がん治療は働きながら続けられる?企業ができる支援や取り組みを紹介
がん治療をしながら働きたいと考えている社員に対し、どのように支援すればよいか悩んでいる企業も多いのではないでしょうか。
がんと聞くと、入院治療が必要な病気であるというイメージを持っている人もいますが、がん治療をしながらでも仕事を続けることは可能です。ただし、企業が社員と一緒にがん治療のサポートに向き合わなければ実現することは難しいでしょう。
この記事では、がん治療と仕事の両立に必要な取り組みを知ってもらうために、働く世代のがん事情やがん治療が仕事に与える影響、がん治療中の社員に企業ができることについて紹介します。
働く世代のがん事情
20代から徐々にがんのリスクは高くなり、働く世代でがんと宣告される人は少なくないです。
ここでは、働く世代のがん事情について知ってもらうために、がん患者やがんになって退職する人の割合について紹介します。
がん患者の3分の1は60代までに罹患
がん患者のおよそ3人に1人が、働き盛りである20代から60代で罹患しています。
がんの種類によっては20代から罹患が増えはじめるため、働く世代の人ががんに罹患することはめずらしくありません。つまり、働く世代の人でもがんが発症するリスクがあります。
がんと診断されて退職する人が2割
がんと診断されてからも治療をしながら働いているがん患者は多くいます。しかし、2割の人は、がんを理由に退職しています。
国立がん研究センターがん対策情報センターの「平成30年度患者体験調査報告書」によると、がんの診断を受けたあとに退職や廃業、休職をした人の割合は下記のとおりです。
がんと診断を受けて退職・廃業した人 | 19.8% |
そのうち、初回治療までに退職・廃業した人 | 56.8% |
治療のために休職・休業した人 | 54.2% |
がんの治療と仕事の両立が難しくなり、退職や休業をしている人が多いです。
しかし、初回治療までの間に退職している人が多く、治療による体調不良や治療へ専念する事由が生じる前に退職している可能性があります。
がんの治療が仕事に与える影響
がんの治療には薬物療法や手術療法等の様々な治療が採用されています。通院治療も増えていますが、病院への受診が必要となる場合も依然として多くあります。また、薬の副作用で自宅に帰ってから体の不調を感じることもあります。
ここでは、がんの治療による仕事への影響について紹介します。
手術のときに休みが必要になる
手術をするときには手術日を含む前後で仕事を休む必要があります。入院期間はさまざまですが1週間以上は休むことになるでしょう。
また、退院してすぐに働けるわけではなく、体力が落ちていることもあるため自宅療養が必要になることもあります。手術の前後や体力が戻るまでの間は、仕事に支障をきたすこともあるでしょう。
病院への定期受診の必要がある
がんの治療のためには、病院へ定期的に通院する必要があります。治療をはじめたばかりの時期は月に2〜4回ほど通院します。その後は状態に合わせて、数カ月ごとの通院になることが一般的です。
がんの治療は1度で終わるものではないため、定期的な通院が必要になるでしょう。休日や夜は対応していない病院が多いため、平日に会社を休まなければいけません。
治療による副作用で体調が悪くなる
抗がん剤による治療では副作用が引き起こされることがあります。吐き気や食欲低下、だるさなど、症状はさまざまです。治療後すぐに副作用がでるのではなく、1〜2週間経過してから症状が出ることもあります。
つまり、通院のために仕事を休んだ日ではなく、出勤日に体調が悪くなってしまうこともあります。副作用として、脱毛や色素沈着、乾燥など皮膚の異常がでることもあります。そのため、外出して人と会うことがストレスになったり、仕事に行きにくいと悩む人もいます。
離職の不安を常に抱いている
がんになった社員は離職の不安を抱いていることが多いです。治療による副作用や体力不足によって、仕事を続けることが難しいのではないかという悩みをもちます。
また「働く世代のがん事情」の項目で紹介した様に、治療を開始する前に退職している人も一定数います。
がん治療中の社員に企業ができるサポート
社員ががんと診断されても働き続けるためには、企業の協力も不可欠です。企業が積極的に協力することで、がんの治療を理由とする離職を減らすことにつながるでしょう。
ここでは、がん治療中の社員に企業ができる代表的なサポートを5つ紹介します。
- 副作用について理解する
- 制度を整える
- 仕事と治療が両立できる計画を立てる
- 設備を整える
- 産業医に相談できる機会をつくる
それぞれについて、具体的な取り組みも含めながら紹介していきます。
副作用について理解する
職場の人たちに、がんやがん治療について理解してもらいます。がん患者は「治療の副作用について理解されにくい」という悩みをもっています。
周りの人ががん治療の副作用について理解していない場合も少なくないでしょう。実際に自分や身近な人が副作用に悩んだ経験がないと理解しがたいものです。
そのため、まずは一緒に働く人たちががん治療の副作用について知ることが大切です。伝え方や伝える内容については、本人と話しながら進めるとよいでしょう。
制度を整える
がん治療と仕事を両立しやすくなるように、職場の制度を整えましょう。治療のためには仕事を休み、通院することも必要です。そのため、治療のための休みや傷病手当がもらえると安心して通院できるでしょう。
以下のような制度や取り組みを取り入れることもおすすめします。
- 時間単位でとれる有給休暇制度
- 短時間勤務
- フレックス制
- 傷病休暇
制度が整えられると、治療に専念しやすくなります。また、制度の整備とともに、制度を活用しやすい職場の雰囲気づくりも大切です。
仕事と治療が両立できる計画を立てる
仕事と治療が両立しやすい計画を社員と企業が一緒に考えられる環境なら、社員は働きやすくなります。体力的にハードな仕事であったり、時間単位の休暇を取りづらかったりする働き方であると、治療と仕事の両立が難しくなります。
そのため、本人や上司、人事労務担当者、産業医が一緒になり、働き続けられるための計画を立ててみましょう。全ての関係者が集まって話す必要はなく、一緒に考えていく姿勢が大切です。
設備を整える
体調や疾患によっては、会社の設備を整えることも必要になります。
例えば、オストメイトの設置や休憩場所の確保などです。治療の過程で人工肛門をつくった社員であれば、処理をするためのオストメイトが必要になります。また、治療の副作用で体調が悪くなった場合には、休憩場所があると周りを気にすることなく休憩できます。
社員自ら、支援してもらいたいことは話しづらいでしょう。そのため、がん治療をする社員が困りごとや必要なサポートについて相談しやすい環境をつくり、設備を整備していくことも必要です。
産業医や産業保健職に相談できる機会をつくる
治療と仕事を両立していく上で、専門職との連携は重要です。企業に配置されている産業医や産業保健職は、専門的な視点で治療を続けながら仕事ができるためのアドバイスをしてくれます。
社員だけでなく、企業側もがん患者への支援の方法に困ることがあれば、専門職に聞くとよいでしょう。産業医だけでなく、両立支援コーディネーターや都道府県の産業保健総合支援センター、地域の産業保健センターなどにも相談できるため、活用してみてください。
まとめ:がん治療について理解し、働きやすい環境を整えましょう
がんと診断され、仕事を離職する社員は少なくありません。大切な社員が離職してしまうと、企業にとってダメージになるでしょう。
企業ががん治療について理解して、制度や設備の整備、相談できる職場環境づくりをすることで、社員ががん治療と仕事を両立しやすくなります。
がんになるリスクは誰にでもあります。がん治療と仕事の両立は簡単ではありません。しかし、社員と企業が一緒になり、治療と仕事の両立に向けて取り組むことで、離職を防いだり、治療前とできるだけ同じ仕事を続けられるようにサポートすることが可能です。