発達障害の傾向がある社員のマネジメント方法とは?
「発達障害」という言葉を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。職場にうまくなじめなかったり、業務を適切にこなせなかったりして、仕事において何らかの不適応を抱える原因となるものです。
また、うつ症状や不眠、パニック発作などの精神症状の背景には、発達障害の問題が隠れている場合があります。職場のメンタルヘルスを考えるうえでも重要なポイントといえるでしょう。
しかし、発達障害の傾向がある社員に対して、どのようなサポートを行えばよいのかわからない人も少なくないでしょう。本記事では、発達障害にみられる特徴と、その傾向がある社員に対するマネジメント方法について解説します。
業務での困りごとが、どのような特徴から生じているのかを理解し、適切なフォローを行うための参考にしてください。
発達障害の4つの種類とは?
発達障害とは、脳機能の発達に偏りがあり、日常生活や仕事において支障をきたしている状態です。子どものころからみられる発達のアンバランスさにより、得意な分野では力を発揮できる一方、特定の分野は苦手という特徴があります。
職場でみられやすい発達障害は、以下の4つです。それぞれの特徴について解説します。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 限局性学習症(SLD)
- 発達性協調運動症(DCD)
1.自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)とは、コミュニケーションの困難さや柔軟な対応が苦手といった特徴をもつ発達障害の一つです。職場や学校の集団生活にうまく適応できず、うつ症状や不眠の問題を抱えやすいことが特徴です。
以前は、アスペルガー症候群や自閉症と呼ばれていた障がいであり、現在は自閉スペクトラム症(ASD)にまとめられました。コミュニケーションの問題と反復的なこだわりという2つの特徴が代表的です。
特徴①:コミュニケーションの問題
ほかの人と会話を通してやり取りをしたり、感情を共有したりすることに困難が生じやすいのが特徴の一つです。たとえば、話すタイミングがわからず、一方的に話し過ぎてしまったり、逆に話せなかったりすることがあるでしょう。
また、アイコンタクトやジェスチャーなどの非言語的なコミュニケーションも特徴的です。目線が合いにくかったり、抑揚がなく話したりする様子から、周囲には冷たい印象を与えてしまう可能性があります。
さらに、相手の気持ちや意図を「なんとなく察する」ことが苦手で、状況や空気を読んで行動するのが難しいことも多いでしょう。その場に合わない言動を取ってしまい、トラブルの原因になる場合もあります。
【具体例】
- 相手が忙しいかどうか関係なく、一方的に質問する
- 表情が堅く、目線が合いにくい
- 周りからは、冷たく事務的な対応をしているように感じられる
特徴②:反復的なこだわり
特定のものごとにこだわりが強く、柔軟な対応が難しいことも特徴の一つです。こだわりを持つものごとへの集中力は高いものの、注意を柔軟に切り替えられず支障をきたす場合があります。たとえば、手順にこだわりがあると、急な予定変更に混乱しやすいでしょう。
また、感覚の感じ方がほかの人と異なる感覚過敏・感覚鈍麻がみられることもあります。音や話し声に敏感な聴覚過敏、光や刺激色に影響されやすい視覚過敏など、特定の刺激があると疲れてしまう傾向がみられます。
【具体例】
- 「マニュアルにないのでできない」と融通が利かない対応をしてしまう
- 雑談や空調、キーボードをたたく音が気になる
- 蛍光灯やPCのディスプレイなどまぶしく感じる
2.注意欠如・多動症(ADHD)
注意欠如・多動症(ADHD)とは、注意力の問題や落ち着きのなさを中心とする発達障害の一つです。一つのものごとに集中しにくい不注意傾向と、落ち着きのなさや突発的な行動がみられる多動性、衝動性という症状がみられます。
特徴①:集中力が続かない
集中力が続かないことが注意欠如・多動症の症状の一つです。作業中にほかの刺激にとらわれたり、考え事にふけったりすることで、うまく集中を保てないことがあります。
また、目標のために順序だてて行動することが難しく、優先順位をつけるのが苦手なことも特徴です。そのため、締め切りに間に合わなかったり、必要な工程を飛ばしたまま忘れてしまったりする支障が生じやすいでしょう。
【具体例】
- 大事な書類の提出期限を守れない
- 誤字脱字や計算ミスが多い
- 整理整頓が苦手で忘れ物が多い
特徴②:落ち着きがなく衝動的
そわそわと手足を動かしたり、じっと座っていられないといった落ち着きのなさも特徴の一つです。行動だけでなく、頭の中の思考が活発になるというように、表面化しない落ち着きのなさもあります。
また、思ったことをすぐに口に出すという衝動的なところも特徴的です。目先の利益に目がいきやすく、短絡的な行動をとることがあります。そのため、深く考えずに安請け合いをしてしまい、後々トラブルとなり信頼を失う問題が起こりやすいでしょう。
【具体例】
- 頭の中が考え事でいっぱい
- カッとなるとすぐ言い返してしまう
- 後先考えずに伝えてしまう
3.限局性学習症(SLD)
知的な問題がないにもかかわらず、読み書きや計算などの学習に必要な能力を習得できず、困難さを抱えた状態です。限局性学習症は、以下の3つの障がいが代表的です。
- 読字障害:文字や行を読み飛ばし、形の似た文字の判別がしにくいなど、字を読むことへの困難さ
- 書字表出障害:文字を覚えることが苦手で、誤字脱字が多いというような書字に関する困難さ
- 算数障害:計算や図形の認識、時計を読むのが苦手
多くは学校生活で授業についていけないことで不適応を起こすため、子どもにみられる発達障害だと思われがちです。しかし、社会に出てからも、文字の読み書き、計算などの能力は必要不可欠なため、以下のような支障が生じる恐れがあります。
【具体例】
- 口頭での指示を聞き取れない
- 言われたことをうまく処理できないため、電話対応が苦手
- マニュアルを正しく理解できない
4.発達性協調運動症(DCD)
全身や手足などの運動面において不器用さがみられる発達障害の一つです。とくに、身体の複数の部位を連動させて動かす協調運動が苦手なことが特徴です。
ボールをキャッチするためには、ボールを目で追いながら、手を出してつかむ必要があります。目と手の動きをうまく連動させることでボールをキャッチできるのです。しかし、発達性協調運動症では、ボールをうまく追えずに違う場所へ手を出して、うまくつかめない場合があります。
仕事においても、車の運転や事務作業などでは協調運動や手先を使った動作が求められます。周囲よりも作業の効率が悪かったり、ミスが多かったりして、作業の生産性に影響しやすいでしょう。
【具体例】
- PCのタイピングが遅い(目と手の連動の苦手さ)
- 紙を枚数通り数えるのが苦手
- 車の運転が苦手
発達障害を理解する3つのポイント
発達障害には4つの種類があり、症状や問題も人それぞれだといえます。働く上で、発達障害の問題はどのように出てくることが多いのでしょうか。発達障害の問題を理解するための3つのポイントを紹介します。
ポイント①:最初はうつや不眠が目立ちやすい
発達障害の傾向があると、職場や仕事にうまくなじめず、ストレスからうつや不眠などの二次障害が生じることがあります。発達障害の特徴よりも、「遅刻や欠勤が増えた」「眠れていない」といった二次障害の方が周囲からすると気づきやすいでしょう。
発達障害に合併する精神症状として多いのは、うつ病や不眠症、パニック障害です。とくに、ADHDでは、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)や睡眠時無呼吸症候群などの睡眠障害を合併しやすい傾向があります。日中の過度な眠気が生じている場合は注意が必要です。
参考:令和元年度厚生労働科学研究費補助金 障害者対策総合研究事業「成人の発達障害に合併する精神及び身体症状・疾患に関する研究」(PDF)
ポイント②:発達障害は重複するケースが多い
発達障害は、4つの種類のそれぞれが重複してみられることが多いのが特徴です。弘前大学が行った調査では、5歳時点での発達障害の合併率は以下のように示されています。
- ASD+ADHD:40%
- ASD+DCD:36%
- ASD+ADHD+DCD:25%
上記のように、発達障害の併存率は高いといえます。そのため、発達障害によって引き起こされている問題は、複数の特性が重なっている場合が多いでしょう。
また、2013年に精神疾患に関する国際的な診断基準であるDSMが改訂され、併存率が高くなっている背景もあります。改定前のDSMでは、ASDとADHDの併存は認められませんでしたが、現在のDSM-5では、併存診断が可能です。
併存診断がなされることで、複数の発達障害の特徴をもつことを周囲に説明しやすくなるでしょう。サポートするときには、一つの特性だけでなく、複数の特性を配慮した方法を考えることが重要です。
参考:弘前大学「5歳における自閉スペクトラム症の有病率は推定3%以上であることを解明 ~地域の全5歳児に対する疫学調査を毎年実施~」(PDF)
ポイント③:社会人になってから顕在化することもある
発達障害は、生まれつきの問題であり、幼少期から特性があらわれることが診断基準の一つとなっています。しかし、幼少期は学校では目立たず、社会に出てから顕在化するケースもあります。
たとえば、学校では授業時間が決まっており、目的が明確な宿題があるなど、正解がはっきりしていることが多いでしょう。一方、社会に出ると、その場の状況に合わせて正解を探していく必要があります。
ASDの傾向が強いと、正解がはっきりとした環境では力を発揮できますが、答えが曖昧な状況ではなじめないことがあります。そして、社会に出るとうまく適応できず、抑うつや不眠などのメンタルヘルス不調に陥ってしまうのです。
発達障害の特徴が顕在化するかどうかは、環境によって左右されます。幼少期にとくに問題がみられなかった場合でも、仕事に就くと問題が生じることもあるため、注意が必要です。
発達障害の社員へのマネジメント方法
発達障害の特徴は、特定のものごとに対して高い集中力や表現力を発揮できる一方で、仕事において支障をきたすことがあります。発達障害の傾向をもつ社員に対してどのように関われば、企業や社員にとって有益なのでしょうか。
方法①:障がいではなく困りごとをサポートする
発達障害そのものに対してではなく、社員本人の困りごとに焦点を当てたサポートが重要です。発達障害はそれぞれの障がいが重複して生じていることが多いため、一つの困りごとに対しても、複数の要因が絡んでいることがあります。
たとえば、「そわそわして座っていられない」という困りごとは、ADHDの多動性だけでなく、ASDの感覚過敏があるかもしれません。「じっとできないからADHD」と決めつけてしまうと、的外れなサポートになったり、本人の反発を招いたりする可能性があります。
複数の可能性を考慮しながら、本人の希望を丁寧に聞き、どうすれば負担なく働けるかを考えるとよいでしょう。
方法②:業務指示や作業フローを工夫する
発達障害の特性に配慮して、業務指示の方法や作業フローを工夫するとよいでしょう。以下のような困りごとが生じる場合、次のように対応することが有効です。
【指示が伝わりにくい場合】
- 曖昧な表現を避ける:「だいたい」「適当に」などの曖昧な指示では人により基準が異なる。「何を」「いつまでに」「どのように」行うのかを具体的に伝えるとよい。
- 視覚化する:スケジュールや重要な予定はホワイトボードに記入し、メンバーに共有する。
- 指示系統を統一する:同じことを伝えたつもりでも、指示する人により微妙に表現が異なることがある。担当者を決めて指示を出すか、複数人で指示するときはマニュアルで共有する。
【締め切りに間に合わない、進捗状況が悪いなどの作業に支障がある場合】
- スケジュールへの対応:優先順位を明確に示したり、一緒に整理したりしてスケジュールを組む。
- 予定変更は早めに伝える:突然変更があると慌ててしまうかもしれないので、事前に伝えておく。
- 集中できる環境を整える:不注意や感覚過敏への対処として刺激の少ない環境にする。希望に応じて、パーテーションの設置、サングラス、イヤーマフの着用許可などの配慮を行う。
方法③:心理的なフォローを行う
発達障害の特徴を持つ社員に対しては、心理的なフォローも大切です。考え方が極端になりやすく、「完璧にこなさないといけない」というように自分を追い込んでしまうことがあるからです。多少の失敗は大丈夫だと伝えておくと、過度なプレッシャーを感じずにいられるでしょう。
また、できていることは「できている」ときちんと言語化して本人に伝える方がよいといえます。一般的には、できていることを改めてフィードバックすることは少ないでしょう。しかし、何も言われないと「できていないのでは」と不安に感じてしまうかもしれません。
さらに、質問するタイミングがわからず、自発的な声掛けが難しい場合もあるでしょう。朝礼時に質問してもらうようにするなど、質問できるタイミングをルーティン化しておくことがおすすめです。
まとめ:発達障害のサポートは業務効率化のために行うもの
発達障害の傾向をもつ社員をサポートするには、一人ひとりの個性に合わせた配慮が効果的です。発達障害ではない「定型発達」である人たちも、多数派であるからこそ「定型」とされているに過ぎません。
「発達障害だから」と決めつけるのではなく、多様性の1つとして捉え、本人の困りごとの解決策を考える姿勢が大切だといえます。
しかし、個性に合わせたサポートは労力がかかり、ほかの社員の負担が増大してしまうかもしれません。業務効率化のために配慮を行うという認識を持ち、サポートする目的をチーム内で共有しておくことが重要です。