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産業医を変更したい…手続き方法と変更できない場合の対処法を解説
産業医は、労働者の健康を守るため大切な役割を担っています。働き方改革関連法の施行により、産業医と企業の連携のさらなる強化が求められています。
参考:厚生労働省「働き方改革関連法により『産業医・産業保健機能』が強化されます」(PDF)
今の産業医が有能で、あなたの企業に合っていれば問題ありませんが、そうでない場合「産業医を変更したいけど、どのようにすればいいのか」「そもそも変更できるのか」と悩みを抱えている人事・労務担当者もいるのではないでしょうか。
そこで本記事では、企業の人事や労務部門、従業員の健康関連の業務に携わる人に向けて、産業医を変更したくなる理由や変更手続きの方法、さらに、どうしても変更できない場合の対処法について解説します。最後まで読んで、企業の健康経営実現に役立ててください。
産業医を変更したくなる4つの理由
産業医を変更することはできるのでしょうか。結論から述べると、「産業医は変更可能」です。
企業が「産業医を変更したい」と考えるようになるきっかけはさまざまですが、次のような場合は、速やかに変更を検討してもよいでしょう。
変更理由①:産業医としての役割を理解していない
産業医の職務は、労働安全衛生規則14条、15条により次のように定められています。
- 健康診断とその結果に基づく措置
- 長時間労働者に対する面接指導
- ストレスチェックの実施と高ストレス者への面接指導
- 作業環境の維持管理
- 労働者の健康管理
- 健康教育、健康相談、休職・復職面談
- 衛生委員会出席と職場改善案の提示
- 労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置
- 事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告
- 職場巡視(少なくとも2ヶ月に1回)
このように産業医にはさまざまな役割が課されていますが、産業医自身が業務内容を把握していない場合があります。
従業員のメンタルヘルスが重要視されるようになったのは近年です。長年契約している医師などは、現在の産業医の役割を誤解している場合もあり得るでしょう。
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則第十四条、十五条」
参考:独立行政法人労働者健康安全機構「産業医ができること」(PDF)
変更理由②:産業医が「企業の健康経営改善」の役割を果たさない
産業医が業務内容を理解していたとしても、役割を果たしていない場合があります。
たとえば、メンタルヘルスに関わる業務を苦手とし、ストレスチェックの結果判明した高ストレス者への面接指導を避けたがるような場合です。「精神科医でないから」という理由で、休職や復職に関する面談を引き受けないケースも見られます。
最近では、企業としての新型コロナ対策について産業医が協力的でなかったことを理由に、産業医の変更を考えている例もあります。
産業医は、「法律で決められた最低限の業務を一通り実施すれば十分」とはいえません。「企業の健康経営を目指して職場改善をする」という目的のもと、従業員一人ひとりのメンタルヘルス対策に使命感を持って取り組む産業医が求められています。
変更理由③:産業医としてのスキルが低い
産業医の変更をしたい理由の一つに、産業医のスキルが低いことが挙げられるでしょう。産業医はさまざまな業務を担っていますが、業務遂行のスキルが低い医師もいます。
近年は、産業医にメンタルヘルスケア対応が求められることが多くなりましたが、メンタルヘルスケアの知識がない医師や、人の話を聴くことができない医師が誤った面談方法により、従業員がさらに傷ついてしまうような事例もないわけではありません。
偏った医学知識により健康アドバイスをすることで、かえって健康が悪化することもあります。
従業員の抱える問題は一人ひとり異なっているので、幅広い知識を持ち、従業員それぞれに合ったアドバイスができることが求められます。
変更理由④:コミュニケーションがとりにくい
コミュニケーションがとれるかどうかも大切なポイントになるでしょう。企業と産業医は連携を図りながら企業の健康経営に取り組む必要があります。
産業医にやる気が感じられなかったり、人の話を聴かない、高圧的な態度をとるなどコミュニケーションに問題があれば、従業員とも企業とも信頼関係が築けません。
たとえ産業医としての知識があり、産業医の仕事をこなしていても、ヒューマンスキルが低い医師は悩みの種になります。
産業医の変更に必要な手続きとは?
実際、産業医を変更することになったとき、どのような手続きが必要なのでしょうか。
産業医選任報告書類の準備
産業医を変更したときには、産業医を選任するときと同じような手順で手続きが必要となります。
必要な書類は次の3つです。
- 産業医選任報告様式(「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」)
- 医師免許証のコピー
- 産業医証明書類
「産業医選任報告様式」は厚生労働省のウェブサイトからダウンロードし、必要事項を記入します。その他、インターネットで書類作成をする方法、労働基準監督署で直接もらう方法もあります。
参考:総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告
労働基準監督署への届け出
上記の3つの書類は所轄の労働基準監督署に届け出ます。提出方法は、直接窓口へ提出、郵送で提出、電子申請の3つがあります。
産業医を変更する場合、解任から新しい産業医の選任まで14日以内に行わなければなりません。(労働安全衛生規則第13条)また、新たな産業医の選任届は遅滞なく提出することが定められています。そのため、新しい産業医の選任は現在の産業医を解任する以前に準備を進める必要があります。書類も時間のゆとりをもってそろえましょう。
参考:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス(厚生労働省)
産業医を変更できないときの対処法は?
産業医をスムーズに変更できればよいですが、これまでの関係性やしがらみがあって、変更したくてもできないケースもあります。そのような場合の対処法を紹介します。
産業医を2名体制にする
まず、産業医2名体制を検討する方法があります。
従業員が3001名以上の事業場では、常勤の産業医を2名選任することが義務付けられています。(労働安全衛生規則第13条)一方で、従業員が3000名以下の場合は産業医の設置が1名以上であるため、常勤の産業医1名と非常勤の産業医1名を選任することも可能です。
2名体制にすることで、業務を分担したり補い合ったりできるというメリットがあります
ただし、新しい産業医を選任することで、今まで契約してきた産業医が不快に感じたり、今まで以上に役割を果たさなくなる可能性もあるので、慎重に行いましょう。
関連記事:産業医は何人必要?産業医の選任義務と設置基準、届出や罰則まで徹底解説!
産業保健師を利用する
産業医のほかに、産業保健師を設置する選択肢もあります。
産業保健師は、復職者のサポートや職場環境の調整、健康診断実施に関する業務、健康に関するセミナーなども実施できます。
産業医ではカバーしきれない従業員のメンタル不調にも対応できますので、産業医と補い合いながら従業員の健康のケアができます。
ただ、産業保健師のみでは対応できない業務もあります。下記の記事もご確認ください。
関連記事:産業保健師と産業医の違いとは?法的義務や設置するメリットを解説!
まとめ:自社の課題を洗い出し、自社にマッチした産業医を選びましょう
従業員の心身の健康を守ることで、従業員のモチベーションがアップし、ひいては企業の生産性向上につながります。これから、産業医は企業にとってますます重要な存在となるでしょう。
「産業医選びを失敗したくない」と慎重になっている担当者もいるかもしれません。産業医紹介サービスなども利用し、企業の健康経営に向けた自社の課題は何かを洗い出し、その課題を解決するために自社にマッチする産業医を選びましょう