発達障害は仕事ができない?傾向のある社員の特徴や向く仕事を紹介
「発達障害の人は仕事ができない」「仕事ができない社員がいる」「発達障害なのかもしれない」というお悩みを聞くことがあります。
発達障害がある人も、発達障害の特性に着目し、特性を生かすことができれば、職場にとって欠かすことができない人材です。
発達障害と診断を受けていない、いわゆるグレーゾーンとされる社員についても、発達障害の社員と同じ配慮を行うことで、仕事のパフォーマンスを改善させることが可能です。
本記事では、発達障害の特性に着目し、発達障害の傾向がある社員はどのような仕事が向いているのか紹介していきます。
発達障害とは
2023年11月1日配信の「発達障害の傾向がある社員のマネジメント方法とは?」では、発達障害とは、脳機能の発達に偏りがあり、日常生活や仕事において支障をきたしている状態であること、得意な分野では力を発揮できる一方、特定の分野は苦手という特徴があることを説明しました。
ここでは改めて、職場でみられやすい4つの発達障害の種類について簡単に解説します。
ADHD:Attention-Deficit Hyperactivity Disorder(注意欠如・多動症)
一つのものごとに集中しにくい不注意傾向のほか、落ち着きのなさや突発的に行動する多動性、衝動性という特性がみられます。
順序立てて行動することが難しく、短絡的な行動をとってしまうことがあります。
ASD:Autism Spectrum Disorder(自閉スペクトラム症)
以前は、アスペルガー症候群や自閉症と呼ばれていた障害です。現在は自閉スペクトラム症(ASD)とまとめられています。
コミュニケーションの困難さや、柔軟な対応が苦手、といった特徴がみられます。
SLD:Specific Learning Disorder(限局性学習症)
知的な問題がないにもかかわらず、読み書きや計算などの学習に必要な能力を習得できず、困難さを抱えた状態です。
代表的なものに、読字障害、書字表出障害、算数障害があります。
DCD:Developmental Coordination Disorder(発達性協調運動症)
身体の複数の部位を連動させて動かす協調運動が苦手なことが特徴です。
全身や手足などの運動面において不器用さがみられます。
仕事がうまくできない発達障害者にみられる特徴
職場でみられやすい4つの種類の発達障害について、簡単におさらいしました。
発達障害の特徴を理解しやすくするために、どのような仕事がうまくできないのか、具体的な事例を紹介します。
(※発達障害の社員が抱える困難さは、一人ひとり異なります。以降で紹介する特性やエピソードはすべての方に該当するわけではありません)
ADHD(注意欠如・多動症)の特性がある社員
ADHDの特性がある社員の人の仕事中のエピソードの例を示します。
静かな空間での集中や計算作業が苦手
ある一人のADHDの社員の人は、落ち着きがなく、じっと座っていられないため、静かな環境でのデスクワークが苦手です。
うっかりミスや計算ミスが多いため、お金を扱う事務作業などは不向きで、段取りよく仕事を進めることができず、納期を守ることが苦手な傾向がありました。
整理整頓が苦手でモノが多いとミスが発生する
別のADHDの社員では、整理整頓が苦手で、仕事に必要なものがどこにあるかわからなくなってしまうことがあります。
また、大事な伝票を紛失してしまい、検品作業を任せると不良品を見逃してしまうことが多くありました。
時間通りに動くことや場に合わせた行動が苦手
違うADHDの人の場合、お客様との商談に遅刻をし、その場の空気のそぐわない発言をしてしまい、お客様を怒らせてしまいました。他にも、社内の合意を得ていない契約を勝手に進めてしまい問題になったことケースもあります。
ASD(自閉スペクトラム症)の特性がある社員
次に、ASDの特性がある社員の人の仕事中のエピソードの例を示します。
ポイントを抑えた作業が苦手で些末な部分にもこだわる
あるASDの社員の人は、社内用の簡単な資料作成でも、文章の表現や句読点の位置、レイアウトなど些細なことを気にしてしまい、締め切りまでに資料を作成することができませんでした。
以前にも行った作業でしたが、体裁が少し異なったため、融通が利かなかったようです。
適度に作業をするのでなく全てを厳格に扱って作業をする
別のASDの社員で除草作業を担当した人のケースでは、草の多い場所のみを除草すると10分ほどで終わるであろう作業に3時間かかり、すべての草花をきれいに抜いてしまうことがありました。
また、検品作業を担当した際には、判定が微妙なものをすべて「不良」と判断してしまいました。迷ったときには、相談するように伝えたところ、毎回質問しにくるようになり他の作業ができなくなるという事例もあります。
SLD(限局性学習症)の特性がある社員
3番目に、SLDの特性がある社員の人の仕事中のエピソードの例を示します。
活字のマニュアルや作業手順書などを読むのが苦手
あるSLDの社員の人は、字を読むことが苦手なため、マニュアルや社内の掲示物を理解できず、いつも他の人の様子を見たり聞いたりしながら仕事をしていました。
メモが苦手なため、電話対応やミスのない作業が苦手
別のSLDの社員の人のケースでは、言われたことを文字に書き残すことが苦手なため電話対応が苦手です。そのため、メモを取らないのかと叱られてしまうことがよくありました。
他にも、棚卸しで数量を正しく数えることができないことがあり、数えるたびに数量が変わってしまうという事例もありました。
DCD(発達性協調運動症)の特性がある社員
最後に、DCDの特性がある社員の人の仕事中のエピソードの例を示します。
インプットとアウトプットの協調作業が苦手
あるDCDの社員のケースでは、画面や資料を見ながら、キーボードを入力することが苦手で、他の人と比べてPCの入力に時間がかかってしまうことがありました。
別の人の場合には、外を見ながらアクセルやブレーキの調整を同時に行うことが難しく、車をよくぶつける例もありました。同様に、台車で荷物を運ぶときも、うまく通路を曲がれないことがあります。
他の例では、左右の手の協調運動が難しく、はさみで線の上を切ったり、エプロンのひもを背中で結んだりすることが苦手なケースもあります。
発達障害グレーゾーンの適職は?向く仕事のポイントを解説
仕事ができない例を紹介しましたが、発達障害の特性に着目し特性を生かすことができれば、発達障害がある人も、職場にとって欠かすことができない人材です。
発達障害が疑われるグレーゾーンと言われる人に対しても、同じような視点を持つことで、適材適所な人員配置を行うことができます。
ADHD(注意欠如・多動症)の社員に向いている仕事
納期に余裕があり、ある程度のミスが許され、ダブルチェックが可能な作業が向いています。精度は高くなくても良いので、一次作業として大量の情報を処理する作業や、散らかっている部屋の荷物をすべて運び出すといった作業が該当します。
細かいことが気にならない、行動力があるという強みに着目すると、前例がない仕事や、組織改革の仕事などに果敢に挑戦できる人材ともいえます。補佐役に恵まれて、リーダーシップを発揮することで、組織の上に立って活躍する人も少なくありません。
ASD(自閉スペクトラム症)の社員に向いている仕事
一度理解し納得した仕事は、しっかりと行うことができます。ミスが許されない厳格な仕事や、高い集中力が要求される仕事、品質検査などの作業が向いています。
こだわりが強みとなることで、組織にとって大きな戦力となります。専門知識を突き詰める研究職やプログラマー、モノづくりのスペシャリストとしても活躍を期待できます。
SLD(限局性学習症)の社員に向いている仕事
読み、書き、計算のうち、苦手なものを必要としない仕事を用意します。身体を動かす作業や、軽作業などが該当します。
IT機器を利用すれば、音声で文字を入力できたり、文字を読み上げたりすることができます。計算もITに任せることが可能です。
DCD(発達性協調運動症)の社員に向いている仕事
できるだけ複雑な動作を必要としない仕事を用意します。どうすれば苦手な動作をしなくてすむかという観点で考えることが必要です。
エプロンのひもを背中で結ぶことができない場合には、ひもを前で結んだり、被るタイプのエプロンに替えたりすることで、問題が解消します。
発達障害の傾向のある社員には、人事部や上司のみならず、同僚も理解を深めて適切に接することが大切です。
厚生労働省が「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座 」というコンテンツの中で「発達障害のある同僚への接し方」を公開しています。以下のような事例も参考にしながら、力が発揮できる適材適所を見つけ職場の全員が意識を持ったうえでサポートすることが大切です。
参考:厚生労働省「精神・発達障害者しごとサポーター 養成講座 」
まとめ:本人の特性と希望から向いている業務を任せましょう
「発達障害があると仕事ができない」とは限りません。一人ひとりの障害の特性や苦手さを意識して、向いている作業を任せることで、仕事ができる人材に変わります。
仕事ができないと思ったときには、その仕事がその社員に合っていないのではないかと考えてみることが大切です。
ぜひ、発達障害の特性と本人の希望を踏まえて、難しいであろう作業を減らしたり作業しやすいように配慮を実施するととともに、他の人よりも適性が高いであろう業務を割り振れるようにご調整ください。