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産業保健師と産業医の違いとは?法的義務や設置するメリットを解説!
勤務形態の多様化や業務の複雑化に伴い、企業で働く社員の健康の重要性が高まっています。産業保健師や産業医を設置する企業も増加傾向です。
しかし、それぞれの仕事内容や目的について、違いがよくわからないという人も多いのではないでしょうか。
本記事では、産業保健師と産業医の違いや設置するメリットなどを解説します。社員の健康の向上や維持に力を入れたい企業責任者や人事担当者は、ぜひチェックして下さい。
産業保健師と産業医の違い3つのポイント
産業保健師や産業医は、企業と契約して産業保健に関わる専門職です。社員の心身の不調に対し、両者ともに適切な指導や助言などを行いますが、主に3つの違いがあります。
ポイント1:設置の法的義務
産業保健師や産業医は、企業で働く社員にとって必要な存在です。しかし、産業保健師は法律上においての設置義務はありません。そのため、現状多くの企業では産業保健師を設置していないことが多いです。
一方、産業医は法的な設置義務があります。特に、規模が大きな企業には在籍している場合が多いでしょう。
ポイント2:業務の範囲
産業保健師と産業医の業務範囲は、それぞれ異なる法律によって定められています。産業保健師は労働安全衛生法の規定のもとで、社員の保健指導などを行うことが主な業務です。
産業医は、医学知識を基本とした面接指導や健康診断などを社員に実施します。産業医の業務は、労働安全衛生規則第14条第1項各号に定められています。
参考:厚生労働省「産業保健活動をチームで進めるための実践的事例集」(PDF)
ポイント3:必要な資格
産業保健師と産業医は、同じ医療系資格に分類されますが、必要な資格はそれぞれ異なります。
産業保健師に必要な資格
産業保健師になるには、保健師の資格が必要です。また、保健師国家試験を受けるためには、その前に看護師国家試験に合格していることが条件となっています。そのため、産業保健師になるためには、看護師と保健師の国家資格を所有していることが必要です。
参考:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag 保健師」
産業医に必要な資格
産業医は、まず医師免許を保持していることが求められます。その上で、次の条件のいずれかを満たさなければなりません。
- 厚生労働大臣の指定する研修を修了した者
- 産業医を養成する大学において、厚生労働大臣が指定した課程を修めて卒業し、大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者
- 大学で労働衛生に関する科目を教える職にある者、もしくはあった者(教授や助教授、講師など)
- その他、厚生労働大臣が定める者
- 生労働大臣の指定する研修を修了した者
- 産業医を養成する大学において、厚生労働大臣が指定した課程を修めて卒業し、大学が行う実習を履修した者
- 労働衛生コンサルタント試験に合格した者
- 大学で労働衛生に関する科目を教える職にある者、もしくはあった者(教授や助教授、講師など)
- その他、厚生労働大臣が定める者
参考:厚生労働省「産業医について」(PDF)
産業保健師の仕事内容
産業保健師の仕事内容は多岐にわたりますが、代表的なものは以下の5つです。
保健指導や相談・応急処置・産業医のサポート
社員の心身の状態を観察し、気になる状態が生じている社員に対して不調に対する指導をしたり、社員から相談を受けます。また、社員が業務上でケガをした際の応急処置や産業医が不在の場合は、医療機関を受診させるかの判断も担います。
さらに、健康診断の実施など医師免許が必要ではない業務に関しては、産業保健師が業務を担当することも可能です。
メンタルヘルスに関するサポート
身体的なケアはもちろん、心理的な不調のサポートも行います。社員がメンタルの不調に陥らないように予防や対策に力を入れます。
復職者のためのサポート
病気などで休職をしている社員が、スムーズに復職できるように支援をします。また、復職者の病気の再発予防に努めたり、組織に対して職場環境の調整を行ったりすることも重要な業務です。
健康診断実施に関する業務
企業では、定期的に社員の健康診断を行います。社員の病気の早期発見や健康維持のために、健康診断の企画や実施、診断結果の社員への説明などを担います。
社員の労働や食事に対する指導
社員が何を意識すれば元気に働くことができるのか、健康的な生活習慣をどう作り上げていくのかについてもアプローチします。これらを指導するために、健康に関するセミナーなどを計画・開催し、啓蒙活動を進めます。
参考:社団法人日本看護協会「産業保健師の活動基盤に関する実態及び日本看護協会が取り組む事業について」(PDF)
産業医の仕事内容
産業医の仕事内容も多岐に渡りますが、代表的な業務は以下の5つです。
健康診断の実施と結果のフィードバック
産業医は社員の健康を守るために、定期的な健康診断に携わります。また、健康診断で問題があった社員に対し、指導を行うのも重要な役割です。
なお、治療の早期対応を要する社員を医療機関に紹介する役目も担います。
治療中の社員への面談と情報管理
病気で休職中だったり、治療をしながら働く社員と面談し、医学的知見から助言します。
例えば、復職に関する可否や就労環境の調整などがあります。
また、病気治療中の社員の情報はプライバシーを保護しながら管理することが重要です。人事や上司に説明する際には、必ず本人の同意を得た上で伝える必要があります。
ストレスチェックの実施と高ストレス者への対応
常時50人以上の労働者を雇用する企業は、年に1回以上のストレスチェックが義務化されており、産業医は実施者を担当します。
なお、ストレスが高い結果を示した社員が希望した場合は、面接指導を担う役割も持ちます。
職場巡視をする
産業医は、社員の心身の健康を守ることが役目です。
そのためには、社員個人にとどまらず、職場環境も把握して、企業内で社員の健康状態が悪化しないように努めます。
衛生委員会のメンバーとして機能する
産業医は、衛生委員会のメンバーのひとりです。委員会の中では、企業内の働き方や課題に対し、医学的側面からの改善案などを提示します。
参考:独立行政法人労働者健康安全機構「産業医ができること」(PDF)
産業保健師を設置するメリット
産業医と違い、産業保健師は法律による設置義務がありません。その影響で、産業保健師が在籍していない企業も数多くあります。しかし、産業保健師は企業における潤滑油となってくれるメリットも備えているのです。
メリット1:職場の環境改善につながる
産業保健師は、コーディネーターとしての役割を持ちます。例えば、心身の不調に悩んでいる社員から話を聞き、社員の働く環境を整えることが可能です。
社員の健康を守るためには、企業の担当者や産業医、部署の上司や同僚などから働き方への理解や協力、見直しを得る必要があります。産業保健師は、それぞれの立場をつなぐ役目もあるのです。
メリット2:健康管理が徹底できる
産業医は企業によって、月に数回しか訪問しない場合もあります。しかし、産業保健師がいれば、きめ細かに社員の健康管理ができるでしょう。
具体的には、産業医面談を受けるまでにはいかない社員の心身の問題をサポートしたり、健康に関するセミナーを開催したりなどが可能です。
産業医だけでは抱えきれない仕事を担うことで、効率的に社員の健康をケアできます。
産業保健師を設置する時の注意点
産業保健師の在籍によって、企業の人事も仕事の負担を軽減させることが可能です。ただ、産業保健師を設置する際には気を付ける点が存在しますので、以降に説明します。
注意点1:産業保健師の業務範囲を理解する
産業保健師は産業医と同様に労働安全衛生法に定められている業務を行いますが、法律外の仕事も担います。具体的には、産業医のサポートなどが該当します。
ただし、産業保健師のみでは対応できない業務(医学知識を用いた指導や助言など)もありますので、注意が必要です。厚生労働省のサイトなどで業務内容を確認しましょう。
参考:厚生労働省「職業情報提供サイト job tag 保健師」
注意点2:必ず産業医を設置する
産業保健師を企業に設置しなくても、問題にはなりません。しかし、常時50名以上の社員を雇用する企業においては産業医の設置が義務づけられており、設置をしない場合は罰則が課せられます。
産業保健師を在籍させる場合でも、必ず産業医を設置することが求められます。
まとめ:産業保健師と産業医の役割を理解することで効果的な連携が可能
社員の心身の健康を守る存在がいれば、病気になる人の数を減らすことが可能です。社員の健康の維持ができれば、仕事の効率やパフォーマンスも向上するため、企業自体の業績も上がるでしょう。
産業保健師は、社員への健康指導や環境調整などにも携わることのできる重要な資格です。産業医との違いを理解し、企業の中で両者が効果的に連携する仕組みをつくることで、社員の健康の向上を目指しましょう。