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アサーションを職場に取り入れるには?実践方法やメリットについて解説

アサーションを職場に取り入れるには?実践方法やメリットについて解説

職場にはさまざまな人間関係があります。具体的には、上司と部下、同僚同士、クライアントとの関係などです。「職場の人間関係がうまくいかなくてつらい」と感じたことがある人は多いのではないでしょうか。

職場は、年齢や個性、価値観が違う人たちの集まりであり、上司と部下のような役割の変化もあるため、一定の関係性を保つことは難しいでしょう。

良い人間関係をつくり、それを持続させるには、円滑なコミュニケーションが欠かせません。そのため、コミュニケーションスキルの一つとして近年注目されているのが「アサーション」です。昨今では、職場にアサーションを取り入れるためのトレーニングを導入している企業も増加しています。

本記事では、アサーションの概念について確認し、アサーショントレーニングの方法、職場にもたらすメリットについて具体的に解説していきます。

職場のコミュニケーションを円滑にし、健全な職場環境をつくりたいと考えている企業責任者や人事担当者は、ぜひ最後までお読みください。

アサーションとは?

アサーションとは?

アサーションという言葉を聞いたことはあっても、理解があいまいという人は少なくありません。そこで、アサーションとは何かについてみていきましょう。

アサーションはコミュニケーション手法の一つ

アサーションは英語で「assertion」となり、「自己主張」「断言」などと訳され、少し強い意味合いを持ちます。

しかし、本記事でいうアサーションは、「自分も相手も大切にする自己表現・コミュニケーション手法の一つ」を指します。

アサーションが生まれた背景

アサーションは、1949年に米国のアンドリュー・ソルターが発表した行動療法(心理療法)の一つである「条件反射療法」にて医学用語として記述されたのが始まりだとされています。

その後、米国の心理学者であるジョセフ・ウォルピが神経症の治療において、不安の抑制に有効な反応の一つであるとして、アサーションを取り上げました。

1960~70年代の米国では、黒人差別や女性差別に対抗する人権擁護の思想と運動を土台として発展しました。

現在では、アサーションは欧米を中心に、マネジメントの現場で使われており、日本においても、1980年代から教育・福祉・医療など人に関わる業界を中心にさまざまな分野で広く取り入れられています。

参考文献:『Conditioned Reflex Therapy: How to be Assertive, Happy and Authentic, and Overcome Anxiety and Depression』(Andrew Salter)

アサーションが注目される3つの社会背景

アサーションが注目される3つの社会背景

ビジネスでアサーションが注目されるようになり、企業でも階層別のメンタルヘルス研修にアサーションを取り入れるところが増えています。アサーションが注目されている3つの社会背景について解説します。

背景➀メンタルヘルスへの関心の高まり

厚生労働省の調査「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)[事業所調査]」では、メンタルヘルス不調により連続して1カ月以上休業した労働者または退職した労働者がいた事業所の割合は10.1%です。

社員が休業や離職をすると、企業にはマンパワーやコスト面で損失が出ることもあり、メンタルヘルスへの関心が高まっています。

メンタルヘルス不調になる原因の一つには、社内の人間関係、コミュニケーション不足があげられます。

社内にアサーションを取り入れ、相手を傷つけず自分も大切にするコミュニケーションが広がれば、良好な人間関係を築くことができ、メンタルヘルス不調の予防にもつながるでしょう

参照:厚生労働省「令和3年労働安全衛生調査(実態調査)[事業所調査]」(PDF)

背景②ハラスメント対策の強化

2022年4月からパワーハラスメント防止措置が全企業に義務化されました。そのほか、セクハラ・マタハラを防止する関連法もあわせて施行されました。

このような流れの中、企業のハラスメント防止への取り組みが強化されています。

相手を尊重しつつ自分の意見を主張するコミュニケーションは、ハラスメントを防ぐためのコミュニケーション方法として注目されています。その研修の一つとして、アサーショントレーニングが効果的だとして取り入れる企業が増えてきました。

参照:厚生労働省「職場におけるパワーハラスメント対策が事業主の義務になりました! ~セクシュアルハラスメント対策や妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメント対策とともに対策をお願いします~」(PDF)

背景③テレワーク時代の見えないストレス

新型コロナウイルス対策で急激にテレワークの機会が増えました。オンラインでのコミュニケーションで、お互いの表情が見えないため気持ちを察するのが難しいと感じたり、気軽な雑談や相談をする機会が減り、コミュニケーションにぎこちなさを感じる人も多いのではないでしょうか。

また、メールやチャットでのやり取りが中心になるため、言葉を交わすコミュニケーションとは違ったやりとりにストレスを感じる人も多いでしょう。文字でのやり取りによるコミュニケーションの行き違いが発生することもあります。

そのような中、相手の気持ちや自分の言葉に目を向けるアサーティブコミュニケーションが注目されています。

関連記事:なぜかリモートワークがつらい…ストレスの原因と対処法を解説

3つの自己表現パターン

3つの自己表現パターン

アサーショントレーニングの基礎を確立したウォルピによると、自己表現のパターンは3つあるといわれています。一人の人がどれか一つのパターンに偏っているというわけではなく、状況によって強く出るパターンが人によって異なるということです。

自分がどのパターンが多く出るかを知ることで、アサーティブなコミュニケーションを身につけやすくなるでしょう。

自己表現パターン①アグレッシブ

考え方が自己中心的で、相手の気持ちや考え方を尊重せず、自分の価値観を押し付けるタイプです。「攻撃タイプ」ともいわれます。

相手より優位に立ちたいという気持ちが強すぎるため、自分の主張を押し通して、相手をコントロールするところがあります。

このタイプには、次のような特徴があります。

  • 威圧的、高圧的、感情的な態度が目立つ
  • 相手の話を聞かず、相手の意見を否定する
  • 自分の考えを相手に押し付けようとする
  • ものごとを勝ち負けで決めようとするところがある

自分の意見を伝えられるのは良いこともありますが、強引すぎるとコミュニケーションがうまくいきません。アグレッシブタイプはパワーハラスメントにつながりやすいので注意が必要です。

自己表現パターン➁ノンアサーティブ

自己主張が苦手で、自分より相手を優先するタイプです。自分の言いたいことを我慢してしまう傾向にあります。ノンアサーティブには次のような特徴があります。

  • 人から言われたことを断れない
  • 自分の意見や気持ちを表に出さない
  • あいまいな表現をしたり、言い訳をすることが多い

一見、優しい人によく見られるパターンですが、自分に対してネガティブな気持ちを持っている場合も多く、起きたできごとに対して人のせいにしたり、ストレスを抱えやすい傾向にあります。

自己表現パターン③アサーティブ

相手の気持ちを配慮しながら、自分の意見も伝えることができる自己表現がアサーティブです。以下のような特徴を持っています。

  • 人の話に耳を傾け、相手の考えや価値観を受け入れることができる
  • 自分の意見を素直に誠実に伝えられる
  • 建設的な意見が言える
  • 自分の考えを押し付けない

相手の立場やその場の雰囲気に応じて、適切な表現ができるので、間関係やコミュニケーションに良い影響を与えます。自分の意見も上手に伝えられるため、ストレスを抱えにくいのが特徴です。

アサーションのための実践トレーニング

アサーションのための実践トレーニング

アサーションは自然に身につくものではありません。トレーニングを積み重ねることで身につけていくことができます。具体的なトレーニングや実践ポイントを紹介しますので、ぜひロールプレイング研修を職場に取り入れてみてください。

  • Iメッセージ
  • DESC法
  • 相手を否定しない
  • 自分の思っていることを言語化する
  • 非言語もアサーション

①Iメッセージ

自分の気持ちや意見を言葉で伝えるとき「わたし(=I)」を主語にすることです。

たとえば、相手に反対意見を伝える場合「あなたは間違っています」と言うと、相手はいやな気持ちになるでしょう。「私は、こんなふうに考えています」と表現することで、相手を否定することなく自分の考えを伝えられ、前向きなコミュニケーションができます

➁DESC法

アサーションのトレーニング手法の一つに、DESC法があります。コミュニケーションについて以下の4つのステップから成り立っています。

  • D(describe):主観を入れず、事実を客観的に伝える
  • E(explanation):自分の意見を表現し伝える
  • S(suggest):相手に解決策や妥協案を提案する
  • C(choose):相手のYes、Noの意見を受容し、自分の行動を選択する

③相手を否定しない

相手の立場を思いやり、気遣った言葉を選んで伝えるようにしましょう。相手の意見が自分の考えと違っていても、相手を否定しないことが大切です。

アサーティブに大切な姿勢は、誠実、素直、対等です。

相手の話を聴き、相手の立場に立って、自分が相手を傷つける言葉を投げかけていないか、自分の価値観を押し付けていないかを考えながら言葉を選びましょう。

④自分の思っていることを言語化する

ロールプレイで、たとえば上司と部下などの役作りをし「仕事を頼みたい」「仕事のミスを注意したい」といった場面を設定し、言語化する練習をおすすめします。

「残業を頼まれたけど断りたい」という場面で、「それは私の仕事ではないのでやりたくありません」と言ってしまうのはアグレッシブなタイプの人です。

言語化する練習を繰り返すことで、NOもうまく言えるようになるでしょう。

⑤非言語もアサーション

言葉だけでなく、非言語的な表現も大事です。コミュニケーションを図るときは、話の内容だけでなく、身振り手振りや表情、声のトーンなどからも感情は伝わります

たとえ前向きな内容を言葉にしても、表情や声に否定的な感じがあると、攻撃されていると受け取られてしまいます。

非言語にも気を付けてアサーショントレーニングに取り組んでください。

職場にアサーションを取り入れる4つのメリット

職場にアサーションを取り入れる4つのメリット

職場にアサーションを取り入れ、アサーティブな表現が浸透すれば、職場の雰囲気が明るくなるでしょう。アサーションを取り入れるメリットを紹介します。

  • 信頼関係が構築される
  • コミュニケーションが円滑になる
  • メンタルヘルス不調を予防できる
  • ハラスメント予防につながる

メリット①信頼関係が構築される

アサーションは相手も自分も尊重する姿勢が基本となります。自分の考えを述べても否定されたり攻撃されたりしないという心理的安全性が確保できれば、安心して自分の意見を言葉にできるようになり、信頼関係が構築されます。

そのような風通しの良い職場環境が整えば、積極的に情報共有ができるようになり、仕事のミスが減少し業務効率化にもつながるでしょう。

メリット②コミュニケーションが円滑になる

アサーションを身につければ、考え方や価値観が違う人の話を否定せず聴くことができるようになります。さらに、適切な自己表現ができるようになるため、職場のコミュニケーションが円滑になります。

社内で良いコミュニケーションが広がれば、仕事の相談や提案をしやすくなり、新しいアイデアも生まれ、事業の成長や企業の生産性向上にもつながるでしょう。

アサーションを習得すると、社内のみならず取引先との関係性も良くなります。

ふだんから良いコミュニケーションが図れる職場では、プレゼンティーズムやアブセンティーズムの改善にもつながります。

関連記事:プレゼンティーズムとは?健康経営に向けた企業の改善策を解説

メリット③メンタルヘルス不調を予防できる

アサーティブな職場になれば、「言いたいことがあっても、どうせ聞いてもらえないだろう」といったストレスがなくなり、自分の意見を率直に伝えられるようになります。

職場の人間関係が良くなるため、メンタルヘルス不調の予防にもつながります

「仕事に行きたくても行けない」「ストレスが原因で離職する」といった状態の予防策としても、アサーションを学び良い人間関係をつくることが大切です。

関連記事:仕事に行けないのは甘え? 社員を守るために会社ができること5つ

関連記事:ストレスによる離職者を防ぐには?企業ができる3つの対策

メリット④ハラスメント予防につながる

部下や後輩の指導をするとき、伝え方しだいでパワハラと捉えられてしまうことがあります。攻撃的な言葉を使っていないとしても、イライラしながら伝えるなど、相手を尊重していない態度で指導すれば、不快感や恐怖を与えてしまいます。

職場にアサーション研修を取り入れ、対等な関係性でコミュニケーションが図れるようになれば、パワハラも起きなくなり、ハラスメント予防にもつながります。

管理職だけでなく、社員にとってもアサーションスキルを身につけることで、感情的にならず上司に冷静に意見を伝えることができるようになるでしょう。

まとめ:アサーションを浸透させ、安全で健康な職場づくりを

まとめ:アサーションを浸透させ、安全で健康な職場づくりを

自分の意見を押し付けたり、自分の考えを口にするのを我慢したりするコミュニケーションが当たり前になると、仕事のトラブルやミスが多くなり、企業のパフォーマンスも下がってしまいます。

アサーションは自分も相手も尊重するコミュニケーションです。アサーショントレーニングを職場に取り入れ浸透させることで、自分の意見を安心して伝えられるようになり、多様な意見を交換できる環境になります。

心理的安全性が高く健全な職場は、対面でもテレワークでも積極的に意見交換ができ、新しい発想が取り入れられるようになり、事業の発展につながるでしょう。

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