社員の貧血と就業制限|安全配慮義務違反を防ぐ実践的対応マニュアル

安全配慮義務を果たし従業員を守る企業のイメージ

この記事のポイント

  • 従業員の健康問題への対応は、企業の「安全配慮義務」であり怠ると労災認定や損害賠償リスクがあることを解説します。
  • 社員から貧血の相談を受けた際の、ヒアリングから就業措置決定までの具体的な4ステップの対応フローを提示します。
  • 主治医と産業医の意見が異なる場合の、企業の判断軸と具体的な連携方法を解説します。

「部下から『貧血で辛い』と相談されたが、どこまで配慮すれば良いのか」
「主治医の『復職可』という診断書を鵜呑みにして、危険な業務を任せても本当に大丈夫なのか」

管理職や人事労務の担当者として、貧血の社員に関する判断に頭を悩ませていませんか。

良かれと思って業務を継続させた結果、重大な事故が発生し会社の法的責任を問われる可能性があります。

この記事は、貧血の社員の就業制限に悩む企業担当者のための「実践マニュアル」です。

法律に基づいた具体的な対応フローと判断基準を学び、従業員と会社双方を守るための確かな防衛策を講じましょう。

▼ YouTubeチャンネルでは代表医師の産業医が本音と経験も踏まえて動画で解説!

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目次

なぜ企業の対応が重要?安全配慮義務と法的リスク

従業員の健康と企業の安全配慮義務のバランスを示す天秤

従業員の貧血を「個人の健康問題」と片付けてしまうことは、企業経営の観点から看過できない重大な法的リスクを伴います。

企業が知るべき法的責任のポイント

企業の安全配慮義務

企業の安全配慮義務

トピック 内容
①安全配慮義務の根拠 労働契約法第5条および労働安全衛生法に定められている。
②対応を誤った場合のリスク 労災認定や数千万円単位の損害賠償、企業イメージの失墜
③判例から学ぶ教訓 健康診断での貧血の兆候を放置した企業の責任が実際に問われている。

労働契約法における「安全配慮義務」とは?

企業は、労働契約法第5条において、従業員が安全で健康に働けるように配慮する「安全配慮義務」を負っています。

安全配慮義務は、労働安全衛生法とも密接に関連し、従業員の心身の健康を確保するための具体的な対策を講じることが義務付けられています。

参考: e-Gov 法令検索「労働安全衛生法」

参考:e-Gov法令検索「労働契約法」

対応を誤った場合のリスク|労災認定と損害賠償

企業が従業員の貧血を認識していながら対策を講じずに事故や病状の悪化が起きた場合、安全配慮義務違反が認定される可能性があります。

数千万円単位の損害賠償命令や「ブラック企業」というレッテルによる企業イメージの失墜といった、経営に深刻な打撃を与えかねません。

【判例解説】企業の責任が問われたケース

企業の安全配慮義務違反が厳しく問われた「システムコンサルタント事件」という裁判例があります。

健康診断で「高血圧」と診断されていた従業員に、長時間労働や責任の重い業務に従事させ続けた結果、脳出血を発症してしまいました。

裁判所は、企業が従業員の健康状態を把握しながら業務の軽減などの措置を講じなかったことは安全配慮義務違反にあたると判断しました。

企業には、従業員の健康診断結果などのサインからリスクを察知し、事故が起きる前に自ら予防策を講じることが法律で義務付けられています。

そのため、健康診断結果から貧血の兆候があるにもかかわらず配慮をしないことは、安全配慮義務違反として責任を問われる可能性があります。

参考:一般財団法人女性労働協会「システムコンサルタントSE脳出血死控訴事件【過労死・疾病】」

【実践フロー】社員から貧血の相談を受けたらどう動く?

貧血社員への対応フローチャート

担当者が独断で判断するのではなく、体系的なフローに沿って客観的かつ慎重に対応を進めることがリスク管理の鍵となります。

相談を受けたときに安心して対応するための4ステップを、フローチャートでわかりやすく紹介します。

社員の健康問題 対応4ステップ

企業がとるべき4ステップ

企業がとるべき4ステップ

ステップ アクション
STEP1:ヒアリング 本人の状況を正確に把握する。感情的にならず事実を確認
STEP2:専門家連携 主治医による診断内容を確認。休職や就業制限、経過観察など主治医の意見に応じて配慮を検討。
STEP3:措置の決定 専門家の意見に基づき、就業制限などの具体的な措置を決定する。
STEP4:説明と共有 本人に決定事項を丁寧に説明し、プライバシーに配慮しつつ職場に共有。

STEP1:まずは本人の状況を正確にヒアリングする

従業員からの相談は、重要なマネジメントの第一歩です。

感情的にならず、まずは以下の事実を客観的にヒアリングしましょう。

  • いつから、どのような症状があるか
  • 医師の診断は受けているか
  • 仕事が続けられる状態か
  • 仕事内容と、それによって生じている具体的な支障

従業員の状況を把握するヒアリングは、管理職のラインケアの基本です。

貧血に苦しむ従業員は、「症状を伝えると自己管理不足だと思われるのでは…」という懸念を抱えがちです。

そのため、正確に話してもらうには共感的な対応が欠かせません。貧血に苦しむ従業員の心情やつらさに関しては、以下の関連記事も参考にしてみてください。

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STEP2:主治医の診断を確認し、病状を把握する

次に医療機関の受診を促し、主治医による診断内容を確認しましょう。

人事担当者が自ら医学的な判断を下すのは極めて危険です。

受診した結果、就業制限を要する診断書や経過観察の判断があれば、合理的な配慮を検討します。

休業を要する診断書が出た場合、従業員には速やかに休職してもらう必要があります。

STEP3:産業医の意見書に基づき、就業上の措置を検討・決定する

産業医は、本人の健康状態と職場の業務内容を総合的に評価し、「就業上の措置に関する意見書」を作成します。

企業は、この専門家の意見を最優先に尊重し、就業制限や業務転換といった具体的な措置を検討・決定します。

産業医の選任義務がない従業員50人未満の事業場の場合は、厚生労働省が管轄する「地域産業保健センター(産保センター)」を無料で利用可能です。

合同会社SUGARでも、必要時のみ利用できるスポット相談をご提供しています。

健康診断の結果、異常所見がみられた従業員へ面談を行い、生活習慣や就業方法のアドバイスができます。貧血が疑われる従業員の対応にお悩みの場合は、お気軽にお問い合わせください。

参考:こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト「地域産業保健センター(地さんぽ)」

STEP4:本人への説明と職場への情報共有(プライバシー配慮)

決定した措置は、本人にその理由とともに丁寧に説明し納得を得ることが重要です。

職場への情報共有は、本人の同意を得た上で、業務に必要な範囲に限定します。

「貧血」という病名などを不用意に広めることは、プライバシー侵害やハラスメントにつながるため、避けるべきでしょう。

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就業制限の判断基準|ヘモグロビン値×業務リスクで考える

貧血の就業措置を判断するためのリスクマトリクス

就業制限や休業を命じるべきかの判断は、「ヘモグロビン値(医学的重症度)」と「業務の危険度(労働安全の観点)」を掛け合わせてリスクを評価する方法が有効です。

就業措置 判断のポイント

就業措置の判断ポイント

就業措置の判断ポイント

トピック 内容
①就業区分の考え方 「通常勤務」「就業制限」「要休職」の3つに分類して考える。
②モデル基準の活用 業務リスク(高・中・低)と貧血の重症度を掛け合わせた表で判断の目安とする。
③休業命令の妥当性 本人が希望しても、安全が確保できなければ休職命令は正当な業務命令となる。

就業区分の考え方(通常勤務・就業制限・要休業)

就業区分は、一般的に「通常勤務」「就業制限」「要休職」の3つに分類されます。

産業医は、これらの区分をもとに、従業員にとって最も安全な働き方を提案します。

【モデル基準】業務リスクに応じた就業措置の目安(表形式)

就業制限には、以下のような様々な措置が含まれます。産業医は、本人の状態と業務内容を照らし合わせて就業配慮や措置について検討し、提案します。

  • 業務内容の変更: 高所作業や車両運転業務から、一時的に内勤の軽作業へ転換する。
  • 労働時間の短縮: 時間外労働の禁止、時短勤務(所定労働時間の短縮)。
  • 作業負荷の軽減: 重量物の取り扱いを禁止する、連続作業時間を制限し休憩を頻回化する。

ヘモグロビンの数値ごとに明確な就業配慮を示した明確な科学的根拠は現時点ではありません。

しかし、SUGARでは以下の表のようなモデルを参考として、社員や企業などの事例性に合わせて、ヘモグロビン値と業務リスクに応じた就業措置の判断を調整しています。

ヘモグロビン値と就業措置の目安

ヘモグロビン値と就業措置の目安

ヘモグロビン(Hb)値 デスクワーク・軽作業 立ち仕事・軽度の身体作業 重筋作業・重量物運搬 業務用車両運転・高所作業・重機操作
男性: 10.0-12.9 g/dL
女性: 10.0-11.9 g/dL
(軽度貧血)
通常勤務可
自覚症状があれば産業医面談・保健指導を推奨。
通常勤務可
産業医面談・保健指導を推奨。
長時間労働の制限を検討。
作業負荷の評価と、必要に応じた作業時間の就業制限を検討
産業医面談・保健指導必須。
症状があれば一時的に業務から外す就業制限を検討
産業医面談・保健指導必須。
自覚症状の有無を慎重に確認。
男女共通: 7.0-9.9 g/dL
(中等度貧血)
時間外労働の原則禁止や制限を検討
産業医面談を強く推奨。
受診勧奨と治療の確認。
要就業制限
作業時間の短縮、休憩の頻回化などの配慮が必要。
原則、当該業務は禁止推奨
軽作業への一時的な業務転換を推奨。
原則、当該業務は禁止推奨
治療によりHb値が改善し、安全が確認されるまで配置転換を強く推奨。
男女共通: < 7.0 g/dL
(重度貧血)
就業不可(要休業)も視野に産業医面談で要配慮
緊急の医療機関受診を指示。治療に専念させる。
原則、当該業務は禁止
就業不可(要休業)も視野に産業医面談で要配慮
緊急の医療機関受診を指示。治療に専念させる。
原則、当該業務は禁止
就業不可(要休業)も視野に産業医面談で要配慮
緊急の医療機関受診を指示。治療に専念させる。
原則、当該業務は禁止
就業不可(要休業)も視野に産業医面談で要配慮
緊急の医療機関受診を指示。治療に専念させる。

注1:表はあくまで目安です。業務リスク別の判断について、現時点では明確な基準について明確な科学的根拠はありません。最終的な判断は、個々の従業員の自覚症状、貧血の進行速度、基礎疾患の有無などを総合的に勘案し、産業医や主治医と調整する必要があります。

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休業させる場合の注意点と、休業命令の妥当性

従業員本人が就労を希望していても、客観的にみて安全な業務遂行が困難であると産業医が判断した場合、会社は休職を命じることができます。

この休職命令は、従業員の生命と健康を守るため、企業の安全配慮義務に基づく正当な業務命令です。

参考:全国労働基準関係団体連合会「電電公社帯広局事件」

【困難事例への対応】主治医と産業医の意見が違う場合

主治医と産業医の意見が対立し悩む人事担当者

企業の安全配慮義務という観点からは、原則として、職場の事情を理解している産業医の意見を優先して判断すべきです。

ただし、「主治医は復職可と言っているのに、産業医は時期尚早だと言う…」など意見が違う場合、企業はどう判断すべきでしょうか。

意見対立時の対応ポイント

主治医と産業医の意見が異なる場合

主治医と産業医の意見が異なる場合

トピック 内容
①意見が違う理由を理解する 主治医は「日常生活」、産業医は「業務遂行」という異なる視点を持つ。
②どちらを優先すべきか 企業の安全配慮義務の観点からは、職場の専門家である産業医の意見を優先するのが原則。
③連携を促す工夫 産業医から主治医へ、業務内容を具体的に伝える「情報提供書」が有効。

なぜ意見が分かれるのか?それぞれの役割と視点の違い

意見の対立は、それぞれの専門家が持つ役割と視点が根本的に異なるために起こります。

  • 主治医:患者個人の病気の治療を目的とし、「日常生活が送れるか」を基準に判断します。
  • 産業医:企業の健康管理を担い、「職場の特定の業務を安全に遂行可能か」を基準に判断します。

産業医は、主治医が把握することが難しい職場のリスクを評価する役割を担います。

優先すべきはどちら?企業の判断責任

過去の判例の傾向からは、産業医の意見を尊重して最終的な判断を下すことが望ましいといえます。

なぜなら、産業医は職場の具体的な業務内容や潜在的なリスクを熟知しているからです。

産業医の見解を優先することで、企業の安全配慮義務を適切に果たしたと評価されやすいでしょう。

参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

連携を促すための情報提供書(様式例)の活用

最も望ましいのは、対立ではなく「連携」を促すことです。

本人同意のもと産業医から主治医へ、担当業務の具体的な内容を記した情報提供書を送付することが有効です。

主治医も職場の状況を理解した上で、より的確な判断をしやすくなります。

まとめ:戦略的な労務管理が、従業員と企業の未来を守る

従業員の貧血への対応は、単なるリスク回避のためのコストではありません。

従業員の健康と安全を守り、職場への信頼を育み、ひいては企業全体の生産性を高めるための「戦略的な健康経営投資」です。

適切なマネジメントは、従業員の心の健康を守るだけでなく、企業の持続的な成長と未来の価値を創造します。この記事を参考に、ぜひ明日からの実践的な対策にお役立てください。

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  1. 社員に休職を命じる場合、給与(休業手当)はどうすれば良いですか?

    会社の業務命令による休職の場合、「労働基準法第26条」に基づき、会社は平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務が生じる可能性があります。ただし、従業員が傷病手当金を受給できる場合は、その調整について就業規則で定めていることが一般的です。判断に迷う場合は、社会保険労務士などの専門家への相談を強く推奨します。

  2. 従業員50人未満の事業場なのですが、産業医がいません。どこに相談すれば良いですか?

    従業員50人未満の事業場の場合、厚生労働省が管轄する「地域産業保健センター(産保センター)」を無料で利用できます。産保センターでは、産業医による健康相談や、職場環境に関する専門的な助言を受けることが可能です。まずは、所在地の都道府県の産保センターにお問い合わせください。

  3. 貧血の社員への配慮が、他の社員から「不公平だ」と言われないか心配です。

    重要なのは、他の従業員への情報共有の仕方です。対象者のプライバシーに配慮し、病名などを公表せず、「体調不良者への配慮は、会社の安全配慮義務であり、誰にでも起こりうること。お互い様である」という組織文化を醸成することが大切です。特定の個人への「特別扱い」ではなく、全従業員の安全と健康を守るための「会社の公式なルール」として説明することで、不公平感を和らげることができます。

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