健康経営を加速するメンタルヘルス対策!企業のための導入ガイド

「従業員の離職が後を絶たない…」
「職場の活気がなく、生産性が上がらない…」
「メンタルヘルス対策の必要性はわかるが、何から手をつければいいのか…」
このような課題は、多くの経営者や人事担当者が抱える共通の悩みではないでしょうか。そして、これらの課題の根底には、従業員の「メンタルヘルス」の問題が深く関わっています。
もはや、メンタルヘルス対策は福利厚生の一部ではありません。従業員の心と体の健康を守り育てることは、企業の持続的な成長を実現するための「経営戦略」そのものです。
この記事では、メンタルヘルス対策を「コスト」ではなく「未来への投資」と捉え、健康経営を加速させるための具体的な導入ステップから、効果測定の方法、形骸化させないための仕組みづくりまで、経営者・人事担当者に役立つ内容を徹底的に解説します。
この記事を読めば、貴社に最適なメンタルヘルス対策の全体像が明確になり、自信を持ってその第一歩を踏み出せるようになります。
▼そもそもメンタルヘルスとは何か、その基本から知りたい方は、まずこちらの記事をご覧ください。
▼ YouTubeチャンネルでは代表医師の産業医が本音と経験も踏まえて動画で解説!
目次
なぜメンタルヘルス対策は「コスト」ではなく「経営投資」なのか

メンタルヘルス対策が必要な理由は、短期的なコスト以上に、従業員のエンゲージメントや生産性を向上させ、企業の持続的な成長を支える長期的なリターンを生み出す「未来への投資」になりうるためです。
メンタルヘルス対策の導入には費用や手間がかかります。また、実際に取り組みを始めても短期的には効果が見えにくいため、途中で止めてしまう企業もあります。
しかし、働きやすい環境の整備は、従業員のモチベーションの向上に効果があり、長期的には生産性の向上や離職率の低下などにつながります。
対策の視点と概要
| 対策の視点 | 概要 |
|---|---|
| リスク管理 | 放置した場合の経営リスク(生産性低下、人材流出、法的リスク)を回避する。 |
| 価値創造 | 従業員の健康が組織活性化と業績向上に繋がる「健康経営」を実現する。 |
| 未来への投資 | 「人的資本経営」の観点から、企業の持続的成長の土台を築く。 |
参考:経済産業省「企業の「健康経営」ガイドブック(改訂第1版)」(PDF)
従業員の不調が経営に与える3大リスク
対策を怠った場合、企業は深刻なリスクに直面します。
- 生産性の低下: メンタル不調の従業員は、出勤していても集中力や判断力が低下し、本来のパフォーマンスを発揮できません。この見えにくい損失は「プレゼンティーズム」と呼ばれるもので、組織全体の生産性を著しく低下させます。
- 人材の流出: 職場環境の悪化や過度なストレスは、休職や離職に直結します。優秀な人材を失うことは、採用・教育コストの増大だけでなく、企業の競争力そのものを損なうことにつながります。
- 法的・社会的リスク: 安全配慮義務違反による訴訟リスクや、労災認定による企業イメージの低下は、企業の信頼を根底から揺るがしかねません。
これらのリスクは、短期的には従業員の不調の結果によるものには見えないかもしれません。
しかし、長期的には具体的な経営リスクにつながるため、対策が不可欠です。
健康経営がもたらす企業価値向上のメカニズム
「健康経営」とは、従業員の健康増進を重視し、組織の活性化や生産性向上を目指す経営手法です。「健康経営」はメンタルヘルス対策の中核を担います。
従業員が心身ともに健康でいきいきと働ける環境は、従業員満足度(ES:Employee Satisfaction)とエンゲージメントを高めます。
その結果、サービスの質が向上し、顧客満足度(CS:Customer Satisfaction)の向上、さらには業績アップへとつながる好循環がうまれます。
参考:経済産業省「健康経営」
人的資本経営の観点から見た重要性
現代の経営では、従業員を「コスト」ではなく、企業の価値創造の源泉となる「資本」と捉える「人的資本経営」が重視されています。
従業員のメンタルヘルスに投資し、その価値を最大限に引き出すことは、企業の持続的成長と企業価値向上に不可欠な、最も重要な経営戦略の一つと言えるでしょう。
参考:経済産業省「人的資本経営 ~人材の価値を最大限に引き出す」
【4ステップ】メンタルヘルス対策導入の具体的な進め方

メンタルヘルス対策を効果的に進めるためには、場当たり的な対応ではなく、計画的・継続的な取り組みが不可欠です。
厚生労働省の指針を参考に、計画的・継続的に取り組むことが重要です。ここでは、具体的な4つのステップを紹介します。
メンタルヘルス対策の推進ステップ
| ステップ | 主なアクション | 担当部署・関係者 |
|---|---|---|
| STEP1 | 経営層による方針表明、衛生委員会での審議 | 経営層、人事労務 |
| STEP2 | 「心の健康づくり計画」の策定 | 衛生委員会、産業医 |
| STEP3 | 推進体制の構築と役割分担 | 人事労務、管理職 |
| STEP4 | 計画の実行と定期的な評価・改善(PDCA) | 全従業員、推進担当 |
参考:厚生労働省「職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~」(PDF)
STEP1:経営層による方針の表明と衛生委員会での審議
まず最も重要なのは、経営トップが「会社としてメンタルヘルス対策に本気で取り組む」という方針を、社内外に明確に表明することです。
このトップダウンのメッセージが、全社的な協力体制の土台を築きます。その後、衛生委員会などで現状の課題を調査・審議し、具体的な計画策定に進みます。
とくに専門部署や担当者がいない中小企業の場合、この段階で各都道府県に設置されている産業保健総合支援センター(さんぽセンター)などに相談すれば、専門的な助言を無料で受けられるため、計画策定の大きな助けになります。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」
STEP2:「心の健康づくり計画」の策定
STEP1での審議内容に基づき、自社の課題に合わせた中長期的な「心の健康づくり計画」を策定します。
この計画書には、具体的な目標、取り組み内容、推進体制、スケジュールなどを盛り込み、誰が読んでも対策の全体像と具体的なアクションがわかるように明文化しましょう。
STEP3:推進体制の構築と関係者の役割分担
計画を実効性のあるものにするため、推進体制を構築します。
人事労務部門が中心となり、産業医、保健師、各職場の管理監督者など、関係者の役割を明確に分担し、連携体制を整えます。
「4つのケア」(セルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)を参考に、担当者を明確にした上で、することを決定しましょう。
STEP4:計画の実行と定期的な評価・改善
策定した計画に基づき、「4つのケア」を具体的に実行します。
定期的に取り組みの効果を評価し、計画を見直していくPDCAサイクルを回すことが、対策を形骸化させないために不可欠です。
効果的な研修プログラムの企画と内容例【対象者別】

メンタルヘルス対策を組織文化として根付かせるためには、全従業員の知識と意識の向上が不可欠です。
研修の効果を定着させるためには、対象者の役割に応じて研修内容をカスタマイズし、その後の育成計画まで具体化しておくことが大切です。
研修対象別の目的と内容例
| 研修対象 | 目的 | 内容例 |
|---|---|---|
| 一般社員 | セルフケア能力の向上 |
|
| 管理職 | ラインケア能力の向上 |
|
| 経営層 | 健康経営の理解とリーダーシップの発揮 |
|
| 全従業員 | ハラスメント防止 |
|
一般社員向けセルフケア研修の内容
自身のストレスに気づき適切に対処できるスキル(セルフケア)を身につけることを目的とします。
内容例:
- ストレスの仕組み
- ストレスサインのセルフチェック方法
- リラクゼーション法の実践
- 社内外の相談窓口の案内
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管理職向けラインケア研修の内容
部下の不調を早期発見し、適切に対応できるスキル(ラインケア)を身につけることを目的とします。
内容例:
- 管理職の役割と責任範囲
- 部下の不調サインの見抜き方
- 傾聴スキル(ロールプレイング含む)
- 相談後の連携体制
- ハラスメント防止
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経営層向け研修の内容
メンタルヘルス対策の成否は、経営層の理解と強いコミットメントにかかっています。
経営層自身が健康経営の重要性や、対策がもたらす投資対効果(ROI)を深く理解した上で、従業員に向けて自ら発信することが、全社的な取り組みを推進する原動力となります。
内容例:
- 健康経営が企業価値に与える影響
- 安全配慮義務などの法的責任
- 人的資本経営におけるメンタルヘルス対策の位置づけ
- 自社の現状と目指すべき姿の明確化
全従業員向け:ハラスメント防止研修の内容
パワーハラスメントやセクシャルハラスメントは、メンタルヘルス不調の大きな原因です。
すべての従業員を対象としたハラスメント防止研修を定期的に実施し、健全な職場環境を維持することが極めて重要です。
ハラスメント防止研修は、誰もが安心して意見を言える心理的安全性の高い職場風土の醸成につながります。
ストレスチェック制度の活用と職場環境改善へのつなげ方

常時50人以上の労働者を使用する事業場において、年に一度のストレスチェックは、法律で定められた義務であると同時に、職場環境を改善するための貴重なデータソースです。
※従業員50人未満の事業場では努力義務ですが、同様に活用することが推奨されます
ストレスチェックの活用ステップ
| 活用ステップ | 概要 |
|---|---|
| 実施と集団分析 | 全従業員に実施し、部署ごとのストレス傾向を分析する。 |
| 課題の特定 | 分析結果から、高ストレス職場やその原因を客観的に把握する。 |
| 改善活動 | 従業員を巻き込み、具体的な改善策を議論・実行する。 |
ストレスチェック実施から集団分析までの流れ
個人の結果は本人にのみ通知されますが、部署や課といった一定規模の集団ごとのストレス傾向を分析した「集団分析結果」は、企業の財産です。
ストレスチェックテストの集団分析のデータを活用することで、職場のストレス要因を客観的に把握できます。
分析結果から職場の課題を特定する方法
集団分析結果から、「仕事の量的負担が高い部署」「上司の支援が不足しているチーム」といった、具体的な課題が見えてきます。
部署ごとの集団分析の一覧表のデータに基づき、改善の優先順位をつけることで、効果のある対策に集中することができます。
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従業員の主体性を引き出す改善活動の進め方
分析結果を該当部署の従業員にフィードバックし、職場環境改善のためのディスカッション(職場環境改善ワークショップ)を行うことが非常に効果的です。
従業員が主体的に関わることで、より実効性の高い改善策が見いだされやすくなります。
自分たちの考えたアイデアで改善活動を進めることは納得感につながり、職場も活性化します。
メンタルヘルス対策の効果測定(KPI)と形骸化させない仕組み

導入した対策を一過性のもので終わらせず、継続的に改善していくためには、効果測定と形骸化を防ぐ仕組みが不可欠です。
形骸化させない仕組みとポイント
| 形骸化させない仕組み | ポイント |
|---|---|
| KPI設定 | 効果を客観的に評価するための指標を設定し、定点観測する。 |
| 風土づくり | 相談しやすい雰囲気や心理的安全性を醸成する。 |
| 外部リソース活用 | EAPなどの専門機関を活用し、客観性と専門性を担保する。 |
設定すべきKPIの具体例
まず、対策の効果を客観的に評価するために、KPI(重要業績評価指標)を設定します。
KPI例:
- メンタルヘルス不調による休職率・離職率
- ストレスチェックの高ストレス者率
- 従業員満足度調査のスコア
- 相談窓口の利用率
- 時間外労働時間
これらの指標を定期的に測定し、改善の度合いを可視化します。
例えば、あるIT企業ではストレスチェックの高ストレス者率をKPIとし、翌年度までに5%低下することも目標にしました。
目標どおりにKPIを改善するために、管理職向けのラインケア研修や全従業員向けのセルフケア研修を徹底したところ、1年後には高ストレス者率が5%以上低下するという具体的な成果につながった事例もあります。
相談しやすい風土づくりの重要性
どれだけ立派な制度を作っても、従業員が「相談したら不利益を被るかもしれない」と感じていては利用されません。
経営層が率先してメンタルヘルスの重要性を発信し、管理職が部下の話に耳を傾ける姿勢を示すなど、心理的安全性の高い組織風土を醸成することが何よりも重要です。
外部EAP(従業員支援プログラム)の活用メリット
外部EAPは、個人が特定されない形で相談内容の傾向を統計的に分析し、「特定の部署でストレス要因が高い」といった組織全体の課題を可視化して報告します。
組織の課題が見えることで、企業は自社の具体的な問題領域を特定し、研修の実施や制度の見直しといった的確な対策を講じることが可能です。
また、専門的なカウンセリングや研修をアウトソーシングすることで、人事担当者の負担を軽減し、より質の高いサポートを従業員に提供できます。
参考:厚生労働省「EAP:用語解説|こころの耳:働く人のメンタルヘルス」
まとめ:メンタルヘルス対策は、企業の未来を築く「最重要の経営戦略」
従業員の心の健康は、企業の最も大切な資本です。メンタルヘルス対策に戦略的に取り組むことは、リスクを回避する「守りの一手」であると同時に、生産性と創造性を高め、企業を成長軌道に乗せるための「攻めの一手」でもあります。
まずは、この記事でご紹介した4つのステップを参考に、貴社の現状把握から始めてみてはいかがでしょうか。
合同会社SUGARでは、経営課題の解決が企業の生産性と従業員の働きがいに直結すると考え、貴社の困りごとを深く理解し、メンタルヘルス対策の導入支援や、健康経営の実現に向けたコンサルティングを行っております。
「何から始めればいいかわからない」「対策を形骸化させたくない」といったお悩みをお持ちの際は、ぜひお気軽にご相談ください。
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メンタルヘルス対策の予算は、どれくらいが相場ですか?
予算の相場は、企業の規模や実施する施策の内容によって大きく異なります。例えば、ストレスチェックの実施だけであれば比較的低コストですが、全社的な研修や外部EAP(従業員支援プログラム)の導入となると数百万円以上になることもあります。重要なのは、まず自社の課題を特定し、スモールスタートで始めることです。費用対効果を検証しながら、段階的に投資を拡大していくアプローチをお勧めします。
中小企業で、専門の人事担当者がいなくても対策は可能ですか?
はい、可能です。中小企業こそ、従業員一人ひとりの健康が経営に与える影響が大きいため、対策は重要です。専門の担当者がいない場合、まずは経営者自身がリーダーシップを発揮し、地域の産業保健総合支援センター(産保センター)など公的機関の無料相談を活用したり、比較的安価に導入できるオンラインのEAPサービスを利用したりするのが現実的です。できることから始めることが大切です。
外部のEAP(従業員支援プログラム)を導入する際の選び方のポイントは何ですか?
EAPを選ぶ際のポイントは3つあります。1つ目は「実績と専門性」。自社の業種や課題に合った実績が豊富かを確認します。2つ目は「サービスの範囲」。カウンセリングだけでなく、管理職向けのコンサルティングや研修、ストレスチェック後の職場環境改善支援まで、幅広いサービスを提供しているかが重要です。3つ目は「利用しやすさ」。従業員が匿名性を保ちつつ、オンラインなどで気軽にアクセスできるかを確認しましょう。
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