ジョブコーチ(職場適応援助者)とは?障害者雇用支援の流れも解説
多様性に富んだ職場では、障害がある人もない人も同じように、個々の強みを生かした企業活動が行われています。一方で、障害者雇用の経験が少ない職場では、雇用をする側、される側ともに、悩みや不安を抱えてしまっていることでしょう。
障害者雇用を推進し、障害者が長く働けるよう支援を行うジョブコーチという専門職が存在します。ジョブコーチ支援を利用した人の職場定着率(支援終了後6カ月時点で働いている人の数値)は、2022年度で90%を超える数値です。
本記事では、障害者雇用の支援の流れにもふれながら、ジョブコーチについて解説します。
参考:独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(以下JEED)「令和4年度業務実績等報告書」(PDF)p34
ジョブコーチ(職場適応援助者)とは?
ジョブコーチとは、職場適応援助者ともいわれ、障害者が職場に適応できるよう援助を行う専門職です。1986年にアメリカで援助付き雇用(Supported Employment)として法制化され、日本では2002年に事業が開始されています。
ここでは、ジョブコーチの役割や根拠となる法律について解説しましょう。
参考:障害保健福祉研究情報システム(DINF)「ジョブコーチ(job coach)」
ジョブコーチの役割
実際に障害者が働いている企業の現場で、それぞれの障害特性をふまえた支援を行うのがジョブコーチです。支援の対象は、障害者とその家族だけでなく、企業の雇用に関わる方々や、現場で一緒に働く人たちも含みます。
障害者に対する支援は、直接的な作業支援に加え、コミュニケーションや働くうえで必要となるマナーに関する支援を行います。他に行う支援は、体調や生活リズムといった生活面の支援や、不安なことや心配なことがないかといった相談などです。
企業に対しては、個々の障害特性を説明し、障害者との関わり方や指導方法などについて、専門的な立場から助言を行います。最終的にジョブコーチがいなくても、上司や同僚の支援で完結できるよう、ナチュラルサポートを目指した支援を行うのがジョブコーチ支援です。
参考:厚生労働省「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」
ジョブコーチの根拠法
日本では、ジョブコーチは職場適応援助者という用語を使い、障害者雇用促進法の第20条第3項で次のように定義されています。(障害者雇用促進法:障害者の雇用の促進等に関する法律)
職場適応援助者(身体障害者、知的障害者、精神障害者その他厚生労働省令で定める障害者が職場に適応することを容易にするための援助を行う者をいう)
引用:e-GOV「障害者の雇用の促進等に関する法律」より(一部抜粋)
上記の定義には、発達障害や高次脳機能障害も含まれます。障害者手帳を持っていなくても、ジョブコーチ支援を受けられることがあるのが、うつ病などで休職中の場合などです。各障害の定義など詳しい情報は、JEEDのページにてご確認ください。
参考:JEED「障害者雇用関係のご質問と回答」
ジョブコーチの3つの種類
ジョブコーチが所属している組織によって、3つの種類にジョブコーチを分けることができます。名称もそれぞれ異なり、ジョブコーチの立場や、求められる役割が変わってくることがわかるでしょう。
ジョブコーチの3つの名称を理解しておくと、ジョブコーチについての情報を調べる場合に役立ちます。
配置型ジョブコーチ
各都道府県に設置されている地域障害者職業センターで配置(雇用)されているジョブコーチです。同じく障害者職業センターに配置されている障害者職業カウンセラーの指導を得ながら、専門性の高い支援を行います。
就職困難度が高い障害者や事業主を重点的に支援するのが、障害者職業センターのジョブコーチです。訪問型や企業在籍型のジョブコーチとも連携し、より効率的で効果的な支援が行われるように、必要な助言や援助を行います。
訪問型ジョブコーチ
障害者の就労支援を行っている法人などで雇用されているジョブコーチです。就労移行支援事業所や就労定着支援事業所、障害者就業・生活支援センターの利用者などを支援します。
企業を訪問して、企業外の立場から行う支援です。訪問型ジョブコーチを雇用する法人には、活動実績に応じ、訪問型職場適応援助者助成金が支給されます。
ジョブコーチ支援の支援期間やフォローアップ期間が進むにつれ、訪問頻度が少なくなっていきます。障害福祉サービスの専門性が高く、関係機関との連携や、生活面の支援を行いやすいのが強みです。
企業在籍型ジョブコーチ
企業在籍型ジョブコーチは、障害者が働く企業で雇用されています。所属部門は、障害者と同じ現場であったり、人事や経営部門などの間接部門であったり、さまざまです。
同じ企業に在籍する立場から、経営層や現場の上司、同僚に対して、障害者に対する理解を求めたり、環境調整を行ったりします。ジョブコーチ支援期間やフォローアップ期間に関係なく、継続した支援を即座に行えることが強みです。
参考:厚生労働省「職場適応援助者(ジョブコーチ)支援事業について」
ジョブコーチ支援の流れ
ここまでジョブコーチについての定義や種類について説明してきました。「専門職がいるのであれば、自社もジョブコーチを使いたい」と思った人もいるでしょう。
「障害者を雇いたいが、企業に知識や理解がない」「休職している人の職場復帰が心配」と悩んでいる人もいるかもしれません。
ここからは、ジョブコーチを活用した、障害者雇用の支援の流れについて詳しく解説していきます。
ジョブコーチ支援を利用するには
ジョブコーチ支援を利用したい場合に問い合わせるのが、地域障害者職業センターです。地域障害者職業センターは、東京障害者職業センター、宮城障害者職業センターという名称で各都道府県に開設されています。
最寄りのハローワークや、障害福祉サービスの就労支援機関から取り次いでもらうことも可能です。
依頼を受けた障害者職業センターは、障害者と勤務する事業主の双方に、ジョブコーチ支援の希望を確認します。希望が確認された後、支援内容についての話し合いと、支援計画の策定が行われ、内容に同意が得られれば支援の開始です。
ジョブコーチ支援
ジョブコーチ支援は、ジョブコーチ支援計画の内容に基づいて行われます。実際の現場にジョブコーチが訪問し、行う支援は、具体的な作業の仕方や手順書の作成です。
現場訪問が難しい場合には、会議室などで定期的な面談を行い、助言や相談を行います。
障害者だけでなく、企業で関係する上司や同僚、人事関係者ともやりとりを行うのがジョブコーチです。当初は障害者と企業の橋渡し役となりますが、最終的には、上司や同僚が自然に関われるナチュラルサポートを目指します。
ジョブコーチ支援の期間
ジョブコーチ支援の期間は、ジョブコーチ支援計画によって策定されます。1カ月から8カ月の間で支援することができますが、2カ月から4カ月の間となることが多いです。
雇用する前(実習時)や、雇用と同時(入社時)、雇用した後(復職支援や再支援)、いずれのタイミングでも開始できます。
支援を開始した最初の数週間は集中支援期と呼ばれ、支援の日数は週に3日から4日です。その後、支援の主体を職場のキーパーソンに移行する移行支援期となり、徐々に訪問頻度を減らしていきます。
ジョブコーチ支援が終わった後も、フォローアップ期間が定められており、数週間や数カ月に一度の頻度で経過をみます。
企業在籍型ジョブコーチについては、同じ企業で働いているため、上記期間にしばられることなく支援することが可能となるでしょう。(ただし助成金の支給には制限があります)。
ジョブコーチ支援の費用
ジョブコーチ支援はすべて無料です。
用具の購入やレイアウト変更など、職場環境を調整するために費用が発生することがあります。助成金を活用することで、障害者雇用を行うことで発生する一時的な経済的負担が軽減できるでしょう。(条件など詳細はJEEDのページをご確認ください)
参考:厚生労働省「『職場適応援助者(ジョブコーチ)支援』を活用しましょう!」(PDF)
参考:JEED「助成金」
まとめ:ジョブコーチとは、ナチュラルサポートを目指す人
障害がある人もない人も同じように、自然な関わりができる職場は、多様性あふれる共生社会を実現している職場といえます。
障害者も企業もお互いのことを理解して安心することで、自然な関わりができるようになり、障害者も本来持っている強みが発揮できるようになるかもしれません。
ジョブコーチは、ナチュラルサポートを職場にもたらすことができる人といえるでしょう。
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