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産業医と安全管理者の設置基準は?資格要件や業務についても解説
労働安全衛生法では、従業員が安全で健康的な環境で仕事ができるよう、安全衛生管理体制を整え、管理者を選任することが義務付けられています。
管理者は、事業場の業種や規模によって、労働安全衛生法に関する資格の保有者から選任されます。具体的には、総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医です。
林業や建設業、運送業、製造業など、従業員に危険が生じる可能性が比較的高いと考えられる業種においては、規模に応じて安全管理者を設置しなければなりません。
しかし、「安全管理者を選任しなければならない業種だけど、設置基準がわからない」「産業医と連携する方法はあるのか」など、迷いのある企業担当者も多いのではないでしょうか。
そこで、本記事では産業医と安全管理者の設置基準や資格要件、役割・業務について、比較しながら解説していきます。
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生法第十一条(安全管理者)、第十三条(産業医等)」
産業医と安全管理者2つの共通点
産業医も安全管理者も、労働安全衛生法のもと選任され、選任の手続き方法には共通点があります。
以降では、両者の共通点を2点紹介します。
共通点①:業種や規模によって選任が必要
産業医も安全管理者も、一定の条件のもと選任が義務付けられています。
産業医は、従業員の健康管理にあたるため選任され、基準となるのは事業所の規模です。
一方、安全管理者はすべての業種で必要というわけではなく、法律上決められた業種で常時50人以上の従業員がいる事業所で選任しなければなりません。
設置基準の詳細については、後ほど解説します。
共通点②:労働基準監督署へ届け出が必要
産業医も安全管理者も、選任する理由が生じた日から14日以内に選任します。そして、遅滞なく所轄の労働基準監督署へ届け出なければなりません。
選任する理由には、下記のようなものがあります。
- 労働者数増加により設置基準を満たすとき
- 新規事業場の開設
- 前任者の変更・退職
届け出する書類は、「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告様式」です。厚生労働省のウェブサイトからダウンロードしたり、労働基準監督署で直接もらって記入することもできます。提出方法は、直接窓口に提出、郵送、電子申請する方法があります。
添付書類が必要なため、確認して忘れず添付しましょう。
参考:総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告
参考:労働安全衛生法関係の届出・申請等帳票印刷に係る入力支援サービス(厚生労働省)
また、産業医の変更方法については、下記の記事をご確認ください。
関連記事:産業医を変更したい…手続き方法と変更できない場合の対処法を解説
産業医と安全管理者3つの相違点
産業医と安全管理者は、設置基準、資格要件、業務において相違点があります。一つずつ見ていきましょう。
相違点➀:設置基準
業種や規模によって、産業医、安全管理者の設置基準が異なってきます。設置基準は少し複雑ですが、自社に産業医や安全管理者が必要かどうかしっかり確認してください。
産業医の設置基準
常時50人以上の従業員を使用するすべての業種の事業場で選任が必要ですが、従業員の人数によって、必要な産業医の人数が変わります。具体的には下記のようになります。
- 常時使用従業員数50人未満 産業医設置基準なし
- 常時使用従業員数50人以上 産業医1人以上
- 常時使用従業員数3000人超 産業医2人以上
なお、1000人以上の従業員を使用する事業場、一定の有害な業務に常時500人以上の従業員が従事する場合は、専属の産業医を選任しなければなりません。
関連記事:産業医は何人必要?産業医の選任義務と設置基準、届出や罰則まで徹底解説!
安全管理者の設置基準
安全管理者を選任することが義務付けられているのは下記の業種です。常時使用従業員数が50人以上の事業場に専属の人を設置します。
林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業
安全管理者の専任が必要なケース
下記に該当する事業場では、安全管理者のうち少なくとも1人を専任の安全管理者としなければなりません。専任の安全管理者は別の業務を兼任することができませんが、労働衛生の業務が一部含まれている場合に限り問題ないとされています。
- 建設業、有機化学工業製品製造業、石油製品製造業(常時使用従業員数300人以上)
- 無機化学工業製品製造業、化学肥料製造業、道路貨物運送業、港湾運送業(常時使用従業員数500人以上)
- 紙・パルプ製造業、鉄鋼業、造船業(常時使用従業員数1000人以上)
- 上記以外の業種(常時使用従業員数2000人以上)
産業医は一つの組織に所属する専属が求められる場合はあるものの、一つの業務のみに従事する専任は求められていません。一方、安全管理者は、上記のように専任が必要となる場合があります。この点が違いますので注意しましょう。
相違点②:資格要件
産業医と安全管理者に求められる資格要件も異なります。
産業医の資格要件
産業医になるには、当然ですが医師免許を持つことが前提です。その上で下記のいずれかの要件を満たすことが必要です。
- 厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修の修了者
- 労働衛生コンサルタント試験(区分が保険衛生であるもの)の合格者
- 大学で労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授または常勤講師の経験がある者
- その他、厚生労働大臣が定める者
参考:厚生労働省「産業医について」(PDF)
安全管理者の資格要件
厚生労働大臣の定める研修を修了した上で、下記のいずれかに該当することが要件となります。
- 大学・高等専門学校の理科系の課程を卒業し、その後2年以上産業安全の実務を経験した者
- 高等学校等の理科系の課程を卒業し、その後4年以上産業安全の実務を経験した者
- その他厚生労働大臣が定める者(理科系統以外の大学を卒業後4年以上、同高等学校を卒業後6年以上産業安全の実務を経験した者、7年以上産業安全の実務を経験した者等)
- その他(職業訓練修了者関係)
また、労働安全コンサルタントの資格を持つ人は、厚生労働大臣の定める研修を修了しなくても対象となります。
相違点③-1:産業医の職務内容
産業医は、従業員が心身ともに健康で過ごせるよう、専門家として指導やアドバイスをします。産業医の仕事は広範囲にわたりますが、主な職務は次のようなものです。産業医の職務内容は労働安全衛生規則第14条、15条で定められています。
- 健康診断の実施とフォロー
- ストレスチェック実施と高ストレス者対応
- 長時間労働者に対する面接指導
- 治療中の社員面談・休職面談・復職面談
- 健康教育、健康相談
- 職場巡視
- 衛生委員会出席と職場改善の提示
①健康診断の実施とフォロー
健康診断の結果、異常所見があった従業員に指導を行い、就業判定や就業措置・産業医意見書を発行します。
②ストレスチェック実施と高ストレス者対応
ストレスチェックの実施、判定に携わり、高ストレス者に面接指導をするのも産業医の職務です。企業へ就業上の措置を伝え、職場改善につなげることが大切です。
関連記事:ストレスチェックで高ストレスと診断…面接指導の流れと注意点を解説
③長時間労働者に対する面接指導
残業時間が1月あたり80時間を超え、疲労蓄積がある人、または1月あたり100時間を超えて時間外労働をしている長時間労働者に面接指導を行います。
④治療中の社員面談・休職面談・復職面談
治療中の従業員や休職を希望する従業員に面談を行い、休職から職場復帰する場合復職面談をし、復帰の可否を判断します。
⑤健康教育、健康相談<
企業の課題に応じて、健康やメンタルヘルスをテーマに従業員に向けて研修や教育を行います。また、従業員から希望がある場合健康相談を受けます。ストレスチェック後や健康診断後だけでなく、いつでも気軽に健康相談を受けられる環境を作っておくことが大切です。
⑥職場巡視
少なくとも2カ月に1回職場巡視をし、職場環境をチェックします。チェックするポイントは企業によって異なりますが、従業員の健康を守るために環境改善につなげます。
⑦衛生委員会出席と職場改善の提示
衛生委員会のメンバーとして、事業場に対して職場改善に関する意見を述べることも任務です。とくに、従業員の働き方や心と体の健康に関して提案します。
参考:e-Gov法令検索「労働安全衛生規則第十四条、十五条」
相違点③-2:安全管理者の職務内容
安全管理者は、労働現場の安全にかかわる技術的事項を管理する国家資格です。安全管理者の仕事も幅広いですが、主な職務を解説します。
- 作業場所・方法に危険がある場合の応急措置・防止
- 安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期点検
- 安全についての教育・訓練
- 作業主任者その他安全に関する補助監督
- 安全に関する資料作成、重要事項記録
➀作業場所・方法に危険がある場合の応急措置・防止
事業場を巡視したり、作業現場の監督者や作業者にヒヤリハット事例を報告させ、危険の対処や防止につなげます。
また、機械設備を更新したり作業方法を変更する際に、リスク管理をすることも職務です。
②安全装置、保護具その他危険防止のための設備・器具の定期点検
安全装置、保護具の定期点検の頻度や点検担当者を決め、チェックリストを作成して点検します。安全管理者は管理をする者ですが、自ら点検実施してもかまいません。
③安全についての教育・訓練
労働災害を防止するためには、やはり安全教育・訓練が欠かせません。知識、技能、態度教育が必要です。
④作業主任者その他安全に関する補助監督
作業主任者や安全管理者の補助をする人たちの安全に関する業務が、適切に実施されているかどうかを確認し、指示、助言します。
⑤安全に関する資料作成、重要事項記録
点検、教育の記録や安全委員会議事録など義務付けられているものを含め、安全管理者の業務に関連した必要事項を記録し、保存することが大事です。
産業医と安全管理者の連携
産業医、安全管理者は、それぞれ衛生委員会、安全委員会のメンバーです。ただし、安全委員会と衛生委員会両方を設置しなければならない職場においては、それぞれの委員会を兼ねて「安全衛生委員会」を設置することができます。
安全衛生委員会の目的は、従業員の声を反映させ、労使がいっしょに従業員の安全と健康を守り、労働災害を防ぎつつ企業価値を向上することです。
安全衛生委員会で、産業医と安全管理者、従業員が情報共有をすることで、健康と安全にかかわる職場環境を整備し、従業員の安全の確保をより強固なものとすることにつながるでしょう。
まとめ:産業医と安全管理者が連携し、従業員の安全と健康を守りましょう
相違点が多く、一見接点がないように思われる産業医と安全管理者ですが、いずれも従業員が安全で健康的な環境で仕事ができるよう、設置が義務付けられています。
従業員の安全と心身の健康の両方が守られることで、従業員が安心して仕事に取り組むことができ、企業の生産性や効率アップにつながります。
産業医と安全管理者は、安全衛生委員会での情報共有、安全教育と健康教育の定期開催など連携を強化し、健康経営を推進していきましょう。