【医師監修】お酒が急に飲みたくなるのはなぜ?脳科学的原因と対処法

この記事のポイント

  • 急な飲酒欲求は意志の弱さではなく、脳内物質ドーパミンや条件反射による生理的反応です。
  • 「HALTの法則(空腹・怒り・孤独・疲労)」と「環境トリガー」を知ることで、自分が飲みたくなる本当の原因を特定できます。
  • 炭酸水や代替行動で脳を騙すテクニックや、依存症リスクのサインを見逃さないためのチェックポイントを解説します。

「今日こそは休肝日にしよう」と決めていたのに、仕事が終わった瞬間にお酒が飲みたくなった経験はありませんか。

気づけば缶ビールを開けてしまい、「自分はなんて意志が弱いのだろう」と自己嫌悪に陥ることもあるかもしれません。

しかし、自分を責める必要はありません。実は、多くの人が誤解していますが、これは意志の問題ではないからです。

お酒が飲みたくなる衝動には、脳の仕組み(報酬系)や身体的なサインが関係しているからです。

この記事では、なぜ急にお酒が飲みたくなるのか、その科学的な原因と、今すぐ実践できる具体的な対処法を医師が解説します。

飲酒について正しい知識を身につけて、衝動をコントロールする方法を学びましょう。

▼ YouTubeチャンネルでは代表医師の佐藤が本音と経験も踏まえて動画で解説しています!

なぜ「急に」飲みたくなるのか?意志ではなく「脳」のメカニズム

飲酒欲求を引き起こす脳内の報酬系回路とドーパミンのイメージ

お酒が飲みたくなるのは、気分の問題だけではありません。

脳内にある神経伝達物質の働きによるものです。

むしろ、気合で我慢しようとすると、脳の防衛本能により逆効果になることさえあります

ここでは、お酒を飲みたくなることに影響するストレスとドーパミンの関係について詳しく解説します。

ストレスとドーパミンの関係(報酬系回路)

お酒が飲みたくなる原因は、脳の報酬系回路の働きにあります。

お酒を飲むと、脳内で幸せホルモンとも呼ばれるドーパミンが分泌され、一時的に心地よさやリラックスした感覚が得られます[1][2]。

人間の脳はアルコールによって得られるこの快感を強く記憶しています。

そのため、日々の生活でストレスや疲労がたまり、コルチゾールなどの物質が増えて不快な状態になると、快感を得てその不快さを消そうとします。

その結果、アルコール摂取を強く促す指令が出されます。これが「渇望(クレービング)」の正体です。

つまり、お酒を飲みたくなるのは意志が弱いからではありません。

脳がストレスから自分を守ろうとして、アルコールに頼っている状態なのです[3]。

【注意】習慣化が招く「ドーパミンの枯渇」

注意が必要なのは、長期間の飲酒による脳の変化です。

アルコールによる強い快感刺激を受け続けると、脳はその刺激に適応するために、逆にドーパミンを受け取る受容体の数を減らしてしまいます(ダウンレギュレーション)。

その結果、シラフの状態ではドーパミンがうまく働かず、楽しさを感じにくくなったり不安が強まったりします。

「お酒がないと普通の状態に戻れない」という状態から、「お酒を飲みたい」という欲求につながってしまうのです[4]。

その欲求は危険信号?原因を特定する「HALTの法則」

「お酒を飲みたい」という衝動がおそってきたとき、原因を冷静に分析するためのフレームワークが「HALT(ハルト)の法則」です。

アルコール依存症の治療でも使われるもので、以下の4つから「お酒を飲みたい」という衝動の原因を把握できます[5]。

HALT表
状態(意味) 脳が欲求を出す理由
H:Hungry(空腹・喉の渇き) 低血糖・脱水による不快感の解消
A:Angry(怒り) 交感神経の興奮を鎮めたい欲求
L:Lonely(孤独) つながりの欠如によるストレス(痛み)
T:Tired(疲労) 理性のブレーキ(前頭前野)の機能低下

H(Hungry):空腹と水分の罠

夕方にお酒が飲みたくなるのは、脳のエネルギー不足(低血糖)が要因の一つです。

空腹で血糖値が下がると、脳の前頭前野へのエネルギー供給が不足します。前頭前野とは、感情や衝動のコントロールを行う領域であるため、「お酒を飲みたい」という衝動を抑えにくくなります[6]。

また、脳は「手っ取り早い快感(アルコール)」と「栄養(食事)」の区別がつかなくなり、空腹感を「お酒が飲みたい」という欲求として誤って認識することがあります[7]。

【対策】

強炭酸水やおにぎりなどで空腹と喉の渇きを満たしてみてください

血糖値が安定すると、「お酒を飲みたい」欲求が落ち着く可能性があります。

A(Angry):怒りの鎮静

仕事での理不尽な出来事など、強い怒りは交感神経を興奮させます。脳は興奮をしずめるための鎮静剤としてアルコールを求めます。

【対策】

アンガーマネジメントを取り入れ、深呼吸や場所の移動で興奮をしずめる工夫をしましょう。

L(Lonely):脳が感じる「痛み」

孤独感は、脳にとって物理的な痛みと同じ背側前部帯状回などの領域を刺激し、ストレスになるとされています[8]。

つまり、怪我をしたときと同じような痛みを生じるといえるでしょう。

とくに、テレワークで誰とも会話しなかった日などは、孤独感によるストレスを麻痺させるために依存物質を求めやすくなります。

【対策】 

SNSを漫然と見るのではなく、家族や友人への連絡やオンラインコミュニティへの参加など、自発的なつながりを持ちましょう。

T(Tired):理性の機能低下

疲れているときは、脳の前頭前野の働きが低下します。

これは「セルフコントロール」に必要な認知的なエネルギー(ウィルパワー)が使い果たされた状態のためです。 

ふだんなら我慢できるものでも、「お酒を飲みたい」という本能的な欲求に負けやすくなります。

【対策】 

疲れを感じたら、すぐに入浴して早めに就寝しましょう。疲労時は判断力が鈍っているため、「一杯だけ」と思っても何杯も飲んでしまうおそれがあります。

【要注意】HALT以外の「条件反射(パブロフの犬)」

HALTに当てはまらないのに飲みたくなる場合、以下のような条件反射が影響しているかもしれません。

  • 場所: 自宅のソファに座った瞬間
  • 音: 缶を開ける「プシュッ」という音やCM
  • 時間: 仕事が終わった開放感(17時など)

条件反射とは、脳が「ある状況=お酒(快感)」と学習してしまっている状態です。

ストレスがなくても条件が揃えば脳は自動的にドーパミン放出の準備を始め、渇望を引き起こします。

条件反射による欲求の場合、以下で紹介する儀式の書き換えが有効です。

今すぐ衝動を消す!医師が教える実践的アクション【即効編】

お酒の代わりとなる強炭酸水を注ぐ様子

原因がわかったところで、実際に「今夜、飲みたくてたまらない」という衝動をどう乗り越えるべきでしょうか。

医師がおすすめする、即効性のある2つの対処法を解説します。

これらは「我慢」ではなく、脳の回路を「上書き」するテクニックです。

脳を騙す「代替行動」と「炭酸水」

飲酒欲求のピークは、長くても15分から30分程度といわれており、ピークをやり過ごすことが重要です。

ピーク時間をやり過ごすために有効なのが、「衝動サーフィン」です。

衝動サーフィンとは、マインドフルネスにもとづく対処法で、「お酒を飲みたい」という欲求に反抗せず、ただ観察してやり過ごすものです[9]。

具体的には、以下のような行動を試してみましょう。

強炭酸水を飲む

喉への強い刺激や、缶を開ける「プシュッ」という音で、脳に一定の満足感を与えられます。

レモンやライムを絞ると、よりカクテルに近い感覚を得られ、脳をだましやすくなります。

ノンアルコール飲料

近年の高品質な製品を活用し、「ソバーキュリアス(あえて飲まない)」という新しいライフスタイルを楽しむ感覚で選んでみてください。

お酒の代わりになる行動でピーク時間をやり過ごせれば、「お酒を飲みたい」という欲求は引いていくでしょう。

「儀式」を作る:仕事終わりの脳の切り替え

条件反射による欲求を断ち切るには、脳のスイッチを切り替えるための新しい儀式の上書きが必要です。

たとえば、テレワーク後にお酒を飲みたくなったら、以下のような行動を心がけてみましょう。

  • 着替える: 部屋着からパジャマ、あるいは仕事着からリラックスウェアへ着替える。
  • 擬似通勤(散歩): 仕事後に10分ほど散歩し、「帰宅」というプロセスを脳に踏ませる。
  • 即入浴: 副交感神経を優位にし、リラックス状態を作る。風呂上がりは常温の水や麦茶を用意しておく。

条件反射が生じる条件にならないよう、これまでの習慣を切り替えてみることが大切です。

もしかして依存症?「習慣」と「病気」の境界線

医師によるアルコール依存症の相談対応とスクリーニングのイメージ

「飲みたくなる」頻度や強さによっては、日々の習慣といえるレベルを超えている可能性があります。

習慣と病気の違いは、「飲酒のコントロールができるかどうか」にあります。

とくに以下のリスク要因に当てはまる場合は、早期の対処が重要です。

境界線は「コントロール障害」にあり

依存症の本質は、意志の弱さではなく脳のブレーキが壊れてしまう「コントロール障害」です。以下の3つの兆候が、単なる習慣と病気をわけるサインです。

  1. 飲む量や時間を守れない:「1本だけ」と決めたのに飲み続けてしまう、飲むべきでない時間(朝や仕事中)に飲んでしまう。
  2. 耐性の形成:以前と同じ量では酔えなくなり、酒量がどんどん増えている。
  3. 離脱症状(精神依存):お酒が切れると、手の震えや発汗などの身体症状だけでなく、イライラや不安、強い渇望感(飲みたい気持ち)が現れる。

3つのサインが認められる場合、脳の報酬系回路が変化し、すでに依存症に陥っている可能性があります。

2項目以上は要注意!簡易チェックリスト「CAGE」

自分が依存症でないかどうか、世界的に使われている簡易スクリーニングテスト「CAGE(ケージ)」で確認してみましょう[10]。

以下の4つの質問のうち、2つ以上に当てはまる場合は、アルコール依存症の疑いがあります。

CAGE表
項目 質問内容
C (Cut down) お酒を減らさなければいけないと思ったことがありますか?
A (Annoyed) 飲酒を批判されて頭にきた(腹が立った)ことがありますか?
G (Guilty) 飲酒について罪悪感を持ったことがありますか?
E (Eye-opener) 朝酒(迎え酒)を飲んだことがありますか?

もし2つ以上該当した場合は、一人で悩まずに専門機関(心療内科や精神科、断酒会など)へ相談することをおすすめします。

現代の治療では、断酒だけがゴールではありません。減酒薬で飲酒時の快感や欲求を減らしながら酒量を調整したり、アプリで飲酒量を記録して習慣改善をはかったりするなど、うまく付き合う方法もあります[11]。

依存症は早期発見・早期治療によって回復可能な病気ですので、早めに相談しましょう。

医療機関を受診するか迷う場合は、以下の関連記事も参考にしてみてください。

▼あわせて読みたい

女性特有のリスクと「テレスコーピング現象」

近年、女性のアルコール関連問題が増加傾向にあります。

女性は男性に比べて体内の水分量が少なく、同じ量のアルコールでも血中濃度が高くなりやすい体質です。

そのため、飲酒を開始してから依存症に至るまでの期間が短い「テレスコーピング現象(望遠鏡現象)」が起きやすいことが医学的に知られています[12]。

また、キッチンドリンカーのように隠れて飲む習慣は、誰にも相談できずに重症化するリスクがあります。

まとめ:飲酒欲求は「管理」できる

お酒が急に飲みたくなるのは、ストレスや脳の報酬系、身体的な欠乏(HALT)、条件反射によるものです。

複数の原因が絡み合っているため、意志の力だけで抑え込もうとするのは難しい場合があります。

以下のステップで対処しましょう。

  1. 「HALTの法則」で、空腹・怒り・孤独・疲労のどれが原因か分析する。
  2. 「条件反射」ではないか疑い、飲む場所や時間のパターンを崩す。
  3. 炭酸水や代替行動で、15分〜30分のピークをやり過ごす。
  4. コントロール不能な場合は、専門家の力を借りる。

企業においても、従業員の飲酒習慣は個人の嗜好の問題だけでなく、業務の生産性やリスク管理に関わる経営課題の一つです。

適切な知識と対策を持つことで、個人も組織も健康を守ることができます。

まずは今日から、自分の欲求の正体を「HALT」で振り返ってみてはいかがでしょうか。

合同会社SUGARでは、産業医として飲酒をはじめとした従業員の健康にかかわるご相談や社内研修を提供しています。従業員の健康管理にお悩みの人事労務担当者の方は、ぜひお気軽にご相談ください。

  1. 毎日お酒を飲みたくなるのは依存症ですか?

    毎日飲みたいという欲求があるからといって、必ずしもすぐに依存症と診断されるわけではありません。しかし、飲酒量をコントロールできない、飲まないとイライラする、生活に支障が出ている場合は依存症のリスクがあります。AUDITなどのスクリーニングテストでの確認をお勧めします。

  2. 急にお酒が飲みたくなるのは栄養不足が原因ですか?

    はい、栄養不足が引き金になることがあります。空腹により血糖値が下がると自制心が低下するほか、脳がエネルギー不足を「アルコールのカロリーで補いたい」と誤認して渇望が生じることがあります。まずは炭水化物を少し摂るか、水を飲んで様子を見ることをお勧めします。

  3. ストレスでお酒が飲みたくなるのはなぜですか?

    ストレスを感じると、脳は不快感を打ち消そうとして、過去に快感を得た「アルコールによるドーパミン分泌」を強く求めるようになるためです。これは脳の報酬系回路による生理的な防御反応の一種です

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参考文献

[1] Drugs, Brains, and Behavior: The Science of Addiction – National Institute on Drug Abuse (NIDA)

[2] Koob GF, Volkow ND. Neurocircuitry of addiction. Neuropsychopharmacology. 2010 Jan;35(1):217-38.

[3] Volkow ND, Fowler JS, Wang GJ, Baler R, Telang F. Imaging dopamine’s role in drug abuse and addiction. Neuropharmacology. 2009;56 Suppl 1(Suppl 1):3-8.

[4] Alcohol Use Disorder – NIAAA (National Institute on Alcohol Abuse and Alcoholism)

[5] Focus on These Four Triggers in Your Recovery – HALT

[6] Gailliot MT, Baumeister RF. The physiology of willpower: linking blood glucose to self-control. Pers Soc Psychol Rev. 2007;11(4):303-327.

[7] Sinha R. Chronic stress, drug use, and vulnerability to addiction. Ann N Y Acad Sci. 2008;1141:105-130.

[8] Eisenberger NI, Lieberman MD, Williams KD. Does rejection hurt? An FMRI study of social exclusion. Science. 2003;302(5643):290-292.

[9] Bowen, S., Chawla, N., & Witkiewitz, K. (2014). Mindfulness-based relapse prevention for addictive behaviors.

[10] こころの耳(厚生労働省)「CAGE:用語解説」

[11] 一般社団法人 日本アルコール・アディクション医学会 日本アルコール関連問題学会「新アルコール・薬物使用障害の診断治療ガイドライン に基づいたアルコール依存症の診断治療」[12] Women and Alcohol│NIH

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