ライフイベントによるストレス│セルフチェックと原因、対処法を解説

この記事のポイント
- ポジティブな出来事もストレスの原因になる理由と、ストレスレベルを客観的に測定する方法がわかります。
- 個人が今日から実践できる具体的なストレス対処法(セルフケア)を、ステップバイステップで学べます。
- 企業(人事・管理職)に求められる法的義務や、ストレスチェック制度を形骸化させないための運用方法が理解できます。
結婚や昇進といった喜ばしい転機にもかかわらず、「原因不明の疲れ」や「イライラ」を感じていませんか。
あるいは、人事担当者として従業員のメンタルヘルス不調に、管理職として部下の変化に、どう対応すべきか悩んでいないでしょうか。
ライフイベントがもたらすストレスは、個人の問題だけでなく、組織全体の生産性にも関わる重要な課題です。
この記事では、医師・臨床心理士・中小企業診断士・労働衛生コンサルタントの監修のもと、「ライフイベントがもたらすストレス」の正体から解説します。
個人でできる具体的な対処法、そして企業に求められる組織的な対策までを網羅的に知ることができます。
読み終える頃には、漠然とした不安が、具体的で実行可能な知識へと変わっているでしょう。
▼ YouTubeチャンネルでは動画による解説を発信中!
目次
ライフイベントのストレスとは?嬉しい出来事も原因になる理由

ライフイベントのストレスとは、結婚や転職といった人生の転機がきっかけで生じる、心と体への反応のことです。
重要なのは、昇進のような一般的に「喜ばしい」とされる出来事も、大きなストレスの原因になり得るという点です。
ライフイベントによるストレスの定義
ライフイベントによるストレスとは、人生で起こるさまざまな変化に対し、私たちの心身が適応しようとする際に生じる心理的・身体的な負荷を指します。
私たちの心と身体は、良くも悪くも安定した状態を保とうとする性質があります。
しかし、ライフイベントによって生活環境が大きく変わると、その新しい状況に慣れるために多くのエネルギーを消費します。
この「再適応」の過程で心身に負荷がかかり、ストレスとして現れるのです。
なぜポジティブな変化もストレスになるのか?
ポジティブな出来事であってもストレスになるのは、私たちの心身が環境の「変化」そのものに適応しようとエネルギーを消費するためです。
心理学者ホームズとレイが提唱した「社会的再適応評価尺度(SRRS)」という研究があります。
この研究では、結婚や昇進といった喜ばしいライフイベントでさえ、高いストレス値を示すことが報告されています。
変化の種類がポジティブかネガティブかにかかわらず、「適応し直す」という行為そのものがエネルギーを要するのです。
あなたのストレスレベルは?社会的再適応評価尺度でセルフチェック

現在のストレスレベルがどの程度か、客観的な指標で把握することが、適切な対処への第一歩です。
日本の生活実態に合わせて調整された「社会的再適応評価尺度」を用いて、誰でも簡単にできるセルフチェックの方法を紹介します。
【チェックリスト】過去1年間のライフイベントとストレス点数一覧
以下の表で、過去1年間に経験した出来事をチェックし、該当する点数(LCU: Life Change Unit)を合計してみてください。
ライフイベント ストレスチェック
過去1年間に経験した出来事をチェックして、現在のストレスレベルを把握しましょう。
あなたのストレススコア
過去1年間で経験した出来事にチェックを入れてください。
出典:Holmes, T. H., & Rahe, R. H. (1967). を元に一部改変
ストレスの蓄積がもたらす心身への影響と危険なサイン
合計点数から、ご自身のストレスレベルが将来の健康に与える影響の可能性を大まかに把握できます。
- 150点未満: 低ストレス状態(Low stress)
- 150点~299点: 中ストレス状態(Medium stress)
- 300点以上: 高ストレス状態(High stress)
【点数解釈における注意点】
この尺度が開発された1960年代の研究では、点数が高いグループほど翌年に健康上の変化を報告するという統計的な相関関係が見られました。
しかし、これは「点数が高いから病気になる」という直接的な因果関係を示すものではありません。 また、現代の医療や社会環境とは異なる時代の研究である点も考慮が必要です。
例えば、現代社会で多くの人が直面するSNSでの人間関係、仕事と介護の両立、不妊治療といったストレス要因はこの尺度には含まれていません。
あくまで自身のストレス状況を客観視し、セルフケアを始めるきっかけとして活用するための目安です。点数が高いからといって、過度に不安になる必要はありません。
点数にかかわらず、ストレスを放置すると心身にさまざまなな不調(症状)のサインが現れる可能性があります。
- 心理面のサイン:イライラ、気分の落ち込み、不安、集中力の低下
- 身体面のサイン:不眠、頭痛、肩こり、食欲不振、胃痛、動悸
- 行動面のサイン:仕事でのミス増加、飲酒や喫煙量の増加、遅刻・欠勤
以上のサインは、心と身体が発している危険信号です。
放置してしまうと、適応障害やうつ病といった精神疾患につながるリスクもあるため、早期の対処が重要になります。
【個人向け】今日からできるライフイベント ストレスの効果的な対処法

ストレスに気づいたら、自分自身でケア(セルフケア)を行うことが大切です。
誰でも今日から実践できるストレスへの効果的な対処法を、具体的なステップで解説します。
特別なツールや専門的な知識は不要ですので、ぜひ試してみてください。
ストレスマネジメントのステップ
| ステップ | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| ステップ1 | ストレスの原因を整理する | 漠然とした不安の正体を客観的に把握する |
| ステップ2 | 状況に合わせて対処法を実践する | ストレスへの対応力を高め、回復を促す |
| ステップ3 | 専門家への相談を検討する | 独力での解決が困難な場合に、適切な支援を得る |
ステップ1:ストレスの原因を整理する「3コラム式ストレス日記」
まずは、何がストレスの原因になっているのかを客観的に把握しましょう。
「3コラム式ストレス日記」は、頭の中を整理するための簡単な手法です。
ノートに「出来事」「感情(10点満点で評価)」「考えたこと」の3つの欄を作り、ストレスを感じたときに書き出します。
3つの視点で記録することで、漠然とした不安の正体を突き止め、自分でコントロールできる問題と、そうでない問題とを冷静に区別できるようになります。
▼合わせて読みたい
ステップ2:状況に合わせて対処法を実践する「コーピング」
コーピングとは、ストレスの原因(ストレッサー)にうまく対処しようとするための行動や考え方のことです。
ストレスの原因や状況に合わせて、さまざまなコーピングを使い分けることが効果的です。
自分に合ったコーピングのレパートリーを増やすことが、ストレスへの対応力を高める鍵です。
| コーピングの種類 | 内容 | 具体例 |
|---|---|---|
| 問題焦点型 | ストレスの原因そのものに働きかけて解決を目指す | 上司とのトラブルに対し、人事部に相談する |
| 情動焦点型 | ストレスによって生じた感情を和らげる | 友人に愚痴を聞いてもらう、カラオケで歌う |
| 認知的再評価型 | 出来事の捉え方を変えて、ストレスを軽減する | 「失敗は成長の機会」と考える |
| 社会的支援探索型 | 他者に助けや情報を求める | 経験豊富な先輩にアドバイスを求める |
| リラクゼーション型 | 心身をリラックスさせる | 入浴、ストレッチ、音楽を聴く |
とくに、近親者の死のように原因そのものを取り除くことが困難な場合は、「問題焦点型」コーピングは有効に機能しません。以下のように、そのほかのコーピングを用いて適切に対処することが大切です。
- 信頼できる人に話を聞いてもらう(情動焦点型)
- 趣味に没頭する(リラクゼーション型)
- 「この経験から学べることもあるはずだ」と捉え直す(認知的再評価型)
セルフケアを実践する上での注意点と専門家への相談タイミング
セルフケアを行う上で、アルコールに頼ったり、問題を先延ばしにしたりするのは逆効果です。
一時的な気晴らしにはなっても、根本的な解決にはつながりません。
もし、セルフケアを2週間続けても気分の落ち込みや睡眠の不調といった症状が改善しない場合は、一人で抱え込まずに専門家へ相談することを検討しましょう。
地域の精神保健福祉センターのほか、国や地方自治体、またはその委託・補助を受けたNPO法人などが運営する、以下のような公的な相談窓口を利用するのも一つの方法です。
| 窓口名 | 電話番号 | 誰が相談に乗ってくれるか |
|---|---|---|
| よりそいホットライン | 0120-279-338 | 専門の研修を受けた相談員 |
| こころの健康相談統一ダイヤル | 0570-064-556 | 精神保健福祉センターなどの公的機関の職員や、委託された民間団体の相談員 |
【法人向け】企業に求められるメンタルヘルス対策と法的義務

従業員のメンタルヘルスを守ることは、いまや企業の社会的責任であると同時に、法的義務でもあります。
労働契約法第5条では、企業は従業員が安全かつ健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」を負うと定められています。
具体的な法律で定められた義務から実効性のある対策を推進するための体制構築まで、企業が取り組むべきメンタルヘルス対策の全体像を解説します。
| 取り組み | 主な内容 | 関連部署 |
|---|---|---|
| ストレスチェック制度の実施 | 法的義務の遵守、職場環境の課題把握 | 人事・総務、衛生委員会 |
| 体制構築とPDCAサイクル | 経営層の関与、継続的な改善活動 | 経営層、人事、産業医 |
| ラインケアの実践 | 管理職による部下の日常的なケアと早期対応 | 全管理職、人事 |
企業の義務「ストレスチェック制度」とは?目的と全体像
ストレスチェック制度とは、労働安全衛生法第66条の10に基づき、常時50人以上の労働者を使用する事業場に年1回の実施が義務付けられている制度です。
単なる法令遵守ではなく、メンタルヘルス不調の予防(一次予防)や職場環境改善を目的として行うものです。具体的には以下の目的で行います。
- 一次予防: 従業員自身がストレスに気づくよう促し、メンタルヘルス不調を未然に防ぐ
- 職場環境改善: 検査結果の集団分析を通じ、職場全体のストレス要因を特定・改善する
定期的に行うことで、新入社員や新任管理職など環境の変化があった従業員が自身のストレスに気づくきっかけになります。
形骸化させないための体制構築と運用PDCAサイクル
ストレスチェック制度を形骸化させず、実効性のあるものにするためには、経営層の強いコミットメントのもと、PDCAサイクルを回すことが不可欠です。
- Plan(計画):経営層がメンタルヘルス方針を表明し、衛生委員会などで推進体制を構築します。
- Do(実行):ストレスチェックを実施し、高ストレス者には産業医による面接指導を行います。
- Check(評価):部署やチームごとのストレス状況を集団分析し、産業医などから意見を聴取します。
- Act(改善):分析結果に基づき、具体的な職場環境の改善計画を立て、実行に移します。
以上のサイクルを継続的に回すことが、働きやすい職場環境の実現につながります。
ストレスチェック実施後の企業の対応については、以下の関連記事もご覧ください。
▼あわせて読みたい
管理職が実践すべき「ラインケア」の基本|部下のサインに気づき対応する方法
ラインケアとは、管理職が部下の心身の健康をケアすることで、厚生労働省が推奨するメンタルヘルスケアの一つです。
ラインケアで重要なのは、部下の「いつもと違う」というサインに早期に気づくことです。
<観察のポイント>
- 無断での遅刻や欠勤が増えた
- 報告や相談がなくなった
- 単純なミスが目立つようになった
特に、「プロジェクトリーダーを任された」などの役割の変化や、結婚や転居、パートナーとの別れなどプライベートの変化の有無も加味して観察しましょう。
もしサインに気づいたら、まずは業務に支障が出ている点を指摘し、話を聞く姿勢を示します。
その際、原因を追及したり安易に励ましたりするのは避けるべきです。
基本は「傾聴」に徹し、部下が安心して話せる場を作ることが求められます。
対応に迷う場合は、一人で抱え込まず、以下の流れで人事部門や産業医と連携することが重要です。
- 情報提供と相談の推奨:社内に相談窓口(人事、産業医面談など)があることを伝え、部下自身の意思で相談するように促します。
- 本人の同意を得て連携:部下の同意を得た上で、管理職から人事部門や産業医に「業務上の配慮が必要な従業員がいる」と情報提供し、今後の対応について助言を求めます。 ※決して本人の同意なく、個人の心身の状態に関する情報を第三者に伝えてはいけません。
▼合わせて読みたい
【多様なケース別】ライフイベント ストレスへの応用アプローチ

働き方や価値観が多様化する現代において、メンタルヘルス対策も画一的なものではなく、個別の状況に合わせたアプローチが求められます。
特に注意が必要な3つのケースを取り上げます。ライフイベントによるストレスとの関連や具体的な対応策を解説します。
「リモートワーク環境」における特有のストレスと対策
リモートワークは利便性が高い一方、新たなストレス要因も生み出します。
主な課題は、雑談などの機会が減ることによる「コミュニケーション不足」や「孤独感」、そして仕事とプライベートの境界が曖昧になることによる「長時間労働」です。
特に、社員が私生活で引越しや育児、介護といったライフイベントを経験している場合、変化や負担のサインを周囲が察知しにくい傾向にあります。
対策としては、定期的な1on1ミーティングの設定や、チャットツールの活用など、意図的にコミュニケーションの機会を設計することが有効です。
上司は、部下が大きなライフイベントの渦中にいることを把握している場合、より意識的に声がけを行い、孤立させない配慮が必要です。
また、勤怠管理システムなどを活用し、客観的な労働時間マネジメントを徹底することも重要になります。
▼あわせて読みたい
「Z世代の若手社員」への効果的なコミュニケーションと配慮事項
Z世代の若手社員は、仕事において自己成長や社会貢献といった個人の価値観を重視する傾向が見られます。
彼らがストレスを感じやすいのは、自身の仕事に対するフィードバックが不透明であったり、承認されている実感を得られなかったりする状況です。
多くの場合、彼らは「就職」という人生で非常に大きなライフイベントを経験した直後であり、新しい環境への適応にエネルギーを費やしています。適応過程で生じるストレスに業務上の不満が加わることで、心身のバランスを崩しやすくなります。
効果的なアプローチとして、1on1などを通じてキャリアプランについて対話する機会を設けたり、「なぜこの仕事が必要なのか」という背景を丁寧に説明したりするなど、具体的で透明性の高いコミュニケーションを心がけることが求められます。
「中小企業」におけるメンタルヘルス対策のポイント
大企業と比べて、一人の従業員が担う役割が大きい中小企業では、ある社員が家族の病気や離婚といった深刻なライフイベントに直面した場合の影響が大きくなります。また、休職後の配置転換先が限られるなど、柔軟な対応が難しいという現実もあります。
その上、中小企業では、「専門スタッフがいない」「予算が限られている」といったリソース不足が大きな課題となりがちです。
しかし、活用できる外部資源は数多く存在します。例えば、各都道府県に設置されている「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」では、無料で専門家のアドバイスを受けられます。
また、比較的手頃な価格で専門的なサービスを受けられる外部EAP(従業員支援プログラム)を導入するのも有効な選択肢の一つです。
参考:独立行政法人労働者健康安全機構「産業保健総合支援センター(さんぽセンター)」
ライフイベント ストレスに関するよくある質問(Q&A)

ライブイベントのストレスに関して、よくある疑問について、Q&A形式でお答えします。
Q. 最もストレス度が高いライフイベントは何ですか?
A. 心理学者ホームズとレイの研究によれば「配偶者の死」が最も高いとされています。次いで離婚、家族の死などが続きます。
Q. 企業のストレスチェックは受けないとどうなりますか?
A. 従業員に受検の義務はありません。
しかし、自身の健康状態を客観的に把握する良い機会であるため、受検が推奨されます。なお、対象となる企業には実施義務があります(常時使用する従業員数が50名以上の事業場のみ)。
Q. 嬉しい出来事なのにストレスを感じるのは、自分が弱いからですか?
A. いいえ、違います。結婚や昇進といった喜ばしいライフイベントでも、生活環境の変化に適応するためには大きなエネルギーが必要です。
ストレスを感じるのはごく自然な反応であり、ご自身を責める必要は全くありません。
Q. 無料で専門家に相談できる窓口はありますか?
A. はい、あります。国が支援する「こころの健康相談統一ダイヤル」や、厚生労働省の補助事業としてNPO法人が運営する「よりそいホットライン」など、電話やSNSで専門家に無料で相談できる公的な窓口があります。
まとめ:一人で抱え込まず、個人と組織でストレスに対応しよう
ライフイベントによるストレスは、特別な人だけに起こる問題ではありません。
大切なのは、まず個人が自身の心と体のサインに気づき、適切なセルフケアを実践することです。
そして企業は、従業員が安心して働ける職場環境を整え、組織として支援する体制を構築することが不可欠です。
しかし、「従業員がどのようなライフイベントでストレスを感じるのかわからない」「不調のサインに気づいたときの声かけはどうする?」などと、具体的な対処がわからず悩む人も多いかもしれません。
メンタルヘルス対策に関してわからないところがあるなら、産業医の活用も選択肢の一つです。管理職から寄せられる従業員対応に関する相談や、従業員向けのメンタルヘルス研修を行うことで、対策の実効性を高められます。
合同会社SUGARでは、従業員の方が安心して相談できる信頼関係を大切にした産業医サービスを提供しています。「自社に相談できる産業医がいない」「急な休職者や不調者が発生し、面談対応が必要になった」という場合にも、スポット相談サービスをご利用いただけます。
まずはお気軽にご相談ください。
最もストレス度が高いライフイベントは何ですか?
心理学者ホームズとレイの研究によれば「配偶者の死」が最も高いとされています。次いで離婚、家族の死などが続きます。
企業のストレスチェックは受けないとどうなりますか?
従業員に受検の義務はありません。しかし、自身の健康状態を客観的に把握する良い機会であるため、受検が推奨されます。なお、対象となる企業には実施義務があります。
嬉しい出来事なのにストレスを感じるのは、自分が弱いからですか?
いいえ、違います。結婚や昇進など喜ばしい出来事でも、生活環境の変化に適応するためには大きなエネルギーが必要です。ストレスを感じるのは自然な反応であり、ご自身を責める必要は全くありません。
無料で専門家に相談できる窓口はありますか?
はい、あります。厚生労働省の「こころの健康相談統一ダイヤル」や「よりそいホットライン」など、電話やSNSで専門家に無料で相談できる公的な窓口があります。
SUGARでは毎週水曜日に産業保健や健康的経営に関する記事を公開しております。
こちらのメルマガで記事等の公開情報をお送りしますので、是非ともご登録ください。









