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外科医が産業医として起業、中小企業診断士も取得-佐藤将人・合同会社SUGAR代表CEOに聞く◆Vol.1

「自分にはこんな働き方は無理だ」と一念発起

外科医として勤務経験を持つ佐藤将人氏は2021年6月、産業医サービスを主軸とする合同会社SUGAR(宮城県仙台市)を設立した。産業医と中小企業診断士の資格を併せ持つ佐藤氏は、従業員の「健康」と企業の「経営」の両立をサポートすることで他と一線を画す事業を展開している。佐藤氏が起業に至ったきっかけや今後の事業ビジョン、企業理念に掲げる「健康的に豊かに生きる」に込められた思いを聞いた。(2023年4月24日インタビュー。全2回連載の1回目)

佐藤将人氏

――SUGARの事業内容や特色を教えてください。

弊社は一般企業への産業医サービスを主軸としています。産業医というと会社の「保健室」のようなイメージがあるかもしれませんが、弊社は「企業価値を向上しつつ、社員一人ひとりの人生の充実化を図る」という目標を持っています。

一般的な経営コンサルタントは、社員の健康面とは別に無機質に経営的な稼働性や人的資源管理を行って財務や会計などの改善を行いますが、従業員の健康ケアまで十分にカバーできていないことが多いです。効率を突き詰めると逆に健康を壊してしまう危険性もあります。一方、産業医は健康維持への対策を重視しますが、経営的な知識を持っていないケースが多く、企業価値向上という側面を担えていないことが少なくないです。弊社はその2つを併せ持つことでほかの産業医や経営コンサルタントと差別化した事業を展開しています。

 

具体的な業務内容は以下のとおりです。まずは事業者が描く企業理念やビジョンの理解に努め、その上で企業の社員一人ひとりと面談します。私は従業員の意思、いわゆる「will」を大切にしており、コーチングやカウンセリングの手法を取り入れつつ対話を重ねて「その人が本当にしたいことは何か」を深掘りしていきます。それを踏まえた上で、次のステップでは管理職や事業者と「会社をどうしていきたいか」という経営的な話をします。心身だけでなく社会的な意味でも長期的に健康であり満足した生活を意味する「ウェルビーイング(well-being)経営」を実現するため、社員の「will」とすり合わせしながら対策を探っていきます。

一人ひとりと面談するのは効率的ではないかもしれませんが、私の好きな言葉の一つに「一人の人間を救う者は、全世界を救う(Wer einen Menschen rettet, rettet die Ganze Welt.)」という映画『シンドラーのリスト』のせりふがあります。業務を通じて、この言葉は真実だと実感しています。会社も人間一人ひとりの集まりなので、個人の幸せを追求して全体に生かしていく必要があります。

――SUGARは設立から間もなく2年を迎えます。事業状況や採算性はいかがですか。

これまで終了した案件も含めて23社と提携しました。売上ベースで見ると1年目200万円強、2年目1000万円弱、3年目の見込みは1500万円程度とおかげさまで順調に推移しています。起業当初はお客様とのネットワークもなくニーズも明瞭ではなかったため、人材紹介会社の産業医紹介サービスを利用していました。そこから既存の産業医サービスでは満たせていないニーズやシーズを汲み取り、他社などのサービスと差別化を図ることで口コミや紹介でだんだん広がってきました。売上はものすごく多いわけではないのですが、一般的なクリニックと違って場所代や設備費などの固定費や人件費などの変動費の経費がかからないので良くも悪くもレバレッジがかかっていないため、効率よく収益につなげられています。起業にあたっても借り入れなどすることなく無借金経営です。

実は弊社が稼働しているのは月曜と木曜の週2日だけ。私は火曜と水曜は大手企業の非常勤の産業医として経験を積んでいます。まだ産業医としては3年目のため、産業医としてさらに知識を身に付けるため、多くの現場を実際に見て社会的なニーズや課題を読み解くことと属人的な暗黙知の取得を重点的に行ってきました。今後は弊社の業務に充てる時間を少しずつ増やしていく予定です。金曜は臨床的な診断の経験を継続するため業務提携している仙台駅前の「仙台内科睡眠クリニック」で内科の診療をしており、臨床と産業保健の相乗効果の暗黙地を得るとともに既存のフレームの問題点などを垣間見させてもらっています。また、こちらのクリニックを通じて出会ったお客様もいます。

――SUGARの人員体制を教えてください。

常勤社員は私と妻の2人で、家族経営という形です。現在、産業医は私1人ですが、お客様が増えてだんだんと手が回らなくなってきました。一緒に活動してくれる産業医を常時募集しているところです。

大都市圏などと比べ、仙台市は「産業医に特化したサービス」を求めている企業がまだ多いです。開業医の中には副業で産業医をしている方もいますが、臨床が忙しくて十分に質的需要を満たしていないケースもあります。新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で事業所を一度も訪問できていなかったり、安全衛生教育を希望しても臨床が忙しくて対応できなかったり、というケースを実際に耳にしています。弊社はその需要に応えることでだんだんお声掛けしてもらう機会が増えてきました。企業の細かなニーズを満たすのは世の中全体にとっても、いい影響を与えると思っています。

 そのほか、妻は看護師の資格を保有しているので、既存のサービスでは十分に満たせていない健康診断に具体的なコメントを発行するサービスも提供しています。また業務提携している中小企業診断士が4人、毎週ホームページで公開している記事を委託しているライターが4人と、外部サービスも活用しています。

――産業医のやりがいはどういった点ですか。医師にお薦めしたい仕事ですか。

 私はもともと人の話を聞くのが好きで、産業医業務を動詞で分類すると、「聞く・知る・教える・話す・考える・感謝される」という自分の好きな要素がすべて詰まった職業だと感じています。また、労働時間も自分でコントロールしやすいので、これらの点にあてはまる人には選択肢の一つとしてお薦めできます。

たとえば、私は現在、1週間に働く時間を30時間以内と決めています。以前はワークライフバランスを保つ目的でしたが、今はライフもワークも産業保健業務と仕事が道楽化して楽しくライフイズワークの状態のため、「子どもがゲームをそれ以上しないように」と時間制限を設けている感覚です(笑)。

このように、割り切って仕事をしたい人と趣味のように夢中になって仕事をしたい人のどちらのニーズも満たしやすい仕事かと思います。仕事の時間を制限している理由は、私には子どもが3人いてまだ未就学児で小さく、子どもが私にかまって一緒に過ごしてくれる時間は今しかないので、家族の時間を最優先に確保していることです。そのため、子どもたちが大きくなって家族が私にかまってくれなくなったら週30時間というタイムリミットの制限プレイを解除すると思います(笑)。それくらい今の自分には産業医としてのやりがいがあります。

また、産業医は働くことや生きることについて常に哲学的に考察する職業でもあるので、「働くとは何か」「生きるとは何か」「幸せとは何か」などと深く考察したい人にも間違いなくやりがいのある職業かと思います。

――外科医としてのキャリアをお持ちの佐藤さんが、他分野での起業を考えたきっかけを教えてください。

 私は以前、外科医としてやりがいを感じつつ楽しく勤務していました。ただ研修医1年目のころから、病院の中で長時間勤務するのを苦痛に感じる自分もいたんです。「医師という職業は本当に自分の天職なのか」「違った分野で社会に出てみたい」と少しずつ考えるようになりました。

その後、東北大学大学院医学系研究科博士課程に入局しました。自分の考えを決定づける大きな転機となったのが大学院2年目の2019年4月から半年間、国立がん研究センター中央病院肝胆膵外科短期レジデントを経験したことです。類まれな手術の技術を持ち、論文もどんどん書き上げ、土日や深夜も猛烈に働く先輩方を見てあこがれを抱くとともに圧倒されました。

しかし、上級医と話したある時に、その上級医から「手術でミスして悔しかったときには、ストレス発散で論文を書く」と聞いたとき、感心すると同時に「自分には無理だ。同じようにはできない」とあきらめを感じました。今思えば、自分にとって外科医は仕事であって、その上級医の先生にとっては仕事とともに道楽的な趣味という好きなことだったのだと思い、自分は上級医と同等以上に外科医という業務を好きになれなかったのかもしれません。

その後は、医者としての長期的なキャリアプランや働き方について悩みつつ、深く考える方法などがわからなかったため、もともと興味があった経営学やモチベーション論などの知見を得るために経営コンサルティングの国家資格である「中小企業診断士」の資格を取得しました。また、中小企業診断士登録直後くらいに産業医講習を受講し、産業医業務が経営コンサルタント的側面を満たしつつも、これまでの医師の知見や働き方についてなどの考察をすべて展開しながら自分が好きな仕事である可能性を見出し、産業医業務のニーズなどについて粗く調べて参入する見込みが十分にあると判断し、大学院4年目の2021年6月に合同会社SUGARを設立しました。

設立当初はまだ大学院に所属していた兼ね合いで、自身が代表になれかったので妻に代表社員になってもらい、私は「ほぼ無給の職員」という形を取りました。博士課程を修了した2022年4月に代表社員に就任しました。起業の意思を伝えたときも、妻からの反対はなかったですね。それまでの臨床医としての生活は心身ともにハードだったので、それに比べたら良いと思ってくれたのではないかと思います。

 

インタビューに答える佐藤将人氏

――ビジネス系の資格の中でとくに「中小企業診断士」の資格取得を目指した理由はありますか。起業のビジョンはどの段階から持ち始めたのでしょうか。

それまでやってきた医療とは異なる業種に進出する覚悟が本当にあるのか、自分自身に問うためにも合格率4%の難関国家資格である「中小企業診断士」に合格できるかどうかが見極めになると思いました。大学院では研究・調査や診療などの業務があり、それをこなしながら平均して1日3時間を資格の勉強に充てました。

といっても、ちょうどCOVID -19が流行し始めて研究することもできず家にいる時間が増え、本来は医師としての勉強に励まなくてはならないところを私は外科医としてのアップスキリングではなく、中小企業診断士や産業医、起業家としてのリスキリングという別のベクトルに向けてしまったんです(笑)。最初は久しぶりの勉強で自分が通用するのか不安が大きかったですが、実際に勉強を始めてみたら「面白いな」と思えて、知識が増えることを楽しみながら継続でき、半年間の勉強期間で幸運にも一発合格できました。

時を同じくして、中小企業診断士の資格を取得された神戸市の外科医の方と交流する機会を得ました。私は「医療現場の働き方を変えるために貢献したい」という思いを持ちつつまだ具体的なイメージがなかったのですが、相談する中で「どれもすべて現時点でできることではないか」とコメントしてもらい、本格的に検討するようになりました。「どうやって起業するのか」「運営をどうするか」という疑問の答えも実は資格取得のために身に付けた知識の中にすべて詰まっていたので、あまり深く考えず「全部できるじゃん」と浅はかにも思い、気付けば勢いで起業していました。人とのめぐり逢いも含めて、自分は運が良かったのだと思います。

――社名にはどんな意味がありますか。

「SUGAR」という名前には複数の意味が込められています。一つは私の名前「佐藤」に掛けました(笑)。二つ目は「〇〇事務所」というような堅苦しい名前ではなく、キャッチーでみんな覚えやすい名前になるようにアルファベット表記にしました。三つ目は甘い砂糖のように「誰にとっても苦いものではなくおいしく楽しくさせるもの」という思いが込められています。四つ目は、砂糖は人が活動するための欠かせないグルコースというエネルギーで、車でいうとガソリンのようなものです。そんな存在になれるように、との目標を掲げています。

――SUGARが理念に掲げる「健康的に豊かに生きる」の意味について具体的に教えてください。

 

「健康って何ですか」という質問に対して私が一番しっくりくるのは、1947年に採択されたWHO憲章です。WHOでは、健康とは「肉体的・精神的・社会的に完全に良好な状態で、単に疾病又は病弱の存在しないことではない」と定義しています。さらにその後、WHO憲章では1998年に健康の定義について「spiritual(霊的)」と「dynamic(動的)」を加えるかどうかの検討が行われました。結局採用はされなかったのですが、私個人としては大切なことだと思っています。ここでいう「spiritual(霊的)」は無宗教が大半を占める日本ではあまりぴんとこないかもしれませんが、個人的にはどのような宗教や哲学的な考えにしても多様性を受容した上で自分自身の生き方の考えというぶれない信念を持つことです。「dynamic(動的)」は誰かの考えに支配されて受け身になるのではなく主体的に「自分がこうしたい」という意志を持ち、自分自身で選択することです。

私は、人間が行動する際の動機付けには「恐れや苦痛」と「楽しみや快楽」の2種類、脳内ホルモンで言えばセロトニンとドーパミンが大きく寄与していると思っています。そして、私の正義は「多様性を受け入れ、すべての人に平等に接すること」なのですが、現代社会は一様性の傾向がいまだに強く「こうしなきゃダメ」「健康のためにこうするべき」など「恐れ」をあおる広告なども多く目にして違和感を持っています。世間の「恐れ」ではなく己の「楽しみ」をモチベーションとした選択肢を多く持ってスピリチュアルに、つまり自分自身のぶれない信念に沿って、そして動的に、つまり能動的に選択して生きていける状態こそ、弊社が理念に掲げる「健康的に豊かに生きる」の意味です。

◆佐藤 将人(さとう・まさと)氏

2014年に東北大学医学部医学科卒業。2014年4月から2018年3月まで山形県立中央病院初期研修医・専門研修医(外科)。2018年4月、東北大学大学院医学系研究科博士課程入学・入局。2019年4月から半年間、国立がん研究センター中央病院肝胆膵外科短期レジデントを経験。大学院在学中の2021年6月、合同会社SUGARを設立。2022年3月に東北大学大学院医学系研究科博士課程卒業、2022年4月に合同会社SUGAR 代表社員に就任。

【取材・文・撮影=福岡美幸】

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