社員の高血圧を予防するには?高血圧の基準値と対応について解説
高血圧は、脳卒中や心疾患、腎臓病などのさまざまな生活習慣病の原因です。社員がいきいきと働ける環境を整えるためには、社員の健康意識を高め、高血圧を予防することが大切です。
しかし、高血圧の予防を行うといっても、どのようなことから取り組めばよいかわからない人も多いのではないでしょうか。とくに、治療の必要性は高血圧の基準値が参考になるといえど、測定環境や合併症により基準値が違うため、わかりにくいかもしれません。
さらに、病院での測定時に異常がなくても、働いているときに生じる職場高血圧もあります。健康診断だけでは十分に対応しきれないリスクまで考慮する必要があります。
本記事では、社員の健康管理を担う人たちに向けて、社員の高血圧を予防するための方法を紹介します。複雑な高血圧の基準値についても、詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
高血圧の基準値とは?
高血圧の基準値は、病院もしくは家庭などの測定環境や、合併症の有無により異なります。「測定環境」と「合併症の有無」の2つのポイントから、高血圧の基準値について解説します。
参考:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」(PDF)
【基準①】測定環境に応じた基準値
緊張や不安を感じると、血圧が高くなるため、測定環境に応じて異なる基準値が設定されています。測定環境は、病院で計測する診察室血圧と自宅で計測する家庭血圧に分けられます。診察室血圧は140/90mmHg、家庭血圧は135/85mmHgが高血圧の基準値です。
また、自動血圧計を装着し、15~30分ごとに血圧を測定する24時間自由行動下血圧(ABPM)という測り方もあります。血圧の変動を把握でき、特定の時間帯に血圧が上昇していないかを見極めるのに有効です。ABPM測定時の基準値は、以下のように時間帯によって異なります。
- 24時間:130/80mmHg以上
- 昼間のみ:135/85mmHg以上
- 夜間:120/70mmHg以上
会社で行う健康診断は診察室血圧だといえますが、仕事のストレスから職場でだけ血圧が高くなる職場高血圧もあります。健康診断の血圧値に問題がない場合でも、注意が必要です。
【基準②】合併症に応じた降圧目標
血圧の問題と同時に、どのような合併症があるかによって、基準値が異なります。日本高血圧学会が発行するガイドラインでは、以下のように疾患に応じて降圧目標が設定されています。
合併症 | 診察室血圧 | 家庭血圧 |
糖尿病脳血管障害者※両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞なし冠動脈疾患慢性腎臓病(CKD)※尿蛋白陽性 | 130/80mmHg | 125/75mmHg |
脳血管障害者※両側頸動脈狭窄や脳主幹動脈閉塞あり、または未評価慢性腎臓病(CKD)※尿蛋白陰性 | 140/90mmHg | 135/85mmHg |
高血圧になる理由とは?
血圧が高くなる原因としては、塩分の摂りすぎや肥満、飲酒、運動不足などが挙げられます。とくに、過剰な塩分摂取や肥満は、体内のナトリウム濃度を高めて血流を増やし、血圧が上がってしまうとされています。
また、ストレスも高血圧の主な原因の1つです。ストレスにより分泌される副腎皮質ホルモンの分解により、活性酸素が増えます。体内の活性酸素の濃度が高くなると、高血圧や動脈硬化、がんの原因になることがあります。
さらに、ストレスがたまると、食事や飲酒の量が増えて血圧が上がりやすくなります。ストレスの増大が生活習慣の乱れにつながることもあり、複数の要因が絡んで血圧が高くなるといえるでしょう。
参考:日本高血圧学会「高血圧治療ガイドライン2019」(PDF)
高血圧が引き起こす3つの疾患とは?
高血圧はいくつかの生活習慣病の引き金になりますが、具体的にはどのような病気を引き起こすのでしょうか。
【疾患①】脳卒中・心疾患
血圧が高いと血管に負担をかけ続けるため、脳卒中や心疾患の原因になることがあります。血管の壁が傷つき、血の塊ができやすくなり、血管が詰まってしまうのです。心臓の血管が詰まると心筋梗塞、脳の血管が詰まると脳梗塞を引き起こします。
また、血管の柔軟性が低下する動脈硬化を引き起こすため、血管が狭くなり血管がほぼ詰まりかけている状態が原因で胸痛などが生じる狭心症の原因になることもあります。
年齢別では、高血圧での脳心血管病の死亡リスクが高いのは40~64歳までの中年層です。40歳を超えて血圧が高い状態が続いている場合は、注意が必要でしょう。
【疾患②】慢性腎臓病(CKD)
腎臓病も高血圧との関連が深い病気の1つです。高血圧になると腎機能が低下し、塩分のミネラルであるナトリウムの体内での調整機能が乱れてしまいます。その結果、余分な水分や塩分を排出できなくなり、血液量が増えて血圧が上昇するといった悪循環が生じてしまいます。
【疾患③】脳血管性認知症
脳血管性認知症とは、脳梗塞や脳出血によって起こる認知症です。血管に障害が生じ、酸素が行き渡らないことで脳細胞が死滅し、認知症を発症してしまいます。
高血圧は、動脈硬化により脳梗塞や脳出血を引き起こしやすくなるため、脳血管性認知症の発症リスクを高めます。突然発症することが特徴で、治療が落ち着いたときに発症するケースもあります。脳梗塞や脳出血がみられた場合は治療後も注意することが大切です。
高血圧が疑われる社員に対応する企業のメリットとは?
高血圧が疑われる社員や、治療が必要な社員がいる場合、企業として健康管理を行う必要があります。しかし、健康管理を目的に行う施策は、メリットが明確でないと社内の同意を得るのが難しい側面もあります。企業が対応するメリットとは、どのような点が挙げられるのでしょうか。
【メリット①】安全配慮義務を果たす
高血圧が疑われる社員に対応し、健康保持増進に努めることは、企業としての安全配慮義務を果たすことになります。安全配慮義務とは、企業は社員が安心して働けるような配慮を行うべきだとする、労働契約法第5条に定められた義務です。
安全配慮義務の1つとして、企業は社員の健康に配慮しなければならないという健康配慮義務を負っています。健康配慮義務に含まれるのは、受診時間の確保や、受診の勧奨を行う義務です。健康診断を行うだけでなく、積極的に健康に配慮するよう、社員に勧めていく必要があります。
また、高血圧の社員を見過ごしてしまった場合、業務中に脳や心臓の異変が生じて、就労不能になってしまうケースもあります。企業としての安全配慮義務を問われる可能性があるため、リスクマネジメントの観点からも、健康管理は大切だといえるでしょう。
【メリット②】コストパフォーマンスが向上する
社員の高血圧を予防することで、費用や生産性の面も改善できる場合があります。通院している病気で最も多いのは、男女ともに高血圧症であることがわかっています。高血圧を予防することで、企業の医療保険料の負担額が減り、コスト削減が期待できるでしょう。
また、高血圧では頭痛やめまいなどの心身の不調が生じることがあります。多くの人は、高血圧の治療開始時にはとくに症状を感じなかったとしても、治療を開始したら頭痛や肩こりが治る人もいます。
高血圧の治療によりはじめて頭痛やめまいがあったと認識し、降圧とともに業務のパフォーマンスが改善する可能性があります。そのため、健康維持増進に取り組むことで、社員の生産性が向上する効果が期待できるでしょう。
参考:厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」(PDF)
高血圧の問題に対応するときのポイントとは?
高血圧の社員がいる場合や、健康上のリスクを防ぐには、企業としてどのように対応すればよいのでしょうか。
【対応ポイント①】職場高血圧に注意する
健康診断の結果は、診察室血圧を計測しているにすぎず、仕事のストレスで血圧が上がる職場高血圧を見逃す可能性があります。職場高血圧を発見するには、自動血圧計を社員に配り、計測を習慣づけていくことが有効です。
しかし、ただ渡すだけでは習慣づけることは難しいでしょう。部署のリーダーや管理職が率先して取り組んでいくと、健康に配慮しやすい風土を築きやすくなります。
また、アプリや紙の血圧手帳に計測した血圧を記載することで、社員の血圧への関心を持続的にさらに高めることも可能です。血圧手帳については、日本高血圧協会の以下のHPでサンプルが配布されているので、活用してみてください。
【対応ポイント②】社員の健康意識を高める
高血圧の治療と予防には、生活習慣の改善が重要です。減塩や節酒、食事パターンの見直し、運動、体重維持など、さまざまな改善に取り組む必要があります。企業としては、社員や管理職に対して健康教育を行い、個人の健康意識を高めていくアプローチが必要でしょう。
また、勤務時間の中で高血圧を予防、改善するための施策も有効です。たとえば、社員食堂のメニューを見直したり、喫煙時間を制限したりするなどの方法が挙げられます。
健康経営に取り組んでいる企業の例については、以下の記事もご覧ください。
関連記事:健康経営の役割とは?3つの効果と取り組み方、大企業の導入事例も紹介
まとめ:高血圧の予防は経営上のメリットも大きい
高血圧は自覚症状が少ない一方で、脳梗塞や心筋梗塞、腎臓病などの病気の引き金にもなる注意すべき疾患です。高血圧を予防し、社員の健康を守ることが、リスクの防止や生産性の向上など、企業経営上のメリットにつながります。
企業における高血圧の予防は、社員の健康意識を高めたり受診を勧奨したり、地道な努力が必要です。このような健康経営を推進したうえで、得られるメリットも大きいといえるでしょう。社内で協力しながら、社員の高血圧予防に取り組んでみてください。