冬季うつ病でやる気が出ない?仕事に行けないのはセロトニンが原因!

「秋から冬にかけて調子を崩す」「繁忙期のあとに休みがちになる」など、冬特有のメンタルヘルス不調がみられることがあります。秋や冬などの特定の季節にみられるうつ病を季節性感情障害と呼びます。
繁忙期と重なることが多い秋冬に、社員のパフォーマンスが低下するのは、会社にとってデメリットとなるでしょう。毎年うつ症状を繰り返すケースもあるため、業務に支障をきたさないよう、季節に配慮したメンタルヘルス対策が重要といえます。
本記事では、冬のうつに関して、症状の特徴や原因、職場での対応のポイントについて解説します。冬のうつならではの特徴を理解し、正しいメンタルヘルス対策を行いましょう。
冬になると起こるうつとは?
冬になると、気分が落ち込んでやる気がなくなる「うつ」の症状がみられる場合があります。冬に起こるうつには、どのような特徴があるのでしょうか。
【定義】季節性感情障害とよばれるうつ病の一つ
冬に起こるうつ症状は、精神医学的には「季節性感情障害」と呼ばれ、うつ病の一つと定義されています。一般的には、「季節性うつ」「冬季うつ病」「ウインターブルー」と呼ばれることが多いでしょう。
女性や若者に多く、10~11月の秋ごろから気分が落ち込み、春先の3月ごろまでに回復するケースが一般的です。2年間のうちにうつ症状と回復がみられることが診断の条件となっており、季節ごとに繰り返しやすいという特徴があります。
【症状】過眠や過食が目立つ
症状としては、意欲の低下や焦燥感、興味や関心の喪失といった秋冬以外にもみられるようなうつ症状が表れます。一方で、過眠や過食、体重増加といったうつ病に典型的ではない症状が目立ちます。
以下のように、一般的なうつと冬のうつの共通点と相違点を理解しておくと、症状悪化のサインに気付きやすいでしょう。
【一般的なうつと共通する症状】
- 気分の落ち込み
- やる気がでない(意欲の低下)
- 以前好きだったことにも興味や関心を持たなくなる(興味や関心の喪失)
- そわそわと落ち着かない(焦燥感)
- 体がだるい(倦怠感)
【冬のうつにみられる症状】
- 眠りすぎる、朝起きられない(過眠)
- 食べ過ぎてしまう(過食)
- 体重増加
【原因】日照時間の減少に伴う変化
冬のうつに関して、はっきりとした原因はわかっていませんが、日照時間の減少が影響していると考えられています。日照時間は、身体や精神面に3つの影響を与えるとされています。
変化①:睡眠サイクルが後退する
日照時間が減ると、睡眠サイクルが後ろにずれてしまい、「朝起きられない」「眠気が強い」といった状態を引き起こします。
日光を浴びることで、脳内の神経伝達物質の一つであるセロトニンが作られ、日中に活動するためのエネルギーになります。しかし、冬になると日照時間が短くなるため、セロトニンの生成が遅れ、睡眠サイクルが後ろにずれ込むのです。
冬のうつにより起きられなくなるのは、「寒いから朝起きられない」という単純な問題ではありません。セロトニンの働きが影響し、睡眠サイクルに影響するものと考えられています。
変化②:栄養バランスが乱れる
日照時間が減少することで生じたセロトニン不足を補うため、炭水化物が含まれた食べ物を欲するようになります。これは、血糖値が上昇すると、セロトニン生成に必要な原料であるトリプトファンが、脳内に入りやすくなるためです。
セロトニンをつくるためには炭水化物も必要ですが、とり過ぎは栄養バランスが崩れる原因になります。トリプトファンの原料となるタンパク質や吸収に必要なビタミンなど、バランスのよい食事を心がける必要があるでしょう。
変化③:運動量が低下する
セロトニン量の低下により活動性が低下すると、ほかの季節よりも運動量が減少しやすいでしょう。精神的にも寒いと外出を控えることが増え、身体を動かさなくなります。
運動は、うつ病の発症に関連しています。北欧で行われた大規模研究では、週に1時間の運動がうつ病予防に効果的であることが示されました。季節の変化により、運動習慣がなくなってしまうと、うつ症状につながる可能性があるでしょう。
職場で「冬のうつ」をチェックする2つのポイント
職場の中で冬のうつにより調子を崩している社員がいないかどうか、どのようにチェックすればよいのでしょうか。「遅刻や欠勤、身だしなみの変化」と「繁忙期にともなう体調変化」の2つの点に注意することが大切です。
ポイント①:遅刻や欠勤、身だしなみに変化がないか
意欲の低下や、過眠といった冬のうつにみられる症状が目立つようになると、起床が難しくなるでしょう。遅刻や欠勤、身だしなみの乱れといった勤務態度に変化があらわれ、業務に支障をきたすようになります。
また、業務でささいなミスが目立ったり、あいさつに元気がなくなったりするような変化が目立つ場合もあるでしょう。
秋冬以外の季節と比較して変化がないかを見極めることが大切です。そのためには、普段から社員の様子に注意しておくとよいでしょう。
ポイント②:繁忙期にともなう体調悪化がないか
冬がはじまる10~12月は、年末に差しかかるため、繁忙期と重なる時期だといえます。残業が増えることで、出勤は早朝、退勤は深夜となると、日光に当たる機会が少なくなります。睡眠も不規則となり、心身に悪影響を及ぼす可能性もあるでしょう。
繁忙期にともなう体調悪化がないかをチェックし、冬のうつにみられる症状が疑われる場合は、休養を促しましょう。
働くうえで「冬のうつ」に対処する2つの方法
職場において、冬のうつに対処するためには、どのような方法が有効なのでしょうか。社員へのアプローチに関する2つの方法を紹介します。
方法①:治療や予防に関する情報を伝える
治療や予防に関する情報を伝え、社員の意識を高めることがアプローチ方法の一つです。冬のうつに関する治療方法として、絶対的なものはありませんが、以下の方法が有効だとされています。
- 日光を浴びる
- 食事バランスの見直し
- 認知行動療法
日光を浴びる
冬になって少なくなった日照時間を補うため、日光を浴びるのが有効な方法の一つです。季節性のうつ病に対する治療法として高照度光療法がありますが、高照度の光に1~2時間当たることで睡眠サイクルを整えます。抗うつ薬による治療と同じ効果が得られることが特徴です。
ただ、高照度光療法を受けなくても、室外に出て日光を浴びるだけでも十分な光の強さが得られます。曇り空の明るさでも、高照度光療法で行う約1万ルクスであるため、日光浴でも十分といえるでしょう。
冬のうつを予防するには、積極的に日光を浴びることがおすすめです。社員に向けて、日光を浴びることの重要性を伝え、意識を高めるよう働きかけるとよいでしょう。
参考:日本うつ病学会「日本うつ病学会治療ガイドライン」(PDF)
食事バランスの見直し
冬になると炭水化物中心の食事になりがちです。タンパク質やビタミンが含まれた食べ物を積極的に摂取し、バランスの取れた食生活を心がけることが、冬のうつの予防につながります。
セロトニンの生成に必要なトリプトファンには、タンパク質が必要です。さらに、ビタミンB6、B12もセロトニンの生成を促す働きを持っています。以下のような食材を積極的に食べるよう、食事バランスを見直すとよいでしょう。
- タンパク質:肉や魚、卵、乳製品、豆類
- ビタミンB6:赤身肉、鶏肉、バナナ、マグロ、鮭、ゴマ
- ビタミンB12:しじみやあさりなどの貝類、さんまやいわしなどの青魚、レバー
認知行動療法
認知行動療法とは、考え方や行動に焦点を当てて問題の解決を目指す、心理療法の一つです。冬のうつに対しては、行動活性化を用いて、低下しがちな活動量を増やすことが予防につながります。
行動活性化は、「動いても寒いだけ」「身体がだるくなる」といった活動に対する否定的な考えを扱うことが特徴です。日々の活動や出来事を記録し、気分の変化を観察することで、少しでも気分が改善する活動を探します。
たとえば、活動性が低下すると、「ベッドでスマホを見ながら考え事をする」「テレビを見続ける」といった行動が増えます。一時的であればストレス解消になりますが、1日中続くと気分に悪影響を及ぼすこともあるでしょう。
気分に悪影響を及ぼす行動を、少しでも気分が改善する活動に置き換えていくことが、行動活性化の目標です。そのためには、日頃から気分を改善させる活動をいくつか持っておき、置き換えるように習慣づけておくとよいでしょう。
方法②:「冬のうつ」だと決めつけない
冬になると調子を崩してしまう社員に対しては、「冬のうつだから」と決めつけないことが大切です。うつっぽくなるのが冬だからといって、冬のうつだとは限りません。双極性障害や非定型うつ病といった、ほかの気分障害が原因である可能性があります。
双極性障害は、気分が高揚する躁状態と大きく落ち込むうつ状態の両方がみられる気分障害の一つです。秋から冬にかけて抑うつ状態となり、春には躁状態になるケースがありますが、うつ病とは異なる病気であり、対応が異なります。
非定型うつ病は、過眠や過食、倦怠感など、冬のうつと似た症状がみられます。しかし、ストレスによって症状が悪化する「気分反応性」が特徴です。生活習慣の改善に加えて、ストレス要因への対処が必要となるでしょう。
病気を見分けることは、専門家であっても経過をみないと難しい場合があります。そのため、安易に「冬のうつだから」と決めつけない方がよいでしょう。あくまでも、社員本人が感じている悩みに合わせて対応することが望ましいといえます。
まとめ:冬のうつならではの特徴に注意
冬にみられるうつには、過眠や過食などの典型的でない症状が目立つことがあります。そのため、うつ症状の悪化を見過ごしてしまう可能性があるでしょう。季節の変わり目や勤務状況の変化がみられたときには、体調の悪化や意欲低下が生じていないか注意することが大切です。