以下のような身体の病気のサインでもあります。
| 疾患名 | 症状の特徴 | 備考 |
|---|---|---|
| 不整脈 |
|
期外収縮や心房細動など。特に心房細動は血栓(血の塊)ができやすく脳梗塞のリスクがあるため早急な受診が必要 |
| 甲状腺機能亢進症 |
|
バセドウ病など。20~30代の女性にも多い |
| 貧血 |
|
酸素不足を補うために心拍数が増加する |
精神的な不調を疑う前に、まずは内科・循環器内科を受診し、身体疾患がないかを確認しましょう。
疑われる3つの精神疾患(適応障害・パニック障害・不安障害)
心臓そのものに異常がない場合、精神的な不調が身体症状として現れている可能性があります。
代表的な3つの疾患を以下の表にまとめました。
| 疾患名 | 主な特徴 | 仕事中に出やすい場面例 |
|---|---|---|
| 適応障害 | 特定のストレス要因がある時に症状が出る |
|
| パニック障害 | 突然、理由もなく激しい発作に襲われる |
|
| 不安障害 | 人前での注目や失敗への不安が強い |
|
何科に行くべき?受診の目安と正しい病院の選び方

動悸を感じた時は、まず身体的な病気がないかを確認することが最優先です。
「内科・循環器内科」で異常がないことを確認してから、「心療内科・精神科」へ進むのが正しい受診ルートです。
まずは「内科・循環器内科」で身体的リスクを除外する
初めは 「循環器内科」または「内科」 を受診し、身体疾患があるかどうかを確認しましょう。
いきなり心療内科に行くと、重大な病気が見過ごされてしまうリスクがあります。
心電図検査や血液検査を行い、不整脈や甲状腺の病気、貧血がないかを確認することが最優先です。
医学的に「心臓という臓器に異常はない」というお墨付きをもらうことが、その後の安心感にもつながります。
「異常なし」と言われたら「心療内科・精神科」へ
内科での検査結果が「異常なし」であった場合、原因は自律神経の乱れやストレスである可能性が濃厚です。
自律神経の乱れやストレスが原因である場合、 「心療内科」または「精神科」 の受診を検討します。
医師に「内科では異常なしと言われた」と伝えることで、スムーズにストレスケアや薬物療法(漢方薬や抗不安薬など)の相談ができます。
「会社に行けない」と感じたら:産業保健と休職のリアル

無理をして出勤し続けることは、あなた自身だけでなく、長期的には会社にとっても不利益となります。
診断書を受け取ったら、産業医面談を活用し、法的に守られた状態で休養に入る手続きを進めましょう。
無理して出勤する「プレゼンティーズム」の経済的損失
「周りに迷惑をかけられないから休めない」と思うかもしれませんが、体調不良のまま無理に出勤し、生産性が落ちた状態を「プレゼンティーズム」と呼びます。
実は、このプレゼンティーズムによる経済的損失は、欠勤(アブセンティーズム)による損失よりもはるかに大きいことが研究で分かっています。
無理をして働き続けて重大なミスを犯したり、うつ病が悪化して長期離脱することになれば、それこそ会社にとって大きな損失です。
早期に休養をとることは、会社のためにもなる 「合理的な判断」 なのです。
参考:厚生労働科学研究「アブセンティーイズムとプレゼンティーイズムによる損失」
病院を受診して休職の診断書をもらったら?産業医面談と安全配慮義務
主治医から「休職が必要」という診断書が出たら、会社の人事担当者に連絡し、できる限り早く休職できるように調整しましょう。
休職後、復職する際には産業医面談を申し出てください。
産業医は、会社に対して中立的な立場から、あなたの健康を守るための勧告(残業禁止、配置転換、休職の指示など)を行う権限を持っています。
企業には法律上「安全配慮義務」があり、産業医の意見を無視して従業員を働かせ続け、病気が悪化した場合は法的責任を問われます。
産業医を味方につけることは、自分を守るための強力な盾となります。
※従業員50人未満の事業場の場合(地域産業保健センターの活用)
法律上、産業医の選任義務がないため、社内に産業医がいないことがあります。
社内に産業医がいない場合は、公的機関である「地域産業保健センター」を無料で利用できます。
地域産業保健センターでも医師による面接指導や、休職・復職に関する専門的なアドバイスを受けることが可能です。
産業医面談で話す内容や目的については、関連記事もご覧ください。
参考:独立行政法人労働者健康安全機構「地域窓口(地域産業保健センター)」
「休んだらクビになる?」という不安へ
「休職することで解雇されるのではないか」と不安になる人もいるでしょう。
しかし、労働契約法第16条などの法律では、客観的・合理的な理由のない解雇は無効とされています。そのため、病気で休職したことだけを理由に、会社側が即解雇することは困難です。
特に業務上の病気(労災)であれば、労働基準法第19条により、療養期間中およびその後30日間の解雇は法律で禁止されています。
病気の従業員に対する雇用は法律により守られるため、安心して休職を申し出ましょう。
お金の不安を解消する:休職中の経済的セーフティネット

休職中も生活を維持するためには、「傷病手当金」を活用しましょう。傷病手当金は、給与の約2/3が最長1年6ヶ月間支給されるため、経済的な不安を軽減して療養に専念できます。
また、動悸の原因が業務にある場合には労災保険の認定が下りる可能性があります。
ここでは、傷病手当金と労災保険について詳しく解説します。
給与の約2/3が補償される「傷病手当金」の仕組みと計算式
業務外の病気(適応障害などを含む)で連続して3日以上休み(待期期間)、給与が支払われない場合、健康保険から 「傷病手当金」 が支給されます。
- 支給額の目安:直近1年間の平均月収の約3分の2(約67%)
- 支給期間:支給開始日から通算して1年6ヶ月 (※2022年1月の法改正により変更されました。体調が良くなって一時的に復職し給与が出ていた期間は、1年6ヶ月のカウントに含まれません。再発して再び休んだ場合、残りの期間分を受給できるため、以前よりも柔軟に治療に専念できるようになりました。)
計算式は以下の通りです。
「1日あたりの支給額 = (支給開始日以前の直近12ヶ月間の標準報酬月額の平均額 ÷ 30日) × ⅔」
※標準報酬月額とは: 基本給だけでなく、残業代や通勤手当、家族手当などを含めた「額面の総支給額(税引き前)」を基に決定される等級のことです。「手取り額」ではないため、想定より少し多く計算される場合があります。
例えば、月給30万円の方であれば、月額約20万円、1日あたり6,667円が非課税で支給されます。この支給額を目安に最低限の生活費を確保し、安心して療養に専念することができます。
参考:全国健康保険協会「病気やケガで会社を休んだとき | こんな時に健保」
参考:厚生労働省「令和4年1月1日から健康保険の傷病手当金の支給期間が通算化されます」
業務が原因なら「労災保険」の可能性も検討する
もし、動悸の原因が、過労死ラインを超える長時間労働や上司からのパワハラなど、明らかに業務に起因する場合は、 「労災保険」 の申請も視野に入ります。
労災が認定されれば、治療費は全額無料、休業補償は給与の約80%(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)と、傷病手当金よりも手厚い保護が受けられます。
ただし、精神障害の労災認定は審査に時間がかかります。まずは傷病手当金を申請して生活を安定させつつ、弁護士や社労士などの専門家に相談する「二段構え」が現実的です。
参考:厚生労働省「労災補償」
よくある質問(FAQ):仕事と動悸の悩み

ここでは、仕事と動悸に関してよく寄せられる疑問にお答えします。
Q. 動悸がするだけで会社を早退してもいいですか?
はい、早退すべき正当な理由になります。
動悸は、これから起きるかもしれない重篤な発作の前兆である可能性があります。
「急な動悸とめまいがして、業務の遂行が困難なため、病院を受診してから帰宅します」と伝えれば十分です。
無理をして倒れて救急車を呼ぶ事態になる方が、職場への影響は大きくなります。
言い出しにくい場合は、以下のテンプレートをコピーして、チャットやメールで送信してください。
【そのまま使える連絡テンプレート】
件名: 体調不良による早退のご相談(氏名)
本文:
お疲れ様です。〇〇です。
勤務中に急な動悸とめまいが強くなり、業務の継続が困難な状態です。
誠に申し訳ございませんが、早退させていただき、医療機関を受診したく存じます。
本日の急ぎの業務については、〇〇さんに共有(または「後ほど体調が落ち着き次第連絡」)いたします。
ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。
Q. 内科で「異常なし」と言われましたが、動悸が止まりません。気のせいでしょうか?
いいえ、気のせいではないかもしれません。
検査で異常がないということは、「心臓という臓器には異常はないであろう」という結果ですが、「自律神経の乱れ」までは検査に現れません。
ストレスによる自律神経の乱れが原因である可能性が高いため、「異常なし」という結果を持って、迷わず心療内科や精神科を受診してください。決して「甘え」ではありません。
Q. 病院に行かずに市販薬で治せますか?
一時的な緩和は可能ですが、根本治療にはなりません。
「救心」などの生薬製剤は、気付けや軽度の動悸には効果が期待できますが、適応障害や心疾患そのものを治すものではありません。
「市販薬を飲まないと仕事に行けない」状態になっているなら、それはすでに受診が必要なレベルです。
市販薬はお守り程度と考え、早めに医療機関を受診しましょう。
まとめ:動悸は心と体からの「緊急停止サイン」。戦略的な休息を
仕事中に止まらない動悸は、「このままでは壊れてしまう」という心と体からの命懸けの警告です。
仕事中に動悸が止まらなくなったら、以下の対処法を試してみてください。
- まずは深呼吸(4-7-8呼吸法)で落ち着く。
- 危険な兆候(30分以上、放散痛)があれば119番する。
- 循環器内科で身体の無事を確認し、必要なら心療内科へ進む。
- 傷病手当金などの制度を知り、経済的な心配を減らして休養する。
「逃げる」のではありません。長く働き続けるために、一度立ち止まって体制を立て直す 「戦略的撤退」 です。
まずは今日、自分の体を一番に優先してあげてください。
職場のメンタルヘルスや健康経営に関するご相談はSUGARへ
合同会社SUGARでは、医師および労働衛生コンサルタントの専門的知見に基づき、職場のハラスメント防止研修や、従業員の健康とキャリアを両立させるための体制構築コンサルティングを行っています。
「動悸をはじめとした体調不良の従業員の休職判断に迷っている」など、健康管理に関するお悩みは、ぜひお気軽にお問い合わせください。
動悸がするだけで会社を早退してもいいですか?
はい、早退すべき正当な理由になります。動悸は重篤な発作の前兆である可能性があり、無理をして倒れるよりも早めの受診が推奨されます。
内科で「異常なし」と言われましたが、動悸が止まりません。気のせいでしょうか?
いいえ、気のせいではありません。心臓そのものに異常がなくても、ストレスによる自律神経の乱れで動悸は起こります。「異常なし」は心療内科へ進むための根拠と考え、迷わず受診してください。
病院に行かずに市販薬で治せますか?
一時的な緩和は可能ですが、根本治療にはなりません。「市販薬がないと仕事ができない」状態であれば、早急に医療機関を受診すべきです。
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